東京の「ヒューマンキャピタル2008」に来ています。


 日経BP社主催。


 午後からの特別シンポジウム「革新する組織を考える」で、野中郁次郎・一橋大学名誉教授が講演されました。


 ここでは、「変革の賢慮リーダーシップ」「フロネシス」というものについて言われました。


 フロネシスとは、アリストテレスの提唱した概念で、

「価値・倫理の思慮分別をもって、個別のその都度のコンテクスト(文脈)のプロセスで、最適な判断・行為ができる実践的知恵(高質の暗黙知)である」

「『何が善いことか』についての判断(judgement)を、個別の状況のなかで発揮できる能力である」


と定義がありました。


 フロネシスの賢慮型リーダーシップとは、いうなれば倫理的判断力リーダーシップということでしょうか。


 正田ちょっとわが意を得たり。


 「判断(ジャッジメント)」は、心理学ではよく悪者のようにいわれます。
 「評価しない」「判断しない」とワークショップの中で注意を与えられたりします。

 どうも、リーダーシップ育成のなかでは必要なことのようです。


(…ただ、「評価」「判断」がつねにつねに先行しているようにみえる人も、やっぱり鼻につくのですけどね。たとえリーダーであっても。このあたりは伝え方がむずかしいですね)


 このほかの野中氏の発言もとても面白かったのでご紹介します:


「(効果的なリーダーシップ育成、経営者育成のためには)

 世界をモノではなくコトで捉える、関係性でとらえる能力が必要。

 風が吹けば桶屋がもうかる、エコシステムのように、世界はあらゆるものが関係している。


 ジグゾーパズルのピースをみながら、
 
 歴史的想像力を駆使しながら、

 大きな物語を作る能力。

 それはリベラルアーツ、教養の問題になる。教養は企業で教えるのは時間がかかる」


「フロネシス、たえず時々刻々動いている中で判断して決断する力を身につけるには、手本がいる。

 立ち居振舞いを通じて、判断・決断をビジブルに伝承していく人間。それは非常に質の高い徒弟制度。

 何が善なるもの―Good―なのか、プロセスの中でたえずコーチングしていく」



「教養を教えるには時間がかかると言ったが、ものごとの本質をつかむには歴史教育がよい。

 判断力、決断力にすぐれた人は、お話しすると歴史に詳しい。ミクロの知識を持っていて、プロットメーキング、物語をつくる力がすぐれている。ミクロ、マクロの視点を入れたストーリーテリング。

 歴史は、非常に幅の広い暗黙知を形成できる」




 えへへ。東京まで行った甲斐がありました。


 良いリーダーをつくりたい。

 結局、「知識創造企業」「イノベーション企業」も、「リーダーづくり」に収斂していくのだけれど。


 最後にもうひとつ野中氏の言葉:


「個人と集団と組織と環境をどうダイナミックに連結するか。

 欧米型だと、大胆に組織デザインをいじる。しかし日常で変えるのは「場」。

 場をどうやって自在に成立させるか。それがイノベーションを左右する。

 場が重層的に自在につながる環境は、実はリーダーの判断でいくらでも創れる」