ひき続き「ヒューマンキャピタル2008」から。


 3日目は「個と組織の活力をどう高めるか〜これからのマネジメントとマネジャー育成のあり方」というセミナーに行きました。


 三井物産常務・田中誠一氏の講演と、同氏に加え日産自動車・大日本印刷の人事責任者のかた3人でのパネルディスカッション。


 三井物産の人事評価制度で「定性8・定量2」という言葉があまりにも有名になりました。


 「改良型成果主義」とでもいうべきもので、結果ではなくプロセス、「何をやった。何をやらなかった」を評価するというもの。


 
 これは、1999年の成果主義への大幅移行後に起きた、ふたつの大きな不祥事への反省からきた、といいます。

 発表者の田中氏は、「お恥ずかしいことですがふたつの大きな不祥事」という言葉をなんども使われました。

 (具体的には、2002年の国後のディーゼルエンジン納入で談合と、2004年DTSでデータ捏造というものです)


 これらの不祥事の背景を分析する中で人事制度からくる歪みを掘り起こし、大幅な制度改革を断行したというところが、えらい。と素直に思います。


 「マネジャーの仕事は人材育成」と明確に位置づけ、

 1週間にわたる部長研修を終えたあと、ある部長が

「反省しました。これからは部下ともっと話します」

と言うと、社長が怒って

「あたり前だ。ハイパフォーマーという定義が間違っている。部下を育てるのが部長の仕事だ。部長はもう出張するな」


と言ったとか。


 加えて、社員のやりがいを創るうえで

「『良い仕事』とは何か」

と徹底追求します。


「極めて青っぽい議論」と田中氏はいわれましたが、


おおまかな結論として、

・顧客のニーズがある
・三井物産の機能を発揮しているか(価値を創造しているか、単なる仲介・代行ではないか)
・やっている社員がやりがいを持って活き活きやっているか

これらが「良い仕事」の尺度になるようだ、といいます。







 このほかパネルディスカッションでは、

 三井物産・日産自動車それぞれ、


「ミドルマネジメント(課長)が疲れている」

ことに言及しました。ストレスチェックでも、他の層と比べてミドルのストレスの高さが如実に出るそうです。

 内部統制、人材育成など、上から下からの期待やプレッシャーが高く、ありとあらゆることがミドルに求められる現状。


 このための対策として、たとえば日産自動車では、

1)ミドル自体にもっと強くなってもらう
2)こんなに大量のタスクをミドルに課していいのか人事サイドが見直す

を挙げました。



 1)の具体的手法としてはコーチング研修やマネジメント研修でした。


 最後のひとことの時間に三井物産の人が言われたのは、

「われわれは今、『個』を徹底して把握しようとしている。何を考えているのか、どんな労働観なのか、何をやりたいのか。それによって人員配置もする。仕事だからもちろん限界もあるが」




 「青い」議論が台頭してくる時代になったのかもしれません。コンプライアンス事件、メンタルヘルス問題などを経て。

 非人道から人道へ。反倫理から倫理へ。
 一度あちら側にふれた舵をこちら側に引き戻すのは、大変な力技です。



 三井物産の改革は2006年のことで、

「まだ成功しているとはいえません。5年後には、『いやあこんな大失敗でした』とこの場で言うかもしれない」

と言ったのが、印象的でした。