本日から、関西学院大学人間福祉学部専任講師で、NPO法人企業内コーチ育成協会理事・プログラムアドバイザー・パートナー講師の川島惠美先生のインタビューを連載します。

 
 川島先生は、社会福祉・臨床福祉・対人援助の専門家ですが、ご専門から想像するよりは、はるかに「ちゃきちゃき」「きびきび」した雰囲気の方。


 失礼を顧みずにいえば、「元おてんば娘」風、というか。


 動作のスピードが速く、陸上部出身でいらっしゃるとか。語り口も、インタビューのボリュームから皆様お察しの通り、かなりの早口であります。

 
 研修も、人柄そのままにテンポよく、なおかつ明快、さらに心理学という学問をわれわれ一般市民に教えるときの「軸」や「コモンセンス」をしっかり感じさせる進行ぶりです。


 さらにこれはまったくの偶然だったのですが、日本のコーチングの祖・武田建氏の直弟子、ゼミ生でもあります。


 福祉の現場に詳しい川島先生、「福祉の職場にもコーチングは絶対必要だから」と、NPO法人企業内コーチ育成協会に飛び込んでくださいました。


 そんな川島先生のインタビュー、今日・明日の2日間で集中連載します。
題して

『「だんまり面接」で学んだ非言語コミュニケーション』

【目次】(本日分)

(1)キャンプ参加から武田ゼミへ
(2)実習で知った「人の存在を認める」
(3)ハワイで学んだ「エスニシティ」「高齢者」
(4)そして臨床心理へ〜「だんまり患者」との出会い
(5)「あなたにカウンセリング受けたくない」〜Tグループにて



 今回はこのうち(1)(2)を一挙にお届けします!
『「だんまり面接」で学んだ非言語コミュニケーション』

(1)キャンプ参加から武田ゼミへ

川島:私、もともとの専門は心理学じゃないんですよ。ソーシャルワーク(社会福祉援助)です。仕事は、心理と福祉、ふたまた懸けたようになっていますけど。

 この道に進もうと思ったきっかけは、深く考えたとか悩んだというわけではなかったんです。武田先生(※武田建[たけだ けん]氏。元関西学院大学学長・理事長、行動心理学者にしてアメフトの名監督であり、関学アメフト7連覇・5連覇の黄金期を築いて日本のコーチングの先駆けとなった。現関西福祉科学大学教授)との関係が大きいですね。

 私が武田先生をなぜ存じ上げているかというと、YMCAのキャンプを通じてです。私の母が武田先生と同世代で、大学生時代に神戸YMCAのキャンプリーダーをしていてお互い知り合いだったのです。そのリーダーたちは大学を卒業してからもずっとOB・OGとしてつながりがずっとありました。母は結婚して、私が3歳くらいの時には、そのキャンプ場のファミリーキャンプというのに私を連れていっていたのです。


 そういう経緯で、私は神戸YMCAの活動に参加するようになり、夏はキャンプ、冬はスキー、そのほか毎土曜のグループ活動などに参加していました。神戸YMCAのキャンプ場は小豆島の沖合1キロくらいの「余島(よしま)」という小さな島にあるのですが、とりわけこの場所には、物心がついた頃からずっと行っていたということになります。 


 神戸YMCAは来年創立125周年、キャンプ場は60周年になります。YMCAのキャンプは、組織キャンプといって、対象年代別・期間別にいくつかのタイプのキャンプが実施されます。運営は、有給のディレクターが1人、YMCAから来ていて、他は全て学生ボランティアで行います。寝泊まりは快適なキャビン、食事はこちらから提供して、グループ活動やプログラムを大切にします。短いもので3泊、長いキャンプは11泊というものがありますが、いずれのキャンプも、グループワークタイプのキャンプになります。子ども達と生活を共にするカウンセラーが1人、そのほかにマネジメントスタッフがいます。掃除したり、壊れたところを修理したりする管理スタッフ。船に乗って買い出しに行くバイヤー。ご飯を作るのも大学生で、キッチンスタッフといいます。女の子5人位で多い時には100人位のご飯を作ります。事務方でお金の計算などをする、オフィススタッフもいます。そういう役割分担を、クラブのように上回生が中心になってするわけですね。かなりの程度、大学生の自治でした。


 私はキャンパーとしてその学生リーダーたちを見ていて、
「あんなリーダーみたいになりたいな」
「私も大学に入ったらああなるんだろうなー」
と自然と思っていましたね。ですから、大学生になった時に、当然のようにキャンプリーダーになることを選択しましたが、後から考えてみれば、大学のクラブ活動とかサークル活動とか、ほかの選択肢を全然見ていなかったわけで、それはそれで
「本当に良かったのかな?」と思うこともありましたが…。後悔しているというようなことはありませんが…。


 先ほど申し上げたように、YMCAのキャンプは、一般的に「キャンプ」というとイメージされるテント泊、野外炊爨という生活そのものがプログラムになるものではなく、10人前後のキャンパーのグループを単位としたいわゆる小集団活動としてのキャンプをしていましたので、安全管理とかキャンプのハードスキルというようなこと以外に、「グループとは何か」とか「子どもとの関わり方」とか組織キャンプに必要な知識や技術をリーダートレーニングとして教えてもらうわけです。その時に武田先生も講師をしてくださいました。


 こうしたリーダーの経験が影響して「人と人とのかかわり」に関心が向いたということは言えるかもしれません。それで、3回生の専門ゼミを決める時に、社会福祉のコースを選択肢、武田ゼミに入ることにしたのです。私にとって武田先生は、小さい時から知っている「親戚のおじさん」みたいな感覚だったので、指導教授としてどうなんだろう…と思いながでしたけれど結局武田ゼミに入りました。心配したのは杞憂で、ゼミも、社会福祉コースの勉強も興味深かったです。



(2)実習で知った『人の存在を認める』

川島:当時はそんなに真面目に「この道で行く」と決めていたわけではなかったんです。ターニングポイントになったとすれば、それは4回生のときの実習ですね。淀川キリスト教病院のカウンセリング・センターも併設した医療社会事業部という部署に配属され、大学4年から修士課程を終えるまで1980-82年の3年間お世話になりました。


 実習は「関学方式」といって、週に1-2回、通年で通い続けます。淀川キリスト教病院の医療社会事業部というのは、日本のソーシャルワーカーの草分けといえるような先生方がいらっしゃいました。1950-60年代にアメリカへ留学して勉強され、向こうで修士号をとられたような方ですね。

 アメリカのミッション系の病院なので、設立当初からソーシャルワーカー(SW)の事業部は「あって当たり前」。専任のSWの人が3人、非常勤2人、サイコロジストといって心理検査をする人が2人という、充実した陣容でした。そこへ関学から院生、学部生の実習生が常時3-4人来ていました。


 そこでの経験が、ソーシャルワークの道に行くことを方向づけたと思います。実習は本当に厳しかったですよ。泣きそうになることもありましたけどね。でも面白い、と思ったんでしょうね。


 実習の最初は見習いでした。1年目の終わり頃にはケースを見させてもらえました。親子の事例で、お母さんを専任のSWが面接している間、実習生が子どもさんを見るとか。


 また、この病院は、周産期医療のネットワークの受け入れ先になっていたので、お産のリスクの高い人が搬送されてきます。入院時に、家族の方にSWが、未熟児医療の制度の説明をしたり、親御さんの不安などを受け止めたりということをします。また内科病棟に入院される患者さんにもインテーク面接を行うのですが、 そうしたルーティンの面接を担当させていただけるようになって、援助者としての実践が始まりました。修士の2年間はインターンのような感じで、複数のケースを担当させていただきました。


 この3年間が、私にとってその後の臨床のコアな部分、原点を作ったと思います。「クライエントと関わる」とはどういうことか。理屈じゃなくて、叩きこまれました。

 それは、スーパーバイザー(SV)が持っている価値観の影響でしょうね。クライエントに対する接し方。存在の認め方。どんな人でも、とんでもない状況でも、どうすることがその人にとって一番いい状態になのかを考える。


 だから事務方とはしょっちゅう丁々発止のやり取りをします。事務方は、ちゃんとお金をもらって、急性期の病院だからベッドを空けないと、と考える。SWは患者さんの状況を代弁して「ちょっと待って、それは違うでしょ」と言う。


 それを間近に見てましたから、「なんかこれってすごい世界だよね」と思いました。ホンネと建前って、どこの世界にもあるじゃないですか。そこではSWはあくまで人を守る、患者さんを守るという立場に立っていました。その経験は大きかったですね。


正田:すごいことだなって、おききしながら思うんですが、SWになられて理想と現実のギャップに「こんなはずじゃなかった」って辞められる方も多いですよね。私の友達にもいましたけど。


川島:私はあまりそれまでSWになろうと思ってなかったから、「SWってこう」って理想を持っていなかったのが良かったかもしれない。


正田:それと患者さんの立場から言うと、SWの方が今のお話でいう事務方の側に立って、官僚的な対応をされるということもよくきくんです。


川島:
ええ、最近の医療の中ではSWはすごいジレンマの中でやっていますよ。医療報酬、保険制度が変わり、年々厳しくなっていく。


 私のいた時代はまだハッピーな時代だったんです。丁々発止のやりとりができた。若手のSWの方が事務長とやりあって帰ってきて、「くやしい〜」って泣いている。

「こんなこと言われたんですよ、ひどいですよね」

って。それを主任SWの方がウンウンとただきいている。それもスーパービジョンですよね。


(つづく)


 次回は

(3)ハワイで学んだ「エスニシティ」「高齢者」
(4)そして臨床心理へ〜「だんまり患者」との出会い
(5)「あなたにカウンセリング受けたくない」〜Tグループにて


 一挙3章掲載です!


★川島惠美先生がNPO法人企業内コーチ育成協会の第一回例会に登場されます!

テーマは
「『非言語コミュニケーション』で信頼関係のベースを築く」

 2月14日(土)13:30〜16:30、
 大阪・関学梅田キャンパスにて。


 詳細とお申し込みは

 NPO法人企業内コーチ育成協会ホームページ
 http://c-c-a.jp

から、どうぞ。