きのうのこのブログでは、関学専任講師・NPO法人企業内コーチ育成協会理事の川島 惠美先生の軌跡をインタビューでご紹介しました。


 今日は、社会福祉・臨床心理の専門家でありながら「企業内コーチング」の世界に飛び込んだ川島先生に、読者代表・正田が思いっきり興味本位で切り込む回であります。

 さあ、どんな発言が飛び出すでしょうか??お楽しみに。
 

【目次】


(1)自己啓発セミナー、カルト、コーチング〜私の基軸
(2)「いかにモメないか」の優しい学生たち
(3)疲弊せずにやる気をもって働けるには〜福祉とコーチング
(4)真実はオープンセミナーにある〜職場とコーチングと私


 今回は、(1)(2)を続けてお送りします。
(1)自己啓発セミナー、カルト、コーチング〜私の基軸


正田:自己啓発ブーム、自己啓発セミナーブームについてどう思われますか。


川島:今では少し今下火になってるのではないですか?もともと、パーソナリティ変容、行動変容をめざすものということでは、コーチングやグループトレーニングはどとそれらも紙一重ですよね。トレーナーやコーチとしての倫理ということには本当に意識していきたいですね。でないと恣意的な心理的暴力にエスカレートしかねない。


正田:心理的な暴力とは、例えば。


川島:人格変容を起こすことを強いるとかですね。結果的にそうならないと限りません。過去の日本の産業界で起きたST(感受性訓練)の悲劇は、心理学の非常に危険な部分がそのまま出てしまった、ということです。


 最近では、大学でカルトがまた問題になっていますね。月1回の教授会で、学生部から時々報告があります。宗教的な勧誘を、口当たりのいい言葉でするわけですよ。横文字のグループ名で、たとえば地球環境問題や社会問題などについて考えましょう、とか学生サークルみたいなレクリエーションの団体を装ってアプローチしてくるみたいです。一度入ったらズルズル行く。からめとられてしまったら、まわりが何を言ってもダメです。


 私見ですが、日常的なところで基本的な人間関係が希薄になっているから、そういう少し濃厚な関係の中で「認められる」ということからズルズル行ってしまう若い人が多いように思います。そもそも日常的な人間関係の中で対等な関係とか、認め認められる関係を持っていれば、そういうところへ行かないですよね。それを判断できる力を、本人が身につけないといけない。自分に必要なものか、危険なものでないのか。仲間と一緒に学生向けのTグループ(Training groupのこと)を主宰していますが、そのチラシのQ&Aの中に「これは自己啓発(セミナー)ではないですか?」という項目を入れているくらいです。


正田:川島先生自身がそういう心理学セミナー、ワークショップなどを施すときに気をつけていらっしゃることは。


川島:私自身がソーシャルワーカー(SW)として対人援助をする上で基軸として持っていることは、「答えはそれぞれの人の中にある」ということです。私が誰か他の人の問いに対する答えを持っているわけではないんです。当事者1人1人の中にある。私がクライエントの代わりに一生懸命頑張れば、その人がめきめきと変化するというようなことが起こるのなら、それは頑張りますよ。でも実際にはそうはならない。「この人をこうしたい」と思った時はちょっと注意しないといけないと思います。希望と言うか、「こうだったらいいのになあ」ということはありますが、少なくともそうしなさいと仕向けることはしない。


正田:ここはお訊きしてみたいところだったんですが、NPO法人企業内コーチ育成協会のするセミナーや講座の場合、「コーチになりましょう」という基本的な方向性があって、そのために傾聴とか承認とか質問とかを教えて…、と、ある程度枠が決まっていますよね。それは川島先生的には?


川島:そうですね。コーチに向いている人といない人といますね。「この人が人をコーチしたらまずいかも?」というような。けれどもコーチングを学ぶこと自体は、別に誰に対しても開かれていると思いますが、コーチになるためには、援助者としての自己理解、自分はどうで相手はどうで、自分の言動の動機はどこから来ているのか、ということを理解しておくことが大事ですね。単にスキルを伝授するということではなく、そういう価値とか態度的なものとか、倫理とかを土台として伝えることも大切だと感じています。


 社会の中により良い人間関係を創ることができる人が1人でも多い方が良いに決まっています。それは学生にSWとしての援助の仕方を教えても、みんながみんなSWの仕事に就くわけではない。でもその根本にある人間性を尊重するとか1人1人を認めるとか、福祉の仕事をしていなくてもそういう基本的な人間観を持っている人が、1人でも多く社会の中にいた方がいい。実際、うち(関学社会学部)の学生でも100人いたら20人程度しか福祉の仕事に就かないんです。あとはみんな一般企業です。


 でもどこの職場にも人間関係があり、そこでどんな社会が望ましいのか考える余地はある。そういうことを学んで、うちの学生は

「おまえそんな甘いことで社会でやっていけるか?」

って、家でお父さんなんかに言われるらしいんですけど(笑)。こういう人を人として大切にする(尊重・承認の)世界があるんだ、と知っていると知らないとでは全然違いますよね。


 大学教育で福祉を教えるってそういうことかなとこのごろはつくづく思っています。時代によって方法論は変わります。でも関わり方のスキルは不変です。


 傾聴とかって、一種のスキルですよね。私からみてコーチングって、わりとスキル寄りかなって思うんですけど。私のやるラボラトリー・トレーニングは、スキルというよりも、対人的な態度、価値観を学んでもらう、その上でそのやり方として2番目にスキルトレーニングがあるという感じです。やり方だけやっていると、相手を操作することにならないとも限らない。


正田:なるほどー。コーチング研修でも、「それは相手をコントロールしようとしてますよね?」と受講生さんに言うことはありますけど。


川島:そういう自分の持つ無意識的な意図にはっと気づくことが沢山あるといいわけですね。私も、気がついてみると好き嫌いがあって苦手な人と対応するときにはそれが出てるなあとか、気がつくと学生に結構辛辣なことを言ったりしている。善人にはなれないなあ、ということですね。

 コーチング学習も、人という鏡を通して自分に気づく機会ですね。


(2)「いかにモメないか」の優しい学生たち


正田:お話は変わって、いまどきの学生気質、例えば「空気を読む」とか「アサーション」「見下し」ということについて川島先生がご覧になっていかがですか。


川島:「空気を読めよ」という言葉がありますね。この場にふさわしい言動になってない、ということなんでしょうけれど、聞いていると「オレの言うことをきけ」と言っている感じがするんですね。その人の思うふさわしい言動。空気を読まないではっきり主張できる人がいたとしたら、実は結構アサーティブだったりするわけですけれど。


 いろんな学生がいるのですが、最近の学生気質というか全体的な雰囲気としては、いかにモメないか、いかに相手に悪く思われないか、相手を傷つけないようにするか、といった感じでネガティブにならないことにすごーくエネルギーを使っている気がします。反論しない、できない。喧々諤々の議論にはなりにくいです。


 例を出すと、ゼミで「みんなでどっか行こう」「ゼミコンしよう」という話が出たとします。すると、「どっか行きたいね」「ゼミコンしたいね」とみんなが言います。でも世話役がなかなか出てこない。


 世話役が出たとして、「じゃいつにする?」となると、全員がピタッと一致する日がない。今の学生は忙しいですから、必ず1人か2人ダメっていう人がいると、

「どうしよう、揃わないね、じゃまた今度にしよか」

と、お流れになる。民主的っちゃ民主的なんですけど。私なんか見ていて「2,3回(ゼミコンを)やれば全員必ず顔を合わせられるのに」と思うんです。


 そんなで1年の終わり頃に、うちのゼミはゼミコンやゼミ旅行に行けなかったのが残念です…って。なんか人ごとみたいに言ってますね。ホンワカムードというか。


正田:え〜、もったいない。それは、福祉を志される学生さんだから、ということではなくて?


川島:学部によってカラーはあるでしょうけれど。聞くところによると法学部や経済学部は教員と学生との距離がもっとあるということです。福祉学科は実習があるので、意思確認のために一人ひとりと面接もしますしかなり個人的に関わります。だから面倒を見てあげる、見てもらうというのは学部の風土としてあります。


 私が学生の頃って、実習なんて「行っておいで」ぐらいのものでしたけれど。例えば今は電話のかけ方なんかも、実習に出す前にトレーニングしますからね。3年生の夏休みに実習に出すのですが、やはり全体に成熟度や社会性は高いとはいえないです。もっと信用した方がいいのではないか、という気持ちもあるのですが、例えば学校では成績も良くて真面目にやっている印象の学生が、とんでもないトラブルを起こしたり、ということは毎年必ずあって、するとどうしても前もってうるさく「しつけ」をしてしまうことになります。面倒を見ると、学生は面倒見てもらえる、という相互関係ができてしまいます。


 話を戻すと、昨今の大学生はいかにモメないかに心を砕く、優しい人たちです。

 授業の中にディベートを入れたりすると、それはすごく事前準備してちゃんとやるんですよ。ただ日常生活ではよっぽどけしかけないと、議論なんかしないですね。


 先ほど申し上げた学生向けのTグループの中でもその変化は感じられます。Tグループを始めたの初期のころは、1対1で

「あなたのこういうところがガマンならない」

というようにしっかり対面してかかわるというような場面がありました。それが最近のTグループでは、自分のしんどさを自己開示するというのはありますが、誰かに、というわけではなく、みなさん聞いてください…という感じで相手とちゃんと対面するというのが少ないように思います。


 私は今の学生にはアサーションが大事だと思って、日精研の手法でゼミで半期かけてやっています。すると、自分がいいと思ってとっていた態度が、実は「ノンアサーティブ」であったことに気づく学生が多いです。モメないようにするために自分がガマンすればいいと思ってたんですね。


 アサーティブであるということは人にイヤな思いをさせるんではないかと思っている人は多いです。そうじゃなくて、自分も相手もを大事にすることなんですよ、と。ただ何でもかんでも言うのが正しいわけではなくて、何も言わない、反応しないということをアサーティブに選ぶことも大事なんですけど。


(つづく)


 川島先生Q&Aいかがでしたか?

 ST(感受性訓練)、Tグループ等、20世紀後半の心理学的研修手法をご覧になってきた川島先生だからこそ語れる「心理学の倫理、コーチの倫理」。

 
 わたしたちNPO法人企業内コーチ育成協会に川島先生が加わってくださったのは、本当に得難く心強いことです。



★川島惠美先生がNPO法人企業内コーチ育成協会の第一回例会に登場されます!

テーマは
「『非言語コミュニケーション』で信頼関係のベースを築く」

 2月14日(土)13:30〜16:30、
 大阪・関学梅田キャンパスにて。


 詳細とお申し込みは

 NPO法人企業内コーチ育成協会ホームページ
 http://c-c-a.jp

から、どうぞ。