NPO法人企業内コーチ育成協会理事・プログラムアドバイザー・パートナー講師の川島惠美先生のインタビュー。


 2日間にわたってお届けしたこの連載も、いよいよ最終回です。


【目次】


(1)自己啓発セミナー、カルト、コーチング〜私の基軸
(2)「いかにモメないか」の優しい学生たち
(3)疲弊せずにやる気をもって働けるには〜福祉とコーチング
(4)真実はオープンセミナーにある〜職場とコーチングと私


 
 最終回は、(3)(4)を続けてお送りします。
(3)疲弊せずにやる気をもって働けるには〜福祉とコーチング


正田:川島先生はもともと、福祉施設の中でのコーチングが必要だということをおっしゃっていましたね。


川島:はい。福祉施設の中で働く職員の離職率、疲弊率はすごいものがあります。直接的に介護とか援助に当たっている人は特にそうですね。特別養護老人ホーム(特養)、障害者施設、児童養護施設などが特に厳しいです。


 大変な仕事なのに、それに見合う報酬とか社会的地位がない。お給料は、20代は右肩上がりなんですけどね。30代は頭打ちになり、施設によっては逆に下がってくるところもあります。特に障害者の施設は制度変更で出来高払いになって、そうすると前は利用者さんも毎日来ていたのがお金がかかるからと3日1回になって、収入がまた下がる。かと言って職員が3日に1回しか仕事しなくていいかというとそんなことはなくて。


 福祉職で結婚して子どもを持とうと思ったら、共働きじゃないとやっていけない、とか「絶対子どもを私立なんかに入れられない」といった声を聞きます。30歳ぐらいで生涯賃金とか、先の見通しが立ってしまって、今からなら他の仕事に替われる、と思ってしまう。志だけではご飯は食べられないというところですね。


 それは大きな仕組みの問題、給与体系とか雇用という構造的な問題ではあるんですけど。もうちょっと介護職、相談職として働く人たちが疲弊せずにやる気をもっていい雰囲気で働けるようにするということは、やっぱり課題だと思います。


 福祉関係の職員対象にコミュニケーション研修をやると、1人職場の相談職の人なども多いので、研修の内容というより、グループワークなどで「ほかの施設の人と話ができてよかった」と言う人は結構いますね。要はグループスーパービジョンやネットワーキングの場になっているということです。自分たちのやってることがどうなん?という評価がみえていない。だから1人で右往左往しながら、試行錯誤しているところで、研修で同じような立場の人たちとコミュニケーションとることで「これでよかったんだ」と安心したり、新しいアイディアをもらってやる気になったりする。


 そこでコーチングですけど、福祉は人の入れ替わりが激しいので、5年もすれば主任、中間管理職になります。その人たちがコーチングという手法を使って、下(の人)を使いつつ、上にも物を言えるようになったら、だいぶ違うのかなと思います。


 『対人援助のコーチング』という福祉職員向けの本が出ていますが、それは援助者が被援助者に関わるときのコーチングなんです。職員同士のじゃない。職員間のコミュニケーション、関係性、風通しを良くできれば。それが良ければ離職率もかわらないかと思うんです。


 残念なことに介護職なんて使い捨てと思ってる上の人は結構いますよ。2年間専門学校に行ったら介護福祉士がとれるんです。タマゴは続々卒業してくる。保育士もそうです。実際にある園の理事長から聞いたのですが、若い、給料をたくさん払わなくていい人を雇います。変わらないのは主任と園長だけ。あとは4〜5年で寿退職していただくということが前提になった暗黙の雇用形態があるところは多いです。使い捨てだからノウハウの蓄積、技術の蓄積という構図にはなりにくいんです。当然仕事や職場の質も上がりにくい、それによって仕事の専門性も高まらず、社会的地位も上がらない…という悪循環です。


正田:え〜、ひどい。


川島:それは構造的な問題なので、コーチングを導入しても無駄なのでは?という考え方もあるのですが、決して無駄ではないんです。職員が横の連携をとって声を上げていくようなことができれば。


正田:そんなところばかりなんでしょうか。いい取り組みをしている施設はありますか。


川島:この地域では喜楽苑が有名かもしれません。理事長の市川禮子さんは、35歳まで主婦だったのですが、娘さんの学校の先生が立て続けに退職されたことから私立保育園を設立されて、その続きで特養の相談員、施設長となられた方です。自分の家族だったらどうするか、という発想で施設の現状をみて「これ何?」と自分で動いて今の状態になっています。家族を入れたい施設。そういう特徴のある理事長や施設長がリーダーシップをとって動かしていくところがやはり先進的な取り組みをしていますかね。


 自分の事として、後20-30年もたつと私も(施設の)利用者になる可能性は大きいわけですから、今学生を指導しているのも、いかにこの世代を躾けていくことで自分がいい思いができるかにつながるわけです(笑)


 ただ冗談ではなく今後高齢者、認知症患者はどんどん増えますよ。姥捨て山ではない発想で対処することが必要です。数が増えるとマジョリティーになる、力を得ていく、そのことの意義ってあるんじゃないでしょうか。老人的な行動パターン、もみじマーク表示の義務化は撤回されましたけど、もみじマークがついてる人がほとんどになると、逆に世の中が変わってきますよね。



(4)真実はオープンセミナーにある〜職場とコーチングと私


正田:またお話は変わって、コーチングを職場単位で導入することで考えられる落とし穴のようなものは。


川島:何を大事にするかの軸がブレることでしょうね。コーチングをやることで目指すもの、企業が目指すもの。一体でブレてなければいいですが、軸が企業に都合の良いもので「こういうところを目指してやってくれ」という要望を出されてそれに応えなければならない場合。例えば、社員一人ひとりは個別的な存在なのに、全員が同じ行動がとれるようなことを暗に求められてしまったり。


 企業研修という形は、オファーがあった時、事前に何がしたいのか打ち合わせの段階で研修担当の方との意思疎通が図れて初めてお引き受けできるというところがありますね。


 私の連れあい(川島憲志氏)などは「できないこと、無理なことはしない」というポリシーが明確で、打ち合わせでも「それはできない」とはっきり言ったり、研修の枠組み全体をがらっと変更して作り直してしまうようなことは結構やってますね。


 職員研修や社員研修は、モチベーションの高さがまちまちで、とくに全体研修だと明らかにやる気のない人が混じっている。「大変ですね」とか言いながら、やっています。工場研修のメンタルヘルス研修なんて、アリバイ研修の最たるものですよ。工場のラインの人全員参加ですけど、みんななんでこんなことしないといけないの?というような顔で参加してたりして。


 ですからオープンセミナーの受け皿を作って、モティベーションの高いやる気のある人を集めるというのが正しいやり方でしょうね。すべての人を巻き込まなければいけないというわけではないと思います。世の中を変えるにはどれだけの人を変えればいいかという社会変革の法則があるんですが、確かそれは1ケタの数字だったように記憶しています。


正田:それでは、川島先生がコーチングのNPOに巻き込まれてしまったご感想というのは。


川島:別に巻き込まれたといっても、いやいややってるわけではないんですよ。半分は自分の意志で「やります」と言ったわけですから。ただ時間的にはちょっと苦しいなあ、というのはありますね(笑)


 コーチングは私がこれまでにずっとやってきたこととつながっていて、タームは違うけど同じことが一杯あるんだろうな、と思います。

 私からするとSWのコアな人間観から発して、関わりのスキルの一環としてコーチングがあって、という理解なんですが、わかりやすさとか学ぶ点があると思っています。

 
 私自身は実際にコーチングをやってきたわけではないので、コーチとしてやってこられた方々から学びたいな、と思いますね。


正田:今度の2月14日の勉強会には「非言語コミュニケーションで信頼関係のベースを築く」で川島先生に登場していただきます。よろしくお願いします。



 とても楽しみなんですが、川島先生がこのテーマにかける思いや、受講生の方へのメッセージなどがあればおきかせください。


川島:非言語コミュニケーションはコミュニケーションの中では大事なものです。通常は「何を言うか」の方に重きがおかれがちですけれど。言っている内容が、ノンバーバルの在り方によっては、全然違うものとして伝わってしまう。そのことに皆さん気づいていないんですよね。


 とても当たり前のことではあるんですけど、何か気づいていただけるといいなぁ、と思いますね。1つでも2つでも持って帰っていただければ。


 私にとっては、やはり前回お話した、一言もしゃべらない面接というのを経験したのが原点ですね。もちろん沈黙の意味とか、その前から当然、知っていたのは知ってたんですよ。でも本当に表面的な理解でした。50分も黙ってるという経験を実際にして、それを体感しました。


 患者さんも、視線が向いているというのはたぶん感じていたでしょう。身体がゆるんでくるのがみえる。私は安心してみていて、「話したければ、いつでも話していいですよ」というスタンスで。言葉は交わさなかったけれど、お互いに非言語コミュニケーションでは関わっていたかなあ、と思うんです。


正田:本当に大きなご経験でしたね。

 そういう原点をお持ちの川島先生が伝えてくださる「非言語コミュニケーション」、大事に受けたいです。どうもありがとうございました。(了)






★川島惠美先生がNPO法人企業内コーチ育成協会の第一回例会に登場されます!

テーマは
「『非言語コミュニケーション』で信頼関係のベースを築く」

 2月14日(土)13:30〜16:30、
 大阪・関学梅田キャンパスにて。


 詳細とお申し込みは

 NPO法人企業内コーチ育成協会ホームページ
 http://c-c-a.jp

から、どうぞ。