先週20日、NPO法人企業内コーチ育成協会顧問・太田肇氏(同志社大学政策学部教授、組織論)に、当協会事務所でインタビューを行いました。


 太田氏が「承認論=人が働く動機づけのうち最大のものは『認められたい』という欲求であり、この欲求を上手く活用することでマネジメントが大幅に向上することを提唱したもの」を、明確な形で提唱したのが2005年初夏。

 大きな反響をよび、今では「働く人の動機付けは認められること」という考えはごく一般的になりました。
 その当時は画期的なことだったのです。


 その年の晩秋、正田は太田教授の研究室をご訪問し、4時間にわたる対談。

 以後、当時の任意団体、コーチング・リーダーズ・スクエア(CLS)勉強会に講師として来ていただいたり、2008年からは団体顧問に就任していただいたり。


 年間50件以上の講演依頼をこなし年2冊ペースで本を書く多忙な方ながら、小さなCLS〜当協会のさまざまなご依頼にも嫌な顔ひとつせず応じてくださいます。


 今回は、当協会発足にあたりホームページにも「承認論のページ」をつくるため、改めてインタビューをお願いしたものです。



 約1時間半にわたるインタビューを、このブログでは前半・後半に分けてご紹介したいと思います。


 太田肇氏インタビュー(1)「『承認論』の過去・現在・未来」

 1.「承認論」のインパクト
 2.モチベーションは目標からくるか、承認からくるか
 3.2009年現在の「承認」
 4.見え隠れする立身出世志向
 5.不祥事と「短期的思考」
 6.楽しさ面白さは人を弱くする?


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1.「承認論」のインパクト


正田:早速なんですが、2005年に先生のご著書の『認められたい!』というご本が出てからもう4年になりますね。あの時から今までのことをざっとお伺いできますか。


太田:正確に言いますと、私が初めて「承認」ということを言い出したのは、96年に中公新書から『個人尊重の組織論』という本を出した。そこで「認められたい」とか、「尊敬されたい」という欲求が重要で、それが人を動かしているということを言ったんですけど、特にそれ(認められたい)に絞って本を書き出したのは2005年です。


正田:「承認」に絞られたことには何かきっかけがおありだったんですか。


太田:ええ。それまで、組織全体の中でどのような制度を取り入れるにしても、承認欲求は重要だということを言ってきたつもりなんですけど、2005年からはもっと積極的に認めたり、そうした欲求を表に出せることが大事だと、それを強調して、そこに絞って話をしようと思いました。

正田:それは制度などと一緒にして話すことに何か限界のようなものが。

太田:そうですね、全体の中でだとそこははっきり伝わりませんので、もっと強調しようと思って。それから何冊か(承認論の本を)書きました。


正田:立て続けに書かれましたね。


太田:そうですね。やはり最初それほどの注目度でもなかったんですけど、反響が大きかったというか、「承認が大事だ」というと、「そうだそうだ」「よく言ってくれた」と、皆さんが言ってくれまして。それでそれに絞って書いたということはありますね。

 96年にその新書を書いて、それからは講演とかが一気に増えましたね。96年頃から、大体年に50−60回ぐらいは。とくに近ごろは大半が「承認」に関係する話をしてくれというご依頼です。


正田:『個人尊重の組織論』という本を読まれた方も、その当時からその部分に目をとめられた。


太田:多かったですね。そして承認の話になりますと、それまではどちらかというと企業に(依頼が)偏っていましたけれども、承認になるとむしろ企業以外のところが多くなりましたね。最近ですとたとえば役所関係ですとか、福祉施設だとか病院だとか、幼稚園とか裁判所、宗教関係、スポーツ関係…。あるいはフリースクールのようなところですとか、もう本当にさまざまです。



2.モチベーションは目標からくるか、承認からくるか


正田:モチベーションということでいいますと、私が見ていて2つ大きな流れがあるように感じるんですけど、モチベーションは目標とそれの達成からくるのか、それとも承認からくるのか。


太田:私はそれは承認というのは両方重なっていると思いますね。

短期的にただ認められたいとか褒められたいとか、そのために頑張る。それから褒められてますます張り切って頑張る。

もう1つはもっと長期に言って、出世だとかキャリアアップだとか、それを認められる。まあ、尊敬だとか地位だとかもそれに入ると思いますので。努力をして目標達成をして認められるということと、ありのままを認めるということ、そういう分け方ができると思うんですね。要は承認はいろいろなモチベーションに関わっているということですね。


正田:承認によるモチベーション向上は他のいろいろなものを包含するっていうイメージですね。

 先生はその間、日本的人事論についての本も書かれたり、制度的なことについての論考もされていますけれども、やはり承認についてのコメントのご依頼が多いんでしょうか。


太田:はい、承認が圧倒的に多いですね(笑)。特に最近はお金で動機づけることはできなくなったし、企業でもこんな景気の状況ですので、給料を大きく上げるとか、ボーナスを増やすとかは難しくなっていますので、もっとお金以外のもので動機づけるとすればどうする、というとき、承認の重要性に気がついたということですね。


3.2009年現在の「承認」


正田:なるほど。今の時点(2009年)の話になるかと思うんですけど、全体のお金の流通量が少なくなっている中で、人を動機づけるにはどうするか、というとき「承認」がクローズアップされてきた。


太田:そうですね。両方だと思いますね。お金だけでは動かないという現実がある。

 今でも業績が好調で、給料もボーナスもUPするというところでも、人が集まらない、すぐやめるというところがある。それを引き留めるには、やはりコミュニケーションを含めて、認めるということがいかに大事かということだと思います。

 他方では出そうと思っても本当にお金を出せないから、認めることによってやる気を出そうというところがある。要するに両方だと思います。

 個人の側もお金だけに頼れなくなった。お金では動かなくなったということと同じです。



4.見え隠れする立身出世志向


正田:昔ながらの立身出世というのはどれくらい影響が低下しているのでしょう。

太田:私は出世志向というのは本当はなくなっていないと思うんです。ただ日本の社会というのはそういうのを表に出しにくいところがある。

 それから時代の変化というのをもう少し長い目でみた場合には、たとえば明治維新とか、戦後復興、そして高度成長、というように企業も社会も拡大できる時には、高い目標を掲げて、そして周りも拍手を送る、そういう環境だった。つまり個人の成功や出世が、社会の利益や企業の成長と一致したんですね。

 ところが今は、そんなにパイが大きくなりませんし、景気もこんな状況ですから、お互いに足を引っ張りやすい、ねたみやすい状況になってきた。そうした中で、たとえ出世したいと思っても口に出せないということがあります。だけど本当の気持ちとしての出世欲、志とか野心というものは、私は無くなっていないと思います。


正田:それはどんなところからお感じになります?


太田:たとえば学生なんかを見ていても、中には安定した公務員だとか大企業に行きたいというのはありますけれども、自分で会社を興したいとか、プロとしていずれ将来活躍したい、というのは大変多いです。


正田:あ、大変多いですか。


太田:ただそれができないのであきらめているということです。


正田:そうなんですか、あきらめているけど根底的にはそういうものを持っている。


太田:そういう憧れはみんな持っていますね。ですからたとえ大企業に就職しても、30ぐらいには独立したいと思っている子が大変多いです。実現できるかどうかはまた別ですが。

 出世志向とか偉くなりたいとかは、表に出せないだけで、みんな持っている。社会が変わって環境が変化していくと、そういったエネルギーが一気に表面化していく可能性はありますね。



5.不祥事と「短期的思考」


正田:ちょっとお話の趣旨から外れた感想を今、持ってしまったんですけれど、

 JR西日本の福知山線の事故ありますね。一人の運転士という職種にこだわった若い方が、どうしてもそれを失いたくないあまりに起こしてしまった事故だというふうにとらえてるんですけれども、あれも立身出世志向の表れなんでしょうか。


太田:はい、私もそれはそうだと思います。短期的な承認と長期的な承認とがありますけれど、短期的な評価というのを求めすぎたんではないかと。

 仕事も長期的に考える。それから評価も長期的に評価する。そしてその結果として出世する、というような考え方をしたら、危険を冒して(列車の運行が)数分遅れるのと、それから大事故が起きるのと、考えたら当然、大事故が起きないほうが大事なわけですから、最小限の失敗で収めようという気持ちがはたらくはずなんですね。それを短期で狭いところで考えてしまったので、(事故につながった)という見方もできると思うんです。


正田:あの事故が後日報道されてそういう(運転士の運行遅れを挽回しようとするあまりスピードを出しすぎ、事故につながったという)証拠が出てきたときに思いましたのは、われわれ人材育成の方に責任はないんだろうか、と。キャリアアップという方向にあおりすぎてしまったのではないだろうか、と。


太田:それが先行したということなんでしょうね。本来、だんだん大きな仕事ができるようになって、そしてより広い視野でものごとを考えられるようになって、初めてより高いレベルの仕事をできるようになる。出世ができるということですけれども、そうでなくてまず出世ということになったら、しかも短期でということになったら、ああいうことにならないとは限りませんね。

 JR西日本の事故だけでなく、たとえば食品会社の不祥事とか、今の上司がしたミスを隠すとか、見て見ぬふりをするとか、期限切れのものを売ってしまったりするのも、短期の業績アップだけを考えるから。もう少し広い視野でものを考えると、会社の名を傷つけてしまうとか、消費者を遠ざけてしまうとか、失うものが大きいわけですね。そのことを説得して(社内に)わかってもらうのが本来のありかただと思うんですけど、それが短期思考になっているとできないんでしょうね。個人の側だけではなくて組織にも問題があるんですけどね。



6.楽しさ面白さは人を弱くする?


正田:太田先生はご著書の中で、「仕事は楽しくなければ意味がない」というようなフレーズに対して疑義を呈しておられましたね。楽しさ、面白さがすべてだというような風潮が一部にあるけれど、ある企業の部長さんによれば「楽しさ、面白さで育った人は逆境に弱い」と。


太田:そうです。仕事をなんとか面白くしよう、楽しくしようと盛り上げるような手法もありますけれど、仕事には楽しくないこと、面白くないことがつきものなんです。失敗することも怒られることもある。そこで、けっして楽しくない毎日の仕事に対していかにやりがいを持つか。それが長期的な志、理想、野心のようなものではないかと思います。

(前半ここまで)


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 いかがでしたか?


 このインタビューの録音を起こしてみて、改めて、太田教授が見事に1つ1つのセンテンスを完成された形で言いきっているのがわかりました。


 恐らく年間何百回と語っている内容なのでしょうが、むしろ『個性尊重の組織論』から10年以上にもわたり、一貫して同じ主張をされ、あらゆる分野の要望に応えてきたことの精神力に驚かされます。


 信念の人、とはいいながら、終始にこやかに穏やかに慎み深く、トーンを変えず語り続ける太田教授でした。


 また太田教授に感銘を受けるのは、見事に「すぐやる」を実践しておられる方だということ。


 先日の受講生さんへのコメント、またこのインタビュー原稿の添削も、夜お送りして翌朝または朝送って午前中という、「すぐ」のタイミングで返されました。

 「すぐやらないと、できなくなってしまいますから」

 以前、このことで水を向けたとき、ニコニコしながらおっしゃいました。


 
さて、次回のブログはインタビュー後半部分です♪

内容は:

1.承認と男女共同参画
2.表彰研究所の設立
3.企業内コーチング 実践につなげるには?
4.これからの社会は?


 どうぞ、お楽しみに!



神戸のコーチング講座 NPO法人企業内コーチ育成協会
http://c-c-a.jp