『代替医療のトリック』(サイモン・シン、エツアート・エルンスト著、新潮社)を読みました。


 462ページにわたる分厚い本。アマゾンではしばらく品切れでしたが、古本で何とか入手できました。



 ホメオパシー、鍼、カイロプラクティック、ハーブ療法をはじめ、アロマセラピー、イヤーキャンドル、オステオパシー、結腸洗浄、指圧、スピリチュアル・ヒーリング、デトックス、マグネットセラピーなど、


 私たちのなじみのあるものから「えっ、そんなものあるの?!」というものまで、代表的な代替医療を、数百数千の大規模の症例数を含む科学的な臨床試験とそのメタアナリシスにより検証した本。


 結果、ほとんどのものに「効果なし(プラセボと同等の効果ありのものを含む)」と結論づけています。


 
 多くの代替医療ファンは抗議したくなるでしょう。


 私は「ホメオパシー」というものをこの本を読むまで全然知らなかったのでへ〜という感じなのですが、ヨーロッパでは正規の医療に位置付けている国もあるらしい。


 ホメオパシーとは、大量に摂取するとある症状を引き起こす物質をごく微量身体に入れるとその症状を改善するという考え方だそうで、しかし希釈すればするほどいいとされるので、有効成分を湖に1滴たらしたあと、その湖の水を飲むようなものだという。


 丸薬1個の中に有効成分が分子1個も入っていないというレベルだそうです。

 そりゃプラセボ効果だわな。


 でも、それが高額の医療になるのですって。



 

 筆者らは、ある医療の有効性を大規模臨床試験によって検証することがなぜ大事なのかを、繰り返し本の中で強調します。



 この本によると、歴史上、統計を駆使して医療の中で何が有効かそうでないかを論じた先駆者は、あの看護学の創始者、ナイチンゲールだったそうです。



 
ナイチンゲールは、医療上の重要な決定はすべて、同様の科学的根拠にもとづいて下されるべきだと確信していたので、陸軍の衛生問題に関する王立調査委員会の設立に向けて闘った。そして委員会が設立されると、自分の主張を裏づける詳細な統計的データを添えた数百ページに及ぶ証拠書類を提出した。データを表に仕立てるだけでもやりすぎだとみなされた時代に、彼女は、今日の企業の会議室で行われるプレゼンテーションとしても十分通用するような多色表示のグラフを取り入れた。また、データを示すために、極面グラフ(少し複雑な円グラフのようなもの)を発明した。こういったテクニックが、たいていは数学に疎い政治家たちに、内容を理解してもらうにはとても役立つことに気づいたのだ。




 そうして1858年、ナイチンゲールは女性としてはじめて王立統計協会の会員に選ばれ、のちにはアメリカ統計学会の名誉会員となったとあります。


 
ナイチンゲールは長い経歴を通じて、兵士たちに関する研究の手もゆるめなかった。後年に行われたある研究では、平時にイギリスの基地にいる兵士たちについて調査を行った。その結果、兵士の年間死亡率は、千人あたり20人であることがわかったが、これは一般市民の死亡率の二倍に近い数字だった。彼女はこれを、兵舎の環境が劣悪だからではないかと考えた。そして、英国陸軍全体について、劣悪な兵舎のせいで死亡する兵士の数をはじき出し、いかに多くの若い命が無駄に失われているかを強調するために、次のように述べた。「英国陸軍は、毎年千百人の兵士を選んでソールズベリー平原に立たせ、撃ち殺しているようなものである」



 ナイチンゲールが医療において収めたこれらの大成功から学ぶべきは、科学的な臨床試験は、医療に関する事実を明らかにする最善の策であるばかりか、事実を認めてもらうための最善の策でもあるということだ。科学的な臨床試験から得られた結果は非常に強力なので、ナイチンゲールのように、さほど有名ではない人物であっても―彼女は主流派の外部にいる、大した名声があるわけでもない若き女性だった―自分の主張のほうが正しく、有力者のほうが間違っていることを示すことができる。臨床試験なしには、ナイチンゲールのような孤独な先覚者は無視されたにちがいない。そして医者たちは、伝統とドグマと流行と政治、そしてマーケティングと逸話だけにもとづく腐敗した医療体系によって治療を続けることになっていただろう。





 うーん。ナイチンゲールすばらし。ただの愛と善意にみちた女性というだけではなかったみたいですね。


 この本には、1996年に「セラピューティック・タッチ」という代替療法を検証するため、21名のヒーラーが目隠しした状態で「人間のエネルギー場」を感じとる能力があるかどうかをテストした、エミリー・ローザという9歳の少女の話が載っています。


 結果、「ヒーラーたちにはエネルギー場を感じ取る能力はない」ということが明らかになり、エミリーはこの結果を論文にまとめ『米国医学会誌』に発表したのでした。


 「エミリーはこれをもって、査読の手続きを踏む医学専門誌に研究論文を発表した、(本書の著者たちの知る限り)最年少の人物になった」。



 一般に女性は数字に疎いといわれますが、ナイチンゲールやエミリー・ローザの快挙には溜飲がさがりますね。



 さて、正田は(たぶんセミナーを受講されたかたはおわかりと思いますが)科学ずき、論理ずき人間であります。


「ロジカル」であるということは、コーチングや類似の心理学的手法の世界では、往々にして物わらいの種になります。


 2008年の暮れには、「悲観的な未来と楽観的な未来」という日記を書きました。そのなかでも「科学」への傾倒に触れています。


 http://blog.livedoor.jp/officesherpa/archives/51411661.html 



 この本『代替医療のトリック』は原題"Trick or Treatment?"といい、2008年刊行の本です。なんとなく同志を得たおもい。



 それから、正田はそろそろコーチング歴も9年になり、そのうち7年ほどは「根拠をもって」、正田流コーチングは企業の業績向上に有効であると、あの手この手で訴えてきてるんだけど、そろそろ世間様にかえりみてもらえるわけにいかんのかなー。


 ナイチンゲールさんは自分の主張を認めてもらうのにどれくらい時間かかったんかなー。


 ああぼやきになってきた…。



 きのうは1日、サラ・ブライトマンを聴き続けました。幸せ。

神戸のコーチング講座 NPO法人企業内コーチ育成協会
http://c-c-a.jp