きのうの日経新聞夕刊に、久田恵さんが「NPO法人の手続き」と題したコラムを書いている。


 大変おもしろかったので、少し長く引用しながら今後のことを考えてみようと思う。



 久田さんが立ち上げたのは、「音楽人形劇による子育て支援活動」のNPOで、最近法人格になって初の総会だった。


 コラムによるとここで、ドタバタ劇のような展開になり、


「これまで、思いつきと衝動的行動と事後承諾で人生をわたってきた私は、手続きの煩雑さに眩暈を起こしそうだ」


 と自己分析する久田さんだが、一方で「社員」つまり議決権を持った会員23名に対する観察眼がおもしろい。



「しかも、社員にはフリーのライターとかダンサーとかミュージシャンとか組織人生からすでに脱落しちゃっているような人たちが多い。


 その一方、少数派のしっかりした現役会社員の組織慣れしたメンバーたちは、ほとんどが休日気分。脱落ではなく脱力状態にある」


 そうそう、と私は膝を打つ。


 NPOでの「人」の問題が難しいのは、ここに言いつくされているような気がする。



 私たちの団体で言うと、コーチ、コンサルタントを含む「自由業」の人たちは「自由」を享受したままNPOという人の集団に属したいという欲求が強い。


 そこで、NPOに対してユートピア的な組織のありかたを求める。


 例えば「うちの団体の理念に反することをするな」「競合関係にあり、理念的にも相容れない同業他社を利する行動はとるな」といった「しばり」は、その人たちにとっては不快な制約であり、簡単にそれを理由に団体を去っていってしまう。

 
 一方で組織人たちは、当団体の「企業内コーチ」たちも残念ながらその例にもれないのだが、「くつろいでいる」。


 「なんで、あなたほど有能な人が、このタイムポイントでこういう行動が必要だっていうのがわからないの?」

 ということが、よく起こる。


 仕事上では絶対に持っているであろう、「一歩先の想像力」が、有能な企業内コーチたちでさえも、働かない。


 …そして、彼らの予測能力不足を見越してこちらが先回りした指示を少し強いトーンで与えたりすると、それはそれでまた反発するのだ。


 かといって優しいトーンで「質問のスキル」で答えを導かせ、約束をさせるといった、コーチング的な手法が有効かといえば、それは彼らにとって強い縛りをもつ約束事ではないので、簡単に約束を反故にされる。



 こういう人たちを束ねてやっていくNPO。


 とりわけ、むずかしいのは、

 「うちの団体」は、お客様から良心的な料金を頂戴して運営している「事業系NPO」であり、通常の企業活動と同様に、お客様との間の緊張関係がある。


 「余暇を利用して可哀そうな人達に福祉を届けてあげる」という種類の活動ではない。


 しかもそのお客様が目の肥えた現役の管理職たちであり…、


 「うちの団体」で以前スピーカーをやった女性社労士さんが、「足がすくんだ」と言った。

 ふだんから地方都市の商工会議所のセミナーなどで話している人であるが、そういうところに来ている人達とは「お客さん」の質が違うらしいのである。



 勢い、スピーカーにしても事務作業にしても、いい加減な人には任せられない。


 「お客さん」を意識したときに求められる仕事の品質と、


「NPOだからこれぐらいでいいだろう、余暇活動なんだから」
というときにイメージする仕事の品質では、天と地ほどに違うのである。


 それで、スピーカーはある程度固定した人
(しっかりした人。話す内容に信頼感があり、締め切りや時間厳守ができ、立ち居振る舞いもNPOだからと言って崩れない人)、


 事務作業は経理のUさんと私の2人だけ、あと外部の固定した業者さん、ということになってくる。



 (Uさんが一切「仕事をなめる」というところのない人なのは、奇跡のように思える)



 例えばうちのような事業系NPOが企業や公的機関のやらないすき間事業をやって、社会を良くする役割を担っていくというとき、


 やはり担い手の質とか心構えが問題になってくるだろう。



 締め切りは厳守。質も、会社に提出して社長や銀行や取引先に見せられる品質のものを。
 某市役所職員に言っている台詞ではないが、「緊張感のある仕事」をしなければならない。


 
 ちなみに、これは言い出すと私自身がしんどくなるからあまり言いたくないのだが、


 うちの団体はなまじ事業系NPOであるばかりに、「ベンチャー」でもない。「純粋な非営利活動」でもない。公的支援の枠組みのはざまにあるので、


 助成金も貰えません。インキュベーションにも入居できません。

 あ、「協働と参画」なんて、建前ばっかりですから。



 そういう、一番恵まれない事業を、なおかつ通常の企業活動と違って、利幅も薄くアピール力も弱い事業を、正田が手弁当でやっています。

(なにしろ、つねに目新しい新商品を出して消費者の心をガッチリつかむ、というのとは真逆のことをやっていますから)



 なのでただでさえしんどいので、気まぐれな他人様の「質の悪い仕事」に振り回されている余裕はないのです。人に仕事を任せていないことについてのクレームは受け付けません。
 
 

神戸のコーチング講座 NPO法人企業内コーチ育成協会
http://c-c-a.jp