「公開対談 日本人と仕事」の詳報第を全5回でご紹介しています。


 北条勝利・ひょうご仕事と生活センター センター長と、太田肇・同志社大学政策学部教授(組織論)のビッグ対談。



 お話はいよいよ核心に。


 第2回の今回は:


「労働政策と働き方、働かせ方が日本人の労働意欲を低下させた」



■仕事に対する意欲が世界最低水準

■労働者派遣法が低下させた?―北条

■知的労働の比率増から「本物のモチベーション」が必要に―太田

(2)「労働政策と働き方、働かせ方が日本人の労働意欲を低下させた」

■仕事に対する意欲が世界最低水準



―それでは今度は太田先生に伺わせていただきます。今日のテーマ、「日本人と仕事」について、太田先生、どなたよりも深く取り組んでこられたと思うんですけれど、これまでのご研究や調査の歩みを教えていただけますでしょうか。



太田:太田でございます。よろしくお願いします。私は特に日本人、というわけではないですけれども、私がやっている分野は組織論や経営学です。経営学や組織論というのは、経営者の視点、それから企業の立場から色々考える、というのが普通です。ところが私は昔からあまのじゃくでして、正直組織があまり好きではなかった、ですから個人というところに私はいつもこだわるところがありまして。組織、人事、社会、そういったものを個人の視点から考えるとどういうことが言えるのかなと。それをずっと私は研究テーマにしております。


 それで「日本人と仕事」といいますと、これまで日本人は仕事が好きだと、意欲があると、また組織に対する帰属意識も強い。それからチームワークもいいと。これまでそのように言われてきました。それが国際競争力だとか、それから製品の質、そういったところに反映されてきた。こういった見方が常識的だった。

 ところが最近発表される色々な意識調査だとか統計あるいは現場のエピソード、そういったものを見たりきいたりすると、これまでのそうした常識がどうも当てはまりにくくなっているということに大変私は興味をもちました。


 たとえば日本人の仕事に対する意欲、これなども最近は急速に落ちて、色んな調査結果をみると、世界で最低水準です。また若い人の組織に対する帰属意識、今の会社にとどまりたいという意識、これもまた最低水準です。また満足度も大変低い。

(各種指標については参考資料参照)


 またチームワークにしても、これも国際経営などやっている人にききますと、日本人はチームワークは大変下手だと。つまり決まったメンバーで同じ仕事をやるのは得意だけれども、新しいメンバーで一から何かをさせようとすると、日本人は何もできないと。そうすると今まで言われてきた常識は何だったのかと。



 こうした現象というのはどうもこの10年20年ぐらいで急速に進んでいるようです。それと、もう1つそれに関連して、労働生産性であるとか、国際競争力、それから国内総生産(GDP)こうした指標も急降下している。そうなるとこれから日本人の仕事だとか働き方あるいはマネジメント、そういったものをもう一度見直していかなければならないのではないか。このように考えまして、そうして今色々研究をしたり、書いたりしゃべったりしているところです。


―ありがとうございます。ちょうど今お話いただいた日本人の意欲とか労働生産性の数字をお手元の資料の3枚目に参考資料としておつけしております。よろしければご覧ください。

 いかがでしょうか。日本人の今の労働生産性、そして意欲というもの、急速に低下しているといわれております。北条センター長、どのようにお考えですか。



■労働者派遣法が低下させた?―北条


北条:働くものの気持ちを率直に申し上げますと、「だれがこんな社会にしたんや」という怒りが本当は底辺に渦巻いておるんやないかと思います。


 労働運動の中で、労働組合の仕事の重要なポイントの1つに、政策・制度の要求取り組み、それが真ん中にあって、もう1方の大きな柱は雇用と労働条件を維持する、できる限り向上させる。これと先ほど申しました政策・制度の取り組みに加えて、1つ重要なテーマは、産業政策、企業政策、事業所政策。自分のところの会社をどういう風に強くしていくのかという政策を、労働組合も持たねばならんという2つ目の柱。それともう一つは、助け合いの制度。これは国でも色々年金・医療、それぞれ福祉制度ありましたら、それだけでは足らへん部分を労使で福利厚生で、あるいは組合自らが助け合いの取り組みで、労働組合には労働金庫と、全労済いうところがあります。営利の金融機関やなしに、助け合いの金融機関で融資を請け負う。保険は営利の民間生損保やなしに助け合いの、これは賀川豊彦先生の歴史につながる話でありますから、全労済を通じて、助け合いの共済で、財産を守っていこうと。


 この3つの柱をしっかりやっていけば、組合の地盤は安定すると言われてきたわけですが、バブル崩壊以降、失われた15年、20年、とりわけ1990年代後半以降、雇用問題についても大きな変化が起きてまいりました。


 労働者派遣法、だんだん年々それが各業種に開放されて味噌もくそも一緒になるようになった。企業は労務費を下げることができる。不況になった時いつでも辞めさせられる。はたらく側にとっては極めて厳しい時代に入ってしまいました。この当時の政治は自民党です。一番今問題なのは、名前出しますけれども何とかいう総理と何とか言う大臣。もう大体わかるでしょ?竹中いう人もおった、あの人の新自由主義、何やねんそれはと、いうことを含めてあの当時から、国内の雇用環境はむちゃくちゃになっていた。年収百万、二百万の人達がどんどん増えてきて、ピンハネの派遣会社が雨後のタケノコのようにどんどん出てきた。ぼくあの当時、選挙の街頭宣伝でマイク持って、「こんな社会にした体制からまっとうな社会に変えようや、みんなで力を合わせて」。人の収益、儲けをピンハネして大きく株式会社に成長していった、そういう会社を叩き壊せと、ここにはやくざの人おってないと思うけどこれはやくざの、人入れ稼業やと。こんな時代からまともな時代に戻さなあかんと。そういう面で、政策遂行上も含めて、すべてここで崩れ去ったと思っております。



 したがってこれを立て直すには、やっと一昨日の新聞で厚生労働省が白書(労働経済白書、2010年版。派遣労働など非正規雇用を拡大させたことを反省、日本型雇用が有効と分析している)を出しましたね。この中でやっと目が覚めたかと。


 何とかこの生産性の低下したやつを、先進国に負けない恥ずかしくない社会にしていかないかんのやないかなと、今痛切に感じております。



■知的労働の比率増から「本物のモチベーション」が必要に―太田


―ありがとうございます。もう一度太田先生、今のお話いかがですか。



太田:はい。私は先ほど申し上げたように、研究としては個人の働き方働かせ方、マネジメントの仕方、というところをやってきておりますので、先ほどご紹介した意欲の低さ、満足度の低さ、生産性の低さ。そのあたりについて少し申し上げたいと思います。


 日本人の働き方というのはそんなに昔から変わってはいないと思うんです。ところがなぜこの10年20年に急にモチベーションが低下したか、生産性が低下したか。色々な理由があります。例えば技術革新に乗り遅れたということも言われておりますし、労働市場が閉鎖的だということも言われております。


 ただもう1つありますのは、働き方。今までの仕事というのは、比較的受け身でもやれたと思うんですね。例えば工場の生産ラインとか、銀行の窓口でも伝票の整理だとか。そういった仕事というのは、比較的モチベーションが低くても成果にそんなに表れなかった。


 ところがIT化などによって、工場もオフィスも非常に様変わりして、工場でも監視労働は増えてきておりますし、それからオフィスだと、コンサルティングであるとか、知的な労働が大幅に増えているわけです。それらの仕事というのは、本当にモチベーションが高くなければ、生産性が上がらないです。つまり押し付けたり強制したりといった、受け身な仕事のやり方では成果が上がらない。にもかかわらずマネジメントの面では、やらされ感に陥るような働かせ方があったりする。そこに私は問題があるのではないかと思う。


 例えば労働時間の問題にしましても、私も欧米だとか中国だとか東南アジアとか色々なところで視察をしたり情報を得ていますけれども、やはり日本人の労働時間はずば抜けて長い。例えばアメリカのビジネスエリートといった人達は日本人以上に猛烈に働くといいますけれど、でも実際きいてみるとそれほどでもないんです。確かに一部には働く人がいますけれど、その代り日本人のマネージャーに比べたら、一ケタあるいはそれ以上高い報酬を貰っていて、これは労働者の範疇ではないわけです。


 つまり普通の労働者、会社員で、これだけ毎日長時間遅くまで働いて、年休暇も半分も消化していない。これは私は明らかに異常だと思います。そしてそのような状況の中で、本物の質の高いやる気、モチベーションは生まれてこない。またどうしても、集中度が低い、仕事のむだな部分が多い。それが、満足度、モチベーション、生産性に響いているのではないか。つまり、働き方、働かせ方。それから組織の構造。そのあたりに問題があるのではないかなと思います。


―ありがとうございます。この10−20年の労働政策上の問題、そして働き方、働かせ方の問題、両方相乗効果で日本人の労働意欲や生産性が急低下してきたのではないか、というお話でした。

(続く)

ききて:正田佐与(NPO法人企業内コーチ育成協会 代表理事)




神戸のコーチング講座 NPO法人企業内コーチ育成協会
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