全5回でお伝えしている「公開対談 日本人と仕事」(8月5日)の詳報第3回です。


 北条勝利・ひょうご仕事と生活センター センター長と、太田肇・同志社大学政策学部教授(組織論)のビッグ対談。


 お話ますます白熱しています。


 今回は:

(3)だらだら残業、管理過剰、女性マネージャー


■だらだら残業が日に2時間、3時間

■管理過剰は仕事の分担のあいまいさからくる―太田

■残業がなければ女性のハンディはなくなる


(3)だらだら残業、管理過剰、女性マネージャー


■だらだら残業が日に2時間、3時間



―もう1つ、労働相談件数が去年また最高を記録した(厚労省調べで114万件)ということなんですけれども、兵庫県内での実情というのはセンター長、いかがでしょうか。


北条:兵庫県内も全国と同様に増加しております。特に労働委員会への相談、そして労使相談センターへの相談、それと連合兵庫の毎日やっております「なんでも労働相談」、すべてが増えておると。大半が雇用問題ということになってきております。寂しい、わびしい話なんですが、1日も早くそういうことが、もっともっと早い段階で手を打てるように、あるいは少なくなるように、努力していかなならんのかな、と思っております。


 その点で少しだけ申し上げておきたいと思うんですが、今太田先生の方からも言われたように、多様な働き方ということを、その名前に乗っかって多様な働かせ方をしてしまった企業に対して、かなり僕は問題意識をもってきたわけです。


 連合時代、経営者協会とその議論もかなりしました。三者合意のときにね。やたら厚かましい会社があるわけで、楽な方向にみなまねしようとする。そういうところに対しては経営者協会の中で指導してあげてほしい。いつか気がつくはずやから早くに指導してあげてほしい。というようなことをやりながら、この三者合意、仕事と生活センターのスタートをさせるにも、取り組んだ歴史があります。そういうこともご報告したい。そのことで、相談件数はもっと増えよったのを、とどまったこともあると思います。したがって政労使がちょっと知恵を出して努力していけば、かなりな数、相談になる前に、手を打てるんではないかなということも確信したところでありますが、現状まだまだ多いということについては、早く何とかしてあげたい。そのように思っています。


 そのために、雇用というものをまず安定させること。そのためには長時間労働を強いられている今の日本の企業の働き方の仕組みを、英断をもって、定時の中でええ仕事をして効率性を上げる。


 無駄な、だらだらした仕事、結構あるんですよね。どの企業とはいえませんけれども、派遣社員のかたにきいたら、だらだら残業が日に2.5時間、3時間やと。この会社の幹部何考えとってんやろなーと。もうちょっと労働生産性を上げることに意識をもっていけば、定時の中でもっと気持ちよくいい仕事ができるはずやのに。そのほうが明日への活力がまたみなぎってくる。そうしたら無駄な残業代払わなくてすむ。そのメリットは計り知れないんではないかと感じております。


 そういう点でも、企業家の皆様には目を覚ましてほしい。はたらく人がイキイキと働けるようにしてあげてほしいと願いたい。


 そうしてまた、「残業せんと給料が少ない」ちゅうのは、間抜けなことを言うなと。定時で給料で始末してええやんか。子どもと一緒に生活する。残業あったらもうかった、と思ったらええやんか。残業当てにしてたらダメ、生活スタイルを変えようと、その意識をもたんとダメ。世の中変わっていかへんでと。仕事と生活のバランスのポイントの1つですから、そこについても労使で英知を結集して、その困難を乗り越えていただきたい。そういう思いで、これからも汗をかかしていただきたいと思っております。



■管理過剰は仕事の分担のあいまいさからくる―太田


―政労使の英知を結集して、雇用を守ること、生産性を上げること、そして仕事と生活のバランスを確保すること、それが解決策になるのではないかというお話でした。

 太田先生、いかがでしょうか。



太田:この問題というのは色々な切り口からできると思うんですけど、一つには文化の問題もあるんですね。特に、男性の場合早く帰るといい仕事をしてないみたいな、そんなふうに周りからみられるということですね。遅くまで残ってると充実感があると。それに居場所がないということもありますので。なかなか定時に帰れといっても難しい所があります。


 そこで私が今提案していますのは、定時になったらそこで仕事は終わりと。あとはサロンにすると。残りたい人は残ってしゃべっていればいいわけです。そういうことをしても面白いんではないかなと。というのは、だらだらと仕事に残りたくない人に、つきあわされなくてもいいように、ということです。ここからはサロンです、と分けたらどうか、というふうに思います。


 それからもう1つなぜ残業が多いかということは、私は日本の組織というのが管理過剰というのがあるように思いますね。なぜ管理過剰になるかというと、一番大きな要因は個人の仕事の分担がはっきりしていないというのが大きいなあと感じます。


 例えば欧米にしても中国にしても、個人の職務、ジョブというのがはっきり定められていて、このジョブ、職務というものには絶対に責任を持たないといけないけれども、その範囲では自分が仕事の主(あるじ)なわけです。雇用主であろうがなんだろうが、一旦職務を与えた以上は口を出すことができない。「この仕事を終わったらほかのことをやってくれ」と言ってもきいてくれないそうですから。ですから自分のペースで仕事をこなすことができる。自分の仕事をこなせば周りが残っていても、気がねせずに帰ることができる、ということです。それから調整のための会議が少ないといったことが挙げられます。



■残業がなければ女性のハンディはなくなる



太田:例えば中国とか台湾に行きますと、ここにも女性の方いらっしゃいますけれども、女性のマネジャーは当り前ですね。そこで中国とか台湾で、女性のマネージャーにきいてみたことがあるんです。「あなたたちは女性だからということで昇進することにハンディがないか、仕事することにハンディがないか」ときくと、一切ないというんです。なぜないかというと、一番大きいのは、残業がないということです。残業がなければ、はっきり言って女性の男性に比べたハンディの大部分はなくなるわけです。


 ではなぜ残業がないのか、それは突き詰めると自分の仕事の分担がはっきりしていることだと。そういうことからも、仕事の分担をはっきりさせることは大事かなと思います。ただ、そうかといって中国や欧米のようにジョブというものをはっきり決めることがいいのかというと、アメリカでは逆に「ブロードバンド」といって、職務をもっと大括りにする方向になっています。そうでないと柔軟に仕事ができないから、といいます。


 ではどうすればいいかということですが、1つのヒントになるのは、例えば中国や韓国などでは、ある程度まとまった仕事を個人に委ねているんですね。それはジョブ、職務のようにビシッと決められたものではないんです。「あなたの仕事はこの仕事」と、まあ自営業者がたくさんいるという感じでしょうか。そうすると自分のペースでこなせるし、モチベーションも落ちない。また仕事が終わったら早く帰れるし、休みもとれる。


 中国の人に「中国に行くから」と言いますと、「1週間ぐらい休みをとって案内します」と言うんです。日本では考えられないことですけれども。自分の仕事を早く済ませてしまったら、1週間ぐらい平気で休んでだれも文句言わないそうです。これは有給休暇の制度ある、なしに関係ないそうです。こういったところも、自分の仕事の分担がはっきりしている、個人の貢献度というのがはっきり見える、こうしたメリットは大きいなと感じるところです。


―お話を伺うと太田先生、日本ではなぜそれができないんだろうと思ってしまうんですけど。


太田:色々理由はあると思いますけれど仕事の分担をはっきりさせると、組合が文句を言うと。その仕事がなくなると、この会社に居場所がなくなるわけです。個人の分担をはっきりさせるということは、転職、移動がある程度自由にできなければむずかしい。ではそれがなぜできないかというと、これまでのように男性だけが働いて、一家を支えるというと、なかなか仕事を替わることは難しい。ほかに転職するとか、そういうリスクを負うことができない。

 ところが、北欧だとか、アメリカも最近はそうですし、中国などにしても、共働きは当り前です。ですから比較的転職のリスクを負いやすいということもあると思います。だんだん共働きが増えてくると、いい悪いは別にして、北欧モデルとか、欧米―アメリカモデルとか、そういったものに近づいていく可能性はあります。


(続く)


ききて:正田佐与(NPO法人企業内コーチ育成協会 代表理事)



神戸のコーチング講座 NPO法人企業内コーチ育成協会
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