8月5日に行われた「拡大版よのなかカフェ・日本人と仕事」公開対談の詳報を全5回でご紹介しています。


 北条勝利・ひょうご仕事と生活センター センター長と、太田肇・同志社大学政策学部教授(組織論)のビッグ対談。


 第4回は:


「拡大しない個人主義」―ヨーロッパモデルの人事制度、報・連・相


■日本は合わない米モデルを取り入れてきた―太田

■報・連・相次第では口蹄疫の再来も






(4)「拡大しない個人主義」―ヨーロッパモデルの人事制度、報・連・相

■日本は合わない米モデルを取り入れてきた―太田



―今のお話、いかがですかセンター長。多分組合のお立場からは、おありになるのではないかと思いますが(笑)


北条:あんまりないんです(笑)。労使の垣根を作るより、「この会社をいかに良くしていくか」そのことが雇用の安定につながることは間違いない。ただ今太田先生が言われたように、ここの会社に残ろうと思う時に1つの仕事だけしていたらいかんと。したがって多能工化ということをかなり早くから民間企業は、してきました。そのことは、だれかが休んでもあとの人間が入れるよと。これは、育児・介護問題含めて、しばらく抜けたって、だれかが替わりに入れる。これはお互いさまだろうと。仕事と生活の調和をとれるように、使用者側も働く側も意識を変えられるようにセンターは働きかけていきたいと思います。


―太田先生は、かねてから中国、ヨーロッパ、今年はシアトルなどに視察に行かれていますが、先ほど北欧のお話なども出ましたが、これから日本がお手本にしやすい、したらいいモデルというのはありますか。



太田:そうですね、すべてが、というわけではないんですが、これまで日本は、合わないモデル、特にマネジメントの手法というのはアメリカの人事システム、制度を取り入れるというのが普通だったと思います。特にアメリカのコンサルタントなんかは、同じような制度を日本に持ってこようとしています。ところがアメリカの人事制度というのは世界的にみると特殊ですし、私はむしろヨーロッパモデルのほうが日本に適するのではないかなという気がします。つまり、全てがお金で報いるとかですね、マネージャーと一般の従業員との間に天と地ほどの差があるとかですね、こうした報酬制度というのは、日本では受け入れにくいと思います。


 例えば北欧もですし、ドイツだとかオランダだとか、そういったところの働き方、人事制度というのは、日本とかなり共通するところがあります。ただ違うのは個人を大事にしているという。まあ個人主義というとアメリカ、というふうに思いますけれど、私はたとえ話としてこういう言い方ができると思います。アメリカの個人主義というのは拡大型の個人主義だったと思うんです。ところがヨーロッパの社会にしても個人の生活、働き方にしても、自分の領域をずーっと守っているというかですね、そんなに拡大もしないけれども、自分の生活を大事にしながら仕事をしている。そしてキャリアもついてくる。こういうモデルです。そちらの方が私は日本に馴染みやすいところがあるのではないかなと思います。


―個人の範囲を拡大はしないんだけれどもキャリアを積み重ねる。もう少し、よろしければ、どんなふうにイメージを持ったらいいんでしょう。


太田:はい。先ほども言いましたけれども転職がかなり一般的になります。ただその代りに、自分の職務と言うものを持っていますので、会社が替わっても人事の人は人事一本なんです。経理の人は経理ばかりやっていきます。ですからスキルが上達します。スキルが上達するので、報酬も増える。


 他方では、色々な労働法によって個人の権利というのは強く保証されています。また教育も保証されている。そういったところが私は学ぶところではないかな、と。


 特にこれから、労働力の質。知的な仕事というのは増えてきますので、そういう意味でも参考になるかなと思います。



■報・連・相次第では口蹄疫の再来も

―ありがとうございます。

 北条センター長、仕事と生活センター様として良くしていくための取り組みとして、どんなことをしていかれたいですか。


北条:これまで相談員の方々とともに、企業、組合、事業所の抱えている問題をきかしていただいて、それぞれの課題をどんなふうに手を差し伸べるか。おんなじようにはいかんと思いますから、しっかりと話を聴かせていただいて、という状況です。


 加えて中間管理職が職場の人とコミュニケーションが取れないと。職場でまったく下の情報が入ってこないと、こんなことでは企業は良くならないですね。すべてがスムーズに流れて、早く解決できるようにしていく、これが一番安心・安全な職場ではないかと思っていまして、そのお手伝いはまさに私どもセンターの主眼とするところでありまして。そのお手伝いは各企業で少しでも早く立ちあがっていただくように応援していってあげれば、というふうに思っております。


―力強いお言葉ありがとうございます。報・連・相についてはあとで太田先生にもお伺いしたいんですけれども、情報が止まってしまっているということ、先ごろの宮崎の口蹄疫問題、あれもまた報・連・相の問題なんじゃないかなと思います。あんな恐ろしいことが、起こってしまう。それが怖いですね。


北条:報・連・相については、私の昔いた新日鉄、製鉄に入社しました。その当時から、「報・連・相は職場のかけがえのない大事なことやぞ」ということを上司からもしっかり言われて、何かあったら一人で判断するな、報告せえ、相談せえと。それからすると当り前のことだ、当り前のことができてない、ちょっと寂しいねと感じております。


―太田先生は報・連・相ということについては、例えば岐阜の未来工業というところでは報・連・相はしなくていい、という主義でいらっしゃるんですね。あれはどういうことなんでしょうか。



太田:そうですね、これはまったく相談も報告もしなくていいという意味ではないと思うんです。ただ、報・連・相は要らないという会社も幾つかあちこちでありますね。それは報・連・相に頼り過ぎると自分で判断しない。何でも報・連・相すればいいんだと。責任を持とうとしない。それを戒める目的で、そういうことを言われるんだと思うんです。


 それについては、世界的に有名な代表的な企業がこういうことを言っていますね。仕事を与えられたら、仕事が始まったとき、仕事が終わったときに報告すればいい。それ以外は一切する必要はないと言われていると。このへんはやはり、仕事の分担、また先ほども申し上げた職務というものがはっきりしているという違いだと思いますね。


―なるほどですねー。今のご説明でわかりました。報・連・相がないというのはどういう世界なんだろうと思ってたんですけど、仕事の「自己所有感」という、終わったら報告すればいい。それまでの細かい報告は要らない。それとまたアクシデントの時の報告はまた別の話ですね。




(続く)


ききて:正田佐与(NPO法人企業内コーチ育成協会 代表理事)



神戸のコーチング講座 NPO法人企業内コーチ育成協会
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