震災で、各被災自治体の機能ダウンが伝えられる中、東電ーここは失態をとがめられなければならないのか、それとも冷却作業でみせた献身や粘り強さをたたえるべきなのかーや自衛隊、消防庁、といった組織の驚異的な活躍がメディアを賑わします。


 一方政府・民主党政権はいまだ非常事態宣言も出さず、買占めや物資不足を放置したとやり玉に上がりー、


 改めて「組織」そして「リーダー」の重要性を思うここ数日です。


 そんな中、酒井穣氏の新刊『リーダーシップでいちばん大切なこと』(日本能率協会マネジメントセンター)をよみました。


 
 ここでは、リーダーシップを「他人を巻き込む力」とは、定義していません。(ですから、当協会のいう「承認型コーチング」もすこし脇に置いてみなければなりません)


 むしろ、ゴッホなど生前にはまったく賛同者がいなかったが、死後に時間と空間を超えてリーダーシップを発揮した人を例に挙げながら、


「そもそもリーダーというのは、他人がなんと言おうと『孤独』を受け入れて、常に自分の価値観どおりに行動しようとする人々です」(p.20)


 と定義し、「自分の価値観を示す」ことをリーダーのもっとも重要な要件とします。


 そうした酒井氏の提唱するリーダーシップは、「マインド・フルネス(mindfullness)」によって獲得される、といいます。


 マインド・フルネスとは「思い込み」にとらわれたり、「なんとなく」生きることをせず、自分の人生にしっかりと参加し、「注意(attention)」によって自分と世界のありかたに敏感になり、自分がどうしたいのかという「意図(intention)」を自覚しながら生きることです。


 具体的には、自分の基本的情動ーこれには「喜び」「愛情」「興味」「悲しみ」「驚き」「恐怖」「嫌悪感」「罪悪感」「怒り」の9つがあるとされますーを、しっかりと感じること。二次的情動によってゆがめないこと。

 自分の基本的情動を客観的に観察(メタ認知)しながらも、基本的情動が示すところを尊重して物事を考えていくというのが、マインド・フルネスのスキルであり、これが自分のリーダーシップを獲得するために求められる最重要のスキルである、と酒井氏はいいます。



 おやおや。


 と思ったのは、れいによって我田引水気味で恐縮なのですが、当協会の「基礎コースC」2日間では、このマインド・フルネスとほとんど同じエクササイズを行います―基本的情動を9つではなく5つとするなど、微妙な違いはありますが。―経験者の方々は、ご存じでしょう。


 また、この「マインド・フルネス」とほぼ同じエクササイズの入った「基礎コースC・1日目」のプログラムを、「1日パーソナルトレーニング」として、エグゼクティブ・コーチングのお客様にマンツーマンで行ったこともあります。


 ―どの程度有効だったか定かではない―その当時(2か月ほど前)は、私は「なぜこれが有効か」を、十分に納得いくように説明するすべがなかった。ただ有効だという確信はあった―


 
 そうしますと、わたしどもの「企業内コーチ育成講座」の基礎コースABCは、リーダーの以前にマネージャーとして必要な「他者を巻き込む力」としての「承認」に始まって、最終的に「C」でリーダーシップの奥義を極める、という流れになっているといえるでしょう。


 なんと自分に都合の良い解釈。



 さて、本書に登場する若きリーダーたちの姿の爽やかなこと。


 いずれも、ビジネスパーソンとしての優秀さとともに、

「自分のやりたいことは何か」

「それは、本当に自分の人生を賭けてやるに値することか」

 を、「マインド・フルネス」に、考え突き詰めた人々です。



 著者の提示する「グローバル化」のもたらす未来像(第2部 リーダーシップなしには生きられない時代 2.グローバル化の行き着く先」)も、非常に頷かれるものです。わたしたちは、「くらい未来」を覚悟して引き受けなければなりませんし、スローライフを決め込んでいるといずれ時間の問題で淘汰されるのです。



 「首相のリーダーシップ不在」というよくある文脈で、「なんとなく」リーダーシップを語るばかりでなく、一度立ち止まって考えてみたい人には、とりわけ「自分ごと」としてリーダーシップを引き受けてみたい人、それから「リーダー育成」を考えたい人には、是非お勧めしたい本です。


 ただ、非常に重要なことを語っている本だからこそ、また質の高い思索に富んだ本だからこそあえて「一言」付け加えたいのは、


 「自分の思い通りに生きる」ことを強調するあまり、「組織に属すること」「良いフォロワーであろうと努力すること」を否定する方向に、曲解する人が出てしまったら、これは惜しい、と思うのです。(従来の「感情研修」「価値観研修」はどうもその方向に流れる傾向がありました。人の心がばらばらになることを奨励する危険性がありました)


 
 すべての人が「リーダー」であっても、わたしたちが生活のすみずみまで組織に依存して生きていることはまぬがれえません(インフラ組織がその好例でしょう)

 組織に属することを主体的に選ぶこと、またそこでは必要とされる役割を十二分に果たすことを通じて組織の理念実現に貢献すること、それもまた「リーダーシップ獲得」の結果もたらされる選択の一つだ、と考えたいのです。

 その結果「よりよい組織」―所属する人々がみずみずしい感性をもって課題解決に向けて行動でき、結果として問題解決能力が高く、社会への貢献度も高い組織がうまれることをしょうだは願っています。



神戸のコーチング講座 NPO法人企業内コーチ育成協会
http://c-c-a.jp