さて、正田は「ミドル」に対する教育ばかり強調してほかのことに関心がないのか、例えばもっと若い世代に対する教育は、ということもよくきかれるのですけれど。


 基本的に、小著『認めるミドルが会社を変える』の最後の章に書いたように、


「上には仁、下には勤勉」


という考え方でいいと思っていて。


 (「若い人には、『目の前のことを一生懸命やりなさい。また、もし上司がコーチだったら、それは非常に人間的努力を要することなので、感謝し尊敬してともに働きなさい』と言ってあげたいのです」)


 逆に職場の若い人、たとえば最若手から主任、係長クラスまでの層の人にコーチングを教えるのは、リスクが大きいと考えています。


 私の経験では、若いうちにコーチングを学んだ人は「人の言うことを聴けないのか!」「下の提案を採用しないのか!」という、いわば「ボトムアップ・ファッショ」的な考えに陥ることがよくある。みんなが、ではないけれどある一定比率の人が、です。それは当然、「ポピュリズム」につながります。


 どの時代でもトップダウンが正しいときもあればボトムアップが正しいときもあり、どちらがゆきすぎるのも「程度問題」であります。それを適正な「コモンセンス」で判断できるのはミドル層、主に40代くらいの層であろうと私は思います。


(残念ながら、うちのNPOに関するかぎり正田の「開発者ノリ」でトップダウンをしている場面は多いと思います。会員様方の温かいご理解に感謝するばかりです)


 この層の人(ミドルマネージャー)にコーチングを教えるのは、ほっといたらトップダウン一辺倒になりがちなマネジメントを適正なバランスに戻す意味合いがあると思います。


 若手のほうに話を戻すと、気の強い人ならポピュリズム的になりますし、より気の優しい人なら「自分は下の話を聴く、しかし上は自分の話を聴いてくれない」―「傾聴」の谷間に位置してしまうことになり、葛藤の大きさから鬱になる可能性もあります。


(定量的に語れる話ではありませんが、私はこの仕事に就いて10年間のうちに、あまりにも若いうちにコーチングに出会ったために離職した、あるいは鬱的になった人にたびたび出会ったように思います。)


 さきほど来「傾聴」ばかりをとりあげてきましたが、「承認」もまた然りで、「自分は下を承認するが、上は自分を承認してくれない」―「承認」の谷間にいるのも随分苦しいことだろうと思います。



 そこで、うちの協会的には「ミドルマネージャー」に承認を教えると、課長から係長へ、さらにその下へと無理なく「承認」が流通し、さらには「部長がオレを承認してくれない」という悩みも多少は出ますけれども、課長職に伴う独立性の高さ(これはその部署によるので一概にはいえませんが)である程度緩和される。自分の裁量で行使できる権限が大きい。また、上が承認してくれなくても、「下への承認」から成果というリターンが得られるのでそこそこ精神的充足感が得られる。


 …という考え方をしています。



 さらにより年齢層の上の人だとヒューマンスキル的なものへの学習能力の問題もあります。


 なので、極端にトップダウン的、あるいは非・承認的で活力のない企業風土を変えたい、という場合、ミドル層からの変革がもっとも効果が高い、という考え方をします。

 (現実にはうちの会員さんも「部長さん」「役員さん」は少なからずいらっしゃいます。そのポストにあっても、「ゼネラル・マネージャー職の中のミドルマネージャー性」のようなものに意識的である限り、質の高い仕事はできるのであろう、と思います)

 
 さて、延々と「なぜミドルに承認(あるいはコーチング)を教えるか」というお話をしてきましたが、例外もあります。


 業種によっては若いうちからマネージャー的にならざるを得ない職場もあります。介護・福祉職などは、人の異動が激しいためにそうなるようです。


 厳しい環境。その中で、年齢に似ぬ非常に成熟した反応をみせる受講生さんにも出会いました。



 以下にご紹介するのは、5月に実施した講座「基礎コースA」(傾聴、承認、質問)について、32歳の受講生さんが下さったご感想です。ご本人様のご了解により引用させていただきます。少し長いですが、今の時代の学ぶことを愛し、自分の仕事を愛し、感受性豊かで周囲の人への温かい心に溢れた1人の32歳の人の真摯な意識の掘り下げとして、お読みください。



2011年5月21日、22日開催
企業内コーチ育成協会主催 基礎コースAに参加して           H・Y

NPO法人企業内コーチ育成協会 正田佐与様

 先日は大変お世話になりました。大変有意義で密度の濃い2日間を過ごさせていただきました。ツイッター上で、「20連勤」とのこと。その2日間を私たちのためにお時間をいただけたことに感謝の気持ちでいっぱいです。
 研修のテーマであった、「承認」、「傾聴」、「質問」のそれぞれについて、丁寧にレクチャーをいただき、知識の再整理と新たな知識の獲得ができました。また、正田先生と他の受講生さんとともに学ぶことのできたこの場、この雰囲気、交流の中でたくさんの気付きがありました。個人的にはこの気付きが自身の学びになったと、そう思っています。

□承認はスキルではない
 明石ソーシャルワーカー事務所主催のセミナーの時にも感じていましたが、テクニックとしての承認ではないんだと、その理解を強めました。承認を意識した関わりを行おうとする私自身の価値観、人という存在の捉え方、関わるときに大切にしようとしていること、そういった根本的な部分がまず重要であると感じました。
 人格を磨く、高めることと承認のテクニックが組み合わさり、相乗効果を発揮するんだろうなと考えていました。

□知る→知っている→わかる→できるのギャップ
「知行合一」という言葉がありますが、その言葉をひしひしと感じていました。傾聴など普段の仕事で行っていることはできていたと思います。
一方でコーチングプロセスを一通り行ってみるワークではやりながら違和感を感じていました。普段やり慣れていないコミュニケーションスタイルを実行すると、自分の気持ちがそわそわする感じを持っていました。2日間の研修を通じて、わかったつもりでいましたが、このそわそわ感が証明するように、自分のものになっていない感じがありました。自分のものにしたい、自分のプラスにしたい、新しい自分の可能性を見たように思います。伸びる余地があるということでプラスに捉えていこうと思います。

□直感を信じていい、もう一歩踏み込んでいい
 コーチングプロセスを一通りやってみるワークでは、上記ともう一つ気付くことがありました。それは、『自分が感じた違和感はあながちズレていない』ということです。クライアントさんのビジョンについて、どうしてもすっきりしませんでした。そのことを感じていました。正田先生もそのことを感じておられたとのフィードバックがあり、このような気付きにつながりました。
 一方でノンアサーティブ、どちらかというと控えめなコミュニケーションスタイルがある自分にとって、違和感を解消するための行動につながりにくいということも感じていました。謙虚だったり、相手を立てたり、失礼のないようにという自分の価値観が影響しているようにも感じていました。

□「正しい」ことを大切にする私
 ソーシャルスタイルについて学んでいる中で、「正しさ」に価値を置いている自分に気付きました。世の中には絶対はない、完璧はないと頭ではわかっているつもりですが、価値観の部分では「正しさ」にこだわっているんだなーと感じていました。
 別に嫌だとは思いませんが、この価値観が時としてマイナスに作用する場合もあることを今回、改めて考える機会となりました。盲点があること(グラタンの工程やグラタンの背景にある想いは盲点でした・・・)ある種のファジーさ、許すことのできる姿勢にも焦点を当てていこうと思いました。

□だからこそ、承認
 (略)正田先生と出会い、承認について意識するようになっていること、何かの縁があるように思います。
 初めは自分が承認されない体験をして、どれだけ辛くて悔しかったか、自分がコミュニケーションをとるときには、そういう想いを相手にさせたくないとの思いでセミナーに参加しました。
 セミナー参加以来、承認を意識したコミュニケーションを行っています。初めは相手が心地よくなることが主眼でした。それが承認している自分も心地よくなっていることに気付き始めました。人の良いところ、頑張ったところ、強みに目が向くようになりました。そこを承認するととても嬉しそうなんです。その嬉しそうな顔を見ていると、こちらも嬉しくなってくるのです。承認には、相手にも自分にも良い影響を与えるものだと思っています。
 一方でどうしても承認し辛い場面もあります。自分の中の何かが邪魔をして、承認できないのです。レポートの序盤で書きましたが、「承認はスキルではない」という意味を強く感じています。自分の中の何か・・・、明確にはわからないのですが、許せない場面があるのです。
 だからこそ、承認。承認されることで、相手は嬉しくなったり、自信を持ったり、それが主体的な行動につながり、成長に向かっていったりする。自分にとっても、そんな人たちに囲まれて、日々心地よく、信頼を寄せられ、お互いに高めあう磁場で暮らすことができる。また、承認にこだわることで、自分自身の更なる高みを目指すヒントを見つけ出すことができる。承認するたびに、承認できない場面に出会うたびに、問われているように思います。
承認、コーチングスキルを使う私自身が、いつまでも問われ続けるのだと思います。
 
承認に出会えてよかった、そんな想いを抱いた2日間でした。本当にありがとうございました。




 
引用は以上です。ここまでお付き合いくださった方、ありがとうございます。ひょっとしたら講座を受講済みの会員さんや受講生さんにしか理解不能なご感想なのかもしれませんが…、


そしてH・Yさん、忙しい日々のお仕事の中、素晴らしいご感想をお寄せくださりありがとうございました。

(H・Yさんはこの感想文とともに、職場の人4人を対象に「承認」を実践してみた結果の、ずしっと重い宿題ファイルを添付してくださいました)

あえて、「承認の谷間」に生きることを引き受ける覚悟を示してくれた感のある感想文でした。




神戸のコーチング講座 NPO法人企業内コーチ育成協会
http://c-c-a.jp