同志社大学・太田肇教授(組織論)の最新刊『承認とモチベーション―【実証されたその効果】』(同文館出版)。


 「人の働く動機づけの最大のものは、『人から認められたい』という『承認欲求』である」という「承認論」を6年前に提唱した第一人者が、「認める」ことのモチベーションアップ効果を統計解析を用いて実証した本です。


 ここでは、「承認の5つの効果」として、


(1)組織のパフォーマンス向上
(2)モチベーション・アップ
(3)離職の抑制
(4)メンタル・ヘルスの向上
(5)不祥事の抑制


を、挙げています。


 これまでの「承認論」の集大成であるとともに、・公益企業A社・サービス業B社・派遣社員・看護師 を対象とした3年がかりの実証研究を付していることで、後世に残る研究とする、という著者の意欲を感じます。

 
 実証研究では、「承認」は同僚より上司から与えられると効果が大きいこと、具体的に行動や結果について言及して褒めるのが効果的なこと、また看護師のような専門職では、顧客からの感謝の言葉はそれほど大きなモチベーションアップにつながらず、むしろ上司から、専門性に言及した承認が効果を挙げたり、キャリアアップにつながることが必要なこと、など、これまで仮説として言われていたことが実証されて興味深いです。


 というわけで、やはり「上司」の存在は、大きそうです・・・


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 もう1冊、これは経営者協会の長尾さんからご紹介がありました。『「認められたい」の正体―承認不安の時代』(山竹伸二、講談社現代新書)。


 若者に広がる「承認不安」「承認欲望」―「承認欲求」でなく「承認欲望」という言葉を使っているところが、現代という時代によって増幅されたコントロール不能な欲望、という感じが出ています―


―かれらは「承認」次第で、よい方へもわるい方へも引きずられます。たとえば小さなサークルでの「承認」を受けるために、いじめに加担するようなことも―


 この本では、たとえば客観的によいことと思える「倫理的行為」も、「社会的承認」―すなわち身近な人や小さなサークルからの承認ではなく、より広い視野でだれからもよいと認められること―の産物だといいます。


 倫理という別枠があるわけではない、「承認」の1ジャンルなのです。


 たとえば東日本大震災における、募金運動やボランティア活動への若者や若手企業人の素早い立ち上がりは、それがだれからもよいことと認められる「社会的承認」を受けられる行為だから、迷わず動機づけられた、とみることができるでしょう。


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さて、このような現状分析があったうえで、処方箋としては、よくも悪くも「承認」によって動く彼らを「良い承認」で誘導してやることが必要だ、となるわけですが・・・、


 あえて難点を挙げるなら、とりわけ前者の本はそこまで守備範囲でない、といえるかもしれませんが、


 「良い承認」を与える主体である大人世代は、ではどういう教育、どういうトレーニングを受けるのが望ましいのか?また、これまでの大人になかったどのような意識の持ちようをすればよいのか?


 という視点が、残念ながらないのです。 いわば「承認」を与える主体である大人世代の顔が見えない。


 「相手が必要としているから、与えることが望ましい」

 ということを情報としてインプットするだけでは、人はおいそれと動けません。


 そういう情報だけであれば、ニヒリズムで受け止める反応も珍しくないのです。



 と、いうわけで、「企業には『どうやって褒めるか』のノウハウばかり溢れている」という蔭口を浴びつつ、「承認研修」はつづくのであります。



 「言ったことはいつか実現する」言霊信仰的なもので、あえてここに書いておきますと、

1人の中年世代の人が「承認する大人」に変化したとき、脳のはたらきかたはどう変わるのだろう?

 私には、それはきわめて大きな、有意義な変化であり、大人にふさわしい聡明さの獲得のように思えるのですが―、何かが伸び、そして何かを抑制することになるかもしれない。

 だれかそういうことに興味をもってくれる脳科学者はいないかなあ。


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 優しさや真摯さは、それにふさわしい報いを受けるとは限らない。

 それでもなお、人を愛しなさい。





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