さて、1つ前の記事で「承認中心のコーチングをしていますので・・・」というセリフが出てきて、


 長年、このブログを愛読してくださる方は「またか」と思うだろうし、当協会以外のコーチングに詳しくない方は


「なんで、そのことをそんなに強調するの?」


と思うかもしれないけれど、


「承認中心のコーチング」は、実はわが国のコーチングとしては主流ではない。


 どちらかというと、「選択理論系のコーチング」というのが主流で、よく大企業などに入っている。


 選択理論とは、「人は自ら行動を選択することでモチベーションが上がる」というもので、確かに自己決定・自己選択すると、快楽物質のドーパミンが出るらしい。


 これを重視するコーチングでは、「承認」よりも「質問」を重視する。「あなたはどうしたい?」と尋ね、相手に選択させる。


 選択理論の講師の方の論法では、上司は部下に「教える」ことは大してできない、自ら学習させることはできる、というのだ。最近流行りのOJE(On the job experience)もこの考え方だろうと思う。


 ところで、これは当然、「部下は上司からの教えを受け付けないものだ」というペシミズムにつながる。OJTはもはや有効ではない、というものである。


 当協会方式のコーチングというのは、

 ―ここまで書いていて、なんだか「コップの中の嵐」のようで馬鹿馬鹿しい気がするが―

 それに対して、「行動理論系」のコーチングと言ってもいい。

 「行動理論」は小さなプラスの行動を褒めて伸ばす「オペラント条件づけ」と、人の行動をまねる「モデリング(模倣学習)」を中心とする。だから、上司は部下に良い手本を示す必要があるし、部下に対してスモール・ステップを設定して教え、ステップをクリアするごとに褒めてやると伸びが速い。


 こちらも、「人は褒められたらドーパミンが出る」ことは脳科学で裏付けられている。

 それに加えて、おそらく褒められたり認められたり、手本を示されたりした結果、その後プラスの行動を自ら選択してとる際にもドーパミンが出るのではないだろうか。

 ―つまり「一粒で二度美味しい」ことになると思うのだが―、


 こちらは、従来のOJTと非常に相性が良い。

 そしてまた、「野中経営学」で言う「徒弟制」とも相性が良い。(このブログに過去に何度か野中郁次郎氏が出てきていることをご存知の方も多いと思う)


 どちらかというと、やはりこちらをメインに、「行動理論8」:「選択理論2」ぐらいに使ったほうが、企業内のコーチングは高い成果が出るのではないだろうか。厳密にデータをとって比べたことはないけれど。



 「承認がモチベーションアップに結びつく」ということは、太田肇教授が近著の中でしっかりデータをとって実証している。専門性の高い職種では、お客様からよりも専門性を理解している上司からの承認の言葉の方が有効だ、ということまで出ている。

 また行動理論のオペラント条件付けで特定の作業の成功率が高まることは、前世紀から繰り返し心理実験で確かめられている。「モチベーション」だけでなく、「パフォーマンス」が良くなる、ということである。



 一方、

「君はどうしたい?」


 は、場面によっては有効だけれど、場面によっては非常に冷たく響くものだ。メンタルを多少なりとも害している人には使えない。もちろん、その分野の知識のまったくない人にも使えない。


「人は独自の選択をしたいものだ」

 という考え方をあまり金科玉条にすると、上司―部下や、チーム全員が

「一体感を持って一致団結して頑張る」

など、そもそもあり得ないことになってしまう。人と人が共感し合ってともに何かをするということがあり得ない。そこには、「理念を語り、共感してもらう」プロセスなども入り込む余地がない。


―意地の悪い言い方をすると、「選択理論」をもっとも好む人は、「反抗期の子ども」かもしれないのだ―


 そして、仕事は21世紀の今日であっても、クリエイティブな場面よりは雑用のほうが8割から9割を占めているのだ。


 以前内田樹氏が『下流志向』で述べた、「キャリアキャリアと言う人は雑用をしたがらない」―それと同様に、「独自の選択」をしたがる人も、雑用をしたがらない。


 だから、幸いにして「選択理論コーチング」は、研修を行ってもあまり「落ちない」し「実践されない」ことが多いようだけれど、もし実践されたらむしろそれは大変に困ったことになるのだ。


 
 ・・・と、当協会で学ばれた方であればすでに常識のことを、もう一度こねくりまわしてみました。


「選択理論コーチング」が説得力を持ちやすいのは、研修講師、コンサルタントと、若手人事担当者らである。彼らは、ひょっとしたら独立性の高い仕事をしているので、自分の旧上司や現上司に対する反発心が強く、それで「自分は上司から教えられたおぼえはない」という感覚から、「選択理論」のほうに共感するのではないか、と、また意地の悪い勘繰りをしてみたくなるのです。



神戸のコーチング講座 NPO法人企業内コーチ育成協会
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