6日夜、第29回よのなかカフェ「日本はスウェーデンを目指すべきか?福祉編」を三宮のカフェ「アロアロ」にて開催しました。


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 スウェーデン人福祉研究者、エルス=マリー・アンベッケン女史(関西学院大学人間福祉学部教授)をお招きしてトーク。兵庫を中心に大阪、和歌山からも意識の高い方12名が集まりました。


 最初に参加者の方々から「本日の期待」を語っていただきました。福祉関係者、キャリアカウンセラー、公務員、高校生、大学生など様々な業種の方が、

「日本の福祉ってどう?」
「スウェーデン高負担、高福祉を日本に導入したらどんなことが起こる?」
「人生、生活の質、生きやすさをスウェーデン人はどう考える?」
「蘇生教育」
「障碍者雇用」
「ターミナルケア」
「男女共同参画」
「政治への信頼」

など、実に多岐にわたる興味関心を披露してくださいました。

 スウェーデンに旅行経験、留学経験のある方、留学準備中の方も少なくなく。

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 これに応える形で、アンベッケン女史から概観のお話―。

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「私は今関西学院大学で教えています。日本生まれです。親が宣教師でした。高校からスウェーデンへ。夫が福祉のマネジメントをしている関係で日本からスウェーデンの福祉に興味を持った人が来た時の通訳をしていた。日本人は何故スウェーデンにあこがれているのかと思いました。それで日本の福祉に関する論文を書きました。 

 スウェーデンは高福祉高負担。収入から3割が税金に取られる。収入が高いと50%まで取られることも。全て市の税金。コントロールできる感覚があります。税金は嬉しいとは思わないけど、払っている分貰います。小学校から大学までは授業料は全額補助で、両親の負担コストがありません。困っている人のための福祉ではない。だれでも人生のコースのどこかで福祉の恩恵を受ける。だから、スウェーデン人自身は自分たちを福祉国家とは思っていないと思います。普通のものだから。これだけ税金払っているから補助ももらっていいじゃないという感覚です。逆にもらえなかったら怒ります。

 福祉のベースは1930年代に少子化問題に直面した。高齢者7%以上。その時、女性の進出をある政府内のパワフルな夫婦が訴えたのです。共働きすることで税金が増え、国をサポートするという考え。与野党あって負担についてもつねに議論になってきましたが、それほど政策に差はありません。

 スウェーデンでは政府の透明性が高いので、失敗したらすぐに見つけ対処します。日本のように何か問題があったときにすぐに政治家の犯人探しをするようなことはありません。その人の属する政党に問題があれば、政党を替えることはある。でもその人をやめさせることはしません。

 社会でも家庭でもバランスを大切にします。日本では「お母さんの子育て」と普通に言いますが、私にとっては不思議。スウェーデンではこの言葉はダメ。お父さんもお母さんも一緒にするので、親の子育てと言う。ミックスがいいという考え方。仕事場は損しない。育児休暇は年に2カ月採れる、父母ともに。取るのが当たり前 。

 日本もスウェーデンも勤勉というところは一緒です。だけど、スウェーデン人は時間になったら帰る。早く仕事終われば帰っていい。要は仕事をしたかどうか。責任分担がはっきりしている。育児休暇という言葉はスウェーデンでは親子権という言葉になる。 

 個人主義の国だが、家族のつながりが強い。ライフコースを見ると、お互いにサポートしあう。離婚しても運動会は子供のために新しい相手が出来ても二人で行く。それぐらい、スウェーデン人にとって家族の絆というのは特別なものです。

 15年前がスウェーデン経済の黄金期で、財政状態がもっとも良好でした。今は落ちているその時にどうするか、どんな福祉をするか。これも興味深いことです。人員が減り1対1のケアはできない。民間委託も増えている。

 仕事の年金、ベースの年金以外にプライベートの年金を作る人も増えている。ターミナルケアは日本では8割が病院で亡くなるが、スウェーデンでは40%。施設は生と死の場所。緩和ケアもテーマになってきている。

 もう一つのテーマは家族のサポート。いくら福祉国家でも家族の役割がある。数年前は、日本で「家族の役割」の話をしたら、「いや、国家の役割の話をしてください」とリクエストされたりしたものですが―。家族と楽しい時間を過ごすことは一番大事。サンドイッチトウーマンという言葉がある。中年期、子育てと親のケアの板挟みになること。10年前からもっとケアサポートしている人のサポートをしましょう問う制度ああります。仕事はターミナルケアのために60日間休むことが出来る。市町村によって福祉も違う。」


 ここまで一気にアンベッケン女史の語りでしたが、参加者の皆さんの問題意識に応えるよう努めながら話題を選んで話してくださったのがうかがわれました。


 ここから参加者とアンベッケン女史のトークというか質疑―。


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問い:「質的平等』という考え方について、もう少し詳しくうかがいたい。


アンベッケン女史:もし男性が育児休暇を取ったら、結果的に公務員としていい仕事ができるようになります。違った視点でいろんな視点で活躍出来る。スウェーデンにも一時期はフェミニズムとか、闘いの時代がありましたが、基本的にはハーモニー。娘の家庭は、パパが育児休暇取った日は完全に任せます。

違う見方を提供することが大事。両方ともに。日本でも女性は仕事するが、すごく頑張らないとダメ。お茶くみとかもありますね。スウェーデンの大学では教授が自分でお茶を入れるとか、教授も事務員も一緒にお茶を入れる、というように、上下関係もフラット。親のケア、子育てをするサンドイッチウーマンという言葉がありましたがサンドイッチマンという言葉もある。お互いがシェアして話し合って、お互いの負担を考える。

問い 日本では制度があるのにつかわれていなかったりする。介護になると会社に言いづらいという気質、恥ずかしいというところがある。制度利用の抵抗はない? 

アンベッケン女史:7週間の育児休暇の休みを皆当たり前のようにとる。組合も強いし、労働条件から入っているところはある。日本で制度を新しく導入した場合は、誰かリーダーがとらないといけないでしょうね。スウェーデンの大学では『子供が小さい時は来なくていい。後でもっと一生懸命働いてくれればいい』という言葉を上が言ってくれる。

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問い 働くことの考え方が違うのかなという印象を受けた。日本では仕事をやりきらないとクレームが来る。むしろ残業に追い込まれる。働かされてるという意識があるのかも。日本ではワークライフバランスの、ライフの比率が小さい。 


アンベッケン女史 日本もスウェーデンも仕事を大事にし、その人のアイデンティティにも関ります。日本では働かないと評価されない。スウェーデンでもバーンアウトという言葉がある。そうならないように残業をしない。仕事も大切だが、そのあとにも責任があります。今日は子供と約束があるから、子どもとの約束をとります、別の日には仕事も選ぶというバランス感覚があります。


問い 障碍者の賃金は1万3000円。障碍者2万人を雇用する国営企業「サムハル」の仕組みは。

アンベッケン先生 サムハルは障碍者を受け容れてワークトレーニングして企業に送り込む。私も以前にサムハルを見学し、非常にいいことをやっています。しかしそれ以外の障碍者の人たちはスウェーデンでも問題。重い障害持っている人は年金をもらえるが、仕事をして得るお金が少ない。 

問い 日本には人形を使った心肺蘇生法がある。若い人から参加できるようにというプロジェクトがあるが。

アンベッケン先生 若い人が福祉に参加する意識は日本の方が高い気がしますね。日本はNPOが多い。スウェーデンはボランティア。日本は身体、病気のことをよく気にする。メディカルアンスロポロジスト(医療文化人類学者)によると、日本人の方が健康に対する意識が高く、医師にかかる回数は、日本人は年に12,3回。一方スウェーデンには先進的医療がありますが、スウェーデン人が医師にかかるのは年に2回。日本は医療の安全保障の意識が強い。スウェーデン人は「病気になっても自然に治るよ」という意識。AEDなどはスウェーデンが日本から学ぶべきだろうと思う。

問い 日本人とスウェーデン人の高齢者の違いは。

アンベッケン先生 肥りすぎないという意識は日本人の方が強い。山登りする高齢者なども、日本人の方が多いかも。スウェーデンは冬が長いから我慢強いかも。最近の新聞記事で、ギリシアとスウェーデンの比較調査がありました。子供と同居か否かでは、スウェーデン人の方がギリシャ人より同居率が低いのですが、スウェーデン人は孤立感感じる人4%しかいなかった。同居率の高いギリシャ人の方が孤立感が高かった。スウェーデン人は自分で頑張るという意識が強い。 

 それは、住宅にエレベーターを入れるとか、町づくりでも道路に段差をなくすとか、高齢者が長く家に住み続けられる政策を進めてきた。一人でも大丈夫なように。日本では困るところが多いのでは。バリアフリーとか。 

問い エレベーターの整備も市が補助してくれる?

アンベッケン女史 市が負担する。 

問い 学校のシステム。国民高等学校がある。社会からリタイアした若い人が社会復帰できる学校があると訊いた。

アンベッケン女史 寮生活をしながら、生涯教育できる学校がある。デンマークにもある。高校のときに何も勉強せずにあとから勉強したいときに行くこともできますし、大人になって失業して新しい勉強をする人も行きます。また移民・難民を受け入れているので、そういう人達が行くことも多いです日本のように高校、大学、そして社会に出るというエスカレーター式のレールはない。そういう学校も奨学金、学生ローンの対象になるので。

問い 日本の福祉ってどうなんだろう。日本の介護施設の良さはある? 

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アンベッケン女史 ここ20年で日本も変わった。施設に対するマイナスイメージは変わってきた。介護福祉職の専門性が評価されるようになってきた。スウェーデンは、大学を卒業すればソーシャルワーカーとして働ける。ソーシャルワーカーは日本では現場の福祉の中にいるがスウェーデンは管理者。ケアの現場は高校卒の人が担い手になる。高校は16の専攻があるカレッジスタイル。 

 介護従事者でいうと、大学に行っている人の方が収入が高く、そうでない人は安い。現場のケアワーカーは、やはりキャリアとしてずっと続く人が少ないので、スウェーデンにとってもこの点はチャレンジです。施設長になっているSWのリーダーシップにより、スタッフにやる気を持たせることができます。

 日本のケアスタッフの方が高齢者の利用者との関係が親しくなりますね。スウェーデンも日本のケアから学ぶべきことがあります。ハード面はスウェーデンがいい面があるし、ソフト面は共通の課題を抱えています。比較するのではなく、お互いから学び合うことがいいと思います。こういうやり方、文化もある、と。それが良い福祉になる。 

 日本では施設で亡くなる人が3%、病院が8割。スウェーデン人は高齢者は子どもに自分の世話をしてほしくない。尊厳が強い。高齢者のケアについては日本のように介護休暇は多くない。 

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問い:政府に対する信頼感の違いは。

アンベッケン女史 例えば貧困層のローン制度は日本でできるかという問いを日本の学生に聞くと、「違うことに使ってしまうのでは」と答える。スウェーデンではマイナスのところをみない。信頼がある。「2割ぐらい悪いことをする人はいるだろうが8割はいい人、本来の趣旨に使う」と考え、不正にはそれに応じた対策をとればいい、と考える。子ども手当の時も、日本では不正申請をして沢山もらう人が出る心配をする人が多かったですが、それはごく一部だとみな知っています。

 政治家にももし問題があれば私たちは電話できます。誰とでも普通の人が話しできる関係性がある。 スウェーデンの政治家は子育てで悩んでいるし身近、誰も完璧でない。スウェーデンの政府内の人は45−55歳が多く、男性、女性どちらもいて、国民との距離が近いのです。逆にその中に高齢者は少ない、という問題はあります。


 スウェーデン人の政治参加の意識は高いです。投票率は80-90%。市町村と国で別の政党に投票することもあります。18歳になったら選挙に行くのが当たり前。高校の時から模擬選挙のシミュレーションをします。投票率が80%に落ちて大騒ぎした。

 スウェーデン人の人口は少ないが、移民政策でもめている、これほど受け入れていいのか、と。マジョリティは受け入れるべきだといっている。税金払ってサービスがあるというのが普通だと思っている。日本で増税に反対するのかわからない。透明性がないからでしょうか。

 スウェーデンは子ども手当を入れるとき、所得制限をもうけるべきか議論はあったが、皆等しく給付されることになった。親への金ではなく子どものお金だと考え、中学生、高校生になったら、そのまま子どもに渡し、自由に使わせる親も多いです。

 つねに議論する。議論することが透明性につながる。

問い 男女共同参画、日本では男性、とりわけ年配男性が抵抗勢力になっているがスウェーデンではどう? 

アンベッケン女史 今の100歳くらいの世代には「男子厨房に入らず」という意識はありました。そういう保守的な意識はスウェーデンにもあったんですよ。でも今の世代ですとパーソナリティで家事がどちらが好き、きらいがある。男性、女性のものという意識がない。どちらにもプラスになるという事。


 スウェーデンの統計はすべてジェンダー(男女別)で出すよう決められています。それをみてその項目についての男女共同参画に適、不適がわかる。教育も大事ですね、学校の教科書を見て作家が女性、男性がどちらが多いか考える。男性ばかり多い職場には、採用の時に男性、女性同じ成績なら女性を優先して採用するということをします。逆に女性の多い仕事だったら男性を採用するというところもある。国民性日本もスウェーデン似ている。シャイなところ。 


(参加者より)年配男性は今のスタイルを保ちたいという気持ちが強く、「労働力が少ない現状をどうするか」という議論を正面からしようという雰囲気になりにくいですね。

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問い 日本の地方でスウェーデンに一番近いのはどこだと思われますか?

アンベッケン女史 うーん、考えたことはない。気候で言うと北海道かな?

(質問者より)私は富山県が近いと思います。男女ともよく働く。家、自動車以外にあまりお金を使わない。化粧品など嗜好品のマーケティングで、富山で売れれば成功間違いないと言われます。


アンベッケン女史 なるほど、グローバル化の中で地方同士の相似性もテーマとして浮上しますね。スウェーデンは家庭が大事。自分の家で時間を使う。週末はいつも誰かとまっていた。マイホーム。早く家に帰りたい。それにくらべると日本では家より外食、レストランがかっこいいという意識。

(正田注:「巣ごもり消費」っていうのは実はスウェーデン化してるのかな?)


・・・


 ここまで2時間、アンベッケン女史はノンストップで皆さんの質問に答えて日本語で話し続けられました。

 最後には参加者の皆さんより大きな拍手―。


 正田より、

「常に議論する、透明性が保たれる、それが信頼につながる、というお話がありました。私たちも議論する文化を学びたいですね」



 実に密度の濃い回でした。お忙しい中、我儘なお願いに応えて出席してくださったアンベッケン女史に感謝申し上げます。また、意識高く参加してくださった皆様、ハードな書記役を務めてくださった山口裕史さん、カメラウーマンも板についてきた山口元子さん、そしてアロアロさんにもお礼申し上げます。


 今後のよのなかカフェは:


11月2日(水)「間違った就活、してませんか?」

12月11日(日)「英語落語家と語ろう!英語DE今年の十大ニュース2011」


 いずれも会場は同じアロアロで行います。



神戸のコーチング講座 NPO法人企業内コーチ育成協会
http://c-c-a.jp