◆講評
太田 肇(おおた・はじめ)氏 
(1954年兵庫県但東町生まれ。同志社大学政策学部教授、組織論。人の働く動機づけの最大のものは「他者から認められたい」という「承認欲求」であるという「承認論」を世界で初めて提唱、現在この論はスタンダードになっている。NPO法人企業内コーチ育成協会顧問)

2011年10月10日
 上司部門、部下部門とも大賞、準大賞に選ばれた事例は、「承認」の模範例と
いっても言い過ぎではないほどレベルが高い。具体的な評価は「選考理由」に詳
しく述べられていて、私もそれに同感である。
 上司部門の大賞に選ばれた事例では、「訊く」というコミュニケーションの
きっかけ作りに最適な方法をうまく取り入れている。最近は新入社員など若い部
下とのコミュニケーションの取り方に悩んでいる人が多いが、これならどこの職
場でも実践できるだろう。しかも、部下から訊かれることで上司自身も承認さ
れ、相互承認の関係を築くことができる。
 上司部門準大賞の事例も、それに劣らず優れた実践例である。プロフェッショ
ナルやモチベーションの高い部下、成熟度の高い人に対してはピッタリの一言で
ある。大賞の事例とは対照的な接し方だが、いずれも「承認している」という
メッセージがしっかりと伝わる。このように、部下のモチベーションの水準、精
神的な成熟度などに応じて望ましい承認のしかたも違ってくる。
 部下部門大賞の事例は、いわば「承認の達人」による一言が、いかに部下のや
る気や働きがいを引きだすかを象徴的に表すエピソードである。減点主義によっ
て部下を萎縮させるのではなく、ミスをしても必要以上に責めず、長所を認める
ことには、挑戦意欲を持続させるばかりか、失敗を心から反省させる効果もあ
る。また「戻ってきて」というのは信頼の表れであり、心からの承認と言える。
 部下部門準大賞の「社内MVPをとろう」というのも簡明直截でわかりやすい
メッセージだ。
 承認は、する側とされる側の心の交流であり、決まったパターンをいつでも使
えるわけではない。今回授賞された事例では、相手の心をつかんだ絶妙な承認の
一言が発せられており、背後には日ごろ育まれた人間関係や部下への鋭い洞察が
あったものと想像される。(了)


神戸のコーチング講座 NPO法人企業内コーチ育成協会
http://c-c-a.jp