フェイスブック上の畏友、瓜生原葉子さん。製薬会社勤務中、移植医療に必要な免疫抑制剤の開発に携わったことをきっかけに、移植医療の普及に取り組むように。

 神戸に在住の同世代の聡明な女性です。


 その瓜生原さんの力作、『医療の組織イノベーション プロフェッショナリズムが移植医療を動かす』(中央経済社)を、年末のお約束を果たしてやっと読むことができました。


「移植」を題材にしていますが、結論部分は目からウロコ。どんな種類の「プロ」にも、当てはまるお話かもしれません。


 本書によると、世界でもっとも臓器提供者数の多い国はスペインで、2010年に人口百万人当たり34.7人。対するわが国は同0.9人。

 今も年間4000人ほどの移植適応の患者が心臓や肝臓の移植を受けられずに亡くなり、
また一時期盛んに行われた海外での移植の道も絶たれ(2008年「臓器取引と移植ツーリズムに関するイスタンブール宣言」)、日本国内での臓器提供を増やさざるを得ない状況にあります。


 
・・・なんて、ご都合主義のようですが、「生きたい」あるいは「わが子を生かしてやりたい」という切なる願いのもとに海外渡航する人たち、またそれを見る現地諸国の視線が年々冷たくなっていた状況、は、当事者の切実さと裏腹に近年あまり報道されなくなっていただけで、本当はかけがえのない「人の命」に関する問題なのです。
 日本では「他人の臓器をあてにする」一見ご都合主義的な姿ばかりがクローズアップされ誤解を生んできたように思います。



 本書では、欧州23か国に質問紙を配布し臓器提供増の取り組みについて尋ねています。

 臓器提供者数を増やすことは欧州各国で国家戦略として取り組まれ、中でもカギを握るのはドナー病院に常駐する院内移植コーディネーター(院内Co.)の存在。


 この人たちが、ドナー家族への手厚いグリーフケアとともに臓器提供を意思表示してもらうことができるかどうかがカギを握ることになります。


 なので院内Co.のトレーニングをし、この人たちがいかに高いレベルの仕事をするか、いわば院内Co.のプロフェッショナリズムが本書の後半の主題です。


 本書は先行研究を丁寧に踏まえながら、まずプロフェッションとは、

…拘間の教育訓練による体系的な知識・技術を習得している。
∪賁膺Χ判乎弔存在している。
N冤規定が確立している。
だ賁臉が保証されている

と定義。


 そしてプロフェッショナリズムの5つの次元を

.廛蹈侫Д奪轡腑淵訌反イ鮗分の行動規範としている。(The use of the professional organization as a major reference)
公職であるとの信念(A belief in service to the public)
自己規制の信念(Belief in self regulation)
だ賁臺野での召命感(A sense of calling to the field)―「天に呼ばれている」みたいな感じだろうか
ゼ律性(Autonomy)

とします。


 これを院内Co.の場合にあてはめると、この5次元が
‖遽枩の追求(Pursuit of excellence)
⊆己規制(Self-regulation)
職務への献身(Devotion to the job)
だ嫐(Responsibility)
ゼ匆馘責任(Social responsibility)

になります。


 さて、こうしたプロフェッショナリズムを「育てる」要素とは、移植コーディネーターの場合、なにか。


 分析の結果、
・(臓器提供者数を増やそうという)国家方針の浸透
・自律性
・結果のフィードバック
・医療スタッフへの教育
・同僚からの承認

などが、有意な正の相関を示しました。
 
 ・・・でた、承認。


 そしてわが日本での現状はというと、
他の諸国と比べて、
成果変数である・臓器提供率、・家族からの提供承諾率、・職務満足度、・職務への誇り、
すべてにおいて、統計学的有意に低い結果。

 「卓越性の追求の醸成」つまりプロ精神を育てるような組織の諸施策に関しては、
・国家方針の浸透
・結果のフィードバック
・医療スタッフへの教育
・同僚からの承認
 
 いずれも、他の国々より低い結果。

 ただ、学会への参加、継続教育の機会といった外的要因は高いのです。

 
 「レベルの高いプロのコーディネーター」を育てるのに今後必要なのは、仕事結果のフィードバックや同僚からの承認といった、人間臭い病院組織内の取り組みであるといえそうです。


「院内Co.は病院内で元々の職務と兼業しているが、・・・その職務を全うしようとすると、周囲に負荷をかけてしまうことがある。いつも同僚に負い目を感じて活動している場合が多いため、一般社会にではなく、まず、同僚から認めてもらいたいという気持ちが強い。したがって、組織がその機会をつくり、人を認め合う組織文化を醸成することは大変重要である」(p.259、太字正田)


「一般的に、医療専門職のプロフェッショナリズムを醸成するための要件として教育機会が挙げられる。もちろんこれは必須の施策ではあるが、プロフェッショナル達は、より内的なものを求めており、特に自分の仕事結果や価値を同僚から認めて欲しい(承認:recognition)と望んでいることが明らかとなった。実際、周囲から認められていると感じるほど、高いプロフェッショナリズムを維持できていた。」(p.279、同)


 そう・・・ここにも出てくる、「認められたい」人々の姿。それは決して「未熟な自我、自己愛による承認欲求」といった子どもっぽいものではなく、人の命を救う専門職に献身的に打ち込み、より高い仕事を目指すからこそ「認められる」ことを糧としたい、というピュアなベクトルであります。


 看護職における「承認」の研究としては太田肇『承認とモチベーション』(2011年)があります。ここでは、同僚からだけでなく、専門職の専門性を熟知している「上司」からの承認の重要性が挙げられていました。(院内Co.の場合院内に同業の上司がいないかもしれません)


 
 わたしたちがより良い仕事をするために。そして良い仕事の結果人の世の喜びがより増えるように。


 そろそろ、「承認」に大きな一歩を踏み出しませんか。


 
 瓜生原氏の骨太の労作をたたえつつ。



神戸のコーチング講座 NPO法人企業内コーチ育成協会
http://c-c-a.jp