続いて3月27日は、(株)ラーンウェル代表取締役で研修講師にして、東大大学院にて企業内教育を研究する関根雅泰(まさひろ)さんが主催された、

『新人教育をアカデミックに語ろう!会〜「組織社会化」の知見と最新の「OJT調査」結果を基に〜』

という勉強会に参加しました。


 目下各企業で新入社員研修を受けているであろう新人さんたち。その人たちが組織に「なじむ/適応する」ことを、アカデミックには「組織社会化」とよぶのだそうです。


 さて、その「組織社会化」、どのような諸相があるのでしょうか。

 関根さんからいただいたご案内のメールから引用させていただくと:


例えば、先行研究では、以下のようなことが明らかになっています。

-------------------------------------------------------

●導入研修

・新人が公式な導入研修を「役立つ」ものと受け止めると、
 彼らの組織コミットメントが高まることが明らかになった。
 新人は効果的な研修を受けると、会社が自分たちに投資し、
 自分たちをケアしてくれていると感じる。(Tannenbaum et al. 1991)

・新人が十分な量の研修があると受け止めると、それは研修の有用性に
 つながり、この量と有用性は仕事上の結果(職務満足、コミットメント、
 離職意思、職務パフォーマンス)にも関連していたことが明らかにされている。
 実際の研修時間よりも、新人の主観的な受け止め方(本人にとって
 十分な研修量)の方が重要であった。(Saks 1996)

●配属後

・入社後最初の幻滅経験と仮定された不本意な配属は、その時点では
 幻滅経験となりえても、入社1年半後の適応状態には影響を及ぼさなかった。
 入社1 年半後の適応感には、上司のかかわりが大きく影響を及ぼしていた。
 (大庭・藤原2008)

・入社8 カ月間に人間関係面と職務面において、幻滅を経験した新入社員が多く、
 先輩社員に対するイメージの悪化と、職務上の幻滅に関係があると推察される。
 幻滅への対応としては、上司との間の高い交換関係を成立させること、
 新入社員の期待を下げること、先輩社員にモデルとなってもらうこと、
 があげられる。(佐々木 1993)

●フォロー研修

・9 ヶ月目の新人の心理的苦痛は、オフサイト研修とビジネス旅行が無い場合、
 高まっていた。オフサイト研修やビジネス旅行により、定期的に職場から
 離れさせることは、新人の心理的苦痛を和らげる。(Nelson & Quick 1991)

-------------------------------------------------------



こうした「呼び水」の知識だけでも、大いにそそられるではありませんか。


勉強会では、

・組織社会化の定義
・組織側の施策【教育】
・上司の影響力
・先輩の支援
・新人の活動
・新人による影響

を順に取り上げ、さまざまな知見の紹介がありました。

9時半から12時まで、2時間半の間に非常に多くの知識群をめまぐるしく追った勉強会でしたが、つめこみ感がなかったのは、集まった人々が人材育成担当者、研修講師などかなりの予備知識のある人々で、かつ合間合間に感想や知識経験のシェアの時間があり、インプットとアウトプットのバランスがとれていたからでしょうか。


余談。
正田の研修は「技能講習」みたいなものなので、こんなに沢山の知識を一度にご紹介するということはありません、残念ながら。

その代り、言い訳めきますがご興味のある方は過去のブログをざっと読んでいただければ、こういったもろもろの知見を下敷きにこの研修コンテンツはつくられているのだ、と理解していただけることと思います。



閑話休題、
この席上、参加者の注目を集めたのは新人研修の中の「厳しい研修」が組織社会化に有効、というくだり。「T」という食品メーカーの「厳しい研修」が神戸大の先生の研究として紹介された。社長が研修に強くコミットし、全社でそれを見守るムードがあるという。(ネットでみるとかなり「体育会系」で残業の多い会社のようだ。女性も多いが仕事と家庭との両立が難しく定着率は良くないという。大学の先生が研究する題材としていいんだろうか・・・)


このほか心に残ったフレーズが多々あったのでシェアしたいと思います。


・(新人)研修が有効か否かは、そこで何が伝えられるかが重要であり、その一つとして、組織の全体像とともにキャリアパスのあり方を明示するということは、組織社会化の進展に一定の効果があると推測される。

・不況期には、(組織内発達支援の)関係を築こうとする努力を支援しないような状況がしばしば出現する。そのような時期こそ、仕事の保証や将来のキャリアへの不確実性から個人のストレスや不安が増大する。それらを解消する方法を見つけるうえで発達支援的関係は主要な支援源となりうる。その結果、効果的に仕事が続けられるのである。

・組織社会化において学習を進展させるには、やはり内部者との社会的相互作用のあり方が重要であるということが示唆された。
・まず一人前の成員へと成長を促すこと、そのためには個々の特性を尊重しながら有能な内部者によるOJTが、間接的ではあるが有効。


「OJT」がでてきたので私は大いにひっかかり、
というのは決してOJT反対じゃなくむしろ大いに賛成なのだけれど、
このところの
「OJTの時代は終わった、今からはOJE(オンザジョブエクスペリエンス)だ、経験からの学びだ」
という一部に流布する言説(詭弁)のせいでOJTがぞんざいな扱いを受け、どんなに迷惑しているか、ということをシェアの時間に東京の方々のまえで力説してしまったのでした。この日集まったご同席の方々はそんな詭弁を信じない良識ある人達だったので幸いでした。神戸の企業の人はよく東京のコンサル会社にだまされてるよ。


・能力の自己評価に強い影響をもたらしているのが、最初の3年間における「適職感覚経験」である。仕事が自分に向いているといった経験を持つ人は、そうでない人に比べてあらゆる面で能力の自己評価が有意に高くなっている。
・仕事が自分に向いているという経験は、職業能力に対する自己評価を高めると同時に、就業継続を促進し、さらに稼得水準も向上させるという効果をもたらしている。そんな適職感覚経験は、個別に相談する体制が整っている職場に「必死になって」働き続けることを通じて獲得しやすくなっている。


・新人は若手先輩を上司と同レベルに重要な情報源としてとらえているが上司はその有用性を過小評価している。

・新人にとって入手しやすく、役に立った組織社会化支援は「同僚、上司、先輩との交流」であった。
・多くの組織が、社会化支援手段としての同僚、先輩を有効活用できていない。


ある同席の方はシェアの時間に、
「先輩の影響って大きいんですね。『この会社って保守的だからぁ』なんて、先輩が言ったら新人は信じちゃいますよね。私も気をつけなければ、と思いました」。


・<伝統的な一人の上位者によるメンタリングというよりも>組織内の複数の他者から「心理社会的支援」「キャリア支援」を受けている新人は職務満足が高い。

・松尾は「初心⇒見習⇒一人前」に熟達していくプロセスとそれを促す他者の役割に着目する研究として「OJTの実践知」を明らかにする調査を行った。その結果「教え上手なOJT担当者はフィードバックと自律支援」を基本とし「ほめなさすぎ、考えさせ過ぎ、無理させすぎ」が教え下手なOJT担当者の特徴であることを明らかにした。


このあたりで関根さん曰く

「私の考え方で、『OJTとは出会い』。計画者(人事担当者など)はデザインとして考える。しかし人と人、人とコトとの出会いに左右される。デザインだけではだめ、偶然だけでもだめ、両方」

「1対N型のOJT」(チーム指導)の重要性

・関根は(略)指導員が周囲の協力を得ながらOJTを進めることと、新入社員と親しく会話することが、新入社員の「能力向上」につながる効果があることを明らかにした。


・オープンな若手と内にこもる若手。
・オープンな若手は「開く行動」をとっている。積極的に他者に働きかけ、分からないことは遠慮なく訊く。こういう新人は成長感が高い。内にこもる若手は自分のことだけやる。何に困っているかわからない。与えられた役割をこなす。


・「上司」から情報を得られれば得られるほど、新人の職務満足は高まる。
・「上司」と「同僚」がはたす役割の大きさから、新人だけでなく、彼ら内部者に対して研修を行うことも効果的である。新人の社会化を促進できるよう内部者を訓練すると同時に、新人には観察と試行を通じた「社会的学習」の手法を使うよう促すような社会化プログラムの開発が求められる。


・離職を考えたプロセスの中で職場の上司や先輩との人間関係に問題が生じていた。周辺の人々に自分が理解されていない、あるいは周辺の人々が理解できないといった問題から、自らの存在意義を見失って離職を考えていることが多かった。
・組織や職務に対する具体的なイメージを持たない若年労働者に対しては、人間関係を通じたコミュニケーションで言語化された知識体系で理解させなければ、やがて離職行動を誘因するだろう。
[暗黙の理解を期待することはむずかしい。ちゃんと言葉で説明を]


・直属上司との交換関係を軸とした、入社後早い時期(初期3年間)での職務経験の質が、新入社員の管理能力の形成にとって決定的に重要であり、出身大学や本人の潜在能力はさしたる影響力を持たないことを意味する。
・13年目のキャリア結果と高い相関を有する予測変数は「垂直的交換」「昇進可能性」「職務遂行」の3つであった。すなわち、入社3年間の仕事をめぐる上司との対人関係、その間に確立した仕事上の実績が、入社13年目で測られた様々な組織内キャリア発達の結果(昇進、給与、ボーナス)に強く反映されているということである。



…新入社員たちが最初に出会う上司が、その子たちの13年後の昇進、給与、ボーナスを決めてしまうというのです。怖いですねえ。


さて、勉強会の途中で急に「承認」が話題となり、
関根さんから参加者の皆さんへ「承認の専門家、正田さん」として紹介されてしまった私でした。著書のタイトルまで正確に言っていただいて。
しかし人前に出る仕事のわりに本性は内気な私、胸を張るどころかむしろ小さく固まってしまったのでした・・・


「垂直的交換関係」、がんばれ上司の皆さん。



この日の勉強会、もう1つの特筆ものは、「関根ファミリー」、専務の奥様と3人のお子様方が総出で会場で受付、案内係をされ、ホワイトボードにはお子様の可愛らしい絵が描かれていたことでした。

にこやかに「青はここの席ですよ」と案内をしてくださっていたお子様方は、しかし関根パパが「おはようございます!」と気合の入った挨拶をされ、場内にぴりっとした空気が流れるとやがて泣き出してしまったのでした。


「パパのお仕事風景」を見せる目的は達されたのカナ?


手作りで素晴らしい上質の学びの場を提供してくださいました関根ファミリーの皆さん、そして東大大学院での学びを惜しげもなくシェアしてくださった関根さん、ありがとうございました。



神戸のコーチング講座 NPO法人企業内コーチ育成協会
http://c-c-a.jp