本日号の「日経ビジネス」(2012年4月16日号)では、「システムが止まる日」として東証、ドコモ、日立、といった大手で頻発するシステムトラブルを取り上げ、「社長こそシステムを勉強すべき」と訴えている。

 これについて、さらに「日経ビジネスオンライン」では、山川龍雄編集長名のコラムで「先送りの3投資」と名づけ、こう警鐘を鳴らす。


 人件費、研究開発費、情報システム費。私はこの3つを「先送りの3投資」と呼んでいます。業績が低迷すると、経営者はこの3つの投資を抑えて費用を減らし、利益を捻出しようとする傾向があるようです。赤字続きの会社が一時避難的に出費の蛇口を閉めるのはやむを得ません。しかし、長く抑制すると、禍根を残します。人員構成にひずみが生じたり、画期的な新技術や新商品が出なくなったり、システムに不具合が起きたりと、身に覚えのある会社は少なくないでしょう。

 これら3つの投資の始末が悪いところは、後の世代にツケが回ることです。問題が発生した時には、既に投資抑制を決めた経営陣は業績回復を花道に第一線を退いており、現役の経営陣が頭を抱えているというケースがしばしばあります。しかし、目先の利益を追うばかりが経営ではないでしょう。日本の名経営者の中には、1円のコストダウンにこだわる人が少なくありませんが、その一方で、コスト削減で得た利益を、長期にわたって研究開発や設備投資に振り向けています。



 このコラムで言う「人件費」に、「教育研修費」は、入っているのだろうか。


 ちょうど似たようなことを私は「教育研修費」についてメールニュースに書いたところなので、このコラムには共感した。日本企業のあちこちで、やってはいけない経費削減が起こっている。その大きな流れに、「仕方ないよ」と疑問を持たないでいることはできない。流れに竿をさす覚悟でものを言わないといけないのだ。


 できれば、「先送りの3投資」を「先送りの4投資」とでもして、「教育研修費」の項目を立てていただきたいと思う。



 同じ号の「家電製造を米国に戻すGE」という記事もおもしろかった。イメルトCEOが「過去にないリスクの大きい投資だ」と言っているといい、経営学上の大きな実験に違いない。新興国の労働コストが上昇していることで、海外移転のメリットが減ったためだという。


 成功すれば、日本にも当然波及するはず。


 この記事によると、2011年末時点でGEの全社員は30万1000人(うち米国の社員は13万1000人)。


 この数字が出たところで。最近よく引き合いに出される人材育成先進企業のGEは、全社員に対する教育研修費の支出が年間1000億円という。


 これを全社員数で割ると…、


 分母も大きいがやはり分子がめちゃくちゃ大きい。計算ミスでなければ、1人当たり33万2,225円となる。


 想像つくだろうか。


 ちなみに日本企業の人材育成費用というのは、時代により変動しているが、比較的新しいもので産業能率大学が2010年に出したものがある。

 正規従業員に対して1人当たり3.7万円とある。

 http://www.sanno.ac.jp/research/investment2010.html


 上記の報告書では「リーマン・ショック後も変動はない、むしろ増えている」と明るい見通しを語っているが、この「3.7万円」という数字自体、10年前と比べると約3分の2程度に落ち込んでいるのだ。

 ちなみに産能大学は2000年にも教育研修費を調査しており、このときは日本1人当たり53,137円、全世界(米国、欧州、カナダ)平均は77,088円だった。


 2010年の翌年には、恐らく東日本大震災でさらにガクンと落ち込んだはずなのだけれどそれはまだ出ていない。



 また、米国の平均的な教育投資額をみると、2006〜07年は、各種調査で1人当たり1040〜1320ドルとなっている。日本円で10万円以上。この数字は米国の場合、大企業と中小企業でそれほど大きな違いはない。



 と、いうわけで教育投資でみる限り、もちろん教育もピンキリなのかもしれないが、米国と日本では黒船と竹槍くらいの開きがある。


 
 オリンピックで日本が何かの競技で勝てないというとき、強化費が全然足りないことが問題視されたら、なんとか強化費を上げようという声が上がるのではないだろうか。それと同様に、日本人の会社員のレベルも、教育費を使わなければ高められない。教育学習は大事だ、しかし自分のポケットマネーでやれ、とばかり言われたら、志気や会社に対する愛着心は下がるばかりだろう。


 負けムードになっているとき、無理な「根性論」を出してくるのが日本のパターンなのだと思う。



 と、久しぶりに日経ビジネスをじっくり読んでしまいました。



神戸のコーチング講座 NPO法人企業内コーチ育成協会
http://c-c-a.jp