兵庫県中小企業団体中央会の機関誌「O(オー)」に不定期連載中のコラム「誌上コーチングセミナー」。


 新装第2回は、中国・宋の時代を題材にした「改革者」のお話です。同会編集部のご了承をいただき、こちらに転載させていただきます:


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「決める人とそうでない人――聡明なリーダーが陥りやすい『決断依存』のワナ」


 気付かないうちに「人」の問題が起きて、成長の足かせになっている…そんな現象があなたの会社にもありませんか?「人」の問題によく効くクスリ、「コミュニケーション」「リーダーシップ」の観点から解決法をお伝えします。



 司馬光と王安石。11世紀の中国・北宋の時代に、ふたりの優れた政治家がいました。

 何故いま北宋時代?と思われそうですが、現代に当てはめて考えるとなかなか面白いのです。

 王安石は、バリバリの改革者。この時代の宋は、軍事費の増大、無駄な官職の増大(冗官)、貧富の差の拡大により、ドラスティックな改革は待ったなしの情勢でした。

 そこへ登場したのが、下級官僚出身で「新法派」の王安石です。1067年に即位した若き皇帝・神宗の下で皇帝の側近である翰林学士に、また2年後には副宰相となり、実質的な政治実務のトップとして辣腕を振るいます。

 王安石の下では、農業改革として「青苗法」「募役法」「農田水利法」など、商業改革として「均輸法」「市易法」、軍事改革として「保甲法」、「保馬法」その他科挙改革や官僚改革にもさまざまな立法や制度改革を行いました。趣旨としてそれらは大変正しいものでした。

 ところが…。善い目的のために制定された法が正しく運用されない、ということが起こってきます。例えば「青苗法」は農民が地主から高利で種を買う金を貸しつけられ、奴隷化していくことを防ぐため政府が低利で融資する法ですが、実際の運用では現場の官僚が制度の趣旨を正しく理解しておらず、「貸せと言われたから貸す」、強制的に貸し付けを行い農民の恨みを買ってしまうのです。

 こうして王安石の新法改革に異を唱えた代表的人物が保守派の司馬光でした。史書『資治通鑑』の編者でもあるかれは、一言で言うと「制度より人事だ」という考え方でした。良い官僚、誠実で有能な官僚を登用せよ。あるとき、神宗皇帝が「干ばつで首都開封に難民が流入している。どうしたらいいか」と司馬光に問いかけたところ、司馬光は「その地域に良い官僚を配置することです」と答えた、といいます。これは「そんな迂遠な」と採用されなかったそうですが、司馬光の考え方をよく表しています。そして人君の「三徳」、すなわち仁・明・武、そして臣下に対する働きかけとしての「御臣(ぎょしん)」、すなわち任官・信賞・必罰、などの政治理念を提唱。

 王安石の失脚後、民衆から大の歓迎を受け政界復帰した司馬光も、王安石の制定した多くの新法を廃止はしたもののその後の改革に着手することなく死去。

 さて、こうした北宋の出来事からは、私たちは何を学べるでしょうか。

 まず、制度改革にかならず伴う運用の問題。現場で「運用」にかかわる人ひとりひとりに、制度のもつ精神が深く「はら落ち」しなければ、ものごとは本当には動きません。善い意図のもとに設計された制度でも、それは然りです。

 あまりに性急な改革をしますと、人はついていけない。このことには、脳のメカニズムも恐らくかかわっているでしょう。諸制度改革の決断をする人の脳では、決断のたびに快楽物質のドーパミンが分泌されます。いわば「楽しい」のです。一方で、他人の決めた改革に従う大多数の人には、その現象は起こりません。その人達にとっては、せっかく自分が習熟し愛着のある現行制度を取り上げられ新しいものに習熟しなければならないのですから、当面はストレスになるばかりです。例え善い意図のものであっても。

 もう1つは、やはり実務を担うフォロワー、臣下たちの「質」の問題。かれらの新しいものに慣れるストレスに配慮したとしても、やはりフォロワーの側も、改革の意図を理解し共感するようなまっとうな倫理観をもたなければなりません。「自分がらくをしたい」「既得権益をむさぼりたい」というような卑しい心をもっていてはダメなのです。王安石はそれを「処罰」によって防ごうとしたのですが、ムチだけでは人の心を善くできないことも明らかです。

 北宋の改革は、結局末代の徽宗皇帝の時代までもつれ込み、金による侵攻を招きます。さて、あなたの会社・組織で、「改革」をやり遂げるには、何が必要なのでしょうか…?


※本稿執筆にあたり姫路師友会、安岡正篤師の孫である河田尚子先生のご講義よりご教示をいただきました。ここに御礼申し上げます。



筆者プロフィール・NPO法人企業内コーチ育成協会代表理事。1963年生まれ。
通信社記者、医薬翻訳者を経て2001年、ビジネスコーチ開始。特に管理職育成を得意とし、非営利のマネージャー教育により全国1位、社内1位といった「トップマネージャー」を輩出。
2008年より現職。よのなかカフェ、承認大賞といった社会人教育のイベントも主催する。
著書に『認めるミドルが会社を変える』(カナリア書房)など。
NPO法人企業内コーチ育成協会
URL:http://c-c-a.jp
電 話:078−857−7055
メールアドレス:info@c-c-a.jp



【月刊中央会「O!(オー)」2012年7月号 所載



人君の「三徳」、すなわち仁・明・武、
そして臣下に対する働きかけとしての「御臣(ぎょしん)」、すなわち任官・信賞・必罰
―。


私はこれら全部を包含するような欲張った考え方として、「承認」をいおうとしてるかもしれない。

なんでもインスタントな現代向きかも。




神戸のコーチング講座 NPO法人企業内コーチ育成協会
http://c-c-a.jp