ANA流「安全」と「サービス」そして「承認」
―河本宏子・客室本部長にきく―

(3)歴史――出発点は「激しい競争」と「CS」

■転換点は2000年―「上位下達」から「逆ピラミッド」の模索
■CAとマネジメントの距離を近く



インタビュー登場人物


河本 宏子氏(全日本空輸株式会社 上席執行役員 客室本部長) 
水田 美代子氏(同 客室本部 副本部長 兼 グループ品質推進部長)

ききて:

正田 佐与(NPO法人企業内コーチ育成協会 代表理事)
田村 聡太郎(カメラマン)






(3)歴史――出発点は「激しい競争」と「CS」

■転換点は2000年―「上意下達」から「逆ピラミッド」の模索



正田:そういった、声掛けをする、関心を持ちあうあり方というのは、ANAではいつごろから始められたんですか。



河本:弊社の中にお客様の声やご意見をお伺いする「CS推進室」という部署があるのですが、その部署が主体となって2000年ぐらいから「エクセレント・サービス・アワード」という表彰制度を取り入れています。客室部門としては2002年の10月からこの「グッドジョブカード(当時はスターカード)」を使った表彰制度を取り入れました。
ただ、グッドジョブカードだけが承認のマネジメントでもないですし、エクセレント・アワードだけがそういうことでもないという意味では、脈々と先輩たちから受け継がれてきた文化ではないかと思っています。


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正田:といいますとつい他社様との対比をイメージしてしまうんですが、ANAは何故そのようになったんでしょうか。


水田:例えば私どもの部門の中だけのことを申し上げますと、過去は本当に上意下達といいますか、上から下に対して厳しく指導するという文化がございまして。

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正田:あ、やっぱりあったんですねえ。


水田:ありました(笑)。私たちが入社したころは、先輩の言うことにはまったくNOとは言えないぐらい、すべて「はい」という(笑)、そういう文化の中でやってきていたのですが、やはりお客様に身近に接している現場の人達が色んなものを持っていて、その人達の意見をちゃんと取り上げて活かしていくということが、会社にとってもいいサービスができるようになる、ということに気づいたんだと思います。それは競争が厳しいからであり、競争が厳しいという環境を考え、その中でそれをやっていかなければならないということに気づいたということです。

 そのため、ある時期は、組織的にも部長がいて、リーダーがいて、マネージャーがいて、班長がいて、というピラミッド組織を逆にしたんですよ。


河本:逆ピラミッドの組織ですね。


正田:言葉としてはきいたことがあるんですが、実際にできるものなんですか。



■CAとマネジメントの距離を近く



水田:まずは組織図をそういう形に作り替えてみたり、あとは実際にフライトをしているCAが所属しているセクションで、管理職がよりCAに近づけるようにということで、座り方を変えてみたりですとか。デスクの配置ですね。また、近くに来てちょっと座って話ができるようにと、椅子を置いてみたりですとか。フライトをしているCAと、それをみているマネジメントの人達の距離感を近くしようという、そういう時代の流れだったと思います。


正田:それが何年ごろのことですか。


河本:先ほどの話にあった2000年ぐらいですね。競争環境も厳しくなりますし、ANAの会社全体が生き残っていくためには、以前はなかったお客様の声を聞くセクションができたり、そして、形だけではなくて、例えばそのお客様の声として聞いたものを調査をする、顧客満足度調査をする、あとは、それと併せて社員満足度調査をするですとか、そうしたことが少しずつ走り始めていったのと、一体となって進んだと考えていただいていいと思います。

 弊社の行動指針に「お客様の声に徹底的にこだわります」という言葉があります。こういうものを経営の中に取り入れ、お客様の満足、そして従業員の満足が永続的な企業の発展につながるんだという思いを持ち、やってきているということです。

 ですので、繰り返しになりますが、客室(本部)だけでやっているわけではありませんが、ただ、客室はお客様との接点が多いですし、時間も長く、また、やはり航空会社の顔という意味ではブランドの代表ですよという位置づけで、より強い教育だとか、意識をもたせるような取り組みがすすんでいったんだと思います。


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応接室に掲示してある経営理念・行動指針




正田:そうしますと特定の創始者の方というのは特にいらっしゃらないわけですね。例えば何代前の社長さんとか。


河本:それはないですね。だれかが作った、というよりもトップマネジメントが、どういう経営をすべきかという中で、組織も整え、こういった制度もつくり、安全に対する取り組みの整備だとか、お客様満足に対する取り組みの整備だとか、全部一緒に進めていったということです。これだけを取り出してやったわけではありません。



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((4)「小さなことほど丁寧に、当たり前のことほど真剣に」に続く)


ANA流「安全」と「サービス」そして「承認」
―河本宏子・客室本部長にきく―

プロローグ―「承認大賞」から生まれたインタビュー

(1)CAは約6000人の巨大組織

(2)ほめる・認め合う・関心を持つは大切な価値観

(3)歴史――出発点は「激しい競争」と「CS」

(4)「小さなことほど丁寧に、当たり前のことほど真剣に」

(5)「安全」と「自由闊達」――意識調査は企業の健康診断

(6)「ゆとり世代」の指導の仕方は 

エピローグ―「おせっかいCA」をつくりたい―「安全」と「承認」のタッグ

あとがき・石切にて




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