河合薫『上司と部下の「最終決戦」―勝ち残るミドルの”鉄則”』(日経BP社、2012年6月)という本を読んだ。日経ビジネスオンラインの人気連載をまとめたもの。


 私と似た分野の人、河合さんのほうが週刊だし、WEBで数ページにもわたるから大変だ。真摯な考察だな、とうならされることも多い。

 ミドルマネジャーの窮状を訴え、出世競争から「下りた」ミドルの発見した生き方として、「承認」のようなことも取り上げる。


(この本の「はじめに」にある、「管理職の死亡率がここ5年で70%増」というショッキングな研究については、元連載がまだWEB上にあるので是非参照されたい。

 http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20120425/231382/?rt=nocnt



 影響されやすいので、ぱくりだと言われないように気をつけないと。


 ぱくりでなくまじめな引用ということでお許しいただいて、

 
 この本の中に「真面目賛歌」と呼べるような一節がある。


 私は工場(あるいは生産現場)に行くと、無性に感動する。取材の時だけでなく、講演会などに呼んでいただいた時も、可能な限り工場を見学させてもらうのだが、現場に足を踏み入れると決まって胸が熱くなるのだ。


 恐らく工場で働く人たちの実直なまでの真面目さに、心が揺さぶられるのだと思う。ひたすら頑固なまでに、彼らは決まった仕事を決まった時間に繰り返す。何事も起こらないように働くことが、彼らに課された最大の使命だ。だから、彼らは決められたことを、ミスのないように、徹底的に真面目にやる。彼らからは、「上司に評価してもらおう」とか、「いいところを見せよう」とか、「他人をおとしめてやろう」といった、卑しさや野心を微塵も感じることがない。「日本という国は、こういう人たちに支えられているんだよなあ」とつくづく感じる。(p.102)



人間は同じことを繰り返すと、飽きる。慣れて、手を抜くこともある。だが、真面目に働く人は、飽きることなく、手を抜くことなく、何度でも繰り返すことができる。

 本当は飽きることもあるだろうし、手を抜きたくなることだってあるだろう。だが、真面目に働く人は、その欲求を封じ込める努力をするのだ。

 しかもやっていることが昨日と同じようでも、実際には、昨日とは全く同じなんてことはない。天気も違えば、働いている人の精神状態だって、体調だって変わるだろう。毎日使う機械だって、100%同じなんてことはあり得ない。油も減れば、歯車だってすり減るだろうし、機械が置かれている室内の湿度だって変わるはずだ。同じことをやるためには、そのわずかな変化を感じ取って対応する能力が求められる。

 結局のところ、どれだけ毎日、真面目に真剣勝負で取り組んでいるかが決め手となるわけで。同じことを続けるとは、いわば、同じことを続けられる環境を作り出す日々の努力なくしてなし得ないことなのだ。(pp.108-109)



 どうでしょう、この「真面目愛」ともいえる文章。でもわたしも好きだ、真面目。


 その「真面目」に立脚しているはずの日本企業が洋風のマネジメント手法をとりいれた結果―、と、この文章は続くわけです。大いに共感。


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きょうはクリストファー先生の英会話教室。


正田は”Acknowledgement-based coaching"(承認中心コーチング) というものをやっている、というお話をしました。


 英語にするとちょっとかっこいいですね。 本当は"Fact-based-coaching" (事実ベースのコーチング)というふうにも言いたい。でもかっこつけすぎかな。


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 『脳には妙なクセがある』(池谷裕二、扶桑社、2012年8月)という本を読みました。


 気鋭の若手脳科学者(でもこの「脳科学の解説」という分野では重鎮)。新しい発見がいくつもありました。たとえば「催眠」という現象について解説があります。

 「催眠は、いわば人工認知症」

と、いいます。


 面白いことに、催眠状態ではスツループ効果が消えるのです。これを発見したのはコーネル大学のラズ博士らです。この時、前頭葉の「帯状回」という脳部位の活動も抑えられていることがわかりました。帯状回は「矛盾」を発見する部位として知られています。・・・つまり、催眠とは注意力が低下して「状況の不一致や不自然さに気づけない状態」とも解釈できます。(p.296)



 催眠にかかった人は想起力が低下しています。しかし、まったく思い出せないわけではありません。たとえば、催眠中に見た映画について、内容は思い出せないことはあっても、映画を見た状況については思い出せるといいます。

 なんとも不思議な精神状態ですが、神経生物学者のデュダイ博士らは「この解離的な健忘症は、老人に見られる認知症と似ている」と指摘しています。つまり、催眠は、いわば人工認知症なのです。(同)



 ・・・このブログをしばらくお読みになっている方は、ここで何が言いたいかおわかりでしょうか・・・


 多くのコーチングセミナーや類似の心理学セミナーで参加者が「酔った」ようになる状態というのは、どうも「催眠状態」に近いのです。そこでは、講師の言うことと現実の間の矛盾に気づかなくなったり、セミナー参加前に自分を律していた「社会人コード」やご家庭や学校での「躾」まで忘れたような状態になります。「幼児化か、老化か」という記事で観察したように、それは認知症に似ています。


 その手のセミナーでは、「講師の先生がすばらしい人だ」というのはしっかり刷り込まれるのですが、習ったことをできるようになる、という本来の意味の学習にはほとんど役立ちません。「コーチングって難しいですねえ」と言うばかりです。


 本書によれば、催眠にはかかりやすい人とかかりにくい人がいるということであり、わたしも某・高度な心理学セミナーで組み込まれている催眠のワークに参加しクライアント役になったこともありますが全然かかりませんでした。逆にセミナー、ワークショップで異様に「ノリの良い人」というのはいるもので、催眠と銘打ってなくてもスピリチュアル系のセミナーで、「ヨーコ、君は鳥になって飛んでいる!」と講師に言われると本当に飛んでいるしぐさをする人もいます・・・


 結局「催眠にかかりやすい層の人」を喜ばせるためにこういうワークショップ、セミナーはあるんじゃないだろうか・・・

 本書によれば、本当にかかりやすいのは全体の10%くらい、20%は全くかからない、残り70%は催眠術師の腕次第、なのだそうです。


 コーチングという、人の成長を意図したコミュニケーションの方法を教えたり学んだりするのになんで催眠状態とかつかわなきゃいけないんだろうか。「武田建のコーチング」でいいじゃないか目的が明確で、兵庫ローカルだけど、とわたしなどは思うのです。



神戸のコーチング講座 NPO法人企業内コーチ育成協会
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