先日(下記の記事参照)お約束した通り、「承認研修」によってモチベーションが顕著に上昇した施設さんに18日、お邪魔してきました。


 「実りのある介入 モチベーション指数上昇(参考値として)―ある公的施設にて」

 http://blog.livedoor.jp/officesherpa/archives/51829366.html



 詳しく言いますとこの施設とは、高齢者福祉センター・姫路市立楽寿園(姫路市梅ケ谷町17番50号)。従業員6名。

 姫路市内の60歳以上の人は無料でレクリエーションや入浴に利用できるほか、校区ごとの老人クラブからバスで送迎して団体での訪問があり、その人数は2・30人から多い時で135人にもなります。


 
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楽寿園のレクリエーション室。マッサージチェアやビリヤード台がありお年寄りたちの笑い声がきこえる


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囲碁ルーム。老棋士たちの表情は真剣そのもの



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大広間。校区の老人クラブの人々はここで講師のお話をきく


 今年6月、指定管理者主催の「承認・傾聴」の1日研修に、楽寿園さんからは生駒眞一郎園長(61)が参加されました。


 その生駒園長を、楽寿園にお訪ねしました。


 生駒園長は昨年4月にこの施設に着任。園長による2年越しの施設改革の途上にこの研修はありました。


「前管理者の市社会福祉事業団のもとでは、公務員以上に古い体質でした」


 と、生駒さん。どう古いのかというと、


「役所は昔は無愛想でしたが今は窓口応対も電話応対もすごく良くなってきてますよね。しかし第3セクターの職員はそういう研修の機会があまりなく、またOBの人達がトップに居座っていますから、案外全体の体質が古いです。ですから応対とか接遇がなってないんですよね。

 そういう古い役所体質をずっと引きずってたんですね。だいぶ前の話ですがあるお客さんが、『自分の靴がない』とここの職員に言ったそうです。すると『あんたの靴の(見張り)番してへんからな」と返したという。『ただでお風呂に入れてやってる』という感覚だった」


 なので、お客様に「おはようございます」「ありがとうございました」とあいさつする習慣も、1年半前にはなかった。

「お客さんには『ありがとう』言うんやで、というとみんなポカンとして。この園長何言うんや、と」


 生駒さんは前職が楽寿園を管轄する、市の高齢者生きがい課の課長。高齢者バンドイベントや高齢者ファッションショーを立案するなどアイデア課長でした。その時代にも楽寿園を訪れたことがあり、当時は市の職員さんだからと丁寧に応対してくれる。それがお客様に対してはぞんざい。大変なギャップを感じたといいます。


 そして生駒さんが園長として赴任して数か月、昨年の夏頃から、楽寿園の評判は上がりだしました。「楽寿園さんはようなった、ようなった。『ありがとうございました』と言ってくれるようになった」と老人クラブの人々。今年になって民間の運営になってからさらに評価が高まっています。

「今までみんな頑張ってきたけれども民間の指定管理者になってから、さらに『ようなった』と言われなあかんねんで」

と生駒さんは職員に言い聞かせました。


 そして今年6月の研修。


 生駒さんにとっての最大の気づきは、やはり朝礼の形式。生駒さんから「今日はこんな校区からこんなお客さんが来るから、頑張ってや」という一方的な伝達だったのが、職員からなにか1言ずつしゃべってもらうように。


「きのう休日で孫とこんな所へ行った。ごっつ綺麗だった」
「きのうお客さんからこんなこときかれて、こう答えたけどそれで良かったんかなあ」

という具合にみんなそれぞれ一言ずつ話してもらう。

 さらに午前中に1回と午後に1回、お茶の時間もとるようにしました。


「朝お客さんがバスで来て、大広間にあがってもらってしばらくバタバタするんですが、お客さんが講師のお話を聴いてるとき、10分ほどちょっと暇になるというか、手が空くときがあるんです。その間に朝のティータイムで、みんなでお茶をのんでいろんな雑談をする。ほんとに10分か5分の間ですけど、それでもその時間があるだけで雰囲気がちょっと違う、いい感じになるんです。

 それと午後、校区のお客さんが帰られて片づけてまたちょっと暇になるときにまた5分か10分お茶の時間。そのときにこちらから色んな必要な話もできるし、向こう(職員)からも何やかやきいてくるし。」


「僕ふだん気がつかへんのですよ。嫁はんが髪切ってても女の用務員さんが髪切ってても気がつかへんのですけど、観察が足らんのやなあ、なんか一言言うてあげたらええのになあと思うんですけど。だれかに言われて、『あ、○○さんほんまや髪切っとってや』と(笑)」


 雑談の効用。このブログでも何度か触れていますが、人数が減って1人当たりの仕事量が増えていても、雑談タイムをほんのちょっととることが、仕事を円滑にする。それ急げやれ急げばかりで効率が良くなるわけではないのです。また、「リーダーは承認を」が望ましくても目が届かないこと、性格的に気がつきにくいことがあれば、だれかに自然に補ってもらえるよう計らうことも必要です。


 なぜ生駒さんは研修後、さまざまな実践をされたのですか?の問いに。


「こっちから一方的にしゃべっててもあかんのやなあ、と気づいたんですよね。相手の人にしゃべってもらわんと、そして気づいてもらわんと。何の話のときにそんなことに気づいたのかわからないんですけど。命令する側と受ける側、そんな関係になったら絶対あかんなあ、と思って。きちんとお互いイーブンでお話ができる関係にならんと。それで、それまでは『あれあないしてなー、こないしてなー』と指示してたのが、『あれどないしたらええんかなあ』と、向こうにいっぺん考えてもらう時間をこしらえて。『こないしたらええんちゃいますかなあ』と言ってきたら、『あ、そやなあ』と、正解やったらね。」


 ―相手の答えが違ったときは?


「違うかったときは、『それやったらこないなってしまうんちがうかなあ」と。そして『なんかええ方法ないかなあ』と言うと、考えてくれるんで。」


 ―柔らかく戻すみたいな。それはすごいですね。


「そういうところは研修の効果で変わりましたね。押し付けがましくないように、引っ張っていかなあかんなあと」


 ―そんなふうに受け取っていただいていたら、嬉しいですね。


「それから、『ありがとう』と出来るだけ言うように変えましたね、僕から職員に。汚れたところを掃除してくれとったり。お客さんの中にもトイレを便で汚したり漏らしたりする人もちょくちょくいるんですよ。基本的にはお年寄りでも元気な人の来る施設ですけど。みんな仕事やからきちんと掃除してくれるんやけど、ぼくから『いやー、してくれたんやな、ありがとうなー』と言うようにしてるんですよ。人の便の始末なんて大変な仕事や、仕事やから当たり前と思ってもうたらあかんと。」


 ―それは嬉しいでしょうね。


「文句は誰も言わへんのですけど、『かなわんなあ』と思いながら掃除してくれてると思うんです。月に1,2回はあります。また自分の仕事かどうかわからへんけどカーペットにシミがついてたのをだれかがきれいにしてくれてたら、『きれいにしてくれてたなあ、ありがとう』と言うようにしています」


 何気ないけれどこのあたりは大事なポイントです。当協会の受講生さんであれば耳にタコほど言われる「行動承認」。相手の仕事の量や質、労力などを正確に見極めて言葉で言ってあげる、あるいは感謝したりねぎらってあげること。それは、人のやりたがらない仕事をあえてやる人への精神的報酬となったり、あるいは今どきの「目標管理制度」がはたらく人のセクショナリズムを産みやすいとすれば、そのセクションの垣根を越えてプラスアルファの仕事をすることの原動力となります。


「そういうのが必要やなあ、ということはあの研修のときに感じました。『あ、やっぱりこういうこと言わなあかんねんなあ』と(笑)」


「そういうお礼の言葉を僕が言うように心がけているから、みんなも4月から民間の管理者に代わってるわけですが、余計に頑張らなあかんなあ、と思うようになっていると思います」


・・・ここまでのお話をまとめますと、
 生駒さんは楽寿園の改革者でした。昨年4月の園長就任、そして今年4月の管理者の民間業者への交代、と2回の節目にそれぞれギアを入れてきたわけですが、ひょっとしたら中には生駒さんの「理念先行」もあったかもしれない。今年6月の「承認・傾聴」研修は、そこに「認める」(相談する形式で質問する、という行為も含む)要素が入ったことで、職員の満足度がアップし、自発的に考えて仕事をするようになり、プラスアルファの仕事が増えました。指標の中には「ミスが減った」(4.3→5.3)のように、能力アップを伺わせるものもあります。

「今できていないことをできるようになろう」

という呼びかけは、ともすれば「今できていない」ことを強調するあまり、現在の相手の否定になりかねないのでした。

 高い目標を持つ、理念を掲げるということは、多かれ少なかれそういうリスクを伴います。それは、例えば「指定管理者制度」の下に、5年ごとに契約更新するときに職場を失うかもしれないから、そうならないように頑張ろう、と「崖っぷち」のモチベーションに下支えされているときでも、そうなのだと思います。



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生駒眞一郎園長




 さて、現在の生駒さんと職員の皆さんそれぞれのモチベーションの素とは。


「僕自身について言うと、老人クラブの方々が、『生駒さんだから、ここまで良くなった』と言ってくださることが嬉しい。4月に管理者が交代したときも、老人クラブからわざわざ『生駒さんを(園長)交代させないでほしい』と言ってくれたんです」


「職員の皆さんは、お客さんが良ければ良かった、と言ってくださる。街で買い物しててお客さんから声を掛けられることもあるそうです。『あんた楽寿園の人やろ』と。それぐらいおぼえててくださる」


 「認める」ことが職員間、園長から職員へ、そしてお客さんと職員相互に行きかっている、そんな空気になっているのでした。


 お忙しい中、インタビューに応じてくださった生駒園長、ありがとうございました。



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