さて、先日の講演資料の中で使ったグラフを、秘密にすることもないのでこのブログでもご紹介しましょう。


 アメリカの「ポーリサーチセンター Pew Reseach Center」というところが2008年に調査したもの。


 「男性リーダーと女性リーダーのどちらが優れていますか?」との問いを成人2250人にきいた結果、

優秀なリーダーは男女どちら?




 正直さ、知性、思いやり、社交性、創造性など大半の項目で女性が上回ったという結果です。


 「決断力」は男性がやや上、


 「ハードワーク」「野心」などでは差がありませんでした。


 これらは、「リーダーシップ」というものをそもそも「男性性」や「決断力」と過剰に規定することに疑問を投げかけることになります。
 「決断依存的」なリーダーが始末にわるいことは去年の原発事故の際の某首相をみても明らか。

 もちろんリーダーシップの定義は過去から無数にあり、ポーリサーチセンターのそれはあくまでその1つです。
(なおこれらの項目の順位は回答者がランクづけしたものだそうです。「正直さ(honesty)」がトップなのですね)

 去年のようにスティーブ・ジョブズがもてはやされた時代であれば、ジョブズ的な人格特性(彼は自己愛性人格障害だったという人もいるが・・・)が称揚されたかもしれません。


 ただ日本の多くの職場の現状をみるに、女性に一日の長があるとされるリーダーシップ項目が不足しているがために機能不全に陥っている職場もあるかもしれないのです。


 「男性性」はたとえばコマーシャリズムで煽られると舞い上がる。テストステロンというのは煽られると分泌される性質のものだな、と思う。

 男性諸氏の好きな歴史小説の中の文章表現にも似たものがあるかもしれません。


なお男性に女性性を期待することができるのか、という問いについては、発達心理学のレビンソンの知見などが参考になるでしょう。

 40代ごろになると多くの男性で男性性が後退し、代わりにそれまでなかった女性的性質が表に出、若い世代の人の相談相手の役割をするようになるのだと。そうした女性的性質は外から獲得したものではなく、もともと持っていたが表れていなかったものが出てくるのだと。

 この記述の後半部分は、脳科学でいうと神経回路の「フィルター」という現象で読み解けるかもしれません。ある強い遺伝的形質をより強めて才能として発揮させるために、さほど強くない部分の神経回路にはフィルターをかけ、伸びないようにする。そうして「フタ」をしていた形質が、ある時期に必要に迫られるとフタをとって急速に伸びはじめることがある。


 
 当協会で引用させていただいている武田建・関学名誉教授は、

「父性的リーダーシップと母性的リーダーシップ」

あるいは

「リーダーシップの切断機能と受容機能」

ということを述べました。後者のほうが比率として圧倒的に大きく、前者はごくたまに発揮され、必要な時には発揮されなければならない、というのでした。


 また、このブログでもよく引き合いに出す、南アのネルソン・マンデラ大統領を描いたクリント・イーストウッド監督の映画「インビクタス〜負けざる者たち」では、モーガン・フリーマン演じるマンデラ氏が全編にわたって日常的に「承認」を周囲におこなっている。「ブレンダ(秘書)、髪を切ったんだね」「君は〇〇(名前)だね」という具合に。

 「承認」を知っている人がみると、「ああ、やってるな」と手の内がすぐわかるのですが、それでも不思議と感動できる。イーストウッド監督、良くわかってらっしゃる。今回の大統領選では共和党側で発言したようですが、それはそれとして。


 映画の中、ある1か所でマンデラ大統領がトップダウンのリーダーシップを発揮します。


"You elected me as a leader. Let me lead you now!"

(君たちは私をリーダーに選んだ、今は私にリードさせてくれ)


 おもしろいことに、この映画の予告編がDVDにも収録されていますが、予告編では「承認」の場面は切り捨てられ、このトップダウンの場面、せりふが使われています。

 このことはリーダーシップを語るうえで象徴的ではないかと思います。


 良いリーダーが日常の圧倒的多くの場面でおこなうリーダーシップ行動は「承認」である、ただしトップダウンを振うときは振うのであり、周囲には、また後世にはそれがもっとも印象的な場面として記憶される。

 それはよくいう「ネガティブ・バイアス」が記憶をそのように操作するのかもしれず。



 ここでまた、危惧しているのは、

 ある優秀な男性の働き手が中年期にさしかかりリーダーになり、自分の人格の中の男性性と女性性の比率を見直さなければならなくなったとき

 ―よくあることです―

 世間に「リーダーシップは男らしさだ」と煽る言辞が溢れていると、どうしてもそっちの方がかっこいいので、テストステロンが不必要に分泌され続け、せっかくの「女性性」を伸ばすチャンスを逸してしまいかねない、ということです。

 それは、その人がその年齢にふさわしい成長を遂げそこなう、ということです。

 だから商業主義で男らしさを煽るのは、大概にしたほうがよいのです。

 
 

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