13日、公益社団法人兵庫工業会の人材育成委員会イベント部会で講演をさせていただきました。


 お題は「日本の企業をつながり力で動かす!」



 前半では、日経ビジネスの記事などを引用しながら

 「人材育成の不幸な20年」
 「日本人の労働生産性、チームワークは危機的状況」
 「遺伝子的にみた日本人の特色」
 
 についてお話しし、そこで一旦止めて参加者の方のディスカッションタイムとしました。

 各グループ熱心に討論され・・・、

 どの企業様でも同様の問題に悩んでいる、と異口同音におっしゃいました。
 「叱る指導」ではもう今の人はついてこない、とも。


 後半では、「承認中心コーチング」のここ10年来の取り組みをご紹介し、最後に直近のある工場リーダー「Y君」の頑張りによるモチベーション向上について、統計の数字をからめてお話ししました。


 質疑の時間のやりとりをご紹介します:


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問:組織アタッチメント、愛社精神が上がるとはどういうことか。自分自身40歳過ぎまで愛社精神など持てなかった。

答:組織アタッチメントはこの質問紙(手元資料)の中の6問の質問への回答によって測る。こうした問いへの回答が1回目と比較して2回目は上がったということ。リーダーが良ければ愛社精神は上がる。そういうことが検証された。もしこのリーダーの上司の役員などが良くなればこのリーダー自身の愛社精神ももっと上がったろうと思う。



問:自分は今70歳だが、歴史的にみて今はどういう時期なのだろうか。こうした承認のような教育は過去にもあるのか。

答:自分自身今付け焼刃だが姫路師友会などで歴史の勉強をさせていただいている。例えば二宮尊徳の報徳精神などは承認と非常に近いものではないかと思う。二宮尊徳は金融知識も豊富に持っていた人だから単純に比較はできないが、真摯に仕事に当たることを教えるうえで報徳精神をリーダー層にも一般のはたらく人にも植えつけた。その結果豊かになった。また上杉鷹山なども徹底した倫理教育をやったという。貧しい時代になると、人心が地に墜ちる。小さくなったパイを取り合うため、弱肉強食になり、強いものが弱いものから奪うことが起こる。組織がギスギスした状態になる。それを一致団結して生産に向かわせるため、徹底した倫理教育が必要になった。今そういう局面なのではないか。
 また、良く言われるのが今は明治維新、敗戦に匹敵するような時代の変革期だ、と。しかし現代の場合、超長寿社会なために、70歳の方を目の前にして失礼だが上の世代の人が大量に生き残っておりなかなか時代の変わり目だと実感しにくい。私どもの立場としては、「こういう教育が必要なんです」ということをずっと力の限りお伝えし続けるしかない。



問:自分は現場リーダーだが、今の部下に元上司がいて困っている。

答:そういう構図があるということは去年の管理監督者大会で初めてきき、今そういうことになっているのかとびっくりした。上司部下双方がどれだけ大変なことかと思う。ちょうど、昨日(12日)の日経新聞夕刊に「濡れ落ち葉中年にならない」と題した記事が載り、そうした上司部下逆転現象についても取り上げていた。その記事の結論としては、そうした元管理職の50代平社員の方にはそれ専門の研修を受け、自分の人生や仕事について考えてもらうのがいいということだった。

追加の問い:自分はその元上司に仕事を与えて任せるようにしているが、それは引き続きその通りでいいだろうか。

追加の答え:大変よろしいと思う。「あなたは信頼できる人からお任せしますね」ということを言葉ではなく態度で示しているので、それも形を変えた承認だと思う。補足すると、去年の管理監督者大会で出た話題では、「自分は元上司に『相談』をしている」という人がいた。「今うちの部署の運営でこういうふうに困っているんですが、どうしたらいいでしょうか」とおうかがいを立てる。すると相手も喜んで色々アドバイスしてくれたり、協力してくれる。「相談」も従来から承認の一形態として私どものテキストに載せている。


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 皆さん非常に真摯に問いかけ、対話してくださいました。感謝。


 私は最後に爆弾を投げました。


「人材育成の世界の構造的誤解を解きたい。私はこの世界のプロパーではないから外部の目から色々おかしいところを見てきた。今、地域の経営者の皆さんに正しい考え方を周知したい」。


誤解1.人材育成とは若手〜中堅に対して研修を施すことである。

⇒人材育成はリーダー育成を基軸とすべきである。


誤解2.リーダー育成は男性的な指令の方法を学習させることである。

⇒リーダー育成はとりわけ日本では、
「承認」を中心としたコーチングとその応用の学習とすべきである。



誤解3.人材育成は担当者に任せておいてよい。

⇒リーダー育成を含め人材育成は、
経営者が組織のグランドデザインから考えること。



 「担当者の悪口とかを私の立場で言うと自分がおまんま食い上げになっちゃうかもしれませんけど、だからだれも言えないと思うんですけど、私幸いNPOなんで、実態は研修会社ですけれども非営利スタンスでずっとやってきたんで、こういう言いにくいことも言わせていただきます」

と私。

 まあどんな厚顔無恥な女なんでしょうか。

 実際は担当者の方の中にも非常に組織に対して当事者意識を持ってこうした研修の導入を一緒に考えてくださる、たとえば講演に登場した「Y君」のところの担当者の方々もそうなんですが、そういう方もいます。たまたまその方々が今回は欠席されたのをいいことに、組織に対する真摯な考察もなくしょもない蒟蒻問答に終始する「担当者」に対する積年の恨みをここで一矢報いた、という感じです。


 あと経営者の方々にクギも差しました。

 
「リーダー層から役員層に対する怨嗟の声がすごい。ミドルマネジャー時代にふさわしい教育を受けてこなかった人が今の役員になっている。パワハラの被害者のトップは中間管理職。役員、部長が中間管理職をいじめるという構図になっている。Y君みたいな、やる気のない大量の40代を引きずって走っている人を罵ってどうするんですか?単なる役員たちのストレスのはけ口にすぎない。いいですか、リーダーは人一倍責任感のある人だからリーダーになってるんじゃないですか。でしょ?」




 最後に私から皆さんに謝辞を述べて講演が終了したのを受けて、
 この日は事務局担当の人が見事にやる気がなく、代わりに別の人が慌てて前に走り寄り、

「正田先生、ありがとうございました」

とお礼を述べてくださいました。


(サボタージュをきめこんだ担当者は、これも企業の多くの「人材育成担当者」と同様、「賢い女なんか嫌い」という匂いをぷんぷんさせた男性でした。こういう価値観をもった人には私も打つ手なし、です)


 参加者の方々が三々五々、講師席まで歩み寄り、お礼を言ってくださいました。

 その中の1人の方は:


「2年前この場で先生の話をきいたとき、私は中国に行って現地法人の副総経理をしていました。当初の私は怒ってばかりの旧来のマネジメントでした。しかし先生の話をきいて取り入れてみようと思いました。まずは中国人の現地の文化を受け容れるところから始めようと。それで結局うまくいき、今は中国人の幹部たちにも同じことをするように言っています」


 嬉しかったですね。そうなんです。国境を越えてもかわらないというか、とりわけアジアの人は日本人と遺伝子的にも近いですし、中国も農村部とかそこ出身の工場労働者とかは日本人の工場労働者ともそんなに性格はかわらないはずなんです。もちろんひょっとしたら北中寿教授が言われるように、「承認中心コーチングは世界中で使える!」なのかもしれませんけれども。遺伝子がどうとかではなく、「相手の文化を受け容れる」とか「コミュニケーションをとりにいく姿勢」ということが大事なんだ、とそういう話なのかもしれませんけれども。

 海外進出する日本企業の弱さとしてよく指摘されるのが「マネジャーの弱さ」、マネジャーに対するトレーニング不足です。十分なトレーニングを受けずに工場長として赴任する日本人が現地の反発を買う。それは語学力とかの問題ではなく、ごく一般的なヒューマンスキル系のマネジメントのトレーニングを受けていない、という話なのです。


 一方でさっきのサボタージュおやじ氏は入口近くで他の人と「グローバル人材育成がどーたらこーたら」と、ええかっこしいの言葉をしゃべっておりました。
 凡庸な人はいつまでたっても気がつかないんです。グローバル人材育成とかグローバル経営とは、実は本質的に「承認中心コーチング」のことだったりするんです。
 かれはきっと、目の前でどんなすごいことが起こっていても永遠に気がつかないタイプの人なんです。


(この人物がイヤガラセ的に告知を怠ったため、今回の講演会の参加者はわずか16名だった。また事務局からの冒頭挨拶も終了挨拶もなく、会場入口には催事名掲示もなかった、参加者が来場したとき受付の人の配置もお釣りの準備もなく居合わせた主催団体のほかの人が慌てふためいた、経済団体としては異例のセミナー開催方法だった。ああぞっとした。しかしこういう教育事業をしていたら逆に人の心の汚さをみる機会も多い。かれは私に意地悪をしたつもりなのかもしれないが、自分の所属している団体の名を汚したとは思わないのだろうか。講演終了によりこの人物とお別れでき、正田は心からほっとしている。こういうことも事実なので、歴史のひとコマとして記録しておきたい。)


 ともあれ参加者の皆様が喜んでくださったのが何よりです。


 この講演会を蔭で支えてくださった皆様、主催団体の皆様、データ公開をお許しくださいました顧客企業の皆様、統計解析の方法をご教示くださいました過去の受講生様、そして当NPOを支えてくださいました過去のすべての受講生の皆様、改めてお礼申し上げます。




100年後に誇れる人材育成をしよう。
NPO法人企業内コーチ育成協会
http://c-c-a.jp