11日、兵庫県伊丹市にある県内でも先進的な知的障害者作業所、社会福祉法人いたみ杉の子ゆうゆうさんにお邪魔しました。

 対応してくださった村山俊宇所長(39)と山本晴美主任(40)。

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 去る2月、兵庫県社協・青年協主催のセミナーに村山さん、山本さんが来場され、お2人とも素晴らしい宿題を提出されました。そこへ私が「発達障害について勉強したいので施設見学させてください」とお願いしたもの。


 通所施設ゆうゆうさんは、利用者約60名、スタッフ29名。訓練や創作よりは作業に重点を置き、クッキーやハーブ石鹸、紙箱の組立、段ボール作業を施設内で班に分かれて行ったり、企業に出向して草取りなどの作業をしています。障害の内容はダウン症、自閉症、単純遅滞など。


 
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 クッキー班(利用者9名、スタッフ2名)のスケジュール表。今日は午前中に「計量」「丸め」の作業があり、午後は焼くことになっています。半日に1ペアで生地3kgを「丸め」、クッキー30個分程度を焼くことができます。


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 完成品のクッキー。紅茶クッキー、チョコチップクッキー、クルミクッキー、ココアアーモンドクッキー、コーンロッシュ、シナモンロッシュとありました。正田はこの写真のあと早速いただいてしまいました。シナモンロッシュは信じられないくらいさくさく軽くお口の中でとけます。あっという間にひと袋が空に(こら)


 次は、作業だけでなく創作活動を組み入れた班のお部屋にきました。


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 紙に色を塗っている女性。施設の掲示板に壁板のように貼るためのものだそうです。手前の男性は鋏を使うのが上手なので、紙コップを細く切っています


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 お掃除上手な利用者さん。特別製の柄の短い箒で床を掃いています。「ここを掃くんですよ」と目印に床に紙くずをまいておき、それを掃いてちりとりに集めゴミ箱に入れます


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 こちらの班では近所の洋菓子店の紙箱を組み立てていました。組立は両手をバランス良く使える必要がありやや難度の高い作業です。



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 ゆうゆうさん製のハーブ石鹸。ローズマリー、竹炭、ラベンダー、豆乳、ミント、ローズ、カモミールの6種類があります。どれもケーキのように綺麗。

 村山さんによると、昔ハーブを栽培していたので酒やハーブティー等色々加工を試した結果、商業ベースに乗るのはハーブ石鹸だとわかった。販路は物産業界、ばら公園、東急ハンズ(過去)など。

「販路開拓は私たちスタッフの課題です。どう利用者さんの仕事を増やしてあげられるか」と村山さん。


 知的・発達障害の方々はある部分ではすごく高い能力を持っているが、例えば手先が器用だが、「何を、どこで、やる」と考えるとか、段取りよく計画的に物事をすすめるのが苦手な人が多い。

 そのため工程、道順、を交通標識のような形で「次何やるのか」を明確につくってあげるとうまく進められる。
 こういう手法をTEACCH(ティーチ)といい、ゆうゆうさんは約10年前、兵庫県内ではいち早く取り入れて、自立度を高められるなどの成果を上げているそうです。


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 自閉症の利用者さん。石鹸を画面奥の器具を使って成形するのがとても上手。面取りまで綺麗にやって、あのケーキのような形になるそうです。

 この人が毎日のスケジュール管理に使っている道具が、これ↓↓↓

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 この人は文字を比較的認識するので文字でスケジュールを表示していますが、その人によって受け取りやすいものが違うので、ある人には絵、別な人にはカラーブロック、と表示を工夫します。


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(すみませんこの写真は本来は「たてなが」です。この画面では右側が本来上です。なんでかなー)

 ある女性は、ドラえもんのシールを壁からはがして、踏み台を3段上った先の壁の上のほうに貼るということを作業の合間にします。これは体をほぐすためのちょっとした体操を義務づけるためのもの。



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 利用者さんの中には、「先の予定のことばかり考えて不安になる」タイプの人もいる。この人に「今やる作業」だけを考えてもらうために使っているのが、1枚ものの写真。(この写真も左90度回転させてみてください)

 
 みればみるほど、障害者の方ばかりではない健常者の中にもある時間認識のずれとか、受け取りやすい信号の違いなどにも思いを馳せました。
 そう、みんなが一様なんてことは絶対ないのです。ほんとは健常者にもこれくらいそれぞれの違いに気を配ったほうがいいのです。なんか普通のマネジメントの中にも活かせそうだなー。マネジャーの対応能力を上げることが必須だけど、それはちゃんと鍛えれば上がります。


 各班の部屋にはパーティション(衝立)が沢山あり、これは真っ平な大部屋でぽつんと仕事をすると不安に感じてしまうとか、集中力が長く続かずいろんなものに興味をもってしまうため、衝立で集中しやすい環境を作るとかの意味合いがあります。



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 廊下の足型マーク。これは緑の足型から赤の足型までをお掃除して掃くんだよ、というサインのようです。


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 利用者さんの字


 そして紙工班では、段ボールの組立や、段ボールを切れ目のところから外す作業をしています。


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 段ボールを型から外す作業は比較的障害の程度の重い人にもできるので、施設にとって助かるそう。

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 この人は、デジタルタイマーを読めるのでタイマーを掲示しています。


 急に紙工班の中で大声。気分が急に盛り上がったりまた静かになったり。


 このほか伊丹空港近くに家具工場があり、そこへ利用者6名スタッフ2名が出向してねじをしめたり金具をとりつけたり、といった作業を行います。それらの家具はニトリさんなど身近なところへ納入されます。

 住友電工株式会社の特例子会社、住電フレンズでは社員として草取り、清掃作業など。「卒業できる方、外へ出られる方(利用者さん)は出たらいい。うち(ゆうゆう)は1つの場だよ、出てもいいしずっといてもいいよ、というスタンスです」と村山さん。

 「もっともっとメニューを増やすのは僕らの責任です。人目に触れるところで皆さん活動してほしい。施設の中にいると閉鎖的になる。利用者さんはやれる力もやりたい気持ちもある。それを社会、地域にアピールしたい」。


 作業のほか法人挙げて夏祭り、運動会や、養護学校と連携したフェスティバルにも力を入れます。そうしたとき地域の団地、自治会の方などと一緒にものごとを進めることを村山さんはとても大事にしているそうです。



「障害者の仕事を10数年やっていますがまだわからないことだらけです。下手に経験を踏んでしまっているから、こんな一面があったのかとか、はっと気づくときがある。『オレこういうとこみてへんかったなー』とか。
 それは山本(主任)とか利用者のお母さん方から指摘されて気づくことがある。」


「正田さんの研修で学んだ『承認』、相手の気持ち、考え方、やっていることを認めてあげて理解してあげて時には補足してあげて助けてあげて、ということ。
 やってみると、声かけ1つで変わるんですね。
 ぼくも悪いことに目が行きがちだったけど、頑張ってきたこと、考えてきたことを認めてあげると、相手が自然とその延長の行動をとる。こちらから『しろ』『して』という必要がなくなる。
 研修50日後の今は、若手が相談してきてくれるようになりました。以前はそんなのなかった。中には、職場で気づいたことを色々と意見として言ってきてくれるようになった子もいます。相談しあう、共有しあう関係づくりができつつあります」

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 村山さんは、iPadのカバーの中に縮小コピーした「例の表」を入れてらっしゃいました。当協会の「介護福祉バージョン」をそのまま手を入れずに使っているそうですよ林さん。こういうの見せていただくと幸せになっちゃうな、正田。


 この人間力の高い人たち。知的エリートという言葉があるが福祉の世界でよくみかけるのは「EQエリート」とでも呼べるような人たち。正田は2月のある日の午後に社協さんで半日研修をさせていただき、そのあと懇親会にも村山さん山本さんをはじめ多数の人が出席されましたが、研修をはなれてお話ししてみて皆さんのそのコミュ力理解力共感力…の高さに驚き、
「こんな凄い人たちに私はおこがましくも研修をしていたのか」
と思ったのでした。
 しかし村山さんと山本さんは、「いや、あの研修は良かった」ときっぱり言われるのでした。
 山本さんは主任の立場からスタッフたちを実験台に「承認」をし、相手が延長上の行動を自分からとってくれるので面白くどんどんやっている、ということでした。一方村山さんの実験台は山本さんですが、そのときは山本さんはちと「構えて」しまう、とのことでした。

 このお2人を含めスタッフのうち7名がフルマラソンにエントリーしていました。先日の城ヶ崎先生もそうでしたが、やはり1日中イレギュラーなコミュニケーションをとる多様な人々に関わるのは、体力が必要そう。他の施設でも、上司部下ともフルマラソンだかトライアスロンをやっている例がありました。

 ・・・体力が大事なのは普通の会社組織のマネジャーさんも一緒ですね。ちゃんとやろうと思ったらそうだと思います。

 
 通所施設「ゆうゆう」から始まり入所施設の「ライフゆう」、日中活動の「フォーゆう」、グループホームの「ウォークゆう」と7か所のケアホーム、それに学齢期の障害のあるお子さんのための日中一時支援「ヘルプゆう」相談支援・就労支援事業「ウィズゆう」と、地域の要請に応える形で矢継ぎ早にメニューや組織を拡充している社会福祉法人いたみ杉の子。
 急速に大きくしている分、スタッフの人材育成やマネジメントが追いついていない。設立当初の理念が薄まってしまいそうな不安がある。「私たちは、どうやってこの人を支援するかは考えてきましたが、確かにマネジメントなどは苦手な分野でした」と村山さん。



 そのあと正田のマニアック関心に応えて村山さんから発達障害についての資料をご紹介・ご提供くださいました。

「僕もこれまで高次機能障害を含む比較的軽度の発達障害のことは、目をそむけていたんです。でも正田さんから投げかけていただいて、かつ近所の特別支援学校―発達障害の生徒さんがほとんどのところ―から実習の依頼もされているので、そうかこの方面の勉強をしなくちゃなあと、目ざめたところなんです」(村山さん)。


 色々お話しして、やはり「子どもの頃からの障害の受容がご本人の発達のためにとても大事」という結論になりました。
 なんかお互い今後ご一緒に勉強あるいは勉強したことを持ち寄るような機会がありそうです。


 村山さん、山本さん、貴重なお時間をいただきどうもありがとうございました!


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 クッキーや石鹸についてのお問い合わせは:
 
 社会福祉法人いたみ杉の子
  障害者通所支援施設 ゆうゆう
 〒664-0006 伊丹市鴻池1丁目10−7
 TEL (072)777-7486
FAX (072)777-7446



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