「中国・上海での事業どうですか?」

 「ええ、むちゃくちゃ順調ですよ」


 そう答えたのは、大島金属工業株式会社(神戸市西区見津が丘、事業内容:精密金属プレス加工、精密板金試作加工、炭酸ガスレーザー加工及び金型の設計制作) 執行役員・生産統括部長の脇谷泰之さん(49)。


脇谷さん



 脇谷さんは(公社)兵庫工業会主催の2011年と2013年の承認コーチングセミナーを2回にわたり受講してくださいました。

 2013年、今年2月のセミナー終了時に


「前回(2011年)のセミナー以来、教わった通りやってみると、中国で思いのほか上手くいったんです」

と声をかけてくださいました。


 今日はその続きのお話を伺いに行ってまいりました。
 以下、一問一答形式で…。


 ―鶏インフルエンザとか大変なんじゃないですか?


「向こうはそれほどでもないんですよ。現地では報道規制であまり情報がないせいか、現地の人にきいても、『私は鶏を食べてないから大丈夫』『かかるのは年寄りだけだろう』とのほほんとしてる。こっちからは過敏になってマスクしていきますけど」


―中国事業はいつからですか。

「2005年に進出しました。当初はこちらの生産の仕事を移すためで商社と合弁会社をつくり、その後会社を分けたりして2つ会社をつくることになりました。今45人ほど従業員がいます。


 それまで私はマネジャー経験がなかったんですよ。最初は、こちらのやり方通りにさせようと怒ったりしてみたんですが当然上手くいかない。そのうち2008年のリーマンショックなどもあって苦しい時期が続きました。

 そんな時期を経験して、自分なりにとにかく相手を受け容れよう、いわば仲間として認めよう。うまくいったら一緒に喜び、だめなものははっきり言い、言ってきたことは間違っていてもとにかくまずは聴いてやろう、そのうえで意見しよう、とか。そう心がけていたときに、2011年の2月に「承認」の話を聴いたので、

『あ、オレのやり方で間違ってないんだな』

と思って。
 前の会社(某自動車電気機器メーカー)でありとあらゆる研修は受けました。でも研修は嫌いでしたけど。コーチングの本も色々読みましたが何だかよくわからなかった。ところがあの時の話は『わかった』と思えたんです。」


※正田注:2011年2月、兵庫工業会人材育成委員会主催のセミナーは、2時間の短いものでしたが、早回しで「承認」のやり方を一通り紹介し、「例の表」(承認の種類)もお配りし、かつ正田の著書『認めるミドルが会社を変える』を全員の方にお配りするという、今から思うと贅沢なものでした。あのとき参加された方はお得だったと思います。


「それ以来、私は中国法人の総経理としてそのやり方を徹底しました。ちょうど中国人の副総経理が偉くなって威張って下をガミガミ怒っていたんですが、そうすると下が畏縮してしまってはっきり元気がないんです。ですので副総経理にもやり方を教え、『こうやって下を育てるんやで』と。するとその下に4人、しっかりしたのが育ってきました。

 今はまたその4人に下ろしています、下の育て方を。それでうまい具合に、今年2月の講演の中にありましたね、ピラミッドの下につながりの円ができて、『子が孫を産む、コーチ型リーダーの下にコーチ型リーダーが育つ』という。あの循環の形になっています。ただ、一番若い層の子にやらせると、やっぱりほめたらつけあがっておかしくなるとか、あるんですね。だからその上の層のところで止めています。


 また、あの講演の中にあった「問題行動がなくなる」。見事になくなりました。問題行動というか、サボりっていうのがあったんですけど、仕事時間中にどこかへ行ってさぼってるというのがあったんですけど、それがきれいになくなった。


 今は、現場をよくお客様にほめていただきます。よく言われるのが、『みんな(中国人従業員)まじめに働いてますね』というのと、『見た目元気ですね』。先日は現場をみただけで、『よし、うちの生産の大半をお宅に回そう』。まあ、価格もありますから現場をみただけというわけにはいかないですけど。

 でも私もお客様に言うんです、
『とにかくうちの現場をみてください。私が言葉でうちの会社概要とかご説明するより現場をみていただければ一発でわかりますから』と」

 
―すごいことですね。


「みんな(従業員)もお客様がどう言われるかは非常に気にしてますね。『褒められたよ』と伝えると素直に喜んでます。

 私から見ても、中国法人の社屋はここ(日本本社)と同様、生産現場が一目でみられるようになっているんですが、何か問題や不良があったら必ず2-3人で固まって話をしている。問題の情報はすぐトップの私のところまで上がってくる。そういう雰囲気になったのはやはりここ3年ぐらいのことですね」


 脇谷さんからは、「みんな」という言葉がしょっちゅう出て、ぱっときいていると日本人だか中国人だかわからないような口ぶりです。「仲間として認めよう」というスタンスでいると、そういう区別の感覚がそもそもあまりなくなるのかもしれません。

 なお「私は言葉はできません」とのこと。

「その代り、こういうノート(リング式の切り離しができるB5判ノート)を持っていって図を描いてやりあいます。1週間の滞在でこのノートが2冊なくなります」


―定着率はどうですか。よく、ちょっと育ったら辞めてよそへ移ってしまう、とききますが。

「うちは辞めてないですね。はい、マネジャー以上で辞めた人はいません。若い人では、入ってすぐ社風に合わないとか仕事ができないとかいう理由で辞めた人はいますけど。マネジャー以上は全員残ってますよ。ボーナスが出なかったり苦しかった時期もありますけど、それでも」


―中国と日本、2つの文化の間で折り合いをつけることが色々あったそうですが、最近で中国の常識に合わせて譲ったことはどんなことですか。


「最近では、終業時間ですね。うちは8時半から5時半、というのが基本ですけど、向こうの人は5時から友達と外へ食べに行く習慣がある。これは結婚している子でも友達と外で食べるんです。で5時終業にしてくれって言うんです。
 悩みましてね、お客様は5時半までの所が多いですから本来はそれに合わせたい。ただ、彼らの言うことをきいていると、けっこう友達と交流する中で色々きいてくることもある。じゃあ5時からは社外活動に使いなさい、と。そこで終業時間を変えました。昼休憩の時間を短くして5時終業にしました。

 それから、社員旅行。日本だったら忘年会で飲むところですが、向こうでも女性は飲んだあとも家に帰ったら育児とか家のことをするので、ゆっくり飲めないという。飲んだら女性の方が強いんですよ(笑) それで1泊2日の旅行が中国式だというので、これは絶対毎年やっています。ボーナスが出なかった年もすぐ近くの1-2時間のところへバス旅行でしたが、それだけはやりました」


「逆にこちらの方式を押し通したこともありますよ。社屋を新しくするとき、総経理室や副総経理室は向こうでは普通、個室で壁で仕切って、謎の部屋にするものなんです。それは社員から随分言われました。でも私の意向で、総経理と副総経理は同室、かつガラス張りで外から見えるようにし、ドアは開け放っておく」



―脇谷さんにとって「仲間」というのはキーワードなんですね。

「はい、これは私のキーワードです。『いいことがあれば一緒に喜び、悪い事ははっきり言うのが仲間なんやで。単なる仲良しグループやったら仲間やない、傷のなめあいやったら仲間やない』って。イヤがられるときもありますけどね。
 これはいつからかなあ、学生時代のスポーツは水泳でした。ただ、高専だったんですけど、部活のかたわら、デパートの催事場でやるようなキャラクターショーのぬいぐるみを着て戦ったり踊ったりするアルバイトをしていまして。4年やって、最後は6人のチームのリーダーのようなことをしていました。それをやりながら気づいたのは、キャラクターショーに出るぬいぐるみを、ちびっこは本物だと思ってるんです。子どもの夢を壊しちゃいけない。だからTVを観て本物の戦隊の動きを研究しましたし、一緒のチームの人にも『困ったことがあったら助けるで。でも1人でも本気でやってない人間がおったら6人全員が本物じゃなくなってまう。だから全員本気やで』と。」


 静かに熱い脇谷さんでした。こういうタイプの中国事業成功体験談というのはあまり聞いたことがなかった私であります。以前にきいたダイキン工業さんの進出セミナー(2012年3月)などはもちろんこれよりかなり大規模なことをやっていますが、大島金属工業さんは日本本社38名、中国法人45名という規模のところなので大変普遍的価値があります。
 
 
 また国がどこであれ、良いリーダー、承認するリーダーのもとで仕事をすることができる人がいることは、その人の人生が他とは比べ物にならないほど意味のある、血の通った、輝きをもったものになるだろうことが想像されて、正田は無暗と幸せになってしまうのでした。脇谷さん、ご登場ありがとうございました。


 その後8月、大島金属工業・脇谷さんに再インタビュー。さらに9月には、上海工場に実際にお邪魔させていただきました。


シリーズ「『承認中国工場』・上海大島の奇跡」

「とにかく現場を見てください」で仕事が来る中国工場―脇谷泰之さん(大島金属工業執行役員)インタビュー
http://c-c-a.blog.jp/archives/51857608.html


「責めない現場」は可能か?脇谷さんインタビュー(2)
http://c-c-a.blog.jp/archives/51866966.html


承認の輸出先 「上海大島」訪問記(1) 手作り治具にウルトラC改善・知恵と工夫の戦場上海
http://c-c-a.blog.jp/archives/51871514.html


承認の輸出先 「上海大島」訪問記(2) ―「僕嫌われ者ですよ」―「まじめ」「元気」な現場づくりはダメ出しと質問と承認の風景
http://c-c-a.blog.jp/archives/51871516.html


ものづくり企業を元気にしたい!元気な現場、自然さと合理精神、グローバルリーダー―脇谷さんとの対話
http://c-c-a.blog.jp/archives/51891670.html


100年後に誇れる人材育成をしよう。
NPO法人企業内コーチ育成協会
http://c-c-a.jp