最近まとめた、「承認マネジメント」に関する「よくある質問集(FAQ)」です。

 「承認」という肯定的なものをご提示すると、必ず「ネガティブ」な疑問が反動で湧いてくるのがわたしたち日本人のつねであります。
 これほど現実のマネジメントに役立つものはないのに、悪い方向へ悪い方向への想像力をはたらかせて悪いイメージを持ってしまっては、もったいない。
 これまで受けたご質問、受けそうなご質問とそれらへのご回答を集めてみました。ご覧ください。

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Q.「承認マネジメント」では悪い人も褒めなければならないのか?

A. 基本的に良い行動をとった人を承認します。それによりその人を伸ばすとともに周囲がその人を模倣して全体がレベルアップすることを促します。悪い行動についてほめると助長することになるのでほめません。ただ存在だけは承認します。


Q 「承認マネジメント」は叱れないのか?

A. むしろ、「叱れるマネジメント」ともいえます。承認するリーダーで叱るときは強烈に叱る人も多く、「あかんかったら、あかんと言う」と言っています。叱った場合にも相手が聴く耳をもってくれやすいのは、承認していることの大きなメリットです。また、最近多い「叱れないリーダー」も、承認を身に着けると叱れるようになるのも良くあることです。相手と信頼関係を作り、少し踏み込んだことも言える関係づくりができるのです。職場の規律規範の維持のためにこのことは大変有効です。


Q.自分は上司から承認された経験がまったくないし、されて嬉しいと感じないと思う。

A.「承認」についてこれまで経験がなかった場合、感じ方がわかりにくいかもしれません。一般の企業の営業職、製造現場、事務職、販売サービス業などはチーム作業の性格が強く上司部下の関係が密です。そうした職場では、「承認」は非常に大きな効果があります。
また、「承認」には様々な形がありますので、・成長段階に応じて新しい仕事を与えてくれた、・大物の取材先を紹介してくれた―など、「行動による承認」(認めているよ、ということを示す行為)を伝えてくれていた可能性もあります。
なおJR西日本の安全研究所は2008 年、「上司との関係が悪い場合は、褒められても責任感が低下する」との調査結果を発表しています。


Q. 承認するより質問して考えさせる方が大事なのではないか。

A.これまでアメリカ由来のビジネスコーチングでは、質問のほうがより重視されてきました。ところが実際に職場でやってみると、質問されると詰問された、責められたと感じ、構えてしまう、黙り込んでしまう人が多いのです。これは日本人の不安感の高さゆえでしょう。安心感をまず求める日本人には、承認してから質問するのが有効です。これは当協会の会員のマネジャーたちはほぼ異口同音にそうだと言います。


Q 承認やコーチングは、ちょっとしたこと(行動)だと思うが、実際にやろうと思うとなかなかできない。

A.これまでの上司の方をモデルにできないので、ロールモデルがない場合に自然にできるようになるのは難しいかもしれません。今回のハンドブックを読んでいただいても身に着かない場合はトレーニングで身に着けるのが望ましいでしょう。新入社員がビジネスマナーを研修で身に着けるように、本来は管理職の方も基本行動として身に着けていただきたいものです。逆に身近にロールモデルがいる場合、本を読んだだけでも比較的楽に身に着けられた方もいます。



Q 上司として型にはめられるのは嫌だ。自然体でやりたい。

A.実際には、力関係で強い立場の上司が自分の思うままに振る舞うと、パワハラや部下のほったらかし(育成放棄)など、困った現象が出てしまいがちなものです。上司は自然体に振る舞うのではなく、上司としての望ましい行動規範を学習して身に着けることが必要です。日本人のモチベーションの低さを示す各種調査では、その原因として日本の管理職のトレーニング不足が挙げられています。これまでの経験でモチベーションの低い職場では上司は承認をまったくしていないなど、モチベーションと承認には高い関連があります。


Q.「承認」は日本人だけに有効なのか。

A.これまでの経験では中国進出企業で中国人スタッフに対して非常に上手くいったという報告があります。そのエピソードをみると従来の中国人スタッフでは考えられないような働き方を「承認」の下ではしてくれるようです。他の国では未知数ですが、アジア人種は遺伝子的に比較的似ているので、どこでも「承認」は使える可能性があります。また欧米人とりわけアメリカ人は「ほめる文化」ですので、「承認」をわざわざ強く言う必要がないだけかもしれません。日本人の場合上司の側も不安感が強いので、「承認」をするとき乗り越えるハードルが高いです。ただし思い切ってやってみると驚くほど有効です。


Q.重要なのは「承認」だけだというのは単純化しすぎなのでは?

A.もちろん他にも沢山のことが重要です。しかし現実に忙しいマネジャーが仕事中にどれだけのことを意識しながら仕事できるかを考えると、いくつも同時に意識せよというのはむしろ現実的ではありません。「承認」の汎用性や有効性に鑑みて、まずは「承認」だけ意識して、だめなら他のことを考えましょう、と言います。私どもの受講生や会員はそのやり方で非常に上手くいっています。ドラッカーは言わなかったことですが、「承認」は日本では非常に有効なマネジメント思想です。


Q.「承認」されなければ育たないというのは、弱い人間なのではないか?

A.よくトップアスリートやビジネスリーダーの方の中には、「自分ひとりの力でたたかってきた、他人からのほめ言葉など必要としなかった」という考え方があります。これは、恐らく「記憶のバイアス」といわれるものです。そうした優秀な方々も、初期段階では誰か身近な人がその才能や能力を認め、伸ばすよう励ました、あるいは温かい目で見守ってくれたのです。恐らくその後に、「修羅場体験」といわれるものを経験した時には自力でもがいて克服したことでしょう。そのエピソードがあまりに強く記憶に残っているために、初期段階で自分を伸ばす働きかけをしてくれた人がいたことを忘れている可能性があります。「承認するリーダー」たちの過去の事例発表では、「これまで伸びなかった人が上司次第で伸びた例は枚挙にいとまがない。その人達自身は『仕事が自分を伸ばしてくれた』と言うが、見ていた我々の目からすると育てるのがうまい上司の力のお蔭で仕事と格闘する力が育った」という言葉があります。





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