9月25-27日、「上海凱斯大島金属精密電子制造有限公司」(以下「上海大島」と略)をお訪ねしました。その模様を2回にわたりお伝えします。



 上海大島は、5月と8月にこのブログに登場された、脇谷泰之さんが総経理を務める上海のプレスメーカーさんです。従業員数は5月のときよりまた増え、50人ほど。年商約4億1800万円(2012年実績)。本社は大島金属工業株式会社(神戸市西区、大島孝一郎社長)。

 「小さな大工場」をみせてもらえる、いわば中国上海を舞台にした未来の大企業の創業物語をみせてもらえる、と正田は勇んで出かけました。



 過去の脇谷さん登場記事はこちら


「とにかく現場を見てください」で仕事が来る中国工場―脇谷泰之さん(大島金属工業執行役員)インタビュー(13年5月)
 http://blog.livedoor.jp/officesherpa/archives/51857608.html

「責めない現場」は可能か?―脇谷泰之さん(大島金属工業)インタビュー(2)(同8月)
 http://blog.livedoor.jp/officesherpa/archives/51866966.html



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 英国王のスピーチ?いやいや・・・

 真ん中が総経理の脇谷さん、左は副総経理の張国輝さん、右は営業技術部課長の潘霄雷さん。

「中国は一時期に比べ伸びが鈍化しているとはいえ、まだまだ魅力的な大市場です。それは間違いありません。ただ多くの日本企業は人数を減らしています。経営層に現地の情報が正しく届いていないのではないでしょうか」(脇谷さん)


 創業以来、業容拡大とともにプレス機など設備も増強している同社ですが、その大半は日本製ではなく現地メーカー製。

 
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 「創業当時(2006年)から、今から中国は人件費も上がる。徹底したコスト競争になると思っていた」と脇谷さん。
 その予想はみごとに的中したといえるでしょう。
 だから、新しい設備が必要になるたび徹底して日本と現地のカタログを見比べ、これと決めたらそのために貯金をした。

「こちらのスタッフは設備が必要なら本社に出資してもらおうと当然のように言いましたが、僕がそれをさせなかった。必要なものがあるなら自分たちどうしたらいい?ときいてきた」(脇谷さん)



 その現地メーカー路線では、思いもかけないような創意工夫も生まれました。


 例えばこの機械には、加工時に油を定量供給する機構を後から手作業で作ってとりつけました
 油供給機構のついた国産の機械はすごく高いのだそうな^^


手作り油供給機構



 このほか、検品作業を行う台には製品の埃やバリを吹き飛ばすエアーダスターというんでしょうか、それのノズル先がぐるぐる動いてまんべんなく埃を飛ばせる、そういう独自の機構もついています。これは見学したお客さんが目を丸くされるそう。

 こうした治具づくりの手作業を担うのは同社のドライバーの鐘さん。もともと大型トラックのドライバーだった鐘さんは同社入社後、社用車の運転のかたわら手先の器用さを脇谷さんから見込まれて、ちょっとした治具づくりを任されるようになりました。エアーダスターは徹夜で実験を繰り返しながら作業者にとって使いよいノズルの移動の仕方を研究したそうです。


 ラインの構築では工数低減のため、順送プレス機200T(自動機)で完了させる1つの工程を順送プレス機200Tと単発プレス機80Tに分けるということもしました。これは後工程を含む全工程での品質、作業効率を最適化するためだそうです。単発プレス機80Tの方では、1つの金型に2工程の作業を入れて効率化しています。日本では「1台に1工程」が不文律なので、ほぼ考えられないタイプの改善です。これは張さんと潘さん、製造部長の高さんらが連日6時間にもわたる会議で意見を戦わせながら、また脇谷さんも横から知恵を出しながら作り上げたもの。


 「改善は張君が1人で考えられるわけではなく、部長や主管クラスまで意見を出して戦わせるからいいものができる。以前は『頭ごなしマネジメント』だったのでそんなに下から意見が出なかった。今は出るようになりました」(脇谷さん)

 これは、2011年に脇谷さんが「承認コーチング」と出会ってから副総経理の張さんもその担い手となり、改善のスタイルも変わってきた、ということですね。

「ぼくも考えてみたらそうでした。創業以来ずいぶん張君らと言い合ってきたけど、お互い自分の意見を押し付け合っているだけでした、当時は」(同)

 とまれ、ここ上海ではプレスでも日本ではちょっと見聞きしたことがないような創意工夫や限界までの細かい技術革新のお話をききました。単純な「日本からの技術移転」で商売ができる時代ではなく、上海日系メーカー独自の技術を、創意工夫を絶えず編み出していく時代のようです。柔軟な知恵の創出と交換がそこには必要です。


 
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 ホームセンター等で買ったラックに完成品を置いて、擦り傷を防止


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 完成品を壁に吊り下げてある。これは、金型交換時に金型の損傷、摩耗を前の生産品と比較するための工夫だそうです。
前の生産時の工程サンプルを保管し、今回生産のものと比較して、穴抜きの切断面の状態や曲げ加工の曲げ部分の状態を比較して製品品質を確認するために使っています。
 


前半ここまで―後半「『僕嫌われ者ですよ』―『まじめ』『元気』な現場づくりはダメ出しと質問と承認」につづく


シリーズ「『承認中国工場』・上海大島の奇跡」

「とにかく現場を見てください」で仕事が来る中国工場―脇谷泰之さん(大島金属工業執行役員)インタビュー
http://c-c-a.blog.jp/archives/51857608.html


「責めない現場」は可能か?脇谷さんインタビュー(2)
http://c-c-a.blog.jp/archives/51866966.html


承認の輸出先 「上海大島」訪問記(1) 手作り治具にウルトラC改善・知恵と工夫の戦場上海
http://c-c-a.blog.jp/archives/51871514.html


承認の輸出先 「上海大島」訪問記(2) ―「僕嫌われ者ですよ」―「まじめ」「元気」な現場づくりはダメ出しと質問と承認の風景
http://c-c-a.blog.jp/archives/51871516.html


ものづくり企業を元気にしたい!元気な現場、自然さと合理精神、グローバルリーダー―脇谷さんとの対話
http://c-c-a.blog.jp/archives/51891670.html





100年後に誇れる人材育成をしよう。
NPO法人企業内コーチ育成協会
http://c-c-a.jp