「介護職の承認王子」こと林義記さん(老健施設相談室室長、34歳)インタビュー後編です。

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 ここでは、今年の「第3回承認大賞」のエピソードと登場人物について、また林さんの新たな課題「叱る/修正する」について、お話をうかがいました。

「今時の若いリーダーは叱れない」

 林さんも確かにその課題に直面し、そして奮闘しています。経験的に決して、「この研修を受ければ次の日から叱れるようになる」とはいえないもの。相談室という部署の特性、すなわち組織の外部との窓口であるとともに部下がみんな真面目で優しい子たち、という性格も加味しながらみてみましょう…。


林義記さんインタビュー2013・後編 「叱る課題。上司もつらかったんやなあと」

■緊張の塊からガッツある素顔が出てきた―第1エピソード「自分から積極的に声を出したね」
■「林さんがモデルなんですって言ってくれます」(林)「上司をロールモデルにしてくれるって嬉しいね」(正田)
■叱る課題(1):「意図をもった質問をしてるって言われました」(林)
■叱る課題(2):「問いかけることの限界、指摘も大事」(正田)
■承認はストレスではない。逆にストレスを減らしますね
■上司もつらかったんやなあと・・・

(ききて・正田)


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■緊張の塊からガッツある素顔が出てきた―第1エピソード「自分から積極的に声を出したね」


― 今年は過去の大賞受賞者でありながら「承認大賞上司部門」に2つも応募してくださってありがとうございます。「承認大賞」の今回の2つの事例(上司部門準大賞)に関しておうかがいしてもいいですか?

林:はい。

―第1エピソードは1年目のスタッフさんに「自分から積極的に声を出したね」これは誰君でしたっけ。

林:T君といいます。

―最初はなんか、言葉を出しにくいというか、どういう状態だったんでしょうね。

林:緊張しっぱなし、あがってる感じ。音楽会で幕が上がってガチガチになってる1年生みたいな。

―そういう、目線もすわってるみたいな?

林:うん、目も泳ぎますし。声もちょっと震える感じ。本当にあがってるときの感じ。

―じゃ、心配されましたねえ。

林:そうですね。実習で来てた子なので、初対面じゃなかったので、もうちょっと柔軟に馴染めるかなと思ってたんですけど、思った以上に緊張感が高かったので、最初は心配しましたね。

―そして入所1週間目のときでしたっけ、「自分から積極的に声を出したね」のエピソードがあって、それをきっかけに変わってこられた、という。
 その後彼は、どういう心境の変化があったとか、話してくれたりはしますか。

林:いえ、それは話してくれてないです。
 今もやっぱり気は遣うようなんです。みんな忙しい中でやってますので、仕事の中ではなかなかゆっくりじっくり聴いてやる時間をつくれないので。言うべきことの取捨選択とか、何を言おうと自分なりに整理をして伝えようとするとか、そういう工夫は随所にみられています。わからんかったら訊いてきますし、主体的な行動は随所にみられるようになったと思います。専門職なので専門的な知識というのも入ってこないといけない。つながってる感じといいますか、吸収してきている、知っていることが増えているというのは大きな変化かなと思います。
「自分に負けたくないんです」という言葉をよく言います。

―自分に負けたくない。へえ〜〜、何があったんだろう、すごい興味があります。
 元々緊張感の高いご性格やったら、普通は対人のお仕事に就かないで済まそうとせえへんかな、と思ったりしたんですが、でもあえて介護の仕事を選ばれたのは、彼の中でどういう経緯があってそうなったんでしょう。

林:この前事務所のミーティングをしたときに話してくれたのが、おじいちゃんおばあちゃんに自分がすごく恩があるみたいなんです。加古川だったと思いますが田舎の地域で育てられたので、おじいちゃんおばあちゃんに恩返ししたいというのが職業選択の動機にはなっているようなんです。

―ふーん、可愛いんですね〜。

林:「あ、そういう動機で仕事してるんだねー」「地元LOVEです」とか言ってましたけど。地元がすきで、地元のおじいちゃんおばあちゃんの役に立ちたいんでしょうね。それが、ここの施設のお年寄りに役に立つということが、彼にとっては広い意味での恩返しなんだと思います。「そういうことができるようになるには僕はまだまだ未熟だ」という自覚があって、でもしっかりお迎えしたいと。だから頑張りたいと。
 コミュニケーションが苦手な自覚はちゃんとあるんですよね。苦手な自分をちゃんと超えたい。そういう気持ちをもちながらやってくれています。

―すごいガッツのある子ですねえ。

林:そういえば「ガッツあるねえ」って承認しました(笑)

―(笑)そうですか、そうですか。



■「林さんがモデルなんですって言ってくれます」(林)「上司をロールモデルにしてくれるって嬉しいね」(正田)

―じゃあT君はこれくらいにして今度は第2エピソードの3年目リーダーのA君について。
 ミーティングで彼が発言したことについて林さんが「君がそういうことを言ってくれて嬉しいよ」と返して、Aさんがあとで「あれで自分のモチベーションが上がった」とおっしゃったんですね。ですけど、あのときにやっぱり気になったのは「チームワークが今一つないような気がします」っていうセリフがあったので、どなたか(会員)も講評の中で書いていたけれど、「悪い状態なのかな?」と。業務量が増えた、ということもエピソードの中に書かれてましたね。

林:はい、自分なりに意識をもって取り組めば、柔軟に機能する組織ともいえると思うんですけど、体制変更もあって人的量としては減ったので、業務量としては増えますよね。その中でちょっと「回ってないよな」という感じはあったんです。
 そこをちゃんと問題意識持ってくれてんねんな、ということが僕はA君の意見から伝わってきたんです。ので、彼が3年目でリーダー職に一応なりったので、リーダーの彼と管理者の僕としっかり協力していけば、このチームにしっかり稼がせていける、それがA君発言から僕の感じたことだったので。「そういうことを言ってくれて嬉しいなあ」と。

―とっさにIメッセージでミーティングの席上で返せるって、林さんすごいなあって思いましたねえ。私出来ないかもなーとか。

林:僕も藁にもすがりたかったし(笑)孤独で…、孤独が苦手で、自分でできることなんて限られてる、ちっぽけだなあって。助けてよ、って。ちゃんと助けてくれるメンバーが周りにいてくれるんやっていう。
 だから、「チームワークが今少しなってないように思う」というA君の発言のその奥に、「みんなで支え合いながら取り組めたらいいんじゃないですか」という思いが伝わってきたので。チームワークがないことを否定している言葉ではないと僕は感じられたんです。

―なるほどですね。先ほど「私なら言えないかも」っていうのは、「チームワークないような気がする」という言葉が出てきたら、「私への非難」ってまず受け取っちゃうだろうな、と。力不足の私、という。

林:うんうん。それも僕感じましたよ。

―そうですか(笑)

林:「ごめんね、まだまだ未熟やしね、力不足やしね」と。

―あ、そうも言ったんですか。

林:その場で言ったかどうかちょっと記憶が曖昧ですけど。
 4月に室長になって最初の朝礼のときに、
「名前は変わりません、林です」
「室長になったから偉くなったわけでもないし決して急に能力が伸びたわけでもないので、今まで通りのことしかまずは出来ないと思います。至らぬところもあるやろし、迷惑かけると思いますけど」
という挨拶をした記憶はあります。

―ふーん…、なかなかそれも言えへんことのように思いますねえ。
 3年目のAさんの立場で、上が10年上の林さんで、ミーティングでというときに、「なんかチームワークないような気がもします」という言葉が言えるというのも、やっぱり林さんの雰囲気づくりがすごいと思いますよ。言えへんのちゃうかなと思いますよ。

林:まあ、そうだったら嬉しいなと、威厳がなさすぎたら困るというのもあるんですけど(笑)。チームワークについては、彼(A君)も自分も何か役割を担っていかなならんという自覚も込めた言葉のように聞こえたんですよね。「僕も頑張るよ、それに対して」というメッセージが出た、と僕は感じられたんです。

―信頼関係ですね。

林:最近、A君が「林さんがモデルなんです」と嬉しいことを言ってくれたんです。僕「え、どこが?ほめられると嬉しいからほめて。モデルにしようと思うのはどこ?」と、あえて承認してもらうような質問したんですて(笑)すると、職員研修などとかで少し前に立って話したりする時、話し方とか話の進め方とか、声のトーンとか、身振り手振りとか、すごいって言ってくれるんですよ。何がすごいのか僕わからないんですけど。自分が話す時に、「林さんやったらどうやって話すかな」とイメージトレーニングしてから話してるんだそうで。コピーになろう、と。

―へえ〜。林さんが話す時というのは、相談室のほかの人に対してですか?

林:ミーティングの場面で話していたり職員研修で講師として話す時に、彼も受講生で入ってたりするんですけど、最近僕がしゃべってると、にやにや、にやにやしてるんですよ。

―ほう。気になりますね。

林:「何をにやにやしてんの?」「盗もうと思って」(笑)話の内容より何か、吸収したい!と思ってくれてるみたいなんで。いわば期待してくれてる。期待に応えられる人間でおらなあかんなとか。

―そこまで今の若い子が上司のことロールモデルと思ってくれるってすごいですね。

林:嬉しいですね。


■叱る課題(1):「意図をもった質問をしてるって言われました」(林)


―話は変わりますけど、林さんのその優しいキャラクターで、日頃から話し方も優しいしめったに叱ることもされないし、でも今部下がA君以外に3人もいてて、そのやり方で限界みたいなのを感じることってありませんか。誰かが問題行動しちゃったりとか。

林:うーん、あまりおかしなことは起きてないと思ってます。ただフィードバックを部下たちに貰ったんですけど、「ゆるみやすいですよね」というのは言われました。9月か10月ごろです。

―ゆるみやすい?(笑)ゆるむ時って例えばどんなです?

林:極端な言い方をすると、(上から)ミサイルが飛んできてるんやけど、避難しないというか(笑)危機感レベルが下がっちゃうというか、「林さんがいたら安心や」と思っちゃうみたいですね。安心感を持って仕事してくれるのは有難いと思うんですけど、何か上手いこといけへんことがあっても、最後は一緒にやってくれるとか。

―それは大事なことですね。

林:一方で自分できっちり押さえていくという緊張感というんですかね。もしかしたら僕でも解決でけへんこともあるわけで、たまたま上手いこといってますけど。そういう意味で「ゆるみやすい」というのは出ましたね。

―それはどのへんの子が?

林:A君(3年目)ですね。「自分らも甘えているというのはいけないことなんですけど、ゆるみやすいところはありますよね」と。確かにそうかもな、と。
 叱る。…うーん、怒れないんですよね。

―確かに林さんが怒ってるのはホントに想像つかない(笑)それはお子さんの頃からそうやったんですか。この笑い目のお顔で(笑)

林:そうですね(笑)感情に任せて怒り狂ったという自覚が本当にないですね。でもそれを10月に言われてからは、気になったことは指摘はするように、自分なりにはちょっとスイッチを入れようとは思っていますね。
 10月に若手の子が立て続けに3つやらかしよったんです。

―え、何をした?

林:ご家族と良好にコミュニケーションがとれず、非常に不信・不満を抱かせるようなやりとりをしてしまっていたんです。大した出来事ではないので、引き続き同じ子にやらせて、このプロセスから何かを学べるだろうと期待しました。いきなりやらせたら不安もあるから、「どうやって言う?」とか「次の報告どうやってしようか」とか、事前にロールプレイをして、ところが結果が悪い方に悪い方に行って、そこで止めれば良かったんですけれども行くところまで行ってしまったんです。

―それは、林さんが途中で出るということはしなくて、若手にとことん任せてそうなったんですね。

林:そうですね、任せてもできるだろうと思ったんですけれども上手くいかなかった。その3つが一旦解決に落ち着いたので、振り返りをして「どこが課題やったのか」と言っていたときに、課題としてはスキル不足がもちろん挙ったんですけれど、もう1つは僕がロールプレイをすることによって、安心してしまうと。

―あ、ロールプレイをすることによって安心してしまう(笑)

林:ロールプレイって、その通りにならないじゃないですか、予行演習ができるだけで。違う反応が返ってきたりすると、キャッチしきれなかったりして「あ、違う」みたいな、とか。ちょっと化学栽培しすぎたというか。その案件についてはですけど。自然栽培したほうが良かったのかなと。

―自然栽培って?

林:その子たちが自分の力でやっていけるようにした方が良かったかなと。ちょっと手出し過ぎたかなと。伸びてきてから剪定しても良かったかなと。ちゃんと土を耕してやったら良かったかなと。なんでこのぐらいの些細なことでご家族さんのほうが指摘をしてきているのか、という背景のところですよね。支援する側の子が、ご家族さんの言葉の中の重さとか価値とかをじっくりほぐしておけば、と。

―ご免なさい、私全然イメージでけへんのですけれど、インテーク面接の場面で部下が上手くいかなかった場合にその次の指導というのは、ここにいる相談員の人の強みを伸ばしてあげれば解決するってものではなくて、かえってそれで先方様(ご家族)との食い違いが大きくなる場合もあるわけでしょう。じゃあそうじゃなくて食い違いが起きないようにするには、「前回何が悪かったの?」という問題探し的になるのかしら。素人だから全然わかってなくての質問なんですけど。

林:相手の方を君はどう理解したのか、理解が十分だったか不十分だったか。それと人との関係づくりという大きく2つに分けて課題探しをしますね。このときは僕が理解したことと彼が理解したことが、やっぱり一致してなかったんです。僕は一致してたもんだ、と捉えれてた反応があったんですけど、やっぱりわかってなかったようなんです。

―それは何年目の子?

林:A君もいっこ失敗しましたし、さっきのストレングスファインダーの彼も2個(笑)叱るまではいってないと思うんですけれども、「具体的にここが僕はわからない」とか、「これについてはどうするんだ?」と確認をすることを今、ちょっと増やしてますね。それが「叱る」につながるのか、というのはあるんですけれども。それで「ゆるみすぎる」ということに縛りをかける、という意識をしてますね。

―そうですか。問いかける形で修正をかける、という感じですね。そのへんはちょっと試行錯誤中でいらっしゃるんですね。

林:上司から言われたことは、「林君は質問が意図をもった質問になってきたね」と。これもまあ、3日前に貰ったフィードバックですね。

―意図を持った質問。それはどういう意味?

林:相手がどう考えてるか、とか、どう感じ取ってるのか、とか、僕が上手くキャッチしきれなかったことを質問することによって、相手が語ってくれて明確にしようとしてるよね、というような説明をそのときはしてくれました。
 叱るというアプローチではないですけれど。

―林さん流のそういうやり方というのは、確立してきたら私はおもしろいな、と思ってるので、ほんと純粋に興味でおききしているんですけれどね。
 研修ではこういう表を作って問題行動とか過失の程度に応じてこういう修正のかけ方がありますよ、というのを見せるようにしています。軽度か重度かによって、このへん(重度)に最終手段として叱るとか怒るとか制止するとかいうのがあって、このへん(軽度)にはからかうとか問いかけとか指摘とか。先日もあるところの研修でこういう図をかいてご説明したんですけれど、問いかけだったら「は?」とか「これちょっと説明してくれる?」とか。でも相手によってとか、する側、林さんの側のキャラクターによってここ(軽度)だけで済んじゃう場合ってあると思うんですね。おききしてたら相談室の皆さん、みんなモチベーションは高くて、この仕事にすごく使命感をもってやっておられるから、そんなに理念にもとるような問題行動があるわけじゃないでしょう?そういうのがあったらここ(怒る)になっちゃうかもしれないですけど。一生懸命やってる中のミスとか、ちょっとした行き違いというときに、ここ(問いかけ・指摘)で止めて上手く修正かけられたら、まあ嬉しいですよね。

林:気づいたところで、問いかけしてるのかなあという感じですかね。



■叱る課題(2):「問いかけることの限界、指摘も大事」(正田)


林:あと、僕の価値観として、人に迷惑かけるのが嫌いなんですよね。「迷惑かけなさんなや」と言って育てられたので。

―そうなんですね。そういうお子さんの頃からの教えって結構大事ですよね。

林:骨身に沁みついてますね。それで最近ちょっと別な場面で叱りはしてるかもしれないです。
 チームプレーやから自分だけで全部やれるわけじゃないので、誰かに仕事残して頼まなあかんときがあるわけですよね。そこでそのパスを回していると、回される側がちょっと大変やろ、よ、という、「それで渡されて相手困るで」というときに、もう1つ2つしてから渡したらいいのになーと。そういう時には、
「ちょっと大変やけど、ひとまとめしてから渡さないとここの解釈で困るよ」
と、そういう指示も出すようにして。

―なるほど、なるほど。林さんの場合ベースラインが「承認」やからこのへん(表の軽度の方の外れ)ですやんか。それがたまに、このへん(問いかけ・指摘)のあたりに振れたりすると、それだけで相手にはインパクト大かもしれないですね。

林:そうなんですかね。ちょっとまあ、叱るということについては…苦手意識(苦笑)という感じです。

―林さんが意識して問いかけをされてるということと、やっぱり時々指摘っぽいことも言われている、ということ、それもすごくいいな、って思いましたね。というのは問いかけ一本槍で叱ることの代用をしようとすると、問いかけに対して叱るとか責めるとかの意図をみんなが感じるようになってしまって、問いかけが問いかけとして機能しなくなってしまうと思うんですよね。なので「指摘しよう」と思ったら、思い切って切り替えて指摘の形で言うって大事なことだと思うんですね。
 こことここ(問いかけと指摘)の間を行き来しながら、という感じですかね。
 すいません、先生口調でおこがましくて。

林:いえ、参考にします。
 自分でも課題意識があるところなので。ありがとうございます。



■承認はストレスではない。逆にストレスを減らしますね


―ちょっと最初の方の問いに戻るんですけれど、もう「承認」歴3年になられて、最初の頃に比べてご自分で今どんな段階になられていると思います?

林:そうですね、板についてきた感じがする。自然な感じになってきた。承認について。だいぶ意識してしないとできなかったものが、朝来て探すのも意識づけなんですけど、ふっとこう廊下を歩いていると「あ、髪切ったね」とか、なんか気づくんですよね。

―気づくんですか。あたしまだでけへんと思う、それ(笑)

林:気づくことが多いです。そっちにずっとフォーカスしてるんだろうなと思います。気がついて、そして気がついたことが言葉になって出てる。そこに不自然さを自分ではあまり感じない。構えもしてなければ、言ってやろうとも思わなければ、そういうのを板についてきたかなと。

―そうですか。ああそういう域に達されてるんですね。もう師匠って呼びたい(笑)いやほんまに。

林:それはないですよ。修業中ですから(笑)

―いや、情けないけれど私自身がそういう毎日を送れてないんで、羨ましかったり、「あ、もう林さんのほうが上行ってはるわ」と思ったりします。

林:慣れた場やからというのも大きいです。勝手知った人たちやし。

―「承認」が自然な感じになってきた、板についてきた、ということでしたけど、そうすると人を承認する、ということは林さんにとって全然ストレスなことではないんでしょうか。

林:ストレスではないですね。ストレスを減らしますね、逆に(笑)絶対減ってると思います。不思議な感覚なんですけどね。

―よかったらその感覚を教えてください。

林:相手に可能性を感じる、というんですかね。「こいつすげーヤツになるんじゃないかなあ」「なってほしいなあ」と。「このいいとこ活かせばいいのになあ」と。
 今まで「なんでそうなるんやろなあ」とか「なんでせえへんのやろなあ」とか、「もっとこうしたらできるようになるのに」とか、そんなふうに思う場面が多かったんですけど、承認に出会うと、「もったいないなあ」という感覚になるときが多いです。「せっかくええもん持っとんのに」と。

―そうなんですねえ。「もったいないなあ」。
 私まだね、その風景が見えてないかもしれない。林さんに見えてる風景が。羨ましいな、そういう風に思える瞬間をいっぱい経験されてるというのは。

林:ストレス少ないですよ。白髪増えましたけど(笑)ストレスなのかなあ。


■上司もつらかったんやなあと・・・


―ありがとうございます。何かほかに言い残したことは?

林:上司の悩みを何度か訴えたこともあったと思うんですけど(笑)、最近その上司がいい感じですね。

―そうですか。何があったんでしょう。

林:これも最近の話題。つい11月の25日ですわ、ちょっと部署の異動とかがあって、事務所の体制を変えなあかんので私と上司と担当者と計4人でミーティングしてたんです。そこで結構上司が担当者の女性にフィードバックしてたんですけど、僕がきいてる限り、ものすごくきつかったんです。どっちかいうと上司が叱ってる、承認度外視で。「ダメだ」っていうメッセージがすごく強かったんですよ。「そんなんじゃダメだ」と。すごく居心地悪くって、「いやいやいやいや、彼女すげえ頑張ってるよ」「まず承認でしょう」と思って。
 で、ミーティング終わってから、「フィードバックきつかったですよ」と僕が上司に率直に言ったんです。「そうかなあ」と言って、そして次の日。「家に帰って考えたんだけど、ほめようと思う」と。

―あら。(笑)ほう。

林:それからは、ほめてるんですよ。「あ、ちょっと響いた」と思って。
 承認のことはずっと上司にも言っていて、大事なことだというのはわかってくれてるんです。承認するのも好きな人やし、やったら絶対できるし、上手になれる、得意になれると思うんですけど、出てくる言葉メッセージがどうしてもネガティブな言葉メッセージが多くって、周囲が委縮してしまっていたたりとか。ちょっとコミュニケーション上駆け引きやってるときもあるのを感じるので、それでいかれると何も返されへん、というのを感じてました。それで「ほめたほうがいいですよ」というのをずっと言ってたんです。このたびはすごくヒットしたようみたいで、上司もほめるようになってきましたたという感じです(笑)うれしいですね。

―すごいですね。ミーティングのあとのフィードバック、これ効いたんじゃないですか。

林:影響力がある人なんですよね。カリスマ性があるというか。羨ましいと感じるときもあります。副施設長という立場もありますので、何か言ったときのインパクト、相手の受け取り方の重みが僕たちと違います。だからほめてほしいなあと、ほめる言葉が出てくれるようになって嬉しいなあと。

―嬉しいですねえ。わあ良かったですねえ。

林:ご心配かけてた事項だと思うんで。

―一時期林さん、辞めたいまで言われてましたもんね。

林:そう、僕も否定的にしかとれなかった時期でしたし。色んな思いもありますけれど。

―林さんの説得力が出てきたのかもしれない。フィードバックを聴いてくれたということは。

林:そうですねえ、4月に室長になってから半年ほど、ちょっと刺激的だったので。その立場になってみて、ああ上司もつらかったんやな、ようやってたなと最近思うんですよね。そこに僕が立てるようになったというのは、関係が深まっていくきっかけになったんちゃうかと思いますね。本当、大変ですわ。ようやっとったなあと。でも僕っていう部下がいて良かったねとも思うんですけど(笑)

―今のA君のような立場を林さんがやってたのかしら。

林:上司にとっての林のような存在にA君がなっていってほしいですね。体制が変わったので、今までやってきた15年の歴史と伝統というものもあるんですけど、その上に承認育ちのA君らが新しい家をリフォームし直すんじゃないかと、ワクワクしてます。

―それじゃあ、これからも相談室さん物語、楽しみですね。

林:1冊の本にでもなるんじゃないかと(笑)

―なりそうですね。今日はどうもありがとうございました。(了)


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 1時間半のインタビューの内容でした。
 相談室という、コミュニケーションそれ自体が主業務のような部署ということもあり、林さんはどんどんコミュニケーション上の新しい発見をし、挑戦をし、世界を広げています。殺伐とした世界にいる正田からみるとやっぱり羨ましいような…。

 独自の世界を切り開いている林さん、これからも沢山の発見を教えてくださいね。




 「叱る」についてのやりとりは、「顔色ひとつ変えずに人を叱れる」といった、生まれつき「叱る」才能に恵まれた人からみると、もどかしい感があったかもしれません。叱ることが苦手な人にとってはこれほどに苦手なのか、ととらえてくださると嬉しいです。
 結局ベースのご性格によっては、「叱る」ことを無理じいするとご本人の強いストレスになってしまうことがあり、今回もそれを念頭に、林さんご自身の現実世界での痛みを含めた気づきに基づいて「叱る」「指摘する」行動を選択できるように、恐らくそれでなければ根づかないだろうから、と「待ち」の姿勢で正田はお話をうかがったのでした。
 「間違ったら人が死ぬ」(ひょっとしたらごくまれには死ぬかもしれないのですが)業務ではないのが幸いでした。


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