兵庫県中小企業団体中央会の会報、月刊「O!」に連載中のコラム「誌上コーチングセミナー」第9回。新年号原稿を同誌編集部のご厚意により、転載させていただきます。

------------------------------------------------------

 「ネット・スマホ依存があなたの会社を蝕んでいる!?」


 気付かないうちに「人」の問題が起きて、成長の足かせになっている…そんな現象があなたの会社にもありませんか?「人」の問題によく効くクスリ、「コミュニケーション」「リーダーシップ」の観点から解決法をお伝えします。

 
「社員同士でオンラインゲームをしている」
「休憩時間にはトイレでスマホ操作の音がしている」
「勤務時間中の一時退席が異常に長い。たばこ休憩ではない」
「原因不明の頭痛を訴え無断欠勤が続き、退職」

 あなたの会社には、今どの程度こうした現象が出ていますか。

 これらは決して倒産寸前の特殊な企業に起きていることではありません。優良企業といわれる企業にも今、スマートフォン(スマホ)やインターネット(ネット)の操作をやめられない「スマホ・ネット依存」(以下「ネット依存」と略)が深刻なリスクになってきています。

「若い派遣社員が返事だけはいい。しかし仕事の覚えが非常にわるく、教えたことをすぐ忘れ、ミスが多い」(製造業現場リーダー)

 生まれつき物覚えの悪い人も、従来から一定数はいます。しかし、かつてはご本人の性格的な問題だけだったものが、今日では本来物覚えのいい人であってもスマホやネットのオンラインゲームやLINE、フェイスブックなどのSNSでのメッセージのやりとりに気を取られるあまり、仕事に集中力を欠いているという現象かもしれないのです。

 「集中力を欠いた労働力」がつくる仕事の品質はさあ、どのようなものになるでしょうか…。

 子どもの世界では、一足先に深刻な「ネット依存」が広がりをみせています。厚労省研究班が2012年から13年、中高生計10万1千人を対象に行った調査では、約8.1%がインターネットへの依存度の高い、「病的使用」とされ、全国では約51万8千人が病的使用状態にあると推計しています。若者のネット依存やいじめなどの問題に詳しい兵庫県立大学准教授の竹内和雄氏は、予備軍的なものも含めると中高生の3人に1人は「ネット依存」の傾向があるだろうと語っています。

 大人のネット依存は最近注目され始めたばかりで、まだその全体像がわかっていません。しかし、冒頭のようにネット依存をうかがわせる現象が、昨年ぐらいから筆者にもちらほら耳に入るようになりました。重症になると1日8時間続けて徹夜でオンラインゲームやSNSをし、無断遅刻や無断欠勤にもつながります。

 また、ネット依存ほどでなくても、ここ数年、ネット上で有名人にSNSで簡単にアクセスできるようになったことから、「身近な上司を尊敬しない」という現象も生まれてきています。

 非常に憂慮すべき状態ではありますが、この状況にどんな対策を講じることができるでしょうか。

「日本の若者がダメだから外国人を採用すればいい」

というのは短絡的に過ぎる議論。若者のネット依存は日本だけでなく、先進国〜BRICSに共通してみられる現象です。

 根本的には、本コラムで繰り返し推奨している「承認」(認めること)が重要でしょう。ネットに逃避する若者は、現実世界に対して何らかの不満を抱えていることが多いといわれます。本人の小さな成長やチャレンジを励まし、評価してやる。正しい提案を握りつぶすような「組織の不合理」をできるだけ排除してやる。そうして現実世界と格闘することのおもしろさを若者に学ばせることが、現実逃避の最大の予防になります。

 それでもだめな場合は…、ネット依存による無断遅刻、無断欠勤、ミスの頻発などは、原因に関わりなく「普通解雇」の事由になる、というのが、現在のところ企業法務に詳しい弁護士の先生の見解です。

 文明の利器である、ネットとスマホ。その賢明な使い方とともに、企業社会、大人社会のあり方も問われています。(了)

(兵庫県中小企業団体中央会「O!」2014年1月号所載)

---------------------------------------------


 いかがでしょうか。

 短い原稿ですが、今回は大変書いていて気が重く、執筆がすすみませんでした。

 ネットに耽溺して人生の中のもっとも柔軟な時期を過ごしてしまった若者のその後の人生はどうなるのだろう…。

 若者をユーザーとするネット社会を構築するIT企業の企業姿勢も問われるでしょうし、LINEなどでのべつ繋がっていなければ気が済まない若者の人間関係のあり方も問われます。どちらも簡単にはいかない問題です。

 
 そして最終的なツケは企業社会に行き、企業にとってのセーフティネットは上の記事にあるように「普通解雇」になるのでしょうが、そこで切り捨てられたニート予備軍のドロップアウト組の若者が大量発生するおそれがあるのです。


 業種でいいますとこうした「ネット依存」は発達障害の問題と同様、特定の業種に典型的にみられるのです。ところが地域のその業種の団体(私自身会員でもある)に相談に行こうと思ったら以前にもここに書いたように出てきた傾聴能力ゼロの担当者と漫画のように見事に話がかみ合わず、その話題にたどり着くことすらできなかったのでした。

 中央会様の「O!」に発表場所を持てて幸いでした。

 
 「承認」が解決できる諸課題、以前から書いているワークライフバランス、女性活用、障害者雇用、グローバル経営、パワハラ、メンヘルなどなどの効能書きに、これで「ネット依存」も新たに加わったわけですけれども、決して喜べる話ではありません。単純に「承認」だけで解決できる問題でもなく、企業として腰を据えた取り組みがいるのです。その「腰の据わった取り組み」をする気力のない企業は、安易に「普通解雇」に走ることになるでしょう。

(それは社会的責任の問題にもなりますが何よりも、しっかりした若い人の採用ばかり考えてそれ以外無策であれば、社員が入社したそばからリアルよりネットの魅力に魅入られていき退職に追い込まれる、ということになり、採用、新人教育、に永遠に振り回され重いコストを背負うことになるでしょう)


 そうして、この社会には、「生産年齢人口」(c:藻谷浩介氏)の人びとのその中の砂金のような、「非ネット依存生産年齢人口」の人びとで回さざるを得なくなるかもしれないのでした。アリ一匹でキリギリス9匹を養うようなもの、といえるかもしれません。

 どれだけ生産性高くやらないといけないことやら。



100年後に誇れる人材育成をしよう。
NPO法人企業内コーチ育成協会
http://c-c-a.jp