『Harvard Business Review』(ダイヤモンド社)2014年1月号は「人を動かす力」を特集しています。

 同誌は周期的にこういう特集を組み、わたしも周期的に買って紹介している気がします。

 その中から二篇の論文をご紹介しましょう。

 「温かいリーダーか強いリーダーか」(原題' Connected, Then Lead')では、「リーダーはまず温かさを示せ」ということを言います。

 ここではマキャベリの「愛されるよりも恐れられるほうが、はるかに安全である」の言葉を引きながらも、それとは別にこう言います。


 
今日のリーダーは、職場における自身の強さ、能力、資質を強調する傾向がある。だが、これは完全に間違ったアプローチだ。信頼関係ができる前にリーダーが強さを誇示すれば、相手は恐怖に陥り、組織の機能を損なう行動が多発するおそれがある。恐怖心は認知面のポテンシャルや創造力、問題解決能力を蝕むため、社員は身動きがとれなくなり、場合によっては職務から脱落してしまうかもしれない。恐怖と歯「激しい」感情であり、その影響はなかなか消え去らない。「穏やか」な感情とは違って我々の記憶に焼きつくのである。
 (中略)
 影響力を発揮して人を統率するためには、まずは温かさを示すことから始めるべきだと示唆する研究が増えている。温かさのある態度は、信頼の構築やコミュニケーションを円滑にし、アイデアを引き出しやすくするという意味で、影響力を発揮する通路となるのである。
(太字正田、以下同じ)

 温かさを示すにはどうしたらよいか。著者によれば、言葉以外のちょっとしたシグナル―たとえばうなずいたり、ほほえんだり、オープンな姿勢を見せたりするのがよい。口調はトーンとボリュームを控えめに、率直に、ごまかしや大げさな感情移入をせずに、大事なことを共有してくれていると感じさせる口調で。そうすることで、物事を適切に処理するために腹を割って話しているというシグナルが伝わる。また、オープンな態度を示すために、自分の個人的な話を、打ち明け話をするような調子で話してみてもよいかもしれない。ある有能だが人間関係の問題を抱えたマネージャーは、ミーティングの冒頭やプレゼンテーションに自分の子ども時代のエピソードを加えることで、温かさや親しみやすさの面を同僚に示すことができるようになった。

 このほか、部下たちの感情やものの見方を共有する(共感)、というのも効果的なやり方だと著者は言います。

 
たとえばあなたの会社で大規模な組織改革が実施されていて、グループのメンバーが、クオリティ、イノベーション、雇用保障の面の影響に不安を募らせているとする。メンバーと話す時には、彼らの恐れや懸念を受けとめるようにしよう。これは正式な会議の場でも休憩中の雑談でも同じである。みんなと目を合わせながら、「君たちがいま、大きな不安を感じていることはわかっている。とても落ち着かない状況だ」と話せば、グループが共有する問題にあなたが立ち向かおうとしていることにメンバーたちは敬意を示し、より心を開いてあなたの話を聞くようになるだろう。

 
 ここには触れられていませんが当然、「承認」(口先のお世辞ではなく本心からの誠実なもの)は何よりも強い「温かさ」の提示方法であり、「承認」は強力なリーダーシップの手法である、という当協会の従来からの主張を補強することにもなります。「温かさ」を示すことに成功したリーダーは、次の段階で「強さ」をも効果的に提示できるのです。


 続いてわたしたち自身はなぜ「強さ」の方を提示しようと躍起になるのか、について。
 私たちはみずからが職務に適任であることを証明しなければならないという強迫観念にかられ、会議で最も斬新なアイデアを出し、先陣を切って困難に立ち向かい、だれよりも遅くまで仕事をしようと躍起になっている。しかし実際に人が他者を評価する時に最初に注目するのは、その人が信頼できるかどうかという点なのだ、と本稿の筆者はいいます。

 「しかし、能力を最初に押し出してしまうと、リーダーシップの面ではマイナスになる」と筆者。「信頼関係のない職場では『自分の身は自分で守る』ことが原則となり、各自が自分の利益の保護に神経をとがらせることになりがちだ。また、他者に手を貸しても見返りや評価につながる保証がないため、そうした行為に消極的になる可能性もある」

 信頼のない職場では協力関係もない。逆に「承認」を導入してしばらくした(といってもほんの1−2か月のことです)職場で協力行動の増加がみられたことはこのブログには何度もでてきました。

 
 「温かさ」は最初に評価される。社会心理学の研究では、実験参加者に顔だけで他者を評価させたところ、一貫して能力の高さよりも温かさが先に指摘された、といいます。さらに実験参加者にワード・パズルを解かせたところ、能力に関する単語(「熟練」など)よりも温かさに関連する単語(「友好」など)のほうが有意に早く回答されたとのことです。
 行動経済学の分野では、パートナー候補の顔をぱっと見た印象に基づいて、より信頼できそうだと判断した相手により多くの資金を割り当てた。この論文ではありませんが2人の人が会話している様子を観察して、どの人が信頼できるか、一緒にビジネスをしたいか、と尋ねるとオキシトシン受容体遺伝子の最も高オキシトシンになるスニッブの持ち主が最も会話の中で共感を示し、かつビジネスパートナーにしたい相手だと評価された、といいます。

 ・・・と、それくらい「ぱっと見の温かさに基づく信頼感」は大事だ、というお話。恐いですねえ。


 次のフレーズは「承認」にお詳しい方であれば年来のこのブログの主張と重ねあわせながらお読みください。


 
 信頼関係があると社員が他者のメッセージに耳を傾けるようになるため、アイデアの交換や受容もスムーズになる。その結果、組織のなかで量・質ともに豊かなアイデアが生み出されるようになる。

 しかし何より重要なのは、信頼を確立することによって、社員の表面的な行動だけでなく態度や考え方まで変えるチャンスが生まれるということだ。これこそリーダーが社員に影響力を及ぼすための最適なアプローチであり、メッセージを完全に受け入れさせる秘訣なのである。
 


 えと、しつこいようですがこれ正田が「承認の効用」について書いた文章じゃないんですよ。HBRに寄稿された、ハーバードビジネススクールの准教授がパートナーコンサルタントらとともに書いた論文です。

 この論文は残念ながら「承認」には触れず、ただあとのほうの文章で「人間には聞いてもらいたい、見てもらいたいという心の奥底からの願望がある」と、「承認欲求」に通じることを述べています。

 ひょっとして「承認リーダーシップ」「承認マネジメント」は、リーダーシップの一番入口で重要な部分を科学的に学習可能にした、世界最先端の画期的な手法だったりするかもしれません。
 仮説レベルでなく、「承認」に本気で取り組んだリーダーたちがいかに多くの奇跡を巻き起こすか、こうした海外の論文にもまだ登場したためしがないのです。

 というわけでいつもの伝で会員様、受講生様、分からない人たちのことはほっておいて、引き続き胸を張ってお取り組みくださいね。反対のための反対をする人たちはいずれ絶滅しますから。

 
 さて、「温かさ」だけがあって「強さ」がない人も当然リーダーには向きません。この論文によると、最も有能なリーダーは男女を問わず、ある独特な生理学的特徴を持っていて、それは相対的にテストステロン値(リスク・テイクに関連する)が高く、コルチゾール値(ストレス反応に関連する)が低いということだそうです。「相対的に」という言葉を使っているのは恐らく、テストステロン値は高すぎると粗暴な犯罪者、ルールを守らない人、他人を平気で傷つけたり奪ったりしてしまう人になってしまう、だから平均よりやや高めぐらいがよい、ということでしょう。

 
 
このような特徴を持つリーダーは、トラブルが起きてもそれに呑み込まれず対処できる。言動に緊張感があっても心のなかは落ち着いている。彼らの姿は周りにはしばしば「幸福な戦士」と映り、その振る舞いは人々の心を惹きつける。

 

 強さをボディランゲージで伝える方法というのもあり、最大のものは「良い姿勢で立つこと」。身長が最も高くなるように立つ。また、

体を動かすときはだらだらとせず、意識的かつ緻密な動きで意図した姿勢に収まるように心がける。そして動き終わったらしっかりと静止する。そわそわしたり何かをいじったりするなど、視覚的に無駄な動きがあると、自分をコントロールできていないという印象を与えてしまう。静止した状態は冷静さの表れである。
 


 モタモタした研修講師の代表、正田はこのあたりをよーくお勉強しなければいけないと思う・・・(苦笑)。


 さて、一篇目の論文の紹介で既に大分長くなってしまいましたが引き続き二篇目をご紹介したいと思います。

 『権力と影響力―有能なマネジャーと無能なマネジャーは何が違うのか』原題'Powwer, Dependence, and Effective Management' 、ジョン・P・コッター、1977年)

 優れたマネジャーはどのように権力を身につけ、これをどのように行使して影響力を発揮しているのかを26組織250人の管理職へのインタビュー調査から明らかにしたものだそうで、この分野の古典です。


 ここでも、スタッフ部門のマネジャーとライン部門のマネジャー間で「権力」についての必要性が違い、この論文ではライン部門のマネジャーはより権力を行使せざるを得ない、と言います。スタッフ部門のとりわけリーダー教育をふくむ教育研修に携わる人は、自分自身に実感が湧かなくてもそのことを学習して知っておいてもらいたいものです。

 筆者のコッターは、「有能なマネジャーは、管理職という仕事ゆえに派生する依存関係にうまく対応するため、四種類の方法によって権力をまとい、これを強化する」と述べます。ここでいう権力とは、権限とは違うものです。

 コッターの言うその四種類の方法とは・・・。

1.感謝や恩義を感じてもらう(恩を売る)
2.豊富な経験や知識の持ち主として信頼される
3.「このマネジャーとは波長が合う」と思わせる
4.「このマネジャーに依存している」と自覚させる


 上記のそれぞれの方法には長所と短所があり、状況に応じて上手く組み合わせて使うことが大事だ、とコッターは言います。このほか第三者を動かす(いわゆる「外堀を埋める」?)ことや、環境を変える(職務職掌、業績評価制度、各種インセンティブ、仕事に必要な手段や協力者などの経営資源、グループの構成、行動規範や価値観などを変える)といった間接的な方法もあります。


 結びにコッターは、「大きな権力を身につけ、これを行使し、他者との依存関係にうまく対応できるマネジャーには、いくつか共通する特徴が見られる」として、「権力を賢く使うための七か条」を挙げます。

1.権力を身に着け、行使するうえで、どのような行動ならば、周囲の目に「妥当である」と映るのかに敏感である

2.周囲に好影響を及ぼすには、権力や方法を使い分ける必要があり、そのことを直観的に理解している

3.四種類の方法すべてをある程度行使し、図表に挙げた方法すべてを用いる

4.キャリアの目標を定め、権力によって成果を上げられる地位を求める

5.持てる資源、公式・非公式の権力を総動員して、自分の権力をさらに強化する

6.熟慮し、自制しながら、権力志向の行動を取る

7.こうした方法を使って、他人の行動やワークライフに、目に見える形で影響を及ぼすことは、けっして不条理なことだと思わない


 以上であります。

 二篇の論文は同じようなことを言っているようですが大まかにいうと今世紀に執筆された前者はハト派、前世紀の後者(コッター)はややコワモテのタカ派かな、と思います。コッター論文には着任早々部下のマネジャー4名を解雇してしまったマネジャーも「権力行使の例」として登場します。前者の「温かさ」論文によればそれは組織を恐怖心で震え上がらせ、創造力を発揮させなくする行動と言われるでしょう。ひょっとしたら「権力」という表現とか括り自体、タカ派的かもしれない。前者論文では「温かさの影響力」と呼びたいかもしれない。

 21世紀、IT世代の人が組織の過半数を占めるようになると好むと好まざるとにかかわらず、「タカ派」的手法はどんどん通用しにくくなるでしょう、というのがわたし個人の予測であります。それは決してわたしが優しい人だからゆえの発言ではなくて・・・、

 あくまで会員様、受講生様方の成功と幸福を祈るのみです。



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NPO法人企業内コーチ育成協会
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