『自閉症という謎に迫る―研究最前線報告』(金沢大学子どものこころの発達研究センター監修、小学館新書、2013年12月)を読みました。


 なぜこのところこんなに「自閉症」「発達障害」にこだわっているのかというと、その予想をはるかに超える出現率ともあわせ、「敵を知り己を知れば百戦危うからず」の「敵」あるいは「己」に、その自閉症の性質が深く関わっているのではないかと思うからです。


 そんなことを言っているうちに、本日は面白い”事件”がありました。

 神戸で開催した女性活躍推進のシンポジウムのコーディネーターをされたダイバーシティーの専門家・渥美由喜氏が、冒頭あいさつの中で

「カミングアウトします。私、アスペルガーです。」

と言われたのです。数年前の来神のとき(2010年だったカナ)には言ってなかった。

 あとでお名刺交換して質すと、「ああ、最近言うようにしてるんですよ。大事でしょ?」とのことでした。

 私は承認という、ダイバーシティーに関連の深い手法の普及をしていること、最近「発達障害」にとりわけ関心をもっていること、などをご紹介しました。どうもやっぱりタイムリーな話題のようでした。


 いつもの伝で本書『自閉症の謎に迫る』の印象的だったところをご紹介します。


●自閉症スペクトラムあるいは自閉症スペクトラム障害について。自閉症の症状はスペクトラム状に現れて、自閉症の人とそうでない人を絶対的に区別することは非常に難しい。

●スペクトラムという考えを前提とすると、自閉的な傾向というものはすべての人にあるということになり、そのような傾向が濃いのか薄いのか、濃淡の違いにすぎないとも言える。ただし、誰でも自閉的な傾向があるからといって、すべての人に同じように問題が生じるかというとそうではなく、やはり自閉的な傾向が強いことによって、「生きにくい」状況を招くことは多々あるように思われる。


●青年期以降の自閉症をスクリーニングする自記式テストAQ(自閉症スペクトラム指数)。ネット上で無料で受検できる。たとえばhttp://www.the-fortuneteller.com/asperger/aq-j.htmlなど。質問項目50で50点満点。33点以上だと自閉症と診断される割合が一気に高くなる。健常大学生で33点を超える人は3%しかおらず、一方自閉症の診断を受けている人の9割弱が33点を超える。
 ひきこもり女でこだわり症の正田が上記のAQを試してみると、どれも真ん中へん(つまり「すごくそう思う」とか「全然そう思わない」ではないもの)の回答になり20点でした。ほんとか正田。本章の著者(大学教授)はいつも40点代後半だというが、正田は自分に甘いのかもしれません。
 えと、読者の方で「自分も怪しいかも?」と思われる方は、是非上記のサイトでお試しください…。


●自閉症の人の親やきょうだいに自閉症の徴候が部分的に見られる様態をBAP(Broader Autism Phenotype)という。自閉症とは診断されないきょうだいに、微妙な感情表出の苦手さがあったり、コミュニケーションの不得意があったりする。親は、人柄がよそよそしいとか、硬いとか、言語を対人的に使うのが不得手だとかいう報告がある。自閉症児の父親の他者の視線の動きに対する反応速度が、定型発達児の父親に比べて微妙に(0.04秒!)遅れるとする報告もある。

●一般大学生の専攻やパーソナリティとAQとの関連をみた研究では、英国でAQが高いと神経症傾向が強く、外向性と同調性が低かった。男子は女子よりも、また、物理や化学専攻の学生はそうでない学生よりもAQが高かった。興味深いことに、親が科学に関する仕事をしている学生は、そうでない学生よりもAQが高かった。日本では高知大学が一般学生にAQを実施したところ、文系学部よりも理系学部の学生のAQが高かった。

●自閉症はカテゴリでなく、程度問題に、すなわち量的に測定されるものに概念を変えることが今後検討されるだろう。(太字正田)


―ここなのです。私がこのところ「自閉症」について延々と考える理由は。わたしたち定型発達者の中にもある自閉傾向(ほんとは正田にも「おおあり」のはず)を考えることで、従来の人材育成の壁を突破できないか、と考えています。
 あっすいません突拍子もなくみえるでしょうが一応「12年、1位マネージャーを生んできました」の人が考えることだ、と思ってくださいね。当協会の会員さんぐらいは、ご理解くださるでしょうか・・・。


●自閉症はバイオマーカーではなく、行動特徴の定義に基づいて診断される。AQで勝手に自己診断しちゃいけません、あれはあくまで参考指標。観察や家族への聞き取り手続きが厳密に工夫される。が、所詮は観察し、聞き取りを行う専門家の直観に依存している。

―以前、「採用面接で発達障害を見抜けるか」と問われたことがあり、「セルフモニタリングが下手でできないことをできると答えてしまうことがある言行不一致の特徴を考えると、面接では見抜けない可能性がある。職場で日々行動をみているマネージャーが一番よくわかる」と答えました。


●発達障害の診断概念が広がり、それが一因となって診断が急増した。2012年にDSM-5が定められ、自閉症の診断名がそれまでの広汎性発達障害から、自閉症スペクトラム障害(ASD)に一本化された。ASD三基準の第一基準は、文脈の違いを超えた対人コミュニケーションの永続的な欠陥、第二が限局された行動、興味、あるいは活動の反復様式。三番目がこれらの徴候の小児期早期の発現だ。


●本書では落語「池田の猪買い」と「宿替え」を紹介する。古典落語に登場するおかしな人、粗忽な人はやっぱり発達障害だったっぽいのだ。正田は以前きいた落語で「これは絶対発達障害」と思ったやつをいまだに思い出せない…。


●「心の理論」の欠如は自閉症の専売特許ではない。

●自閉症状説明能力の高い理論構築が進んでいる。
1つめは、ローソンによる心の深部アクセス困難モデル(DAD)は、自閉症者が世界を、互いに結びつきのない原子論的現実に還元してしまっているとする。自閉症者の体験する世界は、膨大な、しかしばらばらな現実のモザイク、それの再現が興味や行動の反復性として現れ、対人コミュニケーションでは字義拘泥や文脈情報利用の失敗となる。

●2つめは、意識の進化論についての社会脳モデルだ。エーデルマンは低い水準の意識が、体から脳に遡上する価値感情と脳が外界から得てきた表象イメージの結合から成ると考える。この考えを自閉症に当てはめると、自己意識不全、ばらばらなモザイク的な体験世界、それらからもたらされる字義的な言語、他者理解の困難、反復的行動など、自閉症の謎が一挙に説明できるモデルが導かれる。感覚異常は、視床下部や扁桃体が担っている体内からの価値感情と表象イメージの結合の不全とみなせる。


―先日ご紹介した綾屋皐月氏の当事者研究に表れる独特の感覚は、上記2つのどちらにも当てはまりそうです。


●自閉症の地域差、民族差。英語圏に比べやや日本の方が高い。1万人あたりでみると、2006年に報告された名古屋市西部地域の調査では210人、2008年の豊田市地域についての報告では181人だ。これに対し、2011年のイギリスは全国的には98人、2006年の大ロンドンに属する大都市圏サウステムズ地域の報告では116人だった。アメリカでは、2008年連邦全体14か所調査では113人だった。


●世界最高の発現率を報告したのは韓国(246人)。大半が気づかれず、診断もされていないし、特別な教育も受けていなかった。これは勉強重視の韓国社会では社会性の問題は重視されないからだと調査者たちは考えている。一方台湾では34人と少ない。

―診断しないのは「障害者への差別、偏見」の問題もあるんでしょうか。わたしは、社会全体の嫌悪等のネガティブな感情の出現に発達障害は大いに関わっているのではないかと、韓国のこのデータに出会う以前から思っていましたが・・・。適切な療育を施せば、それは減らすことができるのではないでしょうか


●BRICSでは、ブラジルが2012年に27人、2004年から2005年の中国の天津市で10・9―13・9人と先進国よりはるかに少ない。しかも重症例がほとんどだ。先進国では知的な遅れのない事例が多数派であるのと大きく違っている。自閉症は行動観察で診断されるので、同じ生物的状態が社会文化の影響を受けて、異なる臨床的な判定になる可能性がある。


―ここからは発達障害の出現率増加の原因を追った章です。

―次の項は仮説とことわっていますが中々ショッキングなことを言っています。

●荒唐無稽に聞こえることを承知で次の仮説を書く。自閉症発現の急増は冷戦崩壊による資本のグローバル化にともなって生じた歴史的現象の可能性がある。経済活動のグローバル化が生み出す過剰な社会的ストレスが、母体もしくは養育初期の母親に影響を与える。それが、社交が苦手で論理優勢型の素質をもつ子どもの脳のあり方を変えてしまっている(例えば脳内オキシトシン放出の低下)。

―岡田尊司『発達障害と呼ばないで』も、母親との愛着関係の弱さを愛着障害―発達障害急増の原因としていましたね。うーむ男女共同参画に暗雲か?でも日本と韓国、女性は大して働いてないのに何で。

●2011年、カリフォルニアの研究チームが明らかにしたところでは、出産の時期または妊娠第三期に母親が、カリフォルニアのフリーウェイから309メートル以内に居住していることが自閉症発現を倍にしていた。この結果が衝撃的なのは、大気汚染がからんでいそうなことだ。

●大気汚染が引き起こすのは免疫疾患、つまりアレルギーの悪化だ。アレルギーは自閉症と関係している。幼児の鼻アレルギーとASQの得点に有意な関連が見つかった。アレルギーのみならず自己免疫疾患(多発性硬化症や強直性脊椎炎)が自閉症に関連しているとする研究報告もある。

●多剤耐性菌(MRSA)の感染も神経毒をもたらすことで自閉症になるリスクがある。


●都市生活は、農村や自然豊かな郊外に比べて、母体と胎児あるいは乳幼児の脳に好ましくない影響を与えることがわかっている。都市生活は、妊娠後期の母体のストレスに反応して放出されるコルチゾールを増やし、子どもが7歳になった時点で追跡すると、感情と記憶をつかさどる扁桃体および海馬の体積に影響している。また幼少期の都市生活は大脳辺縁系とネガティブな感情の調整をつかさどる前帯状回に影響を与えることもわかっている。

―一時期正田が傾倒していたデンマーク式教育のフリースクールの主宰者、これは某有名ビジネススクールの講師でしたがこの人が曰く、「事を成した人は子ども時代自然豊かな環境で育っている」。まあそれに当てはまらない人もようさんいると思いますけどね、その当時何の根拠もなかったけれど私は結構真実だと思っていました。


●自閉症の発現原因を調べるためアメリカでは自閉症の双生児研究やきょうだい研究が大規模に行われている。研究者たちの予測は、遺伝と環境の累積効果がある閾値に達した場合に自閉症が発現するというものだ。ホットトピックの一つは、アレルギー・炎症反応・自己免疫疾患など過剰免疫問題と自閉症の関連だ。脱工業化社会でのヒトの生物的環境(土壌菌・人体菌・寄生虫)の枯渇、ビタミンD不足、運動不足やストレス過剰が自閉症を含む一連の問題の根底にあるのではという仮説も立てられている。



―ここからは自閉症の療育のさまざまな技法について。


●自閉症に関する療育技術にほとんど効果は実証されていない。TEEACHは総体として効果を上げているが、TEACCHの技法の一つ視覚的構造化自体には本家ですら効果が検証されていない。

―あらそうですか。でも今度の合宿でTEACCHについてレクチャーしてもらうもんねー。

●ロバースに始まる応用行動分析(ABA)はアメリカ厚生省が唯一効果を公認している技法だが、長期予後は確認されていない。

●アメリカで効果が実証されつつあるのは、親子の相互作用を自然に充実する技法、社交を中心とする小集団活動だ。

―相互作用を自然に充実、って要するに「承認」でいいんじゃないのかな。それは早計か。


―このあとは自閉症治療にたいするオキシトシンの有用性の話題。鼻に噴霧するのですが、はっきりわかる程度に行動が変わるらしい。ただ噴霧している期間しか効果が持続しないようです。
またオキシトシン投与による人格変容が完全に望ましいものかどうかは慎重に見極めないといけないともいいます。自部署の人にはそれまでより打ち解けたが初対面の人に冷淡になった、いわばセクショナリズムがきつくなった、的な報告もあるのです。


●「自閉的文化」なる言い回し。英国よりも日本のほうが自閉症傾向が強そうだ、あるいはそう自己評価しているようだ。

―お叱りを受けそうだけれどわたしは以前から「日本は自閉症社会なのではないか」―つまり、英米より高い率で自閉症者を有していることで、その特徴をより大きく反映した文化社会のありかたになっており、「男尊女卑」や「飲酒文化」もその延長上にあるのではないか、と考えているのですね。
 2つ前の記事の『日本軍と日本兵』に関する記事も、登場する軍の上官とか自閉症っぽいじゃないですか。
 だんだん「自閉症」「発達障害」という言葉が人口に膾炙して、「私、AQいくついくつです」っていう自己紹介が普通になって、「そうですかそれじゃ承認研修の受講はムリっぽいですね〜」とか言って、自閉症が差別語でなく普通に語られる、ようになるとこの国は少しはましになりそうな気がします。
 で、マネージャーにはなるべく「心の理論」ができてる人がなってもらって、その人たちは「心の理論」をこれまでよりはるかに修練して高めてもらい、発達障害者も女性もその他マイノリティや「制約社員」も全部包含してマネジメントできるようになってもらい、優れた組織をつくってもらうといいと思うのです。日本人の強みは「勤勉性」による「修練」ですからね。



 本当はこの記事でもう一冊触れたかったのですが既に長くなってしまったので、次にゆずります・・・



100年後に誇れる人材育成をしよう。
NPO法人企業内コーチ育成協会
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