『脳のワーキングメモリを鍛える!―情報を選ぶ・つなぐ・活用する―』(トレーシー・アロウェイ他、NHK出版、2013年12月)を読みました。

 
 「あたまを良くする本」です。一昨年流行った意志力とも「認知的負荷」を話題にするときなどにかぶります。

 さて、新たな概念ワーキングメモリとは。


 「ワーキングメモリとは、情報を処理する能力である。もっと正確にいえば、意識して情報を処理すること」と本書。さらに、わたしもしばしば混同していたのですが、ワーキングメモリ≠短期記憶であるとも。短期記憶は、情報を覚える能力。いっぽうワーキングメモリは、その情報を短期間覚えているだけでなく、その情報でなんらかの作業ができるようにする

 「ワーキングメモリはいわば脳の指揮者のようなものだ」。


 べつのところでは、記憶は図書館のようなものでありワーキングメモリは司書で、蔵書を検索して取り出してくれる、ということも言っています。アルツハイマー型認知症ではワーキングメモリと記憶両方がやられるので、司書もダウンしたし蔵書もボロボロ、という状態なのだと。このたとえはわかりやすいですね。


 そういうワーキングメモリに関連する脳の部位とは、・前頭前皮質(電気信号を受け取る、各部位に思考を送る)、・海馬(記憶をつかさどる)、・扁桃体(感情をつかさどる)、・頭頂間溝(数学知識をつかさどる)、・ブローカ野(言語をあやつる)だそうです。


 日常生活でワーキングメモリが果たす役割とは
・情報に優先順位をつける
・重要なものごとに集中する
・ものごとをすばやく考える
・賢くリスクを冒す
・勉強をスムーズに進める
・個人的な判断をくだす
・新たな環境に適応する
・モチベーションを維持し、長期的目標を達成する
・切迫した状況でもポジティブでいられる
・自分のモラルに従う
・すぐれたスポーツ選手になる
だそうです。

 ・・・ここまで読み進めてわたしはつい、これらの分野で「強い」人たちとほとんどこれらを仕事で必要としない人たちのことを思い浮かべてしまいました。はい、こうした人たちは話していても感触が天と地ほどの違いがあります。もちろん「強い」人たちのほうがお話していて楽しいです。


 情報の洪水、目先の誘惑、時間に追われる状況、ストレス、退職、痛み、恋愛、コンピューターゲーム、喫煙、過食などはワーキングメモリを損なう原因になります。恋愛は、男性にとって会話をリードしなければならないというプレッシャーになりますから負荷なのだそうです。それはお気の毒に。

 
 本書によれば、ワーキングメモリは意志を実行する力に大いに関わっており、

・体内の情報―ホルモンのレベル、機嫌、感情、さまざまな器官からの情報
・体外の情報―五感によって伝達される絶え間ない情報の流れ
・根源的システムの情報―わたしたちが縛り付けられている言語、記憶、価値観、文化、倫理観、法律などの情報

を瞬時に統合して判断していると言います。


 ワーキングメモリが弱いばあいは、これらのうち最初の「感情」だけを優先してしまい「感情的」に反応してしまうかもしれません。とりわけ「恐れ」に支配された形で決断してしまうかもしれません。


 その他興味深かった記述は、


・ワーキングメモリと幸福感の関係。ワーキングメモリを要する課題をおこなっている被験者の脳ではセロトニンが放出されていた。

・瞑想実験(れいの8週間のやつ)の被験者はワーキングメモリテストの成績も向上していた

・反すうする傾向のある人は鬱になりやすいかというと、実験ではそうはならなかった。強いワーキングメモリをもつ人は、反すうする傾向のある人でも鬱になることを防止する(正田はたぶん反すうする傾向のあるほうの人だと思う…)

・選択肢が多すぎるとワーキングメモリに過負荷がかかり、さまざまな悪影響が及ぶ。子どもをお稽古ごとなどに駆り立て学校の勉強以外の活動を増やしすぎると成果が上がらないことがわかっている。学校外の活動は絞り込み、集中させてやること。

・重要な問題に本気で取り組まないでいるとワーキングメモリが蝕まれる。問題から逃げないで立ち向かったほうが良い。

・「心の理論」にもワーキングメモリが欠かせない。他人視点で考えてみることができないのはワーキングメモリ不足のせい。

・自閉症の人だと、言語を発するときに必要な情報の一部を見落として発言している。

・フェイスブックはワーキングメモリを強化する役割を果たす。フェイスブック使用歴1年以上の人は、1年未満の人よりワーキングメモリテストの成績が良い。特に友達の投稿をチェックする活動が良い影響を与えるとみられる。もちろん中毒になるのはダメ。

・ワーキングメモリは20代を通じて発達を続け、30代でピークを迎える。40代では衰弱が始まり、30代の時と比べて処理できる情報が2割減る。

・高齢者では、「埋め合わせ」がおこなわれる。ワーキングメモリ課題をおこなっているあいだ前頭前皮質の左側が活性化しており、それまでに蓄積してきた知識を有効活用していた。

・退職者の脳は急速に鈍くなる。引退の時期が遅くなればなるほど、認知機能の健康を保つことができる。

・ワーキングメモリが強い人は痛みから気をそらすのが上手だ。ワーキングメモリの弱い人は痛みにより集中力が低下した。

―正田注:ナルシシズム関係の本にナルシは痛いだの寒いだの体の感覚を声高に訴える、と書いてあるがこうした人たちはワーキングメモリが弱いのだろうか


・文章と思考能力とアルツハイマー型認知症になりやすさの関係。修道女を対象にした大規模な調査で、本人の日記をみたとき単純な文章で書いてある人はアルツハイマーになりやすかった。複雑な文法の文章は思考力の密度の高さを示し、こうした文章を書く人はアルツハイマーになりにくかった。

―ブロガー正田にはちょっと嬉しいニュース。文章を書くことがワーキングメモリを鍛えることにもつながるそうです。


・また「無症候性アルツハイマー」というカテゴリもあり、これは海馬にアミロイド斑や神経原線維のもつれといったアルツハイマーの特徴が出ているのに症状が出ていなかった人。こうした修道女は海馬の神経細胞1つ1つが普通の人の3倍も大きくなっており、ワーキングメモリの強い人はそうしたやり方でアルツハイマーに対抗していたとみられる。細胞が拡大する現象は90代、100歳になっても続いた。なんかすごいですね。

・生産性を上げたいのなら、スマホの電源を切りなさい。週に1度「スマホ休日」をとる実験では、社員は以前より仕事にやりがいを感じるようになり、生産性が上がった。つねに情報が流れてくる状況では、ワーキングメモリにつねに負荷がかかっている。

・リズムを意識する、外国語を学習するなどもワーキングメモリを強化する

・数独が得意な人は苦手な人より50%もワーキングメモリが強い

・任天堂の脳トレゲームでワーキングメモリが強化されるという証拠は得られていない

・ワーキングメモリを強化する食べ物は、乳製品、赤身の肉、フラボノイド、DHA。

・その他強化するものとして、節食、断食、ペパーミントとローズマリー、カフェイン、糖

・睡眠不足はワーキングメモリの大敵。成人では、睡眠不足のとき扁桃体が活性化し感情的な反応を起こしやすかった。

・整理整頓。乱雑な状態はワーキングメモリに負荷をかける。

・ランニング、とくに裸足ランニングはワーキングメモリ強化に良い。それ以上にアウトドアで本能のままに身体を動かすとワーキングメモリは向上する。道でない道を歩く、木登りをするなど。

・ニコチン、マリファナ、アヘンはワーキングメモリを悪化させる。





 抜き書きは以上です。
 本書についての不満はワーキングメモリについてあまりにも多くの要素を盛り込んでいるので、ほんとにそれを1つの概念で言っていいのか?と疑問をおぼえることです。一括で「頭のいい人」と言ってしまっていいのか。でもまあ経営者さんなどで、確かにこうしたものが一括して「強い」人はいらっしゃいますね。


 れいによって、途中で「瞑想の効用」が出てきますので(瞑想なんにでも効くなあ)、「それ承認で代替できるんじゃね?」と心の中でツッコミが入ります。普通に考えても、「承認」は他人の良い行動をおぼえておいてそれを言うという、ワーキングメモリを要する行動なので、鍛えるはたらきはあるでしょう。体感的に「承認ワールド」の人は色んな意味であたまがいいと思います。また前半部分の「ワーキングメモリの役割」のところで言っている機能は、いずれも承認をふくむ「コーチング」で強化できると思います。


あ、それからまた不遜発言なのですけれどもこのブログを日常的に読む習慣があるひとも、読みだす前よりワーキングメモリが向上してアルツハイマーになりにくい脳になってるかもしれないです。。
 


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