『未来のイノベーターはどう育つのか―子供の可能性を伸ばすもの・つぶすもの―』(トニー・ワグナー、英治出版、2014年5月)という本を読みました。


 わが子がイノベーターになるかどうかは別として、タイトルの後半、可能性を伸ばすか、つぶすか、というのは多くの良心的なお父さんお母さんにとって大きな関心事でありましょう。


 当協会の会員さん方はもとより、きっとそうした関心をお持ちの方が今の時代にも少なくないと信じて読書日記をつけます。

 例によって印象的だったところを抜き書きし時々それにツッコミを入れたいと思います:


●イノベーションとは「クリエーティブな問題解決法」。

●イノベーションといっても、iPadのような物を作ることとはかぎらない。顧客の扱い方であってもいい。

●中核事業におけるイノベーションとは、主力製品とサービスをもっとよく、もっと賢く、もっと速くすることだ。一方、周縁部でのイノベーションとは、新しいビジネスモデルや戦略を作ることだ。


●とりわけ20代の若者の間では、いわゆる社会イノベーションと社会起業に対する関心が急速に高まっている。優秀な若者を貧困地区に教員として派遣するティーチ・フォー・アメリカ(TFA)のアイデアは、ウェンディ・コップが1989年に描いたプリンストン大学の卒業論文から生まれた。

●イノベーターのスキルとは何か。根気。実験する意欲。計算されたリスクを引き受ける能力。そして失敗への寛容性。さらには批判的思考だけでなく「デザイン思考」。

●デザイン思考者の5つの特質とは、1.共感 2.統合的な思考 3.楽観主義 4.実験主義 5.コラボレーター。


●クリステンセンらによると、独創的な人間の5つのスキルとは、関連付ける力、質問力、観察力、実験力、ネットワーク力。さらにそれらを実行力と思考力に分けることができる。

●まとめると、成功するイノベーターに最も欠かせない資質とは・好奇心・コラボレーション・関連付けまたは統合的思考・行動志向と実験志向。


●ミレニアム世代はイノベーション世代である。イノベーション世代の多くは地球の未来を心配し、より健康な生活を送りたいと考え、お金を儲けるよりも世界を変えたいと考えている。


●この世代にやる気を起こさせるには別のやり方が必要だ。「問題はリーダーシップの欠如だ。確かにこの世代は、いろんな意味で甘やかされている。だが彼らは自分が関われること、自分が興味を持てることを探している。多くは物事に激しく熱中するが、そう仕向けるのは簡単ではない。彼らを何かに熱中させることができたら、並外れた結果が得られる。しかし自動車工場の組み立てラインのようなことをやらせたら、つまりとにかく会社に来て言われたことをやらせようとすると、その仕事に熱中することはない」

●ジェネラル・ダイナミクス(重機械メーカー)の最大の課題は、20代の若者が辞めないようにすることだ。「彼らは私が考えたこともないような質問をする。自分は何に貢献しているのか、自分の仕事のより大きな意味を知りたがる。そして自分の満足のいく答えを得られないと辞めてしまう」


●ミレニアム世代は私たちの未来だ。彼らは今よりも健康で、安全で、持続可能な暮らしを生み出せるし、生み出さなければならない。本人たちは認めたくないかもしれないが、彼らもまた成功するために私たちを必要としちえる。彼らは私たちの知識や経験、手引き、指導、サポートを必要としており、私たちはそれを新しい方法で提供しなければならない。イノベーション世代がイノベーションに基づく経済や暮らしを作るのを本気で応援するつもりなら、私たちは学校、職場、そして子育ての習慣のすべてを変えなくてはならない。


―は〜、ここです。読んでいると人類はイヌからネコになったようです。そして「ネコに対する指導法」をわれわれイヌが学ばなければならない、と言っているようです。すごい無理難題のような気も・・・。しかし、この世代がもはやイヌではないのは、諦めなければならないのでしょう。


●ハーバード大学経営大学院のテレサ・アマビール教授によれば、創造性は専門性、クリエーティブな思考力、そしてモチベーションという3つの要素が絡み合った結果である。なかでも教授は、モチベーションが専門性やスキルよりもはるかに重要だと考えている。「専門性やクリエーティブな思考は個人の原料、つまり生まれつきの財産と言っていい。しかし人が実際に何をやるかは、3つめの要因であるモチベーションによって決まる」


●このあとアマビール教授は外的モチベーションと内的モチベーションの話をする。例の「アメとムチは悪いもので本人が心から打ち込めるのがよいものだ」という話。

うーん…、「オキシトシン」に関する知見を読む限り、「外的モチベーションと内的モチベーション」論でいうところの「内的」モチベーションも結局は両親の愛情や指導者との信頼関係で生まれるもので、厳密に言ったら「外的」に分類されてしまい分類が意味をなさなくなってしまわないだろうか、とわたしは思う。この論は要するに、「本人が一生懸命やっているときに『これができたらお小遣いをあげる』てな水を掛けることを言ってせっかくのやる気をそいではいけないよ」ということを言っていて、それだけを気をつければいいのではないだろうか。外的モチベーションのアメとムチの風景が醜いと思えるのは、勉強したくもない子どもにお小遣いやお菓子やおもちゃで釣ってムリやり勉強させようとするからで、そうしないと勉強しない、そもそも勉強がまだあまり好きではない子は、その年齢の子らしく思い切り遊ばせ、自分の好奇心に沿って行動させてやればいいだけのことではないのだろうか。アマビール教授の論文は1999年のものでちょうど「内的動機づけ、外的動機づけ」の議論がアメリカで流行っていたころだ。最近の「モチベーション2.0」やら「同3.0」はこの時期の議論の流れを汲んでいるようなのだが、「内的動機づけ」をあまりに強調すると、人が人を育てる行為すべてを否定してしまいかねない危険をはらんでいる。赤ちゃんは抱っこしないでも、あやしたりほめたりしないでも育つのだろうか。「チャウシェスク・ベビー」たちはどうなのだろうか。


●内的モチベーションには遊び、情熱、目的意識という3つの要素がある。この3つを親、教師、メンター、経営者がどのように奨励するかによって、若きイノベーターの人生には大きな変化が表れる。

●グーグル創業者のラリー・ペイジやセルゲイ・プリン、アマゾンの創業者でCEOのジェフ・ベゾス、ウィキペディアを立ち上げたジミー・ウェールズ、料理研究家のジュリア・チャイルド、ラップ歌手のP・ディディことショーン・コムズらは、みな遊びを通じて学ぶモンテッソーリの学校に通っていた。

●「情熱」「根気」に関するスティーブ・ジョブズの言葉。「かなりの自信を持って言えるのだが、起業家として成功するかしないかの半分は、根気で決まる。・・・だから自分が情熱を感じられるアイデアや課題、あるいは正したいと思う間違いを見つけなくちゃいけない」

●「目的意識」についてのイノベーターたちの言葉。イノベーターたちが自分の動機を説明するとき使った言葉はみな非常に似通っていた。ジェフ・ベゾスは「歴史を作りたい」、スティーブ・ジョブズは「世界をあっと言わせたい」、スカイプの共同設立者ニクラス・ゼンストロームは「世界をよりよい場所にするために破壊的になりたい」と語った。・・・変化を起こすという使命感を持つと、リスクを引き受けたり失敗を犯したりするのはずっと楽になる。

●私が話を聞いた若きイノベーターたちの人生には、遊びが情熱、そして目的意識へと進化していく線がはっきり見えた。彼らは子供時代に大いに遊んだが、その遊びは多くの子供の遊びと比べると極めて無秩序なものだった。・・・子供時代のこうしたクリエーティブな遊びを通じて、彼らは情熱を傾ける対象を(多くは青年時代に)見つけた。しかしその情熱を追及する過程で、関心の対象が変わり予想外の変化が起きる。それは新たな情熱を育み、時間が経つにつれて、より深く成熟した目的意識へと発展していく。


●物事を学ぶ過程で失敗が果たす役割について、オーリン大学のある学生はこう言っていた。「『失敗』という考え方はしない。これは『繰り返し』だ」


●だが若きイノベーターたちは、こうしたことをたったひとりで学んだわけではない。その過程で親や教師やメンターなど、少なくともひとり(しばしば複数)の大人のサポートを受けていた。・・・彼らはそれぞれ静かな方法で、普通の親や教師やメンターとは違う行動を取って、目の前の若者が普通とは違う考え方をできるようにした。


●ビジネススクールはイノベーターの訓練をする場ではない。「戦略を教わると、価値を生み出すことと、他人が作る価値をとらえることが非常にうまくなります。ここで『とらえる』とは、オレンジからもっとジュースを搾り取るということで、すばらしいオレンジを育てることではありません。・・・よりよいオレンジを育てるには、考え方を変えなくては」(アップルのジョエル・ボドルニー副社長)


●イノベーターの親たちの実践。子供が自分の関心にふけるに任せておく。注意深く、思いやりがある(つまりいい人間である)かぎり、子どもは実験でも探検でも好きなだけやっていい。

●自由と秩序のバランス。「親としていちばん重要なのは、子供の意見を尊重して耳を傾けること。でも自由にさせすぎないことも重要で、限界、境界線、秩序は重要です。ただしそれが多すぎると、つまり従順にさせようとすると、クリエーティブな衝動を殺しかねない。むずかしいのは、権威への敬意と、建設的な関与や建設的な反抗のバランスを取ることです。強くなることを教えつつ、越えてはいけない壁を与えること。イノベーションは不服従と切り離せませんが、イノベーターになって銀行強盗をしていたら始まらない」

―非常にむずかしいこと。親としてこのバランスができている人を見たことがない(もちろんわたし自身はできていなかったと思う)。子供の気質にもより、大人しく親の意向に沿いがちな子供であると、その子に秩序を教え込み波乱のない家庭生活を送れることが当たり前になってしまいやすいだろう。わたしの子はあまり従順ではなかったので、衝突ばかりしていたけれど―。

●私が話を聞いた親の多くは、子供のスケジュールをいっぱいにせずに、自由な遊びと発見の時間をたっぷり与える重要性に言及していた。彼らはみな子供たちと時間を過ごしたり遊んだりするのを楽しみつつ、「ヘリコプター・ペアレンツ」にならないことが重要だと理解していた。

―これだけは、わたしはできていたような気がするが―、一番上の子供が熱中型で自分の意志で何かをやり通すのが好きな子だったので、彼女の意向を尊重しているうちに自然とそうなったような気もする。逆にお母さん向けのコーチングセミナーなどをすると、なんとわが子のすべての曜日に異なる習い事を詰め込み、疲弊しきっているわが子に「もっとがんばれ」とムチをふるう道具としてコーチングをとらえるお母さんが多い(とりわけ芦屋などではそうだ)ことに愕然としたのでした

●「仕事ができない人を見ると、秩序的すぎる人生を送ってきたんじゃないかと思います。いつもAを取ることや次のレベルに引き上げてもらうことを追い求めてきたから、自分が興味のあることを突き詰めたり、物事をクリエーティブにやる時間がなかったんじゃないかな、と」

―これは鋭い指摘。よくわたし自身もこれと同様の感慨をもつ。恐らく、わたしと同年代か少し下の年齢層の人たちに、つまり塾へ行くことが一般化した世代の人たちに間違いなくそれはある


●おもちゃは少ないほどいい。イノベーターの親たちの意見はこの点で一致している。与えるとすれば、想像力と発明を促すおもちゃにすること。LEGOで育ったイノベーターは多いし、「スカーフ」をおもちゃにしていた子もいる。ある子は大きな段ボール箱1個と棒が2本、それに2本のロープを5歳の誕生日にもらって何年も同じもので遊んだ。


●スクリーンタイム(TVを見たりコンピュータを使う時間)も少ないほどいい。イノベーターの親たちはスクリーンタイムを慎重に制限していた。子供たちのほとんどは年齢が上がるまで自室にコンピュータを置いていなかった。週末には家族で映画やテレビ番組を見ていた。

●遊びとしての読書。親たちはほぼ全員、子供に頻繁に読み聞かせをしていた。ある親は毎日、学校の宿題とは関係のない本を読む時間を必ず設けていた。読書の習慣は集中力という筋肉と、自発的な学習の習慣を育むようだ。


●子どもたちが情熱を傾けることを見つけさせることを親たちは重要な仕事だと認識していた。しかし多くの親は、子供のスポーツや音楽の習い事をさせているとき、どの程度子供に厳しくやらせ、どの程度子供に任せるべきかは苦悩の種だった。

●子供に嘘の賛辞を与えるべきではないと主張する親もいる。「子供がやりたいことをサポートするのは重要ですが、子供が上手かどうか正直なことを言うのも重要です。上手ではないのに上手だなんてほめるべきではない。物事を上手にやるのは大変なことなんです。・・・何かを本当に上手にやれたことに満足する経験を、人生のどこかですればいいのです」

●イノベーターの親たちの多くが周囲の親と違う子育てをしていることに悩んだと言及した。若きイノベーターの親になることは勇気と自信がいる。必要なのは信じることだ。まず親としての自分の直感、判断、価値観を信じること。また子供を信じること。自分の親としての権威を見直すことも重要だ。子供の活動にどんな制限を設けるか、どこまで子供の自主性に任せ、どこからダメと言うべきか。・・・

●イノベーターを育てるために企業は何をすべきか。「組織内で情報の自由な流れを確保することはイノベーションを促す上で決定的に重要です。トップダウン式の経営は新しいアイデアが生まれるのを著しく制限する傾向があり、会社に『集合知』が生まれるのを阻害します」


●ある研究によると、会社の規模にかかわらず、平均的なアメリカ人従業員のアイデアが採用されることは6年に1度しかない。


●「イノベーターは管理されるのが嫌いです。彼らは自分が尊敬する人と働き、自分が心からおもしろいと思う顧客の問題を解決したがる」

●「アップル社の人たちにインタビューすると、いちばん驚くのは、誰もが問題解決や面白い問題に取り組むことがとても重要だと考えていることです。」


●対面の手仕事の業種にもイノベーションの種がある。米家電販売大手ベスト・バイでは若い従業員がイノベーションを生み出す能力を活用した。同社は従業員の才能を見極め、店内の仕事の種類を大幅に増やした。「ほとんどの人は職場に貢献できるユニークな特性を持っていますが、それを生かすには正しい環境とリーダーシップが必要です。自分のシステムではなく、自分のために働いてくれる人を中心に事業を構築する必要があります」


●軍もイノベーターを必要とし、訓練体系を変えた。米陸軍では新しい訓練の全面的実施時期を2015年とし、ほ教室での授業の大部分をファシリテーションによる問題解決活動に変えることなどを提言した。


●シスコシステムズの幹部養成プログラムは、「教える」のは10%で、90%は新規事業を立ち上げて問題を解決する過程で学ぶ。
このほか、
「企業幹部としての能力を高めるには、新しいことを学ぶこともある程度必要ですが、自分がどういう人間で、何を重要と考えていて、なぜこの地球上にいて、その深い理解をどうリーダーシップに反映させるかを考えることが圧倒的に重要です」
「ビジネスはハードなゲームです。成功するには非常にタフでなければいけません。自分のこと、つまり自分が持つ偏見や自分が育った文化が持つ偏見を知れば知るほど、よりよい決断が下せるようになります。思慮深い幹部のほうが、部下の人生に自分が与える影響を正しく評価でき、より慎重な決断を下せるでしょう」


●イノベーションは極めて破壊的な性格のものであり、伝統的な権威にとっては新たな脅威となる。このため独創的な事業を成功させるには、今までとは違う権威が必要だ。『イノベーションのジレンマ』はゆるぎない自信を持つアメリカの一流企業のCEOたちが、優れたイノベーションの将来性を見抜けず投資を拒否した例を挙げている。こうした企業のほとんどは、今では存在しない。

●本書では、イノベーターの教師が自らの権威と指揮権を手放し、「教壇上の賢人」から「寄り添うガイド役」になることが必要不可欠であることを見てきた。イノベーターの親も同じように伝統的な権威を捨てて、子供が自分で探求し、発見し、間違いを犯す(さらには失敗する)余地を与える。また独創的な企業は現場の従業員と情報をシェアし、現場からのインプットを求めている。

●イノベーションを成功させるのにも権威は重要だが、その権威は地位や肩書に伴うものではなく、何らかの専門性に由来する。相手の話に共感しながらじっくり耳を傾ける能力や的確な質問をする能力、優れた価値を形にする能力、仲間が才能を発揮するのを助ける能力、そして共通のビジョンを作り、グループで実現責任を負う能力が権威をもたらす。それは仲間をエンパワメントする権威だ。あなたが親であれ、教師であれ、司令官であれあるいは雇用主であれ、誰かをイノベーターに育てるには、自分の権威の根拠を見直す必要がある。この新しいタイプの権威を担うのは、ファシリテーターではなくコーチだろう。イノベーターはあらゆる年齢と段階で優れたコーチングを必要とする。


―長い引用の締めくくりに「コーチング」という言葉が出てきました。
 「内的動機づけ」が重要だということに同意するのにやぶさかではないのだが、それは単独で存在し得るものではない。上位者からの”絶妙な介入”がかならずあるのであり、その絶妙な介入方法がコーチングだ、と最後はそういうことを言っているのです。
 また本書には「承認」という語は1回も出てきませんが、アメリカのこの手の本を読むときわたしはいつも「暗黙の前提」「暗黙の了解」を省いて書いているのだろう、と思うのでして、「肯定的な視線」はかならず必要なものです。「若きイノベーターの疑問、破壊、不服従を受け入れ歓迎し祝福する」という姿勢は承認そのものであります。とりわけいつも書くように、不安感が高く信頼感が低い日本人には、上位者からのあたたかい視線、「思ったとおりやれ」という愛情ある揺るぎないメッセージ、すなわち「承認」は必須のものです。


 教育でもマネジメントでも、きわめて真摯な思考の末に「これしかないでしょう」と帰結する結論が「コーチング」である、ということはよくあります。このところ「コーチング」を「週末起業コーチング」と混同されるのがイヤで、封印しようかと思っていたわたしですが―、
 多くの人がそうした丁寧な思考を経ずに「あ、コーチングですよね」と言い、従来品の高踏的な先生、あるいは面白おかしい系の先生、ナルシスティックな先生、といっしょくたにされてしまうことが残念です。
 「ビジネスですよね」と言われてしまうことも非常に遺憾で、とはいえわたしも食べないといけないのですけれども。



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NPO法人企業内コーチ育成協会
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