去る10月6日、大阪・NPO法人発達障害をもつ大人の会(DDAC)事務所にて、同会代表・広野ゆいさんにインタビューさせていただきました。


 近著『行動承認』ではカバーしきれなかった、「発達障害をもつ人に対するマネジメント、職場運営」という問題を中心にうかがいました。

 発達障害は今世紀に入り飛躍的に研究がすすんだ分野で、それまで思われていたよりはるかに出現率が高く、気をつけてみると職場のあちこちにこの問題を抱えた人がいることがわかります。こうした問題を視野に入れたマネジメント、というテーマもいわば新分野であり、フロンティアです。


 広野さんは大変オープンにお答えくださり、たくさんの共通認識を持てることがわかった今回のインタビュー。発達障害の部下をもつマネジャーにも、発達障害らしい上司をもつ部下にも、目からウロコのお答えが満載です。
 非常にたくさんのポイントを含んだインタビュー記事で話題もあっちこっちにまたがりますが、全3回でお伝えいたします。


広野ゆい氏にきく「凸凹の部下と凸凹の上司、どうつきあう?」

1.発達凸凹があっても職場でうまくやっていくには
■凸凹の概念で発達を説明する
■アポを忘れる営業マン―カギはメインの仕事ができるかどうか
■製造から介護へ、凸凹社会人の流入現象
■新しい枠が必要、正社員でも障碍者枠でも非正規雇用でもなく
■会社でうまくやっていくには自覚がポイント
■「私も仕事できない人だった」(広野)


2.見過ごされる発達障害―メンタルヘルス、自己愛、虐待・過干渉、DV、引きこもり
■メンタルヘルス問題のかなりの部分が発達障害
■「できる部分」にしがみつく当事者
■当事者の集まりで初めて「ゆるむ」
■新型鬱と発達障害
■自己愛は発達障害なのか?
■「指摘されると切れる」敏感さから「出来ない」と認められる当事者コミュニティへ
■虐待、過干渉と発達障害
■DVと発達障害
■引きこもりと発達障害
■当事者の人生―趣味、コミュニティ、介護


3.凸凹部下と凸凹上司、どう付き合う?
■もし発達障害の部下をもってしまったら
■部下の発達障害に気づけないマネジャーたち
■「発達障害上司」は承認が難しい?
■「発達の問題」わかったら降格がベストか
■診断を受けてもらうことは役に立つか
■診断を受けてもらうトークとは


 
(ききて:正田佐与)


広野ゆいさんプロフィール 
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NPO法人発達障害をもつ大人の会(DDAC) 代表
子供時代から、遅刻、片付けができない、周りに合わせられないなどの特性があり、忘れ物の女王、遅刻の帝王などと呼ばれながら学生時代を過す。専業主婦であった28歳でうつ病、31歳のときADHDと診断される。2002年に大人の発達障害のグループ関西ほっとサロン、2008年4月に「発達障害をもつ大人の会」を立上げる。現在は発達障害当事者の立場でキャリアカウンセリング、教師や専門職向けの講演、成人当事者向けの片付け・金銭管理セミナー等も行っている。
S47年生まれ。青山学院大学卒。ICDSキャリアコンサルタント。2級FP技能士。
NPO法人発達障害をもつ大人の会(DDAC)HP http://www.adhd-west.net/

関西ほっとサロン http://kansai-hotsalon.main.jp/
関西ほっとサロンは、大人のADHDの会のセルフヘルプグループでとして2002年に活動を開始しました。現在2008年4月より『発達障害をもつ大人の会』が設立され、月に一度のサロン(ピアサポートミーティング)を中心に活動しています。



広野ゆい氏にきく「凸凹の部下と凸凹の上司、どうつきあう?」



1.発達凸凹があっても職場でうまくやっていくには
■凸凹の概念で発達を説明する




正田:私どもは「承認」を中心としたマネジャー教育をしているNPOです。発達障害をもつ大人の会(DDAC)さんのホームページも拝見して「認める」という言葉が入っていたので嬉しくなってしまいました。

広野:確かに、なかなか「認めてもらえない」というのが発達障害の人の悩みというか。

正田:そうなんですね。
今日はいっぱいお伺いしたいことがあるんですけれども、マネジャー教育の団体なので、「職場運営」というところを中心にお話を伺わせてください。

広野:わたしたちは去年から、こういうパンフを作っています。これは企業向けにつくったパンフなんですけれども、チェックリストでみんなにやってもらうように。

正田:みんなにやってもらう。大事ですね。「自分は正常だ」と思っている人たちにも。

広野:そうです。発達障害って、「障害」と言っているので皆さん「自分とは違う」という目で見がちなんですけれども、本当はディスオーダー。ディスオーダーっていうのは、厳密に言うと混乱状態にあるということ、みんなと一緒にできないということであって、能力的にできないとか欠けているというのと少し違うものなんですよね。そして環境によって適応障害を起こしたり起こさなかったりする。その人の特性を知らずに会社が関わったり仕事を振ったりすることで障害になってしまう。

正田:ああ、そういう捉え方をするんですね。なるほど。

広野:ほめればいいとか言うよりは、その前の段階としてこの人はどういう特性を持っていて、何ができて何ができないのか、それが生まれつきだった場合には、この部分を「みんなと一緒にやれ」って言われることでその人自身を潰してしまうことがあるんですね。生まれつきの能力の場合はほかの人と違うやり方で対処するということになってきますので。それができればその人は障碍にならずに出来ることを活かしてお仕事が出来る可能性がある、ということで。
 そういうことを知ってもらいたいというのがこの事業なんです。

正田:なるほどねえ…。私、発達障害の方に関する本を去年からかなり読んできました。多分もう50冊ぐらいになってると思います(笑)はい、凝り性で(笑)
 それでいうと広野さんのおっしゃるのは今までなかった切り口でいらっしゃいますね。

広野:そうですね。今までは、「こういう風にすればみんなこうなるはずだ」と、やっぱりそれは、みんなを「こうであればこうである」と枠にはめている。もちろんそれで大多数の人は上手くいくかもしれないんですけれども、上手くいかない方は何割か何%か、絶対いらっしゃると思うんですね。じゃなんでだろう、というときに、この「凸凹」という概念を使うと「あ、なるほど」っていうことが結構あると思うんです。

正田:はい、はい。

広野:そこは多分、まだどこもそういう視点で人材というものを扱ってないんじゃないかなと。

正田:少数者の存在を「ない」ものという前提で語っているということですね。



■アポを忘れる営業マン―カギはメインの仕事ができるかどうか


正田:去年から大人の発達障害の方の本を読んできたときに、「診断を受けさせるか受けさせないか」というのが結構焦点になりまして、それはもうあるところで区切っちゃうということですよね。区別しちゃうということですよね。

広野:そうなんです、そうなんです。
 ただ、診断を受けてもずっとその会社で働いてらっしゃる方も結構いらっしゃるんですね。診断があっても、その人が例えばすごい優秀なプログラミングができる方だったとすれば、その周辺の例えば片付けできないとか(笑)、ちょっとやりとりが一方的だというところを周りの人が理解してフォローすることによって、その人のプログラマーとしてのお仕事ができるようになれば、別に辞めさせたり障碍者枠に行かせたりさせないで済むわけなんです。そういった形でお仕事ができている方というのも現実にはおられますから。。
 この1冊目の冊子、『発達凸凹活用マニュアル』(2013年3月刊)に載せている5名の方というのは、障碍者枠でお仕事しているというのではなくて、診断は受けているんですけれども一般の人と同じお仕事をされている、という方々です。
 この冊子に出てくる彼なんかは普通に建設会社の営業マンです。営業自体はできるんですけれども書類が滅茶苦茶になっちゃったり、アポイントを忘れてしまったり。

正田:え〜(笑)

広野:あと取引先にカバンを置いたまま帰っちゃうとか、そういう方なんですね。

正田:なんか人ごととは思えない…(笑)いやいやいや、それは営業マンとして致命的にはならないんですか。アポ忘れると怒られるでしょ?

広野:そうなんです。それは彼自身がやっぱり自覚をして、例えば「誰々のところでこういうアポをとりました」と周りにもお伝えしておいて、「明日アポやろ」とか「あ、もうすぐ○社に行く時間やろ」という声かけを周りにしていただくとか、「この人忘れるから」と会社全体でわかっていて、フォローするということができているんですよね。そうしてあげさえすれば仕事自体はすごく出来る方。
そうでなければ、「なんでこんなに基本的なことができないんだ」と、本人の意識とかやる気ということにされてしまう。すると評価もだんだん落とされてしまって、最後は些細な失敗がすごく大きく扱われ、会社に居られなくなる。そういうことを何回も彼は経験してきているんです。

正田:うーん、わからない上司だとそうなるだろうなあと思います。
 でもほかの面では営業の適性がきっとあるんですね。明るいとか社交的とか。

広野:そうなんです、彼は人と関わること自体は大好きなんです。
 だから、メインのお仕事が出来るかどうかなんですよね。例えばプログラミングが出来るとか営業が出来るとか。その本人がプログラマーになりたいと言ってもプログラミングをする能力が足りなかったらそれは出来ないですよね、発達障害であってもなくても(笑)。
能力的に中心の仕事ができて、周辺の仕事が(発達障害の)特性のせいでできない、という場合に会社が配慮してくれるかどうか、というのがとても重要なポイントなんです。

正田:うん、うん。

広野:環境次第で障害になったりならなかったり、ということがあります。

正田:はい、はい。

広野:だから診断されたら「障害」っていうんじゃなくて「凸凹」というのがふさわしいのかな、という感覚です。それで「発達凸凹」という言葉に。

正田:それはこちら(NPO法人発達障害をもつ大人の会)のオリジナルの言葉ですか。

広野:それはですね、杉山登志郎先生が『発達障害のいま』(講談社現代新書、2011年)という本の中で公に使ってくださったお蔭で私たちも使えるようになったんです。昔から「私たち『凸凹』だよね」っていう認識は当事者の中ではあったものですけれど。

正田:ほうー。

広野:表に出すと「人権に引っかかる」とかで、使えなかったんです。

正田:人権…。「障害」というほうがもっと人権問題みたいな気がしますが(笑)

広野:そうなんですよ(笑)まあ色々あってこの「凸凹」という言葉が使えなかった。今は使えるようになりました。



■製造から介護へ、凸凹社会人の流入現象


広野:今のような時代ですと、昔は「ちょっと変わってるけどまあまあええかな」と思われてた人も今はお仕事させてもらえなかったり、適応障害を起こすというような世の中になってきていますね。

正田:今は要求スペックが高くなっていますよね。

広野:そうですよね。
 昔は作業的なお仕事でも、景気がいい時代ならそれでも正社員になることはできたし、安定した生活ができた。それが工場のお仕事が日本からなくなることでお仕事自体もなくなっています。第二次産業がなくなっていくことで、じゃあ第三次(産業)で対人サービスができるかというと、やっぱり出来ない。

正田:そうですね。製造業で言うと日本から無くなっているというのが1つと、もう1つ日本に残っている製造業も「小ロット短納期」というかなり機転のきく人じゃないと出来ない仕事になってきている。

広野:ああ、昔の何倍も出来る人じゃないと。スピードも求められますし。

正田:そうなんです。定型的なお仕事だけではダメ、となってきている。
 そうすると介護などは求人がすごくあって、人がノドから手が出るほど欲しいんですけど、製造業が出来なかった人が介護に行けるかというと。

広野:ムリですよね。
 やっぱり相手の状況をみて柔軟な対処をするとか、関わり方もあれもこれも一度にこなさないといけないとか、全部苦手なことなんですよね。そういうことがあって生きづらい。
 そういう人たちが生きていくときに、今はそれが「障害」にならざるを得ないような世の中になってしまっている。

正田:そうですね、そうですね。
 介護のお話でいうと、介護マネジャーにきくとやっぱり人手不足は深刻なので、実際採用した方が発達障害らしいということがわかっても、使っていかざるを得ない。その分周囲の方にも負担がくる、という。

広野:そうですよね。手際よくできないことで、余計周りの仕事を増やしてしまうこともありますし、重度の要介護の方だと本当に命に関わることがありますよね。
 そのあたりそのお仕事ができるかできないか、というのは本当に難しいところなんですけれども。
 ただ、実際やっている方もいます。ですから「そういう人でも出来るような介護の現場というのはないのか」というのはすごく私たちの中でもテーマになっています。

正田:そうですか。重要なテーマかもしれないですね。

広野:例えば冊子に載っている広汎性発達障碍でADHDも結構入っている看護師の彼女が働いているところは重度の知的障害者施設なんです。いくつも同時に仕事をするので患者さんに言われたことをすぐ忘れちゃうというようなミスがありましたし、急性期の病棟だとミスが命に関わることもあるかもしれない。

 そういうわけで病棟勤務はもうやめようということで、次に健康診断の会社に入ったんですが、それでも何というか、人間関係ですかね。そこで彼女カミングアウトしたんですけれども、「いや障害者を雇っているなんで、周りに知られたくないから言わないで」って言われたりして、上司の理解が得られずそこも続けられなくて。
 今のところはどうかというと、「人間は誰でも忘れるんや」と言ってくれる上司の方で。

正田:いい方ですねえ(笑)

広野:忘れないようにメモにして貼ってくれたりとか、声かけしてくれたりとかがあるので、仕事をちゃんと出来る。彼女自身も利用者の方のお漏らしのお世話なんかも特に負担に思わずむしろ喜んでできる。そんなふうに配慮してもらいながら出来ることは頑張って、続けていられる、っていう。
 会社の方針と、その人の能力とがマッチすることがすごく大事なのだと思いますね。

正田:そうですねえ…。
 今、どちらの企業さんでもこの発達障害や凸凹の問題は避けて通れないと思うんです。ただ気がついてない企業さんも本当に多いんです。


■新しい枠が必要、正社員でも障碍者枠でも非正規雇用でもなく

正田:今日お話を伺って、新しい疑問がどんどん湧いてきてしまいました。
 発達凸凹の概念を使って特性を理解して仕事をすることによって障害にならずに済む、すごくすばらしいお考えだと思うんですけど、逆に障害者支援法の「2%枠」、あれで障害のある人は守られるんではないのか、診断を受けたほうが守られるという面はないのだろうか、とか。

広野:ああー。実際には、守られるのは「雇用」なんですよ。でも普通に、結構いい大学を出てはる人がいっぱいいるので、普通に通っちゃうことがあるんですね、正社員で。ホワイトカラーで。それのお給料と、守られた障害枠のお給料と、全然違うんですよね。

正田:なるほど。

広野:それを考えると、守られるとは言うけれども、まだ発達障害の人ってまだ企業さんもわかってないので、(障害枠での)待遇は低賃金、単純作業のパートと同じぐらいなんですよね。そうすると月10万ぐらいですか。ちょっと多くても、正社員で雇ってもらってだと15万、20万、いくかどうか。そして昇給とかほとんどないんです。
 だからそれを考えると、そこの枠にすすんで行きたいっていう人はやっぱりなかなかいなくって。正社員で入ってそれなりの年数経ってる方は、どんなに仕事ができなくても障害枠の何倍ものお金をもらってるんですよね。そういう現実があったときに、これを諦めてこっちへ行くか、という問題というのはすごくあります。
 そのへんは今後一つの大きな課題ではあると思います。
 今、正社員とそうでない人ってものすごくかけ離れてますよね。(非正規より)もうちょっと安定しているけれどもお給料は少しでいいような、そういう層のお仕事をつくっていただいたらいいんじゃないかなと。

正田:本当ですね。

広野:以前企業向けの講演でご一緒させて頂いた弁護士の先生が、そういったことをおっしゃってたんですよね。障害枠でもなく、正社員のすごく稼いでる枠でもなく、もう少し柔軟に対応できる中間の枠をつくって、正社員でほかの人のようにできない人でも正社員で雇用できるような規定のようなもの。そういうお仕事をつくれば、そこでトラブルになるようなことが減っていくんじゃないかと。そういうお話をされていました。
 そんなにめちゃくちゃ給料をもらえなくていいけれども、障害枠はイヤや、という人たち。多分発達障害の人のほとんどそうだと思うんです。
 本当に仕事がなかったり非正規だったり、不安定で来月お仕事があるのかどうか、というような感じで生きてらっしゃるので。でもそういう層の人、結構な数いらっしゃると思うんですよね。
 そういう人でも生きていけるような社会のシステムを作っていただけたら、この問題は少し解決するんじゃないかと。メンタルヘルスも含めてですね。

正田:今、相当数いるんじゃないかというお話がありましたけれども、ざくっと見積もって何%ぐらいの方がそう(発達障害)なんでしょう。
 
広野:パーセンテージはちょっと書いてなかったかな…

正田:実は去年マネジャー側から聞き取りをしまして、診断を受けているいないに関わらずマネジャーからみて特殊な配慮の要る、能力のアンバランスのある人が1割ぐらいいる、300人の中の1割ぐらいという感じだったんです。

広野:ええ、ええ、そうですよね。
これ(資料)は、「社内にそういう特性のある人がいますか?」と会社の方にアンケートをとらせていただいたんですが、色がついているのはADHDだったりASDだったり混ざっていたり。「こういう人たちが社内でトラブルを起こしたか」とか「対応は上手くいっているか」とか「誰がその人の対処をしているのか」などを調べてみました。
こういう人がいるかどうか、ということで言うと9割以上の会社が「社内に何人かはいるよ」という答えだったんです。まあ、それは当たり前の話やと思うんですけれど(笑)、
こういう人がいない会社というのは基本的にないだろうと。5人とかでやっている会社だとわからないですけれど。何人か集まったら絶対1人2人はいますし、配慮が要る人達はおっしゃったように1割以上はいると思います。
 でもその人たちをみんな障害枠にしてしまえ、と言ったら、2%では全然足りないですよね(笑)

正田:そうですよねー。


■会社でうまくやっていくには自覚がポイント


広野:その中で私たちがやっているのは、「凸凹があっても会社で上手くやっている人たち」を拡げる、という。

正田:会社で上手くやるのに、ご本人に能力の凸凹の自覚がないと難しくないですか。

広野:そうなんです。私たちの会に来る人たちは、基本的に自覚のある人なので。来たばっかりの人はまだ訳がわかってないかもしれませんけれど(笑)
 うちの団体自体は10年以上やっていますので、結構ご自分のことを分かってそれなりに上手くやってらっしゃる方もいますので、取りあえず仕事をしていて凸凹がある人を100人ぐらい集めて会をやったんです。「発達凸凹100人会」というのをやったんですけれど、そこで「私たちの困っている問題とはこういう問題だ」、「こういうことで私たちは会社でトラブルを起こしている」と自覚があるわけなんです(笑)

正田:(笑)

広野:そこで、じゃあどんなトラブルを起こしたのか、それをどんなふうに工夫したり変えているのか、ということをみんなで話し合ったんです。それをまとめてこのマニュアルを作りました。これが少しでも理解につながったらいいなーと。
 こういうことを会社の方が知っていただけるかということが大きいと思います。これを見ていただくと、「自分もこういうことがあるな」とか「こういうトラブルをこうやって乗り越えているな」ということに気づくというか、「自分にもそういう特性がある」ということを自覚してくださる方が結構いらっしゃるんです。
 そうすると、あとは程度問題ですね。すごい(凸凹が)強い人か、ましな人、みたいな感じになるんで、すごい強い人に合わせてみんながミスしないシステムとか情報伝達をしやすいシステムを作れば、みんながやりやすい職場になるはずなんです。
 そういう観点で「発達凸凹」というものを理解してほしい、というのが私たちの思いです。「ややこしいヤツやから排除してやれ」とか「困ってるから、じゃあほかと隔離しよう」とかそういう特別扱いする問題ではなくて、この人が上手くできるようなシステムを作ることによってみんなが上手くできる。という観点で業務改善をしていただきたいな、と。
 そういうことが出来ているケースもこのマニュアルの中にちょこちょこありますし、企業向けの講演を最近ご依頼いただいてしていると、

正田:なんだかすべての企業さんで知っていただきたいです。講演されたらいいと思う(笑)

広野:ええ(笑)。そういうとき、「うちではこういうことをしています」ということを教えてくれる企業さんが増えているんです。それをまた集めて「こういうことをしている会社さんがいます」ということを言っていったら、みんながやりやすい職場ができていくんじゃないかと思うんです。

正田:いいですね、いいですね。全員の方がこのチェックリストをやっていただければ。

広野:そうですよね。
 「発達障害をもつ大人の会」という会の名前が、「発達障害」と書いてしまっているので企業さんとしては「あ、障碍者の問題ですね」と捉えられてしまうのが今の悩みです。

正田:なるほど。


■「私も仕事できない人だった」(広野)


広野:私自身も昔はまったく仕事できない人間で、何を求められてるのか全然分からないんですよね。私もアスペルガーの傾向が強いので。

正田:お話していて全然そういう感じは受けないですね。一方的に話したりされないし。

広野:今はそうですね、今は多分そんなにないと思うんですけれど。
 大学卒業して配属されたのが秘書の仕事だったんです。なんかね、空気が読めないんです。そこでどんなお仕事をすることが認められることなのか、というのもまったくわからない。ただそれを教えてくれないんです。

正田:うーん、秘書って空気を読む達人がなるものだとばっかり(笑)

広野:そうなんですよね。多分、見かけが「出来る」と見えるみたいで、きちっとしてるように見えるらしいんです。見かけだけだと。

正田:そういえば確かに…(笑)

広野:けど実際は遅刻もひどいですし、スケジュールもめちゃめちゃ忘れますし(笑)

正田:え、そうすると今日なんかは。

広野:今日はですね、ちゃんとスケジュール帳を朝、確認できたので。
 でもね本当に忘れちゃうときもあって、人に言ってもらったりしないと本当に完全に飛んでてすっぽかすことが結構あるんです(笑)
 そんなわけで向いてない仕事に就いてしまったものですから、「使えない」と言われているということが周りから(情報として)入ってくるんです。

正田:つらいですね。

広野:つらいです。でも何でかわからないんです、まったく。で学歴はそこそこなので(笑)
秘書というのは病院の秘書さんなので、医療事務の専門学校を出ている方が多かったんです。すると専門学校を出ていても学歴的には高卒なんです。だけど私は四年制大学で、あまり考えないで紹介してもらって入ってきちゃったんですが、大卒だから「出来るだろう」と思われていたんです。だけど全然気が利かないし出来ないんです。とにかく何を求められているかが分からない。
上司とはまあまあ上手くやっていけたんです。上司は「これやっといて」と言う。で、やったら「ありがとう」と言ってくれる。それはすごく分かりやすいんです。それ以外の周辺の雑用的なものというのは全然分からなくて、でやらなかったら、「何であの子やらないの、下っ端なのに」的な感じになるんです。「下っ端というのはこういうことをこういう風にやるものだよ」ということを言ってくれたら言った通りやったと思うんですけれども、それはしてもらえなくて(笑)
で、私が「お仕事かな」と思ってやったことは、全然お仕事じゃなかったみたいなんです。

正田:私も時々あります、それ(笑)

広野:周りからみて「何あの子」って思われていて、多分どう扱っていいか周りも分からなかったと思います。私自身も「出来ない」と思われてる、自分自身「出来ない」と自覚していることもあったんですけれど、「私は出来ないから」と言えないんです。

正田:はあ…。

広野:なんかこう、よけい「出来ない」と思われるじゃないですか(笑)出来ないと思われたくないし、傷つきたくないんです。あと排除されたくないし。表面的には「私出来ます」みたいな顔してるんですよ。だけど中味めちゃくちゃなんです。

正田:かえって損しそうな気が。

広野:ええ(笑)。そうすると向こうには、「こんな仕事私やらないわよ」という態度に見えたかもしれないんです。ただ私は気づいてないだけなんですけど(笑)実際はどうだったか分からないんですけど。
 もう私、1年経たないぐらいでかなり鬱状態になってしまって、そのまま(会社へ)行けなくなってしまって。たまたまその時付き合ってる方がいて結婚して辞めたんです。
あのままいたらかなり色んな精神疾患になってたと思うんです。最後、電車にも乗れなくて。各駅で毎回降りながら行ったり、朝も起きれなくて起きたら午後くらいになっていたりして。「わあ、こんな時間だどうしよう」と思っていると電話がかかってきて、「信じられない」「無断欠勤なんてあり得ない」ってワーッと一方的に言われて。何も言えない、どうしようもない。本当に辛くって。

正田:辛かったですねえ。

広野:そうですね。その後で「発達障害」というのを知ったんです。知ってからは「ああ、そういうことだったのか」というのがいっぱいあって。自分が生まれつきそういうことが分からないんだ、ということもだんだん分かってきて。
 それでも最初は普通の人のふりをしようかなと(笑)普通のふりをする努力をしてたんですけれども、それだと上手くいかないんです。例えば人との関わり方を克服しなきゃいけない。それから私、数字が弱いんですね。単純計算とかも間違いがすごく多くて、それを克服しなきゃいけないと思って金融機関の営業になったんです。

正田:それはすごいですねえ〜(笑)

広野:ところが、なったはいいんですけど、表面的に仲良くおしゃべりはできるんですけど、「契約を取る」ということが感覚的によくわからなくて。仲良くなっても契約には結びつかないんですよね。

正田:ははあ。

広野:そして書類の不備とかもめちゃくちゃ多いですし、あと「段取りを組む」というのが難しい。営業って段取り組んでスケジュール組んで動かないといけないんですけど、それができないんです。「あ、今日はここに行かなきゃいけないな」というところには行って仲良くしてしゃべって帰ってくる、みたいな(笑)全然、導入して説明して、という風にいかないんです。
 だから今考えると全然仕事になってなかったと思うんです。周りも扱いに困ってたと思うんです。だけど勉強はするので、勉強してFPの資格とかは取るんです(笑)だけど全然お仕事はできない。
 でも最終的にはノルマ制のお仕事なので、だんだんお給料が無くなっていって辞めざるを得なくなったんです。
 そういう経験を私もいっぱいしてきてるので、なんでその人が「使えない」か、が分かるんです(笑)

正田:それはすごい貴重な経験(笑)

広野:30代半ばごろになって、自分の特性もわかってこういう活動をずっと続けているので、色んな同じような方と話をするようになって、「あ、この人はこういうタイプだからこういう風に周りに思われてるだろうな」「こういう風に『出来ない』んだろうな」と。
 本人は「これが出来ないんです」と言ってるけど「実はこっちも出来ないだろうな」「こっちも多分出来ないだろうな」ということが分かるようになった(笑)
 そういうことを分かったうえで、「その人に何をやって欲しいのか」を明確にして、じゃあそれをやってもらうために周りはどうしたらいいか、本人は何を自分で分かってやっていったらいいか、をお互いに「歩み寄る」というか「調整する」ということをやっていけたらいい。


2.見過ごされる発達障害―メンタルヘルス、自己愛、虐待・過干渉、DV、引きこもり に続く



広野ゆい氏にきく「凸凹の部下と凸凹の上司、どうつきあう?」

1.発達凸凹があっても職場でうまくやっていくには
■凸凹の概念で発達を説明する
■アポを忘れる営業マン―カギはメインの仕事ができるかどうか
■製造から介護へ、凸凹社会人の流入現象
■新しい枠が必要、正社員でも障碍者枠でも非正規雇用でもなく
■会社でうまくやっていくには自覚がポイント
■「私も仕事できない人だった」(広野)


2.見過ごされる発達障害―メンタルヘルス、自己愛、虐待・過干渉、DV、引きこもり
■メンタルヘルス問題のかなりの部分が発達障害
■「できる部分」にしがみつく当事者
■当事者の集まりで初めて「ゆるむ」
■新型鬱と発達障害
■自己愛は発達障害なのか?
■「指摘されると切れる」敏感さから「出来ない」と認められる当事者コミュニティへ
■虐待、過干渉と発達障害
■DVと発達障害
■引きこもりと発達障害
■当事者の人生―趣味、コミュニティ、介護


3.凸凹部下と凸凹上司、どう付き合う?
■もし発達障害の部下をもってしまったら
■部下の発達障害に気づけないマネジャーたち
■「発達障害上司」は承認が難しい?
■「発達の問題」わかったら降格がベストか
■診断を受けてもらうことは役に立つか
■診断を受けてもらうトークとは




※2015年春、インタビュー第二弾
b>広野ゆい氏にきく(2)発達障害者マネジメントの「困った!」問答


1.「一律」になじまない現実と付き合う
■メンタルヘルス問題に「発達障害」の視点がない
■「軍隊式マネジメント」はなぜ存在するか
■5Sに「発達障害」の視点を入れると
■全体の質低下を防ぐには
■「発達障害」と昇進昇格と嫉妬


2.「弱みの自覚」のむずかしさと大切さ

■自己診断にチェックリストは有効か
■若い人の成長過程のむずかしさと自己認知
■適性のない仕事についていたら?
■「強みを活かす」の限界 弱みの自覚の大切さ
■感情表現(Iメッセージ)の壁を訓練で乗り越える


3.発達障害者マネジメントの「困った!」問答

■管理職研修と発達障害
■ASDの人の固定観念と性バイアス
■ADHDは薬で改善されるか
■告知はどんな言い方が有効?
■ADHDの人が自己判断で仕事をしたら




100年後に誇れる人材育成をしよう。
NPO法人企業内コーチ育成協会
http://c-c-a.jp