NPO法人発達障害をもつ大人の会(DDAC)代表・広野ゆい氏へのインタビュー 第3回(最終回)です。

 実際に「発達凸凹」の部下がいたらマネジャーはどうしたらいいの?マネジャー側が「凸凹」だった場合には?
 誰もが気になる疑問に広野さんが真摯に答えてくれました。


広野ゆい氏にきく「凸凹の部下と凸凹の上司、どうつきあう?」

1.発達凸凹があっても職場でうまくやっていくには
■凸凹の概念で発達を説明する
■アポを忘れる営業マン―カギはメインの仕事ができるかどうか
■製造から介護へ、凸凹社会人の流入現象
■新しい枠が必要、正社員でも障碍者枠でも非正規雇用でもなく
■会社でうまくやっていくには自覚がポイント
■「私も仕事できない人だった」(広野)


2.見過ごされる発達障害―メンタルヘルス、自己愛、虐待・過干渉、DV、引きこもり
■メンタルヘルス問題のかなりの部分が発達障害
■「できる部分」にしがみつく当事者
■当事者の集まりで初めて「ゆるむ」
■自己愛は発達障害なのか?
■「指摘されると切れる」敏感さから「出来ない」と認められる当事者コミュニティへ
■虐待、過干渉と発達障害
■DVと発達障害
■引きこもりと発達障害
■当事者の人生―趣味、コミュニティ、介護


3.凸凹部下と凸凹上司、どう付き合う?
■もし発達障害の部下をもってしまったら
■部下の発達障害に気づけないマネジャーたち
■「発達障害上司」は承認が難しい?
■「発達の問題」わかったら降格がベストか
■診断を受けてもらうことは役に立つか
■診断を受けてもらうトークとは


 
(ききて:正田佐与)



広野ゆい氏インタビュー「凸凹の部下と凸凹の上司、どう付き合う?」

3.凸凹部下と凸凹上司、どう付き合う?
■もし発達障害の部下をもってしまったら?

正田:これは是非お伺いしたいと思っていたんですが、あるマネジャーが自覚してない発達障害あるいは凸凹をお持ちの方を部下に持った。非常に仕事上支障が出ている。感情的にもこじれてしまっている。この場合マネジャーには何ができるんでしょう。

広野:まず、マネジャーの方がどうしたいか。その人に対して何ができると考えられるか。ですよね。「あいつ困るから自分のところから別のところに入れてくれ」という人もいると思うんです。

正田:多分よくあるんです。

広野:そうですよね。
 「何とか(自分のところで)したい」という場合には、やっぱり環境設定ですね。本人が自覚していなくてもできる対処というのは、ちょっとはあるんです。伝え方であったり、その人のミスを減らすようなシステムを全体で作っていくとか。そういう風に周りを少しずつ変えていくというのが、出来る範囲で出来ることの1つ。
 それで上手くいったときに本人がそれでちょっと「ゆるむ」とか、上手くいくことが多くなるということで、ちょっと上がってきたぐらいが本人に自分の特性について自覚をもってもらうタイミングなんです。一番最悪の時というのはほとんど何も受け入れないです。そこの時点でその人のメンターができる誰かを作るとか。マネジャーがそんなに信頼関係を結べるかというと、難しいことも多いと思うので、できればちょっと離れた人がメンターとしてその人と関わるということができれば、そこが突破口になります。

正田:家族で言えば親戚のおじさんおばさんみたいな存在ですね。

広野:そうです。隣の部署の仲のいい人とか、前の部署の自分のことをわかってくれた人とか、直で評価される関係ではなく、ちょっと離れたところの人に本人が何を困ってるのか、何にこだわってるのか、とかを拾い出せる人がいると、そこはアプローチがし易いかなと思います。本人がなんでそれにこだわってるのか、なんでそういう風になっちゃうのか、また本人が自分のことをどう思ってるのか、そういうことをどこかで情報が入ってくれば、対処の方法が見つかる可能性はあると思うんです。
ですから、直で何かできるというよりも、周りからやっていくという感じでしょうか。
直でやればやるほどお互いストレスが溜まると思います。

正田:そうでしょうねえ。

広野:「同じ部屋にその人がいるだけで全然何もできなくなる」っていう人が結構います。
余計こじれちゃう。

正田:はい、はい。

広野:そこは、(直属のマネジャーは)遠いところから見てやっていくと。
 あとは、抱え込まないことでしょうか。そこだけで困っているとすごくストレスが大きいですよね。その問題をみんなで共有して、「みんなで何とかしよう」という感じに持っていけるとまだいいのではないでしょうか。

正田:多分、何が起こっているかを正確に言える人はマネジャーでも少ないです。腹が立っちゃうと、やっぱり物事を歪曲して伝えたりしますよね。感情を交えて伝えたり。

広野:うんうん。


■部下の発達障害に気づけないマネジャーたち

正田:人の個別性を感じる力のある人とそうでない人、マネジャーでもすごく差が激しくて、私の知っているマネジャーでも、みんなが発達障害と知ってる部下をひどく怒ってるとか。「怒ってもしょうがないんですよ、そういう人なんだから」と言ってあげても分からなくてキレちゃうみたい。またあるマネジャーは発達障害の部下に「君はもっと感情を素直に出したほうがいいよ」と説教するらしいんですけど、「どういう感情を感じていいかわからなくて戸惑ってるんじゃない?」っていう。

広野:そうですね、そうですね(笑)
私たちからみると、私たちをいじめる人たちっていうのもそういう傾向がある方なんですよ。人の立場とか人の気持ちとか若干分からないんだけれども出来る能力を活かして活躍されているから、そこは誤魔化されて見えなくなっているという。

正田:それすごくわかります(笑)

広野:まさか、「あなたもそうですよ」とは言えないんですけれど、ちょっとずつ知っていく事によって気づいてくれたら有難いですね。気づかなかったら、その方(上司)がそういう方だということでこちらも対処していかないといけない(笑)

正田:(笑)ああ良かった、今日広野さんとお話して「これだけ共通認識を持てるんだ」と思いました。すごくほっとしました。
 あまりこの問題は綺麗ごとで話せないので。

広野:そうですよね。当事者同士の話でもかなり厳しいですよ。
「その職場はあなたに合ってないから辞めたほうがいいよ」って当事者同士だと平気で言うので。
 お給料が下がっても自分に合った仕事をやった方が幸せだと思うんですよね。みんなでそういうことを共有することによって「あ、そうだね」となる人もいますし、それは会社に言われるよりは当事者の同じような目に遭っている人に言われたほうが、すっと入っていくと思うんです。

正田:うーん、だと思います。


■「発達障害上司」は承認が難しい?

広野:ややこしいのはやっぱり自己愛傾向が入ってるタイプですね。

正田:どんなケースがありますか。

広野:(上の人が自己愛入ってる場合)上の人も、下の人が何を考えてるかを特性上全然分からない上に、分かりたくない。怖いんですよね。

正田:怖い。

広野:上であっても、言うことをきいてもらえない、イコール「否定された」。否定されたくないんですよ、結局は。上も下も否定されたくない(笑)
 そういう場合は、その人の自尊心をくすぐるような言い方とかやり方で、「あなたのお蔭でこの人がこう良くなるから、それはあなたの成果だから、こうしたらどうか」という提案をしてみるとか。「これはダメだからこうしなさい」じゃなくて、「こうするとあなたの評価は上がりますよ」とか、そういう言い方だと聴いてくれるかもしれないです。

正田:なるほどー。
 実は「承認研修」のようなことをもう12年やってきまして、多分定型発達の上司の方だと特別難しいことをやっているわけではなくて、ほとんど誰でも習得できるようなことなんですが、やっぱり発達障害入ってる上司の方にとっては難しいことのようで、「あなたは何々をやりましたね、やってきましたね」と相手の文脈を認めることが難しいみたいなんですね。

広野:ああ。やっぱりそれは特性ですね。

正田:で、自分が習得できないって思うと怒りが湧いちゃうみたい。研修の中でも怒ってきたりとか、言いがかり的なクレームをつけたりとか、あるんです。私、長いことその問題で悩んできていて、「この簡単なことを出来るようになれば皆さんが幸せになるよ」ということを教えに来ただけなのになんで「自分が否定された」みたいに思っちゃう人が出るんだろうと不思議で不思議でしょうがなかったんです。割合最近になって「否定された怒りが湧くほうの人って発達障害的な人なのかしら」と。

広野:可能性はありますね。ちょっと分からないと「そんなのは要らん!」みたいな。

正田:そうそう。「こんなものはただの人情噺だ!」みたいな。

広野:ああ、はいはい。…なりますね(笑)
 先生などにも多くって、子供が潰れちゃうんです。

正田:ですよね。

広野:ですのでその人が理解できるようなやり方。…まあ、その人が本当にその部分が出来ないのであれば、「この部分はこの人に任す」とか、ほかの人に介入してもらう方法があるかなと思います。それを本人が「否定された」とか「出来ないから頼まなならん」という感覚にならないように上手に、「あなたは忙しいからここまで出来ないから、じゃあ部下のこの人のお仕事にしよう」という感じでやっていくのは「あり」かな。
 無理に(承認を)しようと思うと、「脳が疲れる」んですよね。

正田:ああ。はいはいはい。

広野:動かない部分を無理やり動かそうとするので、脳が疲労するんですよ。そうするとイライラしたり、抑鬱状態になったり、色んな支障が生じてくる。
 「この部分が難しいのであれば、こうしたらいいですよね」というのがいくつかあると、対処できる可能性はあります。それを「上手に投げる」ということも、その手法の中の1つですよ、みたいな感じでマニュアル化してしまう。そうすればその人は「じゃあ自分はこれを選ぶ」と、自分で納得して選んだことは特に騒がないので(笑)

正田:なるほど、なるほど。
 すごい貴重なヒントをいただきました。長年悩んでいたことなので。
 人事の人が「承認研修をこの人には受けてほしい」という人ほどそうなんですよ。


■「発達の問題」わかったら降格がベストか


広野:そうですよね。
 実績を上げるということができても、人と関わることが難しいという人がやっぱり一定数いますので、その人たちをどう使うかですよね。昇進させないならさせないで。


正田:難しいですねえ…。
 会社の昇任昇格試験の中に発達に関するちょっとしたテストを入れたほうがいいんじゃないかと、今思ってしまいました。

広野:それはありますね。
 ただ、それを克服できる方もいるんです。

正田:ははあ、それはテスト勉強で。

広野:テスト勉強というより、失敗から学ぶ能力。私もそうなんですけれど、実際の学んでいくときの失敗が必ずあるんですが、「なんで自分は失敗したのか」ということを客観的にみて改善していくことができるかどうか。失敗して学ぶということを経験したときに、それを認めないか、それとも認めて直せるか。

正田:私も仕事上で失敗を認めない人と色々もめています(苦笑)

広野:そうですよねえ。昇任試験…の前に(発達障害が)分かったほうがいいですね。
 アスペルガーの人で賢い人というのは、「こういうときはこうする」ということを学ぶことはできるんです。試験勉強はして、通るんです。表面的なやりとりも、決まってることであればそれはこなせるんです。だから、試験でしたらそれをクリアできる可能性は高いと思います。試験勉強しちゃうと。
 逆に試験勉強しなかったら、できないと思うんですけれど。
 実際の現場に入った時に(障害や凸凹が)発覚するケースがほとんどだろうと思います。その場合は、何かトラブルがあったときにそれでも分からなければ降格、というシステムを作るのが大事かなと。

正田:大事ですね。下の人を鬱にしてしまうと、本当に人生が破壊されてしまいますから。

広野:そうなんです、そうなんです。
 トラブルの当事者が色んな部署を経験してきている場合、問題が起きたら多分よその部署でも問題を起こしているはずなんです。問題を起こしてなかった部署でも、誰かがフォローして上手く行っていたケースがあると思うので。ちょっと深くみていくとそれも見えてくると思うんです。だから、どっちに問題があるかというのは今までの経験を丁寧にみていくと分かってくると思います。客観的な判断のラインがあるだろうと思います。
中には自分で気づいて修正していける人もいます。例えばビル・ゲイツさんもアスペルガーですよね。それがあるからダメ、と言ってしまうのは問題です。


正田:なるほど。発達の問題があるかどうかというより、失敗や問題から学ぶ力があるか、ということですね。



■診断を受けてもらうことは役に立つか

正田:どうなんでしょう、この方々がご自身の発達凸凹を認めるには、「凸凹がある」ということを分かるだけで十分なんでしょうか、この方(営業マン)などは(発達障害の)診断を受けたということですけれども。診断は役に立つんでしょうか。

広野:診断は、そうですね…。ADHDの場合は、薬もありますので診断を受けたほうがいいかもしれません。

正田:ああ、なるほど。

広野:その人の程度にもよるんですけれど。
 最初、私はすごく鬱だったんですね(笑)ですのでADHDの治療を受けに行くときは鬱の治療からやったんですけど、私自身は鬱の自覚はまったくなくて。

正田:朝起きられないとか。

広野:そうですね、それも子供のころから苦手でした。失敗も子供のころからしているし。ただ鬱がものすごくひどくなってご飯も碌に食べれてないし、ちょっと動くと疲れて寝ちゃったりしてたんです。自分のことを全然客観的に見れてないんです。だから「鬱です」って言われて「えっ!鬱じゃないです」とか(笑)ずーっと先生とそういうやりとりをしていて。
 ただ鬱の薬を飲んでいると薬が効いてきてご飯が食べられるようになって、「死にたい」とか「生きていたくない」という気持ちが無くなっていったんです。それは多分お薬が効いたせいだと思うんです。
 それで元気になって、自助グループをやっていけたんです。
 やはり診断がなかったら難しかったろうな、と。やっぱり二次障害ですね。私の場合は鬱ですし、強迫であったりパニックであったり不安神経症であったり、色んなものを皆さん持っています。それは診断してもらい、自分の特性を分かり、さらに二次障害の治療をしてもらうと大分よくなる。その点で診断はしてもらった方がいいと思います。
ただ、それができる先生があまりいないんです。発達障害が診れて、大人の発達障害の二次障害も診れる、という先生が。ほとんどいないですね(笑)

正田:そうなんだ…。

広野:そうなんです。当事者会の中でお話することによって「こういう症状にはこの薬が効くよ」といった情報を得たうえで先生ともやりとりする、っていう。

正田:なるほど、患者さんの方から「先生この薬がいいと思うんですけど」っていう(笑)

広野:そうです。それを聴いてくれる先生と付き合っていける、というような。

正田:ちなみにどこの先生がお勧めってありますか?

広野:実は大人の発達障害を診られる病院はまだほとんどありません。
 発達障害を診るためには発達障害児の臨床経験が必要ですが、精神科の先生のほとんどはそれがありません。また発達障害児を専門に見ていた先生は大人の精神疾患が分かりません。
 そして発達障害に効く薬というのがあるかというと、そんなに直で効くお薬というのは、ない。二次的な鬱とか不安とかが軽減されると、改善することはあります。それでとりあえず対処してもらうという感じでしょうか。
 (私の場合)お医者さんは、自分が良くなるためにサポートしてくれるその一部だったんです。二次的なもので何か(鬱などを)発症しているときには指摘してもらって薬をもらうというのはすごく必要なんですけれども、(社会適応を)上手くやっていくときというのは自分で色々やっていかなきゃいけない。
 でも一番最初の訳わかってないぐちゃぐちゃな時というのは、医療の手助けが必要かと思います。あまり大量にお薬を出さない先生だといいですね。

正田:よく、発達障害がベースにある鬱は治りにくいと言いますでしょう。で、お薬をどんどん増やしちゃうという。

広野:ベースの発達障害が診断されていない場合はそうだと思いますが、発達障害がわかっていれば、私は逆だと思います。というのは、私もそうだったんですけれど、今思えば高校生ぐらいからずーっと抑うつ状態できているんですけど、逆に今は深刻な状態にはならないです。仲間がいっぱいいるし。

正田:それは支えになっておられるという面があるんですか。

広野:すごくありますね。だから薬よりもまず仲間。医者の診断よりも仲間の診断のほうが確実やし(笑)そういうコミュニティとつながることができるとどんどん元気になっていくんですよ。お医者さんとか薬(のサポート効果)というのは一時的で、それが助けてくれるのは本当にわずかです。一部分です。
 生活全体にわたって、長期にわたってのサポートとなると、それ以上の何かが必要になります。病院は、だから私的には「上手に使う」という感じ。
 そういう風に、(当事者のコミュニティの支えがあると)鬱は治っていきますね。
 ただ、躁鬱を同時に持ってらっしゃる方は難しいですね。

正田:難しそう。

広野:それはでも、発達障害とは別の物なんです。発達障害がベースにあって、ストレスがほかの人よりも多いことによって、双極性障害を発症したということは言えるかもしれないと思うんですけれども。発達障害だから双極性になるわけではない。そこは診立ての間違いだと思います。なんか調子よくなってきたなーと思ったら、またがーっと落ちてきて、というのは大体躁鬱なんですね。
 ただね最近思うのが、なりやすいなというのはすごく感じてます。双極性に。発達の傾向がもともとある人が二次障害という形で双極性障害、気分の浮き沈みが定期的にやってくるというのを発症してしまって、ずっと繰り返しているというケースは非常に確かに多いなと。



■診断を受けてもらうトークとは

広野:特性のかなり強い方は、できれば手帳を取ってもらって地域の支援と繋がってもらうというのが必要かと思いますけれど。そこはやはりその方の困難のレベルですね。

正田:手帳をとってもらって、というそこの手続きは、どれぐらい大変なんだろう。
 例えば50人未満の会社ですと、産業医さんがいないんです。上司が自分で(診断を受け手帳をとるように)言えるかといったら…。

広野:言えないでしょうね。その部下の方はだいぶコミュニケーションとかが難しいタイプですか。

正田:ものづくりなので、決まったことはやれるけれど、やっぱり先ほど出た、今どきの問題で小回りが利かないと困った問題が出ている。
 また休憩時間を勝手な時間にとってしまうとか。

広野:ああ、なるほど。年齢を考えると難しいですよね。

正田:ほんとに難しいですね。

広野:ただね、手帳を取るということに関しても抵抗がすごくある方とそうでない方といる。「取ったほうが楽だよ」と言われたらポーンと取る方もいるんです。

正田:ほう。

広野:だから一概に「そんなこと言ったらどんなトラブルになるか」と思わなくても、「しんどいとか困ってるんやったらこういうやり方もあるよ」という投げかけの仕方で、(受診に)行ってもらうのは「あり」だと思うんです。

正田:なるほど。

広野:そこは、こちら側がじょうずに。
 特に、依存的で「楽になりたい」という人は飛びつくかもしれないです。そこは本当に相手の特性とか性格によりますね。「助けてもらいたい」「話を聴いてもらいたい」と思っていたら、「手帳を取ることによってこんなこともしてもらえるしあんなこともしてもらえるよ」と言うと結構すんなり行っちゃうこともありますね。

正田:「こんなこともしてもらえる、あんなこともしてもらえる」って例えばどんなことですか。

広野:例えば、障害者地域生活支援センターというのが地元に絶対あるはずなので、そこに行ったら支援員さんとかが話を聴いてくれますし、市の保健所とかでも保健相談の中で、そういう生活の中で困っていることや今後の不安を聴いてくれてそういうところ(センター)へ繋げてくれるということがあります。そういうところに行くのも1つの手です。
 必要があれば、会社から保健所に連絡してもらって、ということも「あり」かな、と思います。

正田:はあ。それは本人さんに診断を勧める前に、ですか?

広野:そうですね、診断しなくても使えるサービスもありますし。そして「こういうサービスが受けられるメリットがあるから病院行ったら」と言ってあげると、多分本人も行きやすいと思います。
 ですから「病院ありき」というよりは、「これがこういう風に良くなる」「こういうメリットがある」から、手帳を取る、病院へ行く、と考えて勧めると、まだうまくいく。「病院へ行く」ということを目標にしてしまうと、「なんで?」となる(笑)
「なんでオレが病院行かなならんねん」となるとうまくないので、「このサービスを受けるためには医師の診断が必要だから診断書を書いてもらうために行ったらどうか」と、そういう目的やったら行くかもしれない。
 その人がその気になるポイントというのは、人によって色々なんですけど、ポイントを探していったら行けるかもしれない。

正田:ここに戻っちゃいけないのかもしれないけれどやはり「診断」ってネックで、診断を受けてもらうための上司のトークというのが難しいですよね。言い回しをどうしたらいいんでしょうか。

広野:その人のタイプを大まかにきいて、「こういう言い方をしたらどうですか」ということは、私も大体アドバイスできるんです。

正田:ほう。それは福音かもしれない(笑)

広野:詳しい情報、普段のその人との会話とか行動とか、こういう言葉でどう反応するとか、からある程度そこはできることもあります。
 思考回路がちょっと普通の人と違っていて、どういう育てられ方をしてきたか、どういう仕事をしてきたか、またはその人の価値観などでちょっとずつ思考回路が違ってくるんです。そしてこだわりの強い方だったら、どこにどういう風にこだわっているのかを分かることによって、その人の考え方をある程度変えていくことができる。

正田:これを公表したら広野さんに問い合わせ電話がバンバンかかってきちゃいそうです(笑)
 今日はどうもありがとうございました。


(終わり)



広野ゆい氏にきく「凸凹の部下と凸凹の上司、どうつきあう?」

1.発達凸凹があっても職場でうまくやっていくには
■凸凹の概念で発達を説明する
■アポを忘れる営業マン―カギはメインの仕事ができるかどうか
■製造から介護へ、凸凹社会人の流入現象
■新しい枠が必要、正社員でも障碍者枠でも非正規雇用でもなく
■会社でうまくやっていくには自覚がポイント
■「私も仕事できない人だった」(広野)


2.見過ごされる発達障害―メンタルヘルス、自己愛、虐待・過干渉、DV、引きこもり
■メンタルヘルス問題のかなりの部分が発達障害
■「できる部分」にしがみつく当事者
■当事者の集まりで初めて「ゆるむ」
■自己愛は発達障害なのか?
■「指摘されると切れる」敏感さから「出来ない」と認められる当事者コミュニティへ
■虐待、過干渉と発達障害
■DVと発達障害
■引きこもりと発達障害
■当事者の人生―趣味、コミュニティ、介護


3.凸凹部下と凸凹上司、どう付き合う?
■もし発達障害の部下をもってしまったら
■部下の発達障害に気づけないマネジャーたち
■「発達障害上司」は承認が難しい?
■「発達の問題」わかったら降格がベストか
■診断を受けてもらうことは役に立つか
■診断を受けてもらうトークとは






※2015年春、インタビュー第二弾
b>広野ゆい氏にきく(2)発達障害者マネジメントの「困った!」問答


1.「一律」になじまない現実と付き合う
■メンタルヘルス問題に「発達障害」の視点がない
■「軍隊式マネジメント」はなぜ存在するか
■5Sに「発達障害」の視点を入れると
■全体の質低下を防ぐには
■「発達障害」と昇進昇格と嫉妬


2.「弱みの自覚」のむずかしさと大切さ

■自己診断にチェックリストは有効か
■若い人の成長過程のむずかしさと自己認知
■適性のない仕事についていたら?
■「強みを活かす」の限界 弱みの自覚の大切さ
■感情表現(Iメッセージ)の壁を訓練で乗り越える


3.発達障害者マネジメントの「困った!」問答

■管理職研修と発達障害
■ASDの人の固定観念と性バイアス
■ADHDは薬で改善されるか
■告知はどんな言い方が有効?
■ADHDの人が自己判断で仕事をしたら




あとがき:
このインタビューを行ったのは10月6日。

これまでの人生、とりわけ仕事人生の中でのあんな場面、こんな場面は「発達障害」が関わっていたのだろうか、と思いをめぐらしながら録音を起こしていると、起こし作業がどんどん遅くなりました。

広野さんにも原稿に手を入れていただき、やっと1か月後の今、公開できました。


その間、新著『行動承認』が出版されましたが、その新著がマネジメント全般にまたがる手法をご紹介しているといいながら、「発達障害」に関しては紙幅の関係で中途半端にしか触れられなかった、その問題があるがゆえに本書の手法を実践してみても成功しない人がいるかもしれない、といささか後ろめたさを感じています。


この分野この問題に気づいている精神科医や心理学者、臨床心理士はまだわずかで、人材育成やマネジメントの分野の人で気づいている人は皆無に近い状況です。
いささか傲慢な言い方をするなら、わたしたちは「承認」というなまじよく切れる鋏をもってしまったがゆえに、それでも「切れない」人々の存在に敏感にならざるを得なかったかもしれません。


参考記事:
「1つのまとめ 1位マネージャー育成と発達障害はどう関連するのか」
http://c-c-a.blog.jp/archives/51884908.html


そして今回のインタビュー後も、以前ブログで取り上げた「依存」の問題など、積み残しの問題が出ました。
定型発達者の「可塑性」とどう折り合わせていくか、というのもクエスチョンのままです。
まだまだ、この分野で考えていかなければならないことができました。

広野さんには「第2ラウンドも是非お願いします」とお伝えしました。



ブログ読者の皆様も、是非ご一緒に考えていただければ幸いです。



100年後に誇れる人材育成をしよう。
NPO法人企業内コーチ育成協会
http://c-c-a.jp