年末から引き続き、昨年11月に「承認」「傾聴」「質問」の全3回の研修を企画・アテンドいただいた関西の某経済団体の研修担当者・Nさん(30代後半、男性)のインタビューをお送りします。

 後にも先にもこの人はわたしが出会った中で最高のご担当者さんだったろうなあ〜、と思います。企画・事前告知・当日アテンド・宿題督促 すべての面において。

 全4回の第3回、今回は「スライド」「指示出し」「適正人数」など研修の細かいコダワリに着眼していただきました。


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柔道有段・凄腕担当者がみた「12年1位」の研修とは(3)―言葉の強さがわかった!


■スライドづくりの要諦「疲れさせないこと」
■実習で「指示出しの強さがわかった」
■実習と講義のバランスは
■宿題はやる意義があるのか
■「現業のマネジャーさんで助かりました」(正田)―場の空気は男っぽいか、女っぽいか
■人見知り研修講師の努力
■沢山受講させてあげたいけれど…適正人数のジレンマ




■スライドづくりの要諦「疲れないこと」


Nさん:スライドは、字が大きくて大事なところを書いていただいてますね。
 ポイントの高いところは大きな字にして分かりやすくしていただいてる。また肝心な説明は文字数をとってしっかり分かるように書いていただいてますので、すごく疲れにくい。


正田:疲れにくい。


Nさん:見ていて疲れないです。見やすい、ということです。


正田:そういう物差しって初めてききました。


Nさん:僕も経験少ないですけれど、テキストでも文字をダーッと羅列してあるのもあれば、表とかグラフ中心のテキストもあります。ちょっと分量が多いとか圧迫感を感じるようなのがあるんですけれど、その中では、先生のは簡潔ですよね。
 字も、小さいと疲れますよね。集中すればするほど疲れる。でも先生のは大きいし。僕はあまり目が良くないので。


正田:うん、みなさんそうですよね。


Nさん:ポイントを押さえてもらっているので、余計なことがないんです。教科書的に物事を追うと疲れますよね。でも見やすいようにスライドを作ってくれてるから、見やすいし言われていることもゆっくり聴ける。字を追うことに集中してしまうと、人の話が聴けなくなる。


正田:そうなんですね。
 えへへ。ささやかな自慢をしますとね。前、わたしビジネススクールに1か月半だけ行って退学しちゃったんです。ハーバード大MBA系の教育をすると銘打って、コンサルタントもよく行くところです。
 そこの入試を通って入って入学式の予備会合のようなものがあり、そこで20人ぐらいの新入生全員が、スライドを使って自己紹介とか入学の目的をプレゼンしたんです。
 全員終わったときに「だれの説明とスライドが一番わかりやすかったか?」先生が問いかけたときにみなさん「正田さん!」と言ってくれました。
 そこのビジネススクールは大学院だけじゃなく単科履修のシステムもあって、入学前にその単科をとっていた人は、その学校流のスライドづくりが分かっていたわけです。図形や矢印の組み合わせだけで説明する、という。コンサルタントさんのスライドってそういうの多いですよね。みなさんそれをやっていたんです。
 わたしのスライドもその図形や矢印もところどころありますけれど、それよりは普通の箇条書きを大きい字で書いてあげたほうが、自分にとっては分かりやすい(笑)。箇条書きのスライドを多めにして、一部だけ写真を使って、という構成にしたところ「一番分かりやすかった」と言っていただいた。
 コンサル業界の「図形で示す」というのをそんなにいいと思ってないんです。ずうっと図形と矢印で示す、それだけでロジックを追えるかというと、人間追えないんです。図形や矢印でロジックを示したつもりでも、読み取れないですよね。作る側の独りよがりになりやすいと思います。


Nさん:短時間であの距離でぱっと図形を見たときに、筋を追えるかというと、追えないですよね。
そうなんです、僕ら普通の人にとっては、理解するためには結論はやっぱり先生の話を聴くことだと思います。先生の話を聴いて理解する以外ない。資料をもらった時は「帰って何回も読み返して理解しよう」というつもりになるけれど、あとで読み返さないですもんね。
 教科書的に全部書いてあるとそれで満足しちゃうけれど理解はしていないんです。それに対して大事なところだけ箇条書きにしてあると、その場で理解できるし再現できますね。
 先生の資料をもらって、それだけ見たら講師を真似できると思うかもしれないけれど、そこへ行くまでの解説は口でしっかり説明してもらえないとできない。
 いい話を持って帰ってチェックポイントとしては「あの表」があって、チェックポイントとして活用すればできるけど「あの表」単独で人に教えることはできない。そういうことまで上手く考えてはるなーと思って(笑)


正田:それは手の内隠してるわけでも意地悪しているわけでもないんです。細かく書き込んでも読み取れないだろうと思うんですよね。


Nさん:なるほど、なるほど。そういう細かいところの配慮が面白いんですよね。すごいなー、と。
 意地悪だとかは全然思わなかったですよ。
 やっぱりそう思ったら皆さん、真剣に聴くでしょう。1回しかチャンスないから。後々考えても後の祭りなんですよね。
 だから「こういう研修は聴き逃したら損ですよ」と言ってあげるといいんですね。


正田:おっしゃったことは本当に大事なことで、「なんでこの『研修』という形が生き残っているのか」という話ですよね。
 スライドや手元資料の視覚的手掛かりと、加えて解説をしてくれる先生が音声で意味を送り込んでくれる。それが両方あって「わかる」ということになる。


Nさん:大事なことは今もやっぱり大事だ、ということですよね。
 先生の資料は、やたらボリュームがあってだらだら長くて、という資料ではないですし話もそれに沿って展開してくださいますから、追いやすいですよね。


正田:そうですか、ありがとうございます。


Nさん:録音は当然禁止ですけれど、録音を残したとしてあとで見て復習しようと思ってできるかといったら、できないですよね。それは甘えになるから、しないほうがいい。


正田:そうですね。そこまで考えたことなかったですけれど。


Nさん:話の筋を追いやすい。自分の現在地がわかるように構成してくださってるので、少々聴き逃したとしても追っかけられる。僕も2時間や3時間の研修で「ああ聴き逃した」というのがよくあって自己反省するんですけれど。


正田:ありますよね。わたしの研修でも実は途中でこっくりこっくりされてる方は必ずいらっしゃって、それはこちらからは必ずわかります。皆さんお疲れでもあるし集中力が続く限界もあるから見ないふりをしてるんですけれど。少々そういう瞬間があっても後から慌てて追っかければ追いつけるように、というのも思いますね。


Nさん:内容を落とし込むフロー(流れ)がはっきりしているので、追いやすい。また、先生は話があまりあっちこっち行かないですしね。
 もし皆さんが露骨にこう机に突っ伏してたりしたら、「この研修早よ終われ」と思ってるサインじゃないですか。でもスライドの方をみてるか、資料を1ページ1ページめくるかされているので、ああ集中してるなあ、話を追っかけてるなあと感じます。


■実習で「指示出しの言葉の強さがわかった」


Nさん:実習は全部やりやすかったです。でもいきなり「はい始めて!」って言われるのが(笑)


正田:あ、それ言ってました?どこだろう。


Nさん:みなさんが最初のほうであまり分かってないときがあるんですよ。あれびっくりしました。でも皆さんあれで顔見合わせて紅くなって、紅潮されて。目が覚めるなあという感じ。


正田:ああ、一番最初の実習ですね。2人1組で「あなたの強みは?」という。わたしも緊張していて変な言い方しちゃったかも(笑)


Nさん:ちゃうんですよ、いいんですよ。この前の「傾聴」の時もそうでしたけれど分かってる人と分かってない人といてて、「はい、始めますね〜」と言われると、「えっ、こんな風に始めるのいきなり!?」と(笑) 悪いんじゃなくてどんなワークでも最初そうなんですけれど。
 全体には和やかな感じで進みますから、皆さん真摯でちょっと恥ずかしそうな(笑)、いい感じですよね。押しつけ感というのは全然ないです。
やっぱりその瞬間急に脳が動くじゃないですか。あれをやればやるほど皆さんいい顔になっていきますよね。


正田:いい顔、そうでしたねえ。
 押しつけがましいか、そうでないか。実習の指示出しに関して、今回また受講生さんからいいフィードバックをいただきました。宿題の中でAさん(仮名)が言われていたことで、「言葉の強さがわかった」。多分、指示出しをするときの最適な語気の強さがわかった、ということではないかな、と思います。彼、立ち話できいたところによると実は過去に部下を潰しまくっていたそうです(笑)
 宿題へのコメントとしてわたしからお答えしたのが、
「この研修は実は指示命令のかたまりなんです」
と。
「はい、2人1組になってください。こういうお話をしてください。ではどうぞ!」
って、指示命令のオンパレードなんです、実は。
 ああいうのは、Nさんはどう思われました?


Nさん:やっぱり声のトーンとか口調が影響してくると思いますね。同じことをしていても、声のトーンによって全然違うと思います。男の人が、かつ横柄な人がやるのとは、やっぱり受け取る側の感じ方が違うと思います。
 同じことでも指示命令された時に受け入れられるときと受け入れられないときがあるじゃないですか。声のトーン、口調に優しさを持っているかどうかの違いだと思うんです。


正田:おっしゃる通り、そうだと思いますね。
 余談ですけれど「指示命令」については別のところで最近ご質問されたことがありました。
 新任のマネジャーで、「自分は人に指示することが苦手だけれどどうしたらいいですか」
 それにはまじめにお答えしました。
「わたしも『指令性(Commander)』という、指示命令する資質が低いんです。ワークショップのリーダーとしては不利な性格です。ワークショップリーダーは、シャキシャキ場を仕切れたほうがいいので。
 で非常に悩んだ結果、辛うじて今のスタイルにたどり着いています。まずは、相手にして欲しいことは『…してください』という語尾で、はっきり言う。『…してくださったらいいな〜と思います』みたいな相手が訳わからないような曖昧な言い方はしない。「これは指示出しなんだ」とわかるように、また「自分は指示出しをしてるんだ」と自覚を込めて言う。
 ただしその『してください』の語尾の中に優しさとかリスペクトを込めて。要は、これも承認の一形態ですよ、という気持ちを込めて。
 それで何とか研修中は皆さんが動いてくださるので、ありがたいです」
と。まあ多分うちの経理のYさんも言われると思いますけど、ふだんの会話もそんな感じですね。


■実習と講義のバランスは

Nさん:実習に対して講義の量が多いか、少ないか。
 量が多いという感覚にはならないですね、内容が面白いので。講義の中にもあるじゃないですか。「脳は貪欲なまでに成長を求める臓器である」と。聴けば聴くほどもっと奥がどうなっているのか知りたくなります。


正田:そうですか、良かったです。
 「承認研修」は意外と実習より講義の部分が多いんです。


Nさん:一番大変ですよね。初回で初見の人とやる、緊張感があって。
 でも話の内容が面白いんですよ。なんぼでも聴きたくなります。脳科学、遺伝子学まで考えてる研修ってほかにないじゃないですか。響きだけじゃなくて実証されてるじゃないですか。
 脳の話でも遺伝子の話でもみんな何となくわかる。オオッと食いついてみたじゃないですか、MRIの画像とか。あれも若い子らより自分らミドルのほうが何故仕事の頭の回りが速いのか、「すっ」と合点がゆきます。講義が長いからといって空気がだれることはなかったですね。
 量が多いかというと、説明の仕方が丁寧なので、これくらいの量が必要でしょう。4時間が長いという感覚はなかったですね。


正田:どなたかアンケートで言われてましたね、「あっという間でした」って。
 そういえば初回のときのアンケートで、「次回も期待しています」だったか「楽しみにしています」か、書いてくださったそうですね。


Nさん:はい、はい。
 実習は、内容を体感するためには絶対必要でしょう。マストでしょう、どう考えても。皆さん楽しそうにやってますよね。


■宿題はやる意義があるのか

Nさん:宿題。これは非常に大事やと思います。ものすごい緊張感が伴います。
 無理やりっていうことは良くないんですけど、何らかの適度なプレッシャーをかけるものがなければ、本気にならないですよね。


正田:ですよね。


Nさん:誰でも仕事は忙しいから、まじめに1から10までやれっていう宿題だったら、それは難しいと思いますけど。すごくシンプルな大事なことを上手く説明してくださって。
 面白いのが、「承認」ってやってみて初めて分かるじゃないですか。「照れくさい」って書いて返ってくるのが一番面白くって。そこを感じてほしいですね。


正田:うん、うん(笑)


Nさん:上司と部下ってそう分かり合えるものじゃないから、何もしない状態ではストレスを感じ合ってると思います。
 (承認を)言った瞬間って照れくさいけれど、相手が変わりますよね。それを先生から言われるだけじゃなく、受講生さんご本人が職場で感じるじゃないですか。そして自分も「らく」なんです。「どう思われてるのかな」と普段は思っているのが、「こうやったら仕事してくれるのか」と。
 自分でそれがわかる。最初の一歩をやっていただくところが一番難しいんで、宿題は受講生の方からしたらイヤかもしれないですけど大事な一歩。「恥ずかしいけど、やってみよう」と(笑)
 頭で分かるだけじゃなくて、自分自身が体で感じてみる。どう変化するか確かめてみる。確かめてみたときに「どう思う?」というのが一番大事。それ以上強制はしませんけれど、その初歩のところをやっていても効果は実感できる。
 コメントの仕方も、先生優しいですね。案外大人でもああやって返ってきたら嬉しいですよ。普段ルーティンでみなさん報連相の受け答えとかしてますもんね。
 コメントもね、皆さん気恥ずかしいと思うんですよ。子供みたいに。


正田:(笑)


Nさん:それでも認められたら嬉しい。「もっとやってみようか」となるのが人間ですよね。例外もあるでしょうけれど、普通はそうなりますよね。
 適度にプレッシャーかけて「やる」ように持って行って、やったら思い切り認めてあげて。この展開がすごいですよね。
 「宿題めんどくさい」という話が(事例セミナーで)出たそうじゃないですか。


正田:ああ、某パネリストの方ね。


Nさん:男はそういう「めんどくさい」という心理があるんですけど、でもめんどくさいと思いながらやってみたら部下が喜んだ、というまさかの展開じゃないですか。やってない人からしたら、めんどくさく見えるんですよ。仕事してほしい一心なので。
 現場の人から見たら意思疎通の改善に役立つきっかけ作りになってます。いきなり大きなことをやらせるわけじゃない、恥ずかしいひと言を出させる。すごくいい刺激になっていて、やっている意味あるんじゃないかな。
 だからこそシリーズ研修の形でやる意味もある。「明日また研修や、いこかー」だけで参加するのでは、あまり身にはつかないんじゃないか。こういう研修に宿題はあって全然いいと思います。
「恥ずかしいけど、やってみよう」
 宿題って大体「重たい」ものじゃないですか。でもやると返ってくる反応が面白くて、面白いとなったらなんぼでもやってくれるじゃないですか。やってみて経過観察して「あ、面白い」と思うからさらにもっと応用してみようかな、と思う。
 そこって自分自身が興味が湧いて、ワクワクしている状態じゃないですか。そういう状態になっているって、有難いことですよね。
 結果的にその人が「気恥ずかしい」のを乗り越えても、効果を実感できるような仕組みづくりをしていただいてますので、いい意味で分からざるを得ない。背中を押してくれる感覚はあると思いますね。
 やった人にしか分からない喜び、面白味。
 僕らも「宿題」って想像していたのとちょっとイメージが違ったんですが。


正田:ああ、そうですか。


Nさん:やっぱり宿題というのは「課題」という硬いイメージで、どう受け取られるかとヒヤヒヤしていました。そう思われたら中身も形骸化してしまうし、たとえ形骸化したとしても宿題を出していただいたことに感謝しようとは思ってましたけれど、蓋を開けたら皆さんやってくれたので、すごく有難いなーと。そこにすっごい意味があったなーと感じております。


正田:Nさんがあの中に入ってくださったお蔭です。


■「現業のマネジャーさんで助かりました」(正田)ー場の空気は男っぽいか、女っぽいか


Nさん:かなり男っぽいんじゃないですか。


正田:性格は男っぽいと思いますよ。「C」(主導型)だし。


Nさん:男らしい。表現が難しいですよね。
 あのね、敵意むきだしの強さじゃなくて、先生ご自身がリスペクトのスタンスでやっておられるんで、上からマウンティングするようなムードは全然ないし、まじめに、―それこそ「真摯」だと思うんです。
 これも「淡々と」というのとも違うんですよね。抑揚もついてるし。やっぱり表現が難しいなあ。
 やっぱり「向き合う」という姿勢がある。ナアナアで済ますという雰囲気を見せない。そこが一番大きいですよね。
 研修講師の先生を「優しい」「厳しい」と一言で表現できるか、というのも微妙なんですけれど、学びの場として一番適切で合っているというんでしょうか。
 やっぱり大人やから、得られるものを得てやっていきたい、それは子供以上に強いと思います。講師の先生がそれに応えれる力量があるかというと難しいと思います。
 先生はそれに応えられる以上の研鑽もされています。何を質疑されても動揺しない。「それはそうですねー」と言いながら真摯に向き合う姿勢をみせる。本当の余裕というのをお持ちになっているから、相手に警戒させない。真摯に講義していただいているから、受講生の方からみたら嫌みなくしかも論理的に教えてもらえるから、気持ちよく学べるのだと思います。
 柔軟というんでしょうか、色んな環境、職種の方が来られますが、柔らかく対応されますね。
 僕ブログだけみたらガチンコ勝負ばっかりの人かなーと。


正田:ハハハ。


Nさん:実際研修になるとそんなことないんですね、フワッと大きい感じがしますね。


正田:小さいですよ、小さいですよ(笑) 


Nさん:心では怒ってはるのかなーと思いますけどね。


正田:いやいやいや、貴団体のセミナーでは怒る場面ってなかったですよ。有難いことに製造とか建設とかの現業のほうのマネジャーの方が多かったので、すっと入っていけたと思います。あれで変な本読んで勉強して頭でっかちになっていると難しいところがあるんですけど(笑) 現業の方はむしろ、ゴツイようでも「行動承認」をすっと分かっていただけるところがありますね。
 怒る時もたまにありますよ、あんまりひどいときは。最近はないですけどね。


Nさん:上手くまとめきれてないんですけど、やっぱり相手を人間としてリスペクトする姿勢がおありだから。コミットしているというのも違うなあ、とにかく色んなことを教えていただけるんで、脳が喜ぶ。
 やっぱり「本人さんのため」を考えてやってくださるのを感じます。寄せ付けないとか、威圧感はない、ここまで「接近戦」でやってくれていても。そう感じさせないような配慮をしてくださっているからすごいな、と思います。
 強引でも断定的なところもないですよね。
 「空想的」というところもないです。現実から遊離しているかどうか、ということですよね。


■人見知り研修講師の努力


Nさん:先生は「親密性」がおありでしたっけ。


正田:そうです、「個別化」「親密性」とあります。


Nさん:「親密性」ああこれか、とわかりました。先生が受講者の方と1人1人挨拶しに行って、名刺交換して名前を憶えはるじゃないですか。あの感じって、ささっと(自然に)行かはるんで、壁を作らないんだなあ、と。これが「親密性」か、と。
 やっぱり最初はちょっと緊張しはるじゃないですか。でも初日だったけど初めての感じがしなかったんですね。あ、良かった、と思って。僕、「どうやってつなげようか」とドキドキしてましたもん。
 でも知らん間に名前とか憶えはって、発表とかのときも名前で呼ばれるじゃないですか。「あれー?半年ぐらいやってたっけ」という感じで。


正田:ああ、席順を紙に書いてたんですよね。


Nさん:あれが自然に、人懐こくじゃないですけど、壁を作らずしかも真摯に上手くコミュニケーションをとってはりましたね。


正田:そういう風に見ていただいてたんですか。ありがとうございます。
 そうなんです、「親密性」は何回やっても1位とか2位に必ずあるので、もう本当に生まれつきの固有のものだと思うんです。
 研修講師には本当は不向きな資質なんです。内向的で人見知りが激しくて、人前で話すのにものすごく体の緊張が強くて。
 なんだけど研修前にああやってちょこっとお話したり名刺交換したりすると多少和らげられる。
 本来は1対1で今日のように、「この1人の人とずーっと話していたい」というのが本来のわたしなんです。


Nさん:なるほど、なるほど。


正田:それが相手が30人になっちゃうとものすごく苦しい。今年はそれでも(30人規模のセミナーを)随分やらされましたけど、できればやりたくない。気力体力の限界を感じます。また受講生さんも目が届かなくてご不満だろうと思います。
 今回みたいに20人以内に収めていただくと1対1の延長線上で、20人ぐらいまでは何とか広げられるんです。
 全部の人の人生を愛しく思って、「この人はこういう風に40年生きてきたんだなあ」と一々思いながら話すのがわたしなんです。


Nさん:なるほど。
 強いか弱いか、というのは難しいところですね。弱くもなければ強くもない。強さ弱さということでは表現しきれない。
 温かみはありますね。


正田:多分、ブログできついことばかり書いているので心配されたと思うんですけど。
 ブログで文句垂れまくってるのはですね、わたしは基本ニコニコしてるし、セミナーも穏やかに進めば本当はそれが一番良いんですが、ただこのニコニコしてる「承認」の人間をみたときに、わざと挑発して怒らせてきたいとか、色んな人がいらっしゃるんですよ。そのとき、もしその人が事前にブログを見ていたらブログでいきなり一発かまされる、みたいな。「こういうことはあたしは嫌いだよ」とか「心の中ではこういう風に毒舌で思ってるよ」ということを分かっていただくと。「あ、この人にこういうことはしてはいけないんだな」と(笑)


Nさん:やっと分かりました。僕それが分かってませんでした。


正田:いやいやいや、Nさんは一線越えたりとかなさらないじゃないですか。すごくそのことに感謝しています。
 よく、変な親しみを持って一線越える方がいらっしゃってそれで疲れてますけど。


Nさん:やっぱりそれ(牽制)はしとかんとね。優しさの受け取り方を間違えることがありますからね。


正田:沢山いらっしゃいます。


Nさん:ナメてかかるとかね。


正田:基本人は好きなんですけどね。


■沢山受講させてあげたいけれど…適正人数のジレンマ 

正田:20人より30人がイヤ、というのは、人って「自分が30分の1だ」と思うとそれだけで「承認されてない」と感じてイヤなんだろうと思います。


Nさん:あ、なるほどね。
 当初、30人で告知していたので、本当に申し訳なかったです。でも申込み殺到したんです。


正田:え、申込み締切後も来てたんですか。


Nさん:来たんです。で、お断りしたんです。僕、目標設定をしようと思って当初は30人に設定してたんです。インパクトというか、それぐらいにしていたらそれぐらいの規模で(申し込みが)来るかなと思って。
 断るのがかたじけないな、と思って。
 でも、若手向けの研修で30人の研修をやった時、やっぱり居眠りが出たんです。
 一方で10何人の研修のときに「少ないなー」と上に言われたんですけど、10何人ぐらいやったら声も届くし、満足度とか納得度が高かったんです。なので少人数だとインパクトは弱くなるけど、アンケートとか結果、もろもろを考えたら、10何人ぐらいが一番いいです。
 一度、12人で製造の研修をしたときに「ああやっぱりこのぐらいが一番ええなー」と思いました。


正田:そうでしょう、うちの協会主催の講座は12人限定ですもん。


Nさん:ホンマですね。これぐらいじゃないと声が届かないな、と。
 それとその研修の場合は、部屋が「縦長」だったんです。今回の先生の研修で使っている部屋も、実は前面があれと逆で、僕がアテンドでいつも座っている端の辺が前面で、縦長だったんです。でも声が聞こえない。これでは4列目ぐらいの人から寝るな、と思いました。
 それを今回会場を「横長」にして使ってみると、その方が断然圧迫感がなかったです。
 そして前でデモンストレーションされるということだったので、ホテルの人が「あ、分かりました考えときます」と言ってくれはって、ああいう風にアレンジしてくれました。
 先生ご苦労が多いですね。


正田:いえいえ、お蔭様で横長で良かったです。
 今年夏の某所での研修が、縦長のお部屋で30人来られて、縦長のこちら側(右側)の席が壁にぴたっとくっついて、こちら側に通路がないんですよ。だからこの奥の席の人は本当に狭い空間に押し込められるような感じで、それが30人分縦長に続いていて。
 これはねえ、大人にとってはかなり苦しい配置だったと思います。


Nさん:聴いてるだけでもちょっと苦しくなってきました(笑)


正田:これ、2時間限定の研修だったらそれで良かったかもしれないですけど、1日研修だったんです。可哀想やったなあと思って。


Nさん:そこは一番判断に苦しむところですけど、応募は殺到しましたからね。やっぱりそれだけ意義のあるセミナーに関しては、人は「受けたい」と思う。募集する側としては「受けさせてあげたい」と思う、それが邪魔をする。
 本当に受講生さんのことを考えたら、少人数で受講させてあげたいですよね。
 (大人数だと)まず空気がしんどい。先生のおっしゃってたことは間違ってなかったなあと。


正田:ありがとうございます、分かっていただけて。
 ああいうときの(人数に関する)押し問答も、「うるっさいこと言うなあコイツ」と思う人もいてるし(笑)


Nさん:うるさいことないですよね。ただ「断る」というのが気楽にできればいいですけど、切なくてね(笑) かたじけない。
「初日来れないけれど残りの日程参加したい」というお問い合わせもいただきました。上の人にもプレッシャー掛けられてね。


正田:辛いですね…。でも初日来ないと、2日目以降もう話が合わないでしょう。


Nさん:まあね(笑)でもその気持ちが嬉しかったです。そこまでして受けたいと思う内容だったんですよ。あの告知の文面を見ただけでも思うんですよね。
 だからそういう人に受けさせてあげたかったなあと。


正田:皆さん本当に聴く姿勢で、取りに来る姿勢で。


Nさん:大人でしたね。


正田:さすが、貴団体の会員さん。

(第4回に続く)


※これまでのインタビューはこちらです

◇柔道有段・凄腕担当者がみた「12年1位」の研修とは
(1)論理性、背筋の伸びる瞬間、ナルシシズム
http://c-c-a.blog.jp/archives/51903851.html
■なぜ、僕が「この研修」にたどり着いたのか
■出典明記主義について
■論理的であることの価値
■背筋が伸びた、独特の話し方
■ナルシシズムと経営者の受講生と
■専門用語、敬語
■アクションについて
■とことん突き進むのはすごいエネルギー


(2)これは闘いなんやなあ!

http://c-c-a.blog.jp/archives/51904145.html 
■知識を詰め込むのか、現場を良くするのか
■傾聴ワークの優しい気づき
■「型で教える」ことの意味
■教えるとは「フォルダを作る」こと―「教えない教育」との決別
■これは闘いなんやなあ!
■社内研修と経済団体主催と自主勉強会、意識の差
■末永い真実とリスペクトの教育を



追記

 昨年末、「『行動承認』が日本総研・藻谷浩介氏の『今年の3冊』に選ばれました」とアナウンスした時、
「今年、僕がすごいものに出会ったと思ったのは、本当だったんですね」
感慨深げに言われたNさんでした…。



100年後に誇れる人材育成をしよう。
NPO法人企業内コーチ育成協会
http://c-c-a.jp