「人間の普遍的相互作用および陶冶(とうや、形成/教育、Bildung)のなかには相互的であるような承認(Anerkennen)がある」(ヘーゲル)


 すみません、かっこつけてしまいました。陶冶Bildungはビルドゥングス・ロマン(教養小説)のビルドゥングですね。



「先日、お造りを1年目の子につくらせたんですよ」


 12月―1月の兵庫県中小企業団体中央会主催の「トップリーダーズセミナー」に参加された、御所坊グループ「花小宿 旬重(しゅんじゅう)」の料理長、松岡兼司さん(36)からお話を伺いました。


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「僕らの仕事は、お客様と向かい合って一瞬一瞬のことですからね」
「ブログ、携帯でブックマークして読んでますよ」


 このブログ上部↑↑↑にある「承認」宿題事例集の後半のほうに松岡さんの「旅館業」の事例があります。
 宿題はどの方もそれぞれに味わいがありますが松岡さんの事例は、お客様と直接向かい合う緊張感の中での部下の貴重なやりとりの一瞬を切り取った、ひときわ味わい深いものでした。

「『承認』にはまっています」
「わずか1週間の実践でしたが、顕著に違いがみられたので続けていきたいと思います」
と松岡さんは宿題に書かれていました。


 20代と見誤った風貌の松岡さんでしたが、実は5人のスタッフ(新年度から7人)を使う料理長さんで鎌倉幕府の時代から続く老舗旅館の別館「花小宿」全体の責任者。その中の「旬重」はカウンター中心の料理屋で、シックな空間。宿泊のお客様もここで食事されます。有馬温泉全体でもカウンターでお客様の目の前で調理するお店はここだけだそう。お客様はおなじみ様が多く、よく料理におほめの言葉をいただいたりお叱りをいただいたりもするそうです。





「僕は、若い子にどんどん『失敗』させるんですよ。『やってみ』と言って」

と松岡さん。

正田「えー、でも失敗して食材をだめにしてしまったら、ロスが痛くないですか」

松岡さん「痛いですよ。…食材で一番高いのはお造りですね。
お造りを先日、1年目の子につくらせたんですよ」


「ええー」

それには、わたしは心底びっくりして言いました。

「あの、三枚におろすのをですか。1年目の子って普通下ごしらえだけじゃないですか!?レストランの調理場って大抵そんなじゃないですか」


「ええ、見事に失敗しました。
お客様にお出しできないものになってしまったので、本人に『これどこが悪いんやと思う?』『なんでこうなったのか、考えてみ』そして指導していた2年目の子も呼んで、『これはなんでこうなったんやろ』。

2人とも大事な食材を残念なことをした、というのはよくわかったみたいでした。それはヒラメでしたけど。お造りには使えないので、焼き物にしました。

それで相当1年生の子も2年目の指導役の子も考えたみたいです。翌日にはお客様にお出しできるものをつくりました。」

 ひたすら舌を巻く正田。

「今の若い子は自分から取りに来ないじゃないですか。だからこちらからさせるんです。
 今月(3月)に入ってから、もうあと数週間で次の子が入ってくるので、1年生の子に『やってみようか』『いつやるの?』と言ってたんです」

 本当にダメだったら次以降つくらせないですよ、でもその子は次回ちゃんとつくれたので、と松岡さん。

「ほかのお店からみたら、『何やってるんだお前のとこは』となるでしょうね。でもいつかはやること、早いか遅いかですから」。


 そんなふうにして若い子たちにどんどん経験させるそうです。お造りをつくらせるぐらいなら、ほかに怖いものはそうそうないですね。早い段階での技能伝承、ものづくり企業でも話題になるところです。

老舗旅館の厨房、昔ながらのアゴで使う徒弟制度のイメージとはまったく違う世界があります。それはやっぱりこの世界では特異なことのようです。


 そして「グループ全体でも、僕の店は若い子が辞めてないです。ここ数年」(松岡さん)

 それは若い人の「成長したい」という欲求を満たしたら、今の若い人でも仕事のおもしろさに目覚めて辞めないということでしょうか。

 宿題でよい実践をされた人も、じっくりきいてみるともともとの育成センスの高い人だった、ということがあります。だから「承認研修」の手柄にだけできないのですが、ただ研修でしっかりした理論的根拠を与えてあげるとこの人たちもより力強く実践してくれる、さらにその先の四十八手を編み出してくれる、ということがあります。研修でできるのは結局それだけか、ということになりそうですが、わたしの駆け出しのころよりは明らかに高い確率で優れた実践者のかたに出会えていると思います。


 「ゆとり世代」、やはり能動的ではない面があります、松岡さんによると。

「お給料はもらえるものだ、お給料をもらってるから仕事する、と思っているところがあります、どうしても。僕は、『それは違うよ』と話します。『仕事がこれだけできるようになったから、これだけお給料を貰えるんだよ』と。それは昇給のときなどに言うとわかってくれますね」

 
 4月からはこの厨房に正社員1人、調理補助1人が入ってきます。


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「お店での僕の定位置はここ、おなじみ様の席はここです」(松岡さん)


 「失敗したりお叱りを受けたら責任は僕がとりますから」
という松岡さんの言葉が綺麗ごとにきこえないのは―本当はこれ以外に「叱った」エピソードもかなり伺ったんですが―現にお客様の前に立ち続けている人だからでしょう。
 

 3月11日の今日ですがわたしはこんな形でしか「いのち」を見つめることができません。そして現場にたつ受講生様方の優れた実践が、世界への信頼を取り戻させてくれます。


 松岡さん、「花小宿」のみなさんありがとうございました!



100年後に誇れる教育事業をしよう。
一般財団法人承認マネジメント協会
http://abma.or.jp