ふとTVから「承認」という単語が流れました。
 高槻の中学生殺人事件についての「クローズアップ現代」でスマホを持って漂流する中学生はじめ若い子たちの特集をやっており、筑波大学教授の土井隆義氏が「承認の質的劣化」という言葉を言いました。
 今の親子関係はフラットで、子供は過去ほど親に全面的に依存できない。勢い外の承認を求める。承認の質が劣化しているので、量で与えないといけない。
 ・・・と言うような趣旨でした。
 さて、この議論に同意してよいものかどうか。もともと、人は昔も今も根源的に「承認」を求める生物です。どうもそこが共有されていないまま、こんなふうに犯罪や問題行動の契機として「承認」を語る言説が溢れています。ふだんから「承認」という言葉に耳慣れていない、そのことについて考えたことのない一般視聴者にどれぐらい伝わったでしょうか。
 (またこのブログでの古くて新しい問題、「犯罪学」などの負の側から「承認」を語ると「承認」がおどろおどろしいものにみえてしまい、与え手の側の「やりたい」という動機に結びつきにくい、という問題もあります。)

 ともあれ「月刊人事マネジメント」誌に連載させていただいている、「上司必携・承認マネジメント読本」の2回目のゲラをご厚意により「公開OK」でいただきましたので、転載させていただきます。

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以下、本文の転載です:
 
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上司必携・『行動承認マネジメント読本』
〜人手不足チームのやる気と力の引き出し方〜


一般財団法人 承認マネジメント協会 理事長
正田佐与


第2章 「承認」の学習ステップ


 第2章では、「承認」スキルの習得について、「承認研修」の実際を通じて順に解説します。大きく4つのステップから成ります。

習得のために踏まえておくべきことは?

Step 1. 行動理論による「強化」の仕組みを知る

 心理学の行動理論では、「人は、行動した後に褒められると(ご褒美をもらうと/嬉しい気持ちになると)、その行動を繰り返しとる(強化される)性質がある」という法則(オペラント条件づけ)があります。まずは、この大原則を押さえていただきます。

Step 2.「承認」が人の働く動機づけの最大のものである(承認論)ことを理解する

 「承認」がすべての働く人にとっての根源的な欲求であることを、受講者自身の経験に照らし理解していただきます。金銭的報酬を得ることも、もちろん生活のためでもありますが、ひとかどの働く人として認められていることのシンボルでもあります。また精神的にも、労苦を伴った仕事が全く評価されなかったら、報われなかったら、誰しも深い悲しみを経験することでしょう。
 一方で「承認」の重要性を知ることは『両刃の剣』です。自分が認められたいという思いを募らせることは不幸なことでもあるからです。自分が「認める」側になり他人の「認められたい」を満たすことが、「承認欲求」を学ぶことの正しいゴールなのだ、ということも理解していただきます。


「承認」にはどんな種類がありますか?

Step 3. 承認の種類

 ここでいよいよ実際に使いこなすための知識の解説です。コミュニケーションの中での人を認める言葉、「承認」の代表的なものには、以下のような種類があります。重要な順になっています。

‖減濔鞠:あいさつや、名前を呼ぶこと、「最近どう?」など、相手が存在していることを知っていますよという意味合いのこもった日常的な声かけが「存在承認」です。すべての「承認」の中で最も基本的・根源的なものです。
行動承認(事実承認):存在承認と並んで最も重要なもの。「あなたは〇×しましたね」「してくれましたね」と、相手の行動したことを事実通り、記述的に言うものです。これは前述の「行動理論」を仕事の現場に応用したときに、「褒める」よりも「行動を事実通り認める」ことのほうが大の大人の場合、嬉しさすなわち「強化」につながりやすいことからきています。この後に述べる多くの「承認」は「行動承認」のバリエーションと考えられ、マネジャーが「行動承認」に重点的に取り組むと、前章で述べたような人々の目覚ましい成長が起こり、業績向上に直結します。
成長承認:「〇×ができるようになったね」「成長しているなあ」といった、相手の成長を認める言葉を言う「承認」です。とりわけ今の若い人は自分の成長を上司に認められたい気持ちが強いため、「成長承認」は有効です。
し覯名鞠:結果が出たときに言う「承認」。「やりましたね!すごい成果ですね」「よくやった!」など。当たり前のようですが大事なこと。
ゴ待・信頼:期待されると、それに応えようとしてパフォーマンスが上がる心の働きが私たちには備わっています(ピグマリオン効果)。ただし、根拠のない期待はかえって重荷になるもの。根拠を添えるには、△旅堝鮎鞠Г大事です。
ηい擦:人によっては言葉による「承認」よりこちらが嬉しい場合もあります。また「行動承認」をするうち、上司も「任せることが自然とできるようになるようです。
Т脅奸△佑らい:「行動承認」をしていると、自然とそれに伴って「感謝」の念が湧いたり、「大変だったろうなあ」と「ねぎらい」の気持ちが湧いたりします。これらは「行動承認」のバリエーションだ、と捉えます。こまめに相手の「行動」を認めていると「感謝、ねぎらい」も自然と出てきます。
╋Υ:相手の感情を共に感じること、あるいは理解すること。
感情を伝える(Iメッセージ):褒めることとは違い、「私は〇×と感じます」と、「私」を主語にして自分の感情を伝えます。嫌みにとられることが少なく、年上・元上司の部下との会話に悩む管理職にも使い勝手がよいようです。
Weメッセージ:「私たち」を主語にした言い方です。これも相手にとっては嬉しい表現です。
励まし、力づけ:「その調子です。続けてください」「あなたの判断は間違っていない」など、相手にエネルギーを与える言い方です。
褒める(Youメッセージ):「すごい!」「さすが!」など、よくある褒め言葉はここに分類しています。
第三者メッセージ:「お客様の担当者の〇×さんがあなたのことを『…』と褒めていたよ」など、お客様や他部署の人など第三者を主語にした言い方です。上司自身が「頑張っているな」などと言うと操作的に聞こえる場合がありますが、第三者が主語であると真実味があり、素直に喜べるものです。
その他:「話を聴く」「相手の考えを質問してみる」「相談する」「教えを乞う」「提案や意見を採用する」「決定の理由・根拠・背景・目的を説明する」「メールにすぐ返事をする」「叱る」など。
 研修では、上記の 銑を用例を添えて一覧にした表をお渡しします。このA4・1枚もののシートは忙しいマネジャーの役に立つようで、「机のガラスマットの下に入れて毎日見ている」「手帳のビニルシートの中に入れている」など、様々なやり方で研修後に手元に置いていてくれます。
 「べからず集」でなく「望ましいこと」の一覧なので、見ると自分自身前向きな気持ちになり、部下を「承認」しよう、という気持ちになれるのです。

実際に試してみたいのですが?

Step 4. 「行動承認」+「Iメッセージ」の実習

 Step 1.〜3.を踏まえ、最後に「行動承認+Iメッセージ」の実習をしていただきます。この実習の手順は以下の通りです。
/場の部下や後輩1人を選び、その人の最近行った良い行動を3つ、書き出してもらいます。
△修譴鉾爾辰董屬△蠅たい」「助かっている」「よくやっているなあ」といった、良い感情が自分の中にあれば、それも書いてもらいます。
 続いて、,鉢△鯊海韻新舛如■何唯荏箸料蠎蠅謀舛┐討發蕕い泙后
 相手は、部下の年齢、性別、人となり等を理解したうえで、部下になりきった状態でその言葉を受け取ります。
 この実習のポイントは「部下になりきる」こと。すでに功成り名遂げた管理職同士が互いを「承認」し合う形で実習を組むと、心があまり動かないことがあります。未熟な成長途上の部下にとって「承認」されることがどれほど嬉しいかを、管理職が自身の若い時代を思い出しながらしっかり体感していただくことがカギになります。実際にやってみると、女性管理職などでは感極まって涙ぐむことさえあります。
 ここまでくれば、あとは職場で「承認」を実践していただくのみ。部下の喜びの表情だけでなく、事後のプラスの行動変化まで観察していただけるといいですね。(了)


「上司必携・行動承認マネジメント読本」シリーズ全体の構成は:

第一章 行動承認は”儲かる技術”である(2015年7月号)
 http://c-c-a.blog.jp/archives/51919833.html
 第二章  「承認」の学習ステップ(8月号掲載)
 http://c-c-a.blog.jp/archives/51921667.html
第三章 女性活用と登用は「上司の眼差し」次第(9月号掲載)
 http://c-c-a.blog.jp/archives/51923763.html
第四章 LINE世代に対するマネジメントとは(10月号掲載)
 http://c-c-a.blog.jp/archives/51925545.html
第五章 「踏み込みすぎない」メンタルヘルス対策(11月号掲載)
 http://c-c-a.blog.jp/archives/51927183.html
第六章 部下の凸凹を戦力化に転じる(12月号掲載・本記事)
 http://c-c-a.blog.jp/archives/51932814.html
第七章 伝えたいことが「伝わる」伝え方(2016年1月号掲載)
 http://c-c-a.blog.jp/archives/51934650.html



(一財)承認マネジメント協会
 正田佐与