『困難な成熟』(内田樹、夜間飛行、2015年9月)という本を読みました。

 このブログでは最近批判記事ばかり続いていましたが、この本に関しては元々批判しようと思っていなくて「大人の成熟」ということに関してちょっとは答えが書いてあるかな?と手に取ったのですが、

 ダメでした。

 ウチダ本、もはや学ぶところなし。そこまで言っちゃうか。

 以前は、「内田樹本」はそれなりの衝撃があったり、指針にするところがあったのでした。学び手が消費者になったことを指摘した『下流志向』などは、無条件のテキストとして頭に叩き込まれました。

 しかし―、

 やっぱり、「定年後のおじさん」なのだなあ、この人も。小さな小窓から企業とか労働の場を覗いて、そこにたっぷり妄想と恣意的な思考をくっつけて文章を書いている感じ。


 たとえば、

「会社には、『母』がいない」というフレーズ。

 すいません、女性社長たちはあれは何なんですか。

 「姐さん」なんですって。

 会社は、「父性原理・男性原理」でなければならないのですって。

 ここで「あの〜、父性原理・男性原理ってどこの心理学とか哲学の用語ですか?どういう文献の中でどういう文脈で使われてますか?」なんて、野暮なことをきいてはいけないようです。

 この本のあとの方に、「私は用語の定義などしない。そんなことを要求されたら逃げ出す」と、「逃げ」をちゃんと打ってあります。
 ずるいですねえ。
 だからこの本は、内田氏が恣意的にテキトーに作った用語を組み合わせて恣意的に議論をすすめるんです。

 いいですね〜気楽で。自在の境地ってやつですね。

ひょっとしてちょっと、緻密にものを考える姿勢って壊れてきてませんか?私の知り合いでそういう人いたんですよ、その人はアルコール依存でしたけどね、ええ。ちょっとヨタ話の匂いを感じたもんですからね。いろんな理由で脳って壊れますよねー。

あ、わたし「個別化」という資質が強いので、本来はマジメですけど不真面目な人のことは不真面目に相手するんです。

 野暮を承知で、「父性的」や「男性的」をあえて神経化学物質の知見にまで還元すると、「テストステロン原理の会社がいい」と言っていることになります。

 それ、ダメでしょ。

 内田氏がどの程度の人生経験や会社を観察した経験があるのか知らないが、テストステロンの暴力性を肯定してしまうと、それはパワハラ肯定、暴力肯定、それについていけない多数の人たちの切り捨て肯定ということになる。
間違った仮説を持って物事をみると、結局いつまでも正しく見れない。内田氏は結局団塊世代の制約を抜けきれない人なのではないだろうか。


 かつ、今どきの女性も障碍者も外国人も受け入れましょう、という多様性前提のところではテストステロン原理はつかえない。テストステロン性の強いリーダーは、過去も何度もご一緒したが、人の多様性個体差に対して恐ろしく無頓着で、自分と同様の有能さのない人は平気で切り捨てる。障碍者とわかっていながら罵る。女性は見下すか、愛人にするか。ハーレム化しちゃった会社もありましたよ。

 だから、「男性性」なんてむやみに持ち上げないほうがいいのです。わたしの経験では元々テストステロン性の強いリーダーでも、「女性的な」承認トレーニングを受けることではじめてその有能さを組織に反映させられます。男性はそのままでは良いリーダーになれないのです。40代半ばくらいにテストステロン値が落ちてきて、枯れてきて、その頃に女性性を学習して身につける、というのが幸せな転換なんですよ。そのくらいの発達心理学の知見は盛り込んであるのかと思った。全然ない、ウチダ氏の狭い見聞の中からだけの話だった。この人はあんまり成長しなかったほうの人なのではないだろうか。

 でも男性的な会社がお勧めだ、と内田氏は言っているのです。

 この人は女子大の先生だったと思うんですけどねえ。

 全体に、この人の文体に感じるのは、なまじ大学の先生であったがゆえに人生経験の少ない未熟な人向けに大風呂敷広げたような、博識をひけらかしてはいるんだけど恐ろしく断片的で恣意的で、読者がそこから何かを構築しようがない、そういう話のすすめかたなのでした。

 こういうのを喜ぶ人は、本当に人生経験が少なくて「偉い人」に教えてもらって喜んでる人だなあ、あと同じ団塊世代で威張ってるこの人をみて威張りたい自分を投影したい人だなあ、と思うのでした。去年は「哲人」が説教しているスタイルの本が流行りましたけれどね、あの路線ですかね。威張り本とでもいうジャンルですかね。


あと、女嫌い(ミソジニー)の気配も感じる。女を引き合いに出すのはフェミニストとかで、いかにも「嫌い」という文脈で、だ。奥さんに逃げられるとかしたんじゃないだろうか。そして「橋本治さんにゴミ拾いを教えてもらった」などと、男の有名人のお友達にしがみつきたい症候群、みたいのも感じるのだ。(そんなこと市井の経営者なら誰でも教えてくれることだろうに)


 以前はこの人の本を読んでこんな風に感じなかったなあ。

 わたしの人間がわるくなったのだろうか。


 ともあれ、「父性原理の会社がいい」なんて言説は、信じないほうがいいです。良識ある現役の経営者・リーダー層が読む本ではないことを祈ります。

(本当は、本書は黙殺するほうの本だったのだが、「無意味を通り越して有害」という記述があり、過去には一定の影響力のあったことに鑑みてあえてブログアップしたのだ)

 団塊はまだ当分本を買いますからね、こういうのが団塊向けのマーケティングで、老々介護なのかもしれないですね。


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 正田佐与