「女性活躍」。

 どなたかが国連演説の中で「難民受け入れよりも女性活躍(国内問題優先)」と言って失笑を買っていましたっけ。。

 わが国の女性活躍の遅れからすると理の当然やらなければならないことなのですが、それが浮上するときの文脈などをみるとどこかスッキリしない感があります。


 ともあれ「月刊人事マネジメント」誌に連載させていただいている、「上司必携・承認マネジメント読本」の3回目のゲラをご厚意により「公開OK」でいただきましたので、転載させていただきます。

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以下、本文の転載です:
 
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上司必携・『行動承認マネジメント読本』
〜人手不足チームのやる気と力の引き出し方〜


一般財団法人 承認マネジメント協会 理事長
正田佐与


第3章 女性の活用と登用は「上司の眼差し」次第


 先にカナダで行われたサッカー女子W杯では、「なでしこジャパン」は準優勝でしたが、引き続き「日本女性の能力は世界トップレベル」であることを例証してくれました。しかしビジネスの世界では、わが国の女性の活用と登用は依然、先進諸国の中で大きく後れをとっています。
 こうしたなか、求められているのが環境要因としての「上司の承認」の効用です。


「承認」が女性活用にどう関わるのですか?

 女性の活躍は、出産や育児などのライフイベントに左右されやすく、そのため制度や施設などの整備が不可欠です。しかし、それらはハード面の課題なので分かりやすいのですが、上司の「承認」の有無は、ソフト面の見えにくい課題といえます。
 それはさまざまなハード面の整備を行った後にも厳然と横たわる根強い課題であり、実は根源的なものなのです。とりわけ管理職の意識の部分は変わりにくいことから、最近は「粘土層管理職」という呼び方もなされるようになってきています。
 わが国では女性が出産・育児期に退職する「M字カーブ」が顕著なことはよく知られています。しかし、出産・育児が本当に女性の退職の直接的な原因なのでしょうか。
 意外なことに現実には、日本の高学歴女性では家庭責任などのライフイベントよりも、仕事の不満や行き詰まり感が退職原因の大半を占めています。詳しくいうと、「女性が休職や退職をする確率が高いため、投資する対象とみなされず訓練を受け成長する機会が少ない」ことが、退職原因なのです。これを「不安の自己成就」といいます。
 訓練を受けない⇒認められていないと感じる⇒退職する⇒ますます訓練コストを絞るという負のループが存在しています。
 「訓練」とは重要性のある部署に配属するか否かも関わりますし、管理職からの日常の仕事の振り方にも「訓練」の要素があります。多くの男性管理職は「やはり女性より男性のほうがちょっとした仕事を頼みやすい」と本音を漏らします。
 「訓練を受けない」ことはまt、いざ社内にいる女性社員を管理職に登用する段に至っても、十分な能力や経験を積んでいないという形で壁になってきます。
 「認められたい」。マスメディアなどで女性活躍推進についてインタビューを受ける働く女性たちの切実な声が響くゆえんです。

「承認」がないと、どんな弊害が生まれますか?


 例えば中小企業で女性を活かしきれていないケース。優秀な男性はどうしても大企業が先にさらってしまうため、中小企業のある管理職は「われわれ中小は『優秀な女性社員と普通の男性社員』の組み合わせなんですよ」と自嘲気味に言います。ところがそうした現実をよそに、地方の多くの中小企業では依然、男性と女性との間に序列を付ける人事配置が行われています。能力の追いつかない男性上司の下で女性部下が実質的な管理職の職務を担い、現場に不満が渦巻いているというケースが往々にして見られます。
 また逆に、「機械的な女性登用の弊害」という問題もあります。一部官公庁や公的団体では、建前としての男女平等は浸透していますが、その結果若い頃からの訓練不在のまま本人の能力や意欲に関係なく、年齢順で女性を管理職に登用するケースもみられます。この場合も現場のモチベーションに深刻な影響をもたらします。
 一方、育児休暇から復職した女性社員への「過剰な配慮」により、責任のある仕事を与えないという現象も、本人の能力や成長意欲を認めない「承認不在」の現象といえるでしょう。
 「マミートラック」とは、復職後に負担の少ない仕事を与えられ男性社員とはっきりと差を付けられるキャリア形成の仕方を指す言葉ですが、この「マミートラック」に甘んじた女性のほうが会社には残りやすい、という指摘もあります。それまで男性並みにバリバリ働いてきた、仕事上の成長意欲のある女性は逆にそこで辞めてしまうのです。

「承認」によって、どんな効果がありますか?

 「行動承認」はバイアスをとる効用があり、「公正な評価」と「ダイバーシティ」の推進に大きく関わる要素です。
 これまで「承認」のトレーニングを受けた管理職の下では、研修直後から一転して「女性」への見方・関わり方が変わり、それに応じて女性社員の側も大きく成長したケースが多数見られました。例えば、

●個々の女性社員の動きがよく見えるようになった。その中で営業力の高い女性が一層活躍できるよう条件を整えたため女性の売上が飛躍的に伸びた。

●責任感のある女性を抜擢してリーダーに登用することができた。

●ネガティブな発言をするベテラン女性に「行動承認」で対応すると、俄然前向きな発言に変わり行動も改まった。

―などです。研修以前は、「女性」が十把一絡げにしか見えていなかったのです。
 コープこうべの元役員で、今年男女共同参画社会づくり功労者総理大臣表彰を受けた有光毬子さん(70)は、「結婚退職しか考えていなかった私に仕事の面白さを教えてくれたのは会社の理念を語って励ましてくれた上司の存在」と言います。
 またある営業職の女性は、管理職になる自信がなく悩んでいたときに外出先で自分の会社の社長に出会って名前を呼んでもらって「最近どう?」と聞かれ、「それだけで俄然モチベーションが上がった」と言っています。
 上司の期待に男性以上に敏感なのが女性。「承認」を導入したとき、部下世代では男女とも成長がスピードアップしますが、女性のほうがより大きく成長することが分かっています。「女性活躍推進」を、女性自身の側の努力に期待するのは一面的です。「上司の眼差し」が環境要因として極めて大きいことを管理者はしっかり認識すべきでしょう。
 では、上司は何から始めればいいのか?女性部下に対してこそ、お勧めしたいのが「行動承認―相手の行動を事実の通り記述的に認めること―」です。やってみると、「やったことを正確に認めてもらえた」と、女性たちが見違えるように生き生きと働くようになるのです。すべての「承認」の入り口として、「行動承認」にぜひ、取り組んでみてください。
(了)


「上司必携・行動承認マネジメント読本」シリーズ全体の構成は:

第一章 行動承認は”儲かる技術”である(2015年7月号)
 http://c-c-a.blog.jp/archives/51919833.html
 第二章  「承認」の学習ステップ(8月号掲載)
 http://c-c-a.blog.jp/archives/51921667.html
第三章 女性活用と登用は「上司の眼差し」次第(9月号掲載)
 http://c-c-a.blog.jp/archives/51923763.html
第四章 LINE世代に対するマネジメントとは(10月号掲載)
 http://c-c-a.blog.jp/archives/51925545.html
第五章 「踏み込みすぎない」メンタルヘルス対策(11月号掲載)
 http://c-c-a.blog.jp/archives/51927183.html
第六章 部下の凸凹を戦力化に転じる(12月号掲載・本記事)
 http://c-c-a.blog.jp/archives/51932814.html
第七章 伝えたいことが「伝わる」伝え方(2016年1月号掲載)
 http://c-c-a.blog.jp/archives/51934650.html



(一財)承認マネジメント協会
 正田佐与