マイ・インターン


 お友達が「レディースデーに行ったらコメディーなのに周囲の女子が泣いていた」と推薦していた「マイ・インターン」(原題’The Intern’、ナンシー・マイヤーズ監督、2015年)。

 ご存知、ロバート・デニーロ扮する70歳の老インターン、ベンがネット通販企業に入社し、問題解決していくお話。男性女性問わず、見終わると元気になる映画です。

 これが、何となくハートフルな映画なのか、それとも深遠な思想があるのか。どちらなのだと思いますか?

 本日はこの映画を勝手に思い切り「承認」で読み解いてみたいと思います。
 かなり「ネタバレ」を含みますので未見の方は読まれないほうがいいかも―。


 この映画の舞台は、1年半前に創業しあっという間に従業員220人の規模になったアパレルのネット通販企業。

 ここには、IT企業によくある「祝祭感覚」がもともと存在します。
「インスタグラムでいいね!を2500獲得しました」ワーッとみんなで拍手。社員一人一人のお誕生日を祝う。

 活気があるが、混乱している。温かみはあるものの微妙な「承認欠如」が漂っている状態から始まります。

 主人公はアン・ハサウェイ扮する女社長のジュールズ。美人で頭の回転が速く、配慮に満ちて魅力的な人柄ですが予定はいつもパンパン。スタッフが次々とジュールズに話しかけますが、どの案件に対してもジュールズ自身の時間が足りません。物語は、このジュールズを中心に放射状に作られる人間関係に、それぞれベンがからむことで変化がもたらされます。

●ジュールズ―ベン
 70歳のベンがインターンで入社し、社長付になったことに、ジュールズは当初不満顔。高齢の男性に良いイメージを持っていないようです。ベンが普通以上に目ざとい人物なのをみると、ベンを配置転換させようとしたほど。しかしベンが献身的で有能で出しゃばり過ぎず、良い人柄なのを知り、徐々にベンに信頼を寄せます。自分の家族関係をオープンにし、さらに重大な秘密と心の迷いまで打ち明けるようになります。

「自分の代わりになるCEOを」ジュールズは気の進まないまま、CEO候補と面接を繰り返します。浮かない顔で面接に出かけるジュールズに、ベンが声を掛けます。
「1年半前創業し、220人の会社に育て上げたのは誰の偉業?」
 君は君の偉業を思い出せ、というメッセージ。きれいに「行動承認」になっています。

●ジュールズ―ベッキー(秘書)
 ジュールズと同様ベッキーも働き過ぎ。そして「認めてくれない」が不満の種です。
「1日14時間も働いてるのにジュールズは理解してくれないの!私、ペンシルベニア大経営学部を出てるのに!」と泣きじゃくります。
 ベンはベッキーの仕事の片づけを手伝い、ジュールズに対して顧客動向の分析をプレゼンする際、「ベッキーのお蔭だ」「ベッキーは経営学部卒だから」を連発、ベッキーの貢献をアピールします。「忘れてたわ。褒めてあげなくちゃ」と応じるジュールズ。最も頼りにしている右腕の貢献は、酷使していても忘れがちになるのは洋の東西を問わないものでしょうか。
 劇中後半、余裕が生まれたベッキーはフェミニンな花柄の服を着ています。ベンにも「顔色が悪いわ」と労わる余裕を見せるように。

●ジュールズ―マット
 夫のマットは専業主夫となり、一人娘のペイジを育てています。妻の辣腕ぶりに自ら家庭に入ったマット、しかし内心は鬱屈しています。実はCEO探しも「夫婦の時間を取り戻したい」というマットの希望。ベンはマットに、「ジュールズには幸せになってほしい。物凄く頑張ってきた人だ」。
 マットにとっての「承認欠如」はある残念な行動を生みます。そこからの夫婦の再生は可能なのか?脚本も担当したナンシー・マイヤーズ監督は実生活ではパートナーと別れているそうなのですが…。

●ジュールズ―ママ友
 多忙で夫を専業主夫にしてしまっているジュールズに、ママ友の目は厳しい。ある朝、ママ友からジュールズに「ワカモレを18人分お願い。忙しいだろうから市販のでいいのよ」。「あら、作るわよ。大丈夫」とジュールズ。ベンの待つ社用車に乗り込んでジュールズはドッと疲れた表情。(ちなみにワカモレとはメキシコ料理でアボガドをベースにしたディップのようなものです)
 ペイジの親友、マディのお誕生会にはマットの病気でベンがペイジを送ってきました。ママ友たちに「ジュールズの部下です」と自己紹介した年上男性部下のベンに、ママ友は「あら、ジュールズってキツイ(タフ)ってきいたわ」。ベンはにっこりし、「確かにタフだ。だから彼女は成功した。あなた方も誇りに思うべきだ、友人がネット業界の風雲児だということを!」。
 ここでは、「公正な評価」と「嫉妬の克服、理性による祝福」という、感情に流されるとむずかしい舵取りを「承認ルール」で乗り切ろうよ、というメッセージがあります。

●ジュールズ―CEO候補たち
 劇中では3人のCEO候補と面談します。1人目は、ジュールズの言葉を借りると「女性差別主義者で、イケ好かないヤツ」。2人目は、「アパレルを『ギャル商売』と呼んだ」。3人目は、「礼儀正しくて、考え深い人」。女性社長のジュールズとその業種をリスペクトするかどうかが、大きな評価基準でした。

●ベン―若手男子たち
 ベンも入社後、自分の周りに磁場をつくります。IT企業の若手男子たちにとってベンは格好のメンター。彼女とメッセージでこじれた男子には、「リアルで話せ」。セレブの家に宅配に行くことになった男子には「襟のあるシャツを着ろ。シャツの裾はズボンに入れて」。下宿探しが暗礁に乗り上げた男子は、ベンが自宅にしばらく泊めてやります。

●ベン―フィオナ
 社内マッサージ師のフィオナとは恋愛関係を育みます。
 ジュールズとベンは上司部下として急速に信頼関係を作り接近しますが、それが男女の関係になるとは限らないのです。というメッセージは監督インタビューによると、実際に込められていたらしいです。

●最後の判断
 最後は、「承認」が判断基準になります。だれに対する「承認」?何が最優先すべき「承認」?それがカギでした。
 大団円はご都合主義に見えるかもしれない、しかしプレーヤーの全員が自己理解を徹底し、共通ルールを理解しているとこういう解決もあり得るかも。



 と、メカニズムをわかっている人がみるとこの映画聞かせどころのセリフは全部「承認」あるいは「承認ルール」じゃん、と手の内がわかるのですが、それでも感動できるし爽やかな感覚が残ります。イーストウッド監督の「インビクタス」と並んで「承認映画」として推したいゆえんです。

 ナンシー・マイヤーズ監督は1949年生まれの団塊世代、アクセル・ホネットと同い年ですが何か関係あるのでしょうか。ネット上の監督インタビューでは残念ながら承認’Recognition’との関連はわかりませんでした。成功した女性の男性との悩ましい関係、女性同士の悩ましい関係、リアリティがあります。「上手く解決してほしい」という祈りがこめられているかもしれません。

 ベンチャーに詳しい人がみると映画冒頭の会社の様子はスタートアップ時のベンチャーの典型的なもの、ジュールズの異常な働きぶりもベンチャー起業家ならよくあるもの、です。で支援のプロからみるとどこかの時点でそこにコーチングまたは「承認ルール」を導入すべきだというのは火をみるより明らかなのですが当事者には中々みえないものです。そして、往々にして外部からの介入を拒みます。

 そこでベンのような魅力的な高齢者が入社して出過ぎずにさりげなく介入してくれれば。健康な頭脳をもった高齢者の働き方の理想をみせてくれるのでした。


 

正田佐与