このところ嬉しいお出会いが続きやりとりをさせていただいています。


1)ヘーゲル研究書の『承認と自由』の著者である札幌大学の高田純(まこと)教授(西洋哲学、環境倫理学、教育哲学)からいただいたメールへの正田からのご返信。

高田先生、思いがけず、ご丁寧な温かいメールを頂戴し、感激しております。社会思想史学会でお出会いさせていただいただけの素人学習者に嬉しいお言葉を有難うございます。

私は今年に入ってヘーゲルを起源とする思想としての「承認」を理解したいと学びはじめ、
幸いにも先生の御本『承認と自由』に出会わせていただきました。
ヘーゲルの年譜とともに思想の変遷、発展がわかり、大変助けになる本でした。
高田先生が徹底した原典の読み込みとヘーゲルの懐に入った理解に基づいて初学者への親切なガイダンスを書かれたことも、素人には伝わってくる御本でした。

(ご献本させていただいた)拙著は昨年時点のものなので、まだヘーゲルの学びは入っておりません。
それでも、無意識のうちに、先達の方々の「承認」に込めた思いを汲み取ってすすんで来させていただいたのではないかとひそかに自負しております。
私の段階での課題は、どうやってこの大きな思想を、特別哲学倫理学の素養があるわけではない企業のマネジャーたちに、無理なく実践レベルで共有してもらえるか?にあります。
「行動承認」は、その試行錯誤の中で生まれてきたものです。

先生が見事に看破されたように、「行動」を承認するということは相手の意志、気持ち、アイデア、意見等を承認するということとイコールです。実践の中では自然にそのようにつながってまいります。また、ホネットが危惧したような、「属性の承認」によって差別を固定化させるというような負の現象も、「行動承認」ですと無理なく回避することができます。
多分これは思想のスケールの大きさに比べれば現場での「小技」のようなものなのですが。


―高田教授は、北海道哲学学会会長を務めるなど斯界の重鎮のお1人です。風貌や空気感は、それこそ「市井の素朴な哲学者」というもの。痩身で、ひょうひょうとした雰囲気の方です。


2)1つ前の記事にある、講義原稿を送ってくださった一橋大学の藤野寛教授に宛てたメール。

大変お世話になっております。
正田です。
藤野先生、あれから、録音起こしがなかなか進まず
先生に申し訳ない気持ちでおりましたところ、
メール有難うございます。救われた気分です。
講義原稿、拝見させていただきました。貴重なものを有難うございます。
こういう風に先生は講義原稿をお作りになるんですね…。
(大学の先生の講義録も、初めて拝見しました。)

終わりまで読ませていただきましたら、
経営学の中の承認法という現世の垢にまみれたものを、

「誤れる全体」の内部での部分的改良(修正)のための実践は、それそれで是とされるべきなのではないか。

このように位置づけてくださったようで、
とても光栄です。

先生の講義原稿の中にもありましたように、
ハーバーマスについては、私もいささか不満に思うところがあります。
「コミュニケイション行為」「討議倫理」をいくら読んでも
(まだまだ浅い読解とは思いますが)
私どもが現場でジタバタしているような、
「こうすれば問題が起きなくなる(最小にできる)」
という、ああでもないこうでもないという思考と重なってこないので、
歯がゆいのです。
そんなに現実問題の解決と遠いところに身を置いていていいのか?
と思います。
それに比べると、ホネットのほうがもう少し現実界に近く、
親近感が持てるように思います。
(子供レベルの感想と聞き流してくださいね。)


「承認依存」にまつわる議論についても、
今まだこの件についてギャーギャー言っているのが
ほとんど私一人(ともうお一人)のようなものなので、
こうして位置づけていただけることを心から有難く思います。



それに対して、1と2は、概して、近代の理論がないがしろにしてきた論点ではある。そういうものが、一挙に畳み込まれ(叩き込まれ)ているのが、承認論だ、ということになる。

 ここもなるほど!と思いました。
 そうです、「愛」が位置づけられていないのです、というのは、経営学全体もそうですし、最近も某有名大学の「フィードバック研究会」において、私は出席していませんでしたがそこで取り上げられた論文を紹介されたところによると、「フィードバックによって人は改善される、あるいは場合によってされない」の議論の中に「愛着関係」の要素が全然入ってこなかったので、こういうことをわざわざ取り上げる必要があると思う研究者さんがいないんだな、と思っていたところです。
 藤野先生の言葉でこのように概観していただくと、腑に落ちますね。なぜ「承認論」を私も10年も取り組んでこれたかわかる気がします。


 実際の講義にはこの原稿にもっと枝葉がついていたのでしょうか。聴講できた方々が羨ましいです。

 手前味噌ですがわたくしのしている「行動承認」は、「承認論」に心理学の「行動理論」をドッキングした改良品のようなものです。単純なものなので世界には同じようなことを考えた方がいるのではないかと思います。この方法だと「属性の承認」が差別につながるというような、予想される弊害をほぼ回避でき、非常に安定して実践してもらうことができます。
 ホネット自身がそこまで考えなかったというのはちょっと意外な気すらしますが、そこまで懇切丁寧に現実にコミットする必要はない、と考えていたのでしょうか。


批判的社会理論は、改良理論でもあってもよいのではないか。

 このフレーズもいいですね。ホネット自身が何と言うか、きいてみたい気もします。



 藤野教授のお会いしてみた人となりというのは、文章から想像する雰囲気よりは「かたい」感じ。批判、懐疑、など人を寄せつけない感情の働きを外側に感じさせるけれども懐に入ると温かい感じ。そしてそもそものお出会いがジェンダー論のリレー講義の論考集であったように、女性に対して特別馬鹿丁寧ではないけれども配慮があり、一切の「不敬」が入りこまない方であります。



 拙著『行動承認』は、あまりやたらと色々な先にご献本していません。内容が愛する教え子さんたちの汗と努力の結晶なので、「実践」「成果」の価値のわからないタイプの人に手渡したくないのです。

 「承認研究」の先生方には、わかっていただけたみたいです。

  たぶんわたしの「承認研修プログラム」も影響し影響されることによって、少しずつ変わっていきます。


 きのうで、一般財団法人承認マネジメント協会は解散しました。
 今日からは個人ということになります。


正田佐与