『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(入山章栄著、日経BP社、2015年11月)を読みました。
 悩ましい…。
 
※この読書日記はシリーズ化しました

1.悩ましくも学び多き俯瞰図の第二弾―『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』読書日記編 (本記事)

2.『ビジネススクールでは学べない―』経営学は”残念な学問”か?考察編(1)「ダイバーシティー経営は損か?」
>>http://c-c-a.blog.jp/archives/51931381.html

3.『ビジネススクールでは学べない―』世界の経営学は周回遅れ?考察編(2)リーダーシップ、内発/外発、レトリック
>>http://c-c-a.blog.jp/archives/51931424.html

4.痛みに満ちた進歩の歴史と「こころの退化」と―世界の経営学にNOを言う 考察編(3)
>>http://c-c-a.blog.jp/archives/51931465.html


 2つ前の記事(「科学の限界性、認識の限界性―アカデミズムも盲信してはいけない?千葉大学・広井良典教授との対話」)でわたしが言っていた「経営学の本」というのがこれであります。広井先生は一般論として話をされただけで個別の本については言及されておりません。間違えないように。
 この著者の前著『世界の経営学者はいま何を考えているのか―知られざるビジネスの知のフロンティア』(英治出版、2012年11月)は、当ブログでも2012年12月22日
「あると有難い経営学の俯瞰図―『世界の経営学者はいま何を考えているのか』」でご紹介しました。そこでは、“批判色”を入れず、純粋に学びとしてとりあげました。
 本書はその続編のようなものですが、経営戦略中心だった前著とちがい、今回は「ダイバーシティー経営」「リーダーシップ」など、わたしの守備範囲の話題も入ってきたときに、「???」と首を傾げる内容があったわけです。そのあたりを「違和感」として2つ前の記事では言っております。
 ただし本書にはそれ以外にやはり素直に学びとして受け取りたい点も多々ありましたので、2部仕立てとして、第一部読書日記編、第二部考察編、という構成にしたいと思います。違和感とか批判の部分は第二部で。
 それでは、読書日記編。いつもの伝で抜き書きをしたいと思います。

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●現在の経営学では、「経営学者(=ビジネススクールの教員)が授業で教えていることと、彼らがいま最前線の研究で得ている知見の間に、きわめて大きなギャップが存在する(p.14)

●入山氏(著者)流・現代の経営学を把握するポイント。
(1)国際標準化。米国以外の学者の比率が大きくなっている。
(2)科学化。データ分析を重視。
(pp.15-19)

●あとで問題になるかもしれないので第一章で出た本書の問題意識。本の「理念」に当たるかもしれないところです。
「国際標準化が進む経営学で、世界中の学者達が科学的な手法を使いながら日々切磋琢磨して発展させている「ビジネスの最先端の知」「真理法則に近いかもしれないビジネスの法則」が、果たしてみなさんに全く示唆をもたらさないものなのでしょうか。
 私は、そうは思いません。もちろん全てではありませんが、その中には、みなさんがビジネスを考える上でのヒントになったり、ご自身の思考を整理できる助けになったりするものもたくさんあるはずです。本書を通じて、いわゆるMBA本を呼んでも(ママ)、ビジネス誌を読んでも、そしてビジネススクールの授業を通じても知り得ない、世界最先端の経営学の知見に触れていただきたいのです。」(
p.23)

●経営学者の多くは、「経営学は『役に立つ』ことを目的にした学問である」と考えていない。学者にとって経営学を探求する推進力となっているのは、「経営の真理を知りたい」「組織行動の本質を知りたい」という彼らの「知的好奇心」である。(p.26)

●「優れた研究」として評価されるには2つの軸がある。(1)厳密性(Rigorous)(2)知的に新しい(Novel) この2つと「実務に役に立つ(Practically useful)」を同時に追求することはトリレンマである。(pp.27-28)

●どうすればこのトリレンマを解消できるか。著者は、「RigorousとPractically usefulの線を充実させることだと考える。(pp.29-30)

●もう1つ著者の言い訳?
「経営学は、それぞれの企業の戦略・方針に「それは正解です」「それは間違っています」と安直に答えを出せる学問ではありません。企業は一社ごとに、直面する事業環境も社内事情も異なるからです。(略)
 では経営学は何を提供できるかというと、それは(1)理論研究から導かれた「真理に近いかもしれない経営法則」と、(2)実証分析などを通じて、その法則が一般に多くの企業・組織・人に当てはまりやすい法則かどうかの検証結果、の2つだけです。」(pp.34-35)

●バーニーの「3つの競争の型」。1986年、AMRで発表した論文。
(1)IO(Industrial Organization,産業組織)型
 業界構造が比較的安定した状態で、その構造要因が企業の収益性に大きく影響する業界。寡占業界。この業界で有益な戦略は、ポーターのSCP戦略。
(2)チェンバレン型
 IO型よりも参入障壁が低く、複数の企業がある程度差別化しながら、それなりに激しく競争する型。「差別化する力」を磨いていくことが重視すべき戦略になる。したがってこの業界では、技術・人材などの経営資源に注目するRBVに基づく戦略が有用。著者によれば日本で国際競争力のある企業を生み出してきた業界の多くはチェンバレン型だった。
(3)シュンペーター型
 競争環境の不確実性が高い業界。例えば「技術進歩のスピードが極端に速い」「新しい市場で顧客ニーズがとても変化しやすい」。ネットビジネスなどIT(情報技術)業界は典型的なシュンペーター型。(pp.45-48)

●国内でチェンバレン型競争をしてきた日本企業がグローバル進出したとき、中国・インド・東南アジアなど新興国市場は競争がIO型に近いので、ポーター的なSCP戦略を選ばないといけない。しかし日本企業は割り切ったポジショニングが得意ではないので、競争の型と戦略がマッチしていない。(pp.50-51)

●パナソニックは2012年津賀一宏社長の就任以来、シュンペーター型競争への深入りを避け、チェンバレン型に軸足を戻していると解釈できる。対照的にソニーは、シュンペーター型に近いスマホやゲームを主要事業に位置づけ、一方で国内ではチェンバレン型、海外ではIO型のテレビなどの家電事業があり、さらに恐らくチェンバレン型に近い保険などの金融事業も手がけている。異なる競争の型を持つ業種を内包しており、経営のチャレンジといえる。(p.54)

●ビジネスモデルとは、事業機会を活かすことを通じて、価値を創造するためにデザインされた諸処の取引群についての内容・構造・ガバナンスの総体である(アミット=ゾット 2001年論文)(p.57)

●価値を創造するビジネスモデルデザインの4条件(同上)
(1)効率性(Efficiency)
(2)補完性(Complementarity)
(3)囲い込み(Lock-in)
(4)新奇性(Novelty)
(pp.58-60)

●リアル・オプション理論。リアル・オプションを端的に言うと、「不確実性が非常に高い事業環境下では、何らかの手段で投資の『柔軟性』を高めれば、事業環境の下ぶれリスクを抑えつつ、上ぶれのチャンスを逃さない」という発想。
例えば新興国市場に進出するに当たりその市場が成長可能性が高いかどうか不確実であるとき、小出しに投資してリスクを低く抑える。リアル・オプション型の柔軟性ある投資をしなければ、もし高い成長をしたときそのチャンスをみすみす逃してしまう。不確実性が高いほどリアル・オプション型の投資をしたほうが潜在的なリターン(オプション価値)が増える。(pp.68-70)

●「両利きの経営」。知の深化と探索。詳細は前著の読書日記参照。

●「両利きのリーダーシップ」。(タッシュマンら、2011年)
(1)自社の定義する「ビジネスの範囲」を狭めず、多様な可能性を探求できる広い企業アイデンティティーを持つこと
(2)「知の探索」部門と「知の深化」部門の予算対立のバランスは経営者自身がとること
(3)そして「知の探索」部門と「知の深化」部門の間で異なるルール・評価基準をとることをいとわないこと
(p.84)

●イノベーションに対して企業が後手に回る背景。製品やサービスのドミナント・デザインが確立するにつれ、企業の組織構造やルールもそれに順応していく。それだけでなく企業内でのふだんのインフォーマルな情報交換の緊密さなども、ドミナント・デザインに影響される。(p.87)

●そこで「アーキテクチュラルな知」すなわち組み合わせをつくり出す知が促される組織作りが求められる。
 医薬品産業における「アーキテクチュラルな知を高める組織特性」(レベッカ・ヘンダーソン=イアン・コックバーンの論文、1996年)
(1) 研究者が会社の枠を超えた広範な「研究コミュニティー」で知識交換することが評価される組織であること
(2) 社内でも分野の垣根を幅広く越えて情報を交換すること
(pp.90-91)

●「アーキテクチュラルな知」を高めるためにもう1つのポイントは「デザイン力」すなわち、「最適な『組み合わせ』を見出し、まとめあげる力」。製品・サービスデザインにとどまらず、「組織のデザイン」までを意味する。著者によれば、「製品デザイン力を高めるための組織デザイン」についての研究は、世界の先端の経営学でも研究蓄積が十分ではなく、まだ体系だった理論はない。(pp.91-92)

●ビジネススクール教育ではむしろ、デザインスクールと連携するなど、デザイン分野との共同が進んでいる(pp.92-93)

●弱いつながりを多く持つ人は、創造性を高められる。前著に同じ(p.99)

●アイデアは実現(Implement)されて初めてイノベーションになる。クリエイティビティ―の高い人(発案者)が、さらにそのアイデアを「実現化」するために何が必要か。発案者に必要な2つの条件(マーカス・バエアー論文、2010年)
(1)発案者の実現へのモチベーション 
(2)発案者の社内での人脈
(pp.101-102)

―この項目には頷きました。以前から、旧NPOで総会とか理事会をして、色々アイデアを出す人はいるんだけどわたしは「却下」してきた、だって発案者自身が汗をかくつもりがなく、自分のアイデアを全部正田さんにやらせようとしているから。心理学やコミュニケーションの研修でブレストの研修を受けた人なんかは、「アイデアはそれ自身がすばらしい!」って刷り込まれているから困る。自分に行動するつもりのない人のアイデアはどんなによさげでも受け付けません。そういうときは「アイデアは責任を伴わない、行動は責任を伴う」という畑村洋太郎氏の言葉を引いて却下していました。まあ行動承認の応用形ともいえます

●イノベーションについての日本企業に向けての3つの示唆。
1.「創造性」と「イノベーション」は別ものであることを理解した上で、自社の問題が「創造性の欠如」なのか「創造性⇒実現の橋渡しの欠如」なのかを把握すること。どちらが欠如しているかで打ち手は全く逆になる。
2.もし自社の問題が「クリエイティブな人が足りないことにある」と判断したら、社員が「弱いつながり」を社内外にのばせるサポートをしてやること。
3.「チャラ男と根回し上手な目利き上司のコンビ」。弱いつながりを持った創造性の高い人を「アイデアの実現化」まで橋渡しするには、社内で強いつながりを持った人と「ペアリング」をする。強いつながりを持った根回し上手人は、弱いつながりをもった「チャラ男」の創造性を理解できること。
(pp.104-106)

●知の探索を促す組織の学習量とメンバーシップの関係(ジェームズ・マーチ1991年論文、コンピュータ・シミュレーションによる分析)。
発見1.メンバーが組織の考えを学ぶスピードが遅いほうが、最終的な組織全体の学習量は増加する。
発見2.組織の考えを学ぶのが速いメンバーと、遅いメンバーが混在しているほうが、最終的な組織全体の学習量は増加する。
発見3.組織のメンバーは一定の比率で入れ替えがあったほうが、組織の最終的な学習量は増加する。
発見4.発見3で得られた効果は、特に組織を取り巻く環境の不確実性が高い時に強くなる。
(pp.107-110)

●トランザクティブ・メモリー(前著に既出)の知見。トランザクティブ・メモリーとは組織内で誰が何を知っているかを知っていること。トランザクティブ・メモリーを高めているチームは、直接対話によるコミュニケーションの頻度が多い。逆にメール・電話によるコミュニケーションが多いことは、むしろ事後的なトランザクティブ・メモリーの発達を妨げる可能性もある。カイル・ルイス2004年の論文。(pp.115-116)

●同様に「アイコンタクト」や顔の表情を通じてのコミュニケーションがトランザクティブ・メモリーを高める効果。アンドレア・ホリングスヘッド1998年の論文。(pp.117-118)

●トランザクティブ・メモリーを高める仕掛けとしては、平場のオフィス、タバコ部屋、社内カフェテリア、コーヒー飲み場、独身寮(pp.118-121、143-145)。

●ブレストはアイデア出しとしては効率が悪い。しかし(1)組織全体の記憶力を高める(2)参加メンバーが組織の「価値基準・行動規範」を共有しやすい。
(pp.122-129)
―それは「ブレスト」でなく「対話」と言ったほうがいいかもですね…

●成功体験と失敗体験、どちらが組織の学習に役立つか。マドセン=デサイ論文(2010年)
発見1:一般に成功体験そのものは、「その後の成功」確率を上げる
発見2:とはいえ、大事なのは成功体験よりも失敗体験。組織は失敗からも学習してその後のパフォーマンスを高められる。成功体験と失敗体験、どちらのパフォーマンス向上効果が大きいかというと、失敗体験のほうである。成功すると「サーチ行動」をしなくなる。(pp.135-139)

●ここから示唆されるのは、「成功体験と失敗体験には、望ましい順序がある」ということ。長い目で成功確率を上げられるのは、「最初は失敗経験を積み重ねて、それから成功体験を重ねていくパターン」。「若いうちは失敗経験を積め」は真実。(pp.140-142)

●グローバル企業とはそもそも何か。
 海外で成功する企業の強みのことを経営学では「企業固有の優位性(Firm Specific Advantage, FSA)」と呼ぶ。
 世界中からまんべんなく売り上げを得ている企業を真にグローバル企業とすると、どのくらいあるか。アラン・ラグマンの2004年の論文(データは2001年のもの)によると、世界市場を「北米地域」「欧州地域」「アジア太平洋地域」の三極に分け、(各多国籍企業の本社が置かれている)ホーム地域からの売上が5割以下で、他の2地域からの売上がそれぞれ2割以上なら、「真のグローバル企業」と呼べる、と定義づけた。
 この分析の結果、
発見1.ホーム地域への強い依存。分析からは365社のうち320社が、売上の半分以上をホーム地域から上げていることが分かった。ホーム地域外からの売上が半分を超える企業はわずか45社。
発見2.真のグローバル企業は9社だけ。上記の45社のうち、ホーム外の2地域の両方からそれぞれ2割以上の売上シェアを実現できている企業は9社のみ(IBM,インテル、フィリップス、ノキア、コカ・コーラ、フレクストロニクス、モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン、そしてソニーとキヤノン。トヨタやホンダは欧州では売り上げが伸びていない。(pp.149-152)

●ラグマンはその後2008年に日本企業に特化した論文を発表(データは2003年)。ここではフォーチュン誌ランキング世界主要500社のうち日本企業は64社、うち「真のグローバル企業」はソニー、キヤノンに加えマツダ。また著者入山氏が2014年データで計算したところ、フォーチュン500社の中の日本企業は54社で、「真のグローバル企業」はキヤノンとマツダだけだった。(pp.154-155)

●大部分の多国籍企業は売り上げの半分以上を本社のある地域から上げている。ラグマンたちはこれを企業の「地域特有の強み(Regional Specific Advantage, RSA)」と呼ぶ。日本企業はやはりアジアで強みを発揮しやすいが、「自社のアジアで通用する強み(RSA)がそのまま世界中で通用するFSAとはならない」という認識を持つことが肝要。(p.156)

●世界はグローバル化していない。完全なグローバル化状態(一国化)か鎖国状態か。パンガジュ・ゲマワットの2003年の論文では、現在はこの両極端の間のスペクトラム上の鎖国側に極めて近い状態にあることを示した。貿易、資本流出入、海外直接投資などのデータの傍証により、ゲマワットは「世界はグローバル化しておらず、あくまでセミ・グローバル化(中途半端なグローバル化)の状態にある」ことを明らかにした。(pp.159-162)

●世界は狭くなっていない。経済学者は貿易データの統計分析をし、やはり二国間の距離が遠いほど、国同士の貿易量にはマイナスの影響を及ぼすことを示した(グラビティー・モデルという)。これを時系列的な変化でみても、輸送コストが低下しているにもかかわらず国同士の距離のマイナス効果は年々強くなっている。
 キース・ヘッドらの2008年の論文では、103の実証研究から得られた1467の推計値を集計してメタ・アナリシス分析をしたところ、1970年代のデータを使った研究では「距離の違いによる貿易量の変化の弾性値」は平均0.9だった。この弾性値は、90年代以降は0.95に上昇している。(pp.162-164)

●インターネット取引も距離の影響を受けやすい。ブラム=ゴールドファーブの2006年の論文では、インターネット上で取引されたデジタル製品・サービスの量と各国との距離の関係を統計分析したところ、その弾性値は1.1となり、上記のヘッドの研究の弾性値よりむしろ大きな値となった。(pp.164-165)

●世界はフラットではなくスパイキー(ギザギザ)。「世界中の経済活動、特に知的活動や起業活動などは、特定の都市など狭い地域への集中が進んでいる。すなわち世界はむしろスパイキー化しつつある」(リチャード・フロリダ)。(p.166)

●VC投資にはローカル化する傾向がある。ベンチャー・キャピタリストは、距離が近いスタートアップに投資しがち。近接性を好む傾向により、シリコンバレー、ボストン、シアトルなどの特定の地域にVC投資が集中する「スパイキー化」が起こる。(p.167)

●VC投資のような、情報集約型で人と人の交流を必要とするビジネスの国際化は、国と国の間で起きるのではなく、ある国の特定の地域と別の国(の特定の地域)で集中して起きるのではないか。いわばスパイキーなグローバル化。シリコンバレーと新竹(台湾)、台湾とカリフォルニア州、イスラエルとニュージャージー州など。(pp.168-169)

●ゲマワットの「AAA(トリプルエー)」というフレームワーク。(1)集積(Agglomeration)、(2)適応(Adaptation)、(3)裁定(Arbitrage)
 「中途半端なグローバル化」だからAAAは重要。日本メーカーは少なくともどれか1つのAを放棄してメリハリをつけることを検討すべき。(pp.171-174)

●ダイバーシティー経営は有益か否か。ダイバーシティーには「タスク型の人材多様性(Task Diversity,能力・経験の多様性)」と「デモグラフィー型の人材多様性(Demographic Diversity、属性の多様性)」がある。
 この2つの多様性の効果をメタアナリシスで検証した結果、ジョシらが2009年に発表した論文、ホーウィッツらが2007年に発表した論文では2つの事実法則が導かれた。
法則1:ジョシたちの分析、ホーウィッツたちの分析のどちらとも、「タスク型の人材多様性は、組織パフォーマンスにプラスの効果をもたらす」という結果となった。
法則2:「デモグラフィー型の人材多様性」については、ホーウィッツたちの分析では「組織パフォーマンスには影響を及ぼさない」という結果となった。さらにジョシたちの研究では、「むしろ組織にマイナスの効果をもたらす」という結果になった。(pp.177-180)

―本書でも一番論議を呼びそうな箇所ですね。これは、考察を書いていると長くなるので、本記事とは別建てで「考察編」の記事で取り上げようと思います。要は、ツッコミないしは批判をしようとしてるんですけれども。

●「デモグラフィー型の人材多様性」が組織に何の影響も及ぼさないか、場合によってはマイナスの影響を及ぼすこともあるということを説明する代表的な理論は、社会心理学の社会分類理論(Social Categorization Theory)。異なるデモグラフィーの人がいると「男性対女性」「日本人対外国人」のような「組織内グループ」ができ軋轢が生まれ、組織全体のコミュニケーションが滞りパフォーマンスの停滞を生む。(p.181)

●どうすれば、女性・外国人を登用しながら「デモグラフィー型の人材多様性」のマイナス効果を減らすことができるか。
(1)「デモグラフィー型の人材多様性」のマイナス効果は時間の経過とともに薄れていく可能性がある。一方で「このような軋轢は時が経過しても消えない」という研究結果もある。
(2)「フォルトライン(=組織の断層)理論」。デモグラフィーが男性・女性だけでなく年齢・国籍等多次元にわたって多様であれば、組織内の軋轢はむしろ減り、組織パフォーマンスは高まることが実証されている。
(pp.183-185)

●著者曰く、フォルトライン理論は日本企業のダイバーシティー経営に重要な示唆を与える。女性や外国人の登用など「デモグラフィー型の人材多様性」を進めるならば、中途半端にやるのではなく、徹底的に複数次元でダイバーシティーを進めるべきだ、ということ。
(p.185)

●働く女性の働きにくさを説明する「ホモフィリー」の概念。人は、同じような属性を持った人とつながりやすい。さらにそのつながった相手から影響を受けやすい。不健康な人はますます不健康になりやすい。(pp.188-189)

●企業では、日本企業は男性社員が大半なので、「男性のホモフィリー人脈」が厚くなる。ホモフィリーは女性に2種類のハンディキャップを与える。
(1)女性は「男性のホモフィリー人脈」に入りにくいため、そこで流れる情報・知識にアクセスしにくくなる。
(2)女性同士のホモフィリー人脈が薄い。
(pp.190-191)

●男とも女とも上手に付き合える女性が、男性中心の職場では成功しやすい。しかし「ホモフィリーの二重のハンディキャップ」により、この実現がたいへん難しい。ハンディーキャップの解消のためには、企業が多次元で組織のダイバーシティーを高めることと、研修などで女性だけが孤立しないような意識づけを徹底すること。(p.193)

●リーダーシップでは2種類のリーダーシップがコンセンサスとなりつつある
1.「トランザクティブ・リーダーシップ」(アメとムチ)
(1)「コンティンジェント・リワード(状況に応じた報酬)」
(2)(3)「マネジメント・バイ・イクセプション(部下が犯す失敗にどう対処するか)」
  能動型:部下が問題を起こす前に「そのままだと失敗するぞ」と介入する
  受動型:部下が実際に失敗してから問題に対処する
2.トランスフォーメーショナル型(啓蒙)
 1980〜90年代にバーナード・バスが分析。
(1)組織のミッションを明確に掲げ、部下の組織に対するロイヤルティーを高める
(2)事業の将来性や魅力を前向きに表現し、部下のモチベーションを高める
(3)常に新しい視点を持ち込み、部下のやる気を刺激する
(4)部下一人ひとりと個別に向き合いその成長を重視する
 入山氏曰く、「カリスマ型リーダー」「変革リーダー」はこれに近いかもしれない。
(pp.203-205)
―承認リーダーシップというのは上記の2種類の間を行ったり来たりしている感じだ。この区分って何なんだろう、こういう区分にする意味が分からない…

●複数のメタアナリシス研究によれば、全般的な傾向として「相対的に『トランザクティブ型』よりも『トランスフォーメーショナル型の4資質』を持ったリーダーのほうが、高い組織成果につながりやすい。また、トランザクショナル型の資質の中では、コンティンジェント・リワードが高い組織成果につながる。他方、一般に組織成果につながりにくいのは「マネジメント・バイ・イクセプションの受動型(事後介入する型)」。(pp.205-206)

●パニッシュ・プラナムらの2001年の研究によれば、トランスフォーメーショナル型のリーダーシップは、「不確実性の高い事業環境」下にある企業においてはその業績を高めるが、事業環境が安定している(不確実性が低い)ときには、むしろ企業業績を押し下げる。(p.207)

●女性のほうがトランスフォーメーショナル型のリーダーの資質を身に付けやすいという研究。アリス・イーガリーが2003年に発表したメタアナリシス研究によれば、「トランスフォーメーショナル型の4資質」と「トランザクショナル型のコンティンジェント・リワード資質」で、女性が男性を上回った。
 この説明としては、リーダーになった女性は「力強いリーダー像」と「優しく協調的な女性像」という2つの正反対の期待にさらされる(ロール・インコングリティーRole Incongruity、期待されている役割の不一致)。彼女たちはこの2つのイメージのギャップを克服するための手段として、男性よりもトランスフォーメーショナル型のリーダーシップをとろうとする。(pp.208-211)

●リーダーの優れたビジョンがあると、企業の成長率は高くなる。優れたビジョンの基準として、「ビジョンの中身(Vision Content)」と「ビジョンの特性(Vision Attribute)」がある。
 優れたビジョンの6つの特性。(1)簡潔であること(2)明快であること(3)ある程度抽象的であること(4)チャレンジングなこと(5)未来志向であること(6)ぶれないこと。(pp.215-216)

●バウム論文(1998年)では、優れたビジョンに加えて、CEOと従業員のコミュニケーションが高まるほど企業の成長性が高まるという結果も得られた。(p.217)
―この知見は(入山氏はあまり重視しているようではないが)大事だと思う。ふだん全然コミュニケーションをとらない、雲の上とか象牙の塔の中にいるトップがビジョンだけを語っても「ぴん」と来ないだろう。

●レトリックの問題。イメージ型の言葉とコンセプト型の言葉では、イメージ型の言葉を使う比率が高い大統領ほど「カリスマ性が高く」、そして「後世の歴史家から『偉大な大統領』と評価されている」。したがってイメージ型の言葉は相手にビジョンを浸透させやすい可能性がある。(pp.218-220)

●「カリスマ」「偉大なリーダー」と評価される人は、自身のビジョンを伝えるためにイメージ型の言葉やメタファーを使い「相手の五感に訴える」言葉を使う。しかし因果関係を示しているわけではなく、相関関係を示していると捉えたほうが無難。(pp.221-222)

―リーダーの「伝える力」について、新たな神話ができそうですが、ここも「要考察」なんですよねー。「承認リーダーシップ」ではちょっと違うことを言います。

●モチベーションの「外発的な動機(Extrinsic motivation)」と「内発的な動機(Intrinsic motivation)」。内発的な動機を強く持つ人のほうが、創造的な成果を出しやすい。またどのようなリーダーが部下の内発的な動機を高めやすいかというと、「トランスフォーメーショナル型」のリーダーである可能性がある。
 「内発的な動機」を高めた日本組織の成功事例としては、JR東日本の子会社で、新幹線車内の清掃をするテッセイ。(『新幹線 お掃除の天使たち』参照)。(pp.224-226)

―ここも「要考察」かな〜。もともと「外発」「内発」という分け方の有効性をわたしはあまり認めていない。いつも言うように上司から褒められるのもお客様から褒められるのも同じ「承認欲求」であり、脳の同じ部位が反応する。なんでそれを無理に分けてるんだろう。テッセイの事例も、わたしがみると要は「承認欲求」を満たしているのだ。あたし結局こんなことばかり言い続けて死ぬのかな〜。

●同族企業の業績は、非同族企業よりも優れている。理論的にプラスとマイナスがある。
説明(1)創業家が大口株主であることのメリット。彼らが「もの言う株主」となって経営者の暴走を抑えることができる。
説明(2)創業家出身の経営者は「企業と一族を一体として見なす」ので企業の長期的な繁栄を目指す、結果としてブレのないビジョン・戦略をとりやすい。
説明(3)同族企業のマイナス面は、資質に劣る経営者が創業家から選ばれてしまうリスク。(pp.230-233)

●同族企業のプラスマイナスのトレードオフを解消するのは「婿養子」。婿養子が経営者をしている日本の同族企業は、(1)血のつながった創業家一族出身者が経営をする企業よりもROAが0.56%ポイント高くなり、(2)創業家でも婿養子でもない外部者が経営をする企業よりも、ROAが0.90ポイント、成長率が0.50ポイント高くなった。(pp.233-235)

●CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)は業績を高めるか。セルバエスたちの2013年の論文では、広告費を多く使うタイプのB to C系の企業でCSRは業績にプラスになることを確認した。逆に広告費をあまり使わないB to B企業では、「CSR指数が高いほど、業績はむしろマイナス」という結果になった。(pp.241-244)

●CSRの情報開示効果。CSR報告書を作ることにより企業の透明性が増し、投資家の信頼を増し、資金調達をしやすくなる。(p.244)

●CSRの保険効果。CSR指数の高い企業のほうが、ネガティブ事件による株価の落ち込みが「軽度で済む」。(pp.245-246)

●成功する起業家精神とは。
 「アントレプレナーシップ・オリエンテーション(EO)」。コーヴィンとスリーヴァンの1989年論文。小規模企業が成功するために経営幹部に必要な「姿勢(Posture)」とは革新性(Innovative)、積極性(Proactive)、リスク志向性(Risk-taking)の3つ。事業環境が不安定なときには、経営幹部がこの3つの条件を満たしている企業ほど業績が良くなる。「EOの高い経営者の率いる企業は、業績が良くなる」という傾向は、研究者の間ではコンセンサスとなりつつある。(pp.275-276)

●経営者のパッションについての研究。バウムとロックの研究(2004年)では、経営者のパッションは、ベンチャーの成長率に直接は影響を与えない。しかし他方、強いパッションのある経営者ほど、従業員とのコミュニケーションを重視する傾向が強く、そしてコミュニケーションが盛んな企業ほど、その成長率は高まる(パッションの間接的な効果)。
 起業家のパッションが資金調達に有利に働く可能性を示した研究もある。
(pp.277-278)

●クリステンセンの「イノベーティブ・アントレプレナー」に関する研究。22人の著名な起業家にインタビューした結果、彼らに共通する思考パターンを以下にまとめられると主張した。
(1)クエスチョニング(Questioning):現状に常に疑問を投げかける態度。
(2)オブザーヴィング(Observing):興味を持ったことを徹底的にしつこく観察する思考パターン。
(3)エクスペリメンティング(Experienting):それらの疑問・観察から、「仮説を立てて実験する」思考パターン。
(4)アイデア・ネットワーキング(Idea Networking):「他者の知恵」を活用する思考パターン。「自分がどう考えるか」ではなく、「まずこの問いを誰と話すべきか」。
 著者入山氏は、この「イノベーティブ・アントレプレナー」の知見は、本書のイノベーションや組織学習の知見と一致すると主張する。(pp.279-283)


22-26章は、略。

 以上が大まかな本書の内容です。何とかワード15pに収まりました。
 で、最初にも言いましたように学ぶ点も多くあったのですが、「要考察」の点もわたし的には3点ほどあります。経営学のスタンダードなテキストとして扱われるであろう本だけに、影響力からみて、その欠点も看過できにくいのです。とりわけ、「ダイバーシティー経営」に関しては大きいかなー。
 考察点はまた次以降の記事で…。


正田佐与