また、お客様のところにリサーチをかけてしまいました。

 今年は統計調査へのご協力例がなかったので、研修効果測定はお客様へのインタビューのみになります。
 LINEの登場により、恐らく組織の上司部下関係は激変しています。そこに「承認研修」はどれほど役立っているのか、気がかりなところではありますが、

 結論からいうと、問題は起きていませんでした。というか治っていたようでした。

 あるお客様のところでは、若手に「LINE禁止令」を出しました。以前からLINEで組織や上層部に対する悪い噂や悪感情が広まる、という現象がありましたが、それに関してはリーダーから「禁止令」を出したそうです。グループを作ることまでは禁じられませんが、会社や部署について中途半端な情報を書き込むことはやめなさい、中には部外秘のこともあるので、ときっちり、全体に対しても本人に対しても言い、それ以来目立った問題は起きていないそう。

「手前味噌ですが、それはやはり『承認』導入後だからでしょうね」

とわたしは言いました。「承認」抜きで一足飛びに「LINE禁止令」を出したら反発を食うだけでしょう。「承認」で上層部に対する大きな不満がなくなり、かつ「やめなさい」という上司の言葉が素直にきける状態になった、ということでしょう。

 こういうのは、例えば小中高生へのスマホ対策で「自分たちで話し合いをさせルールを決めさせる」というノウハウもあるわけですが、それを杓子定規に当てはめるわけにもいかないのが会社というところだと思います。会社は会社で、自力で試行錯誤しながらやり方を模索しないといけません。学生よりははるかに求められる規律の質が高い世界です。

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 というわけで、「承認研修」はLINE時代であっても上層部と若手〜中堅層の分断を防止する、と聴き取りの結果もそういう結論です。

「先生、何をいまさら気にしてらっしゃるんですか。『承認』は間違いないと私たちは思っていますよ。堂々とされたらいいじゃないですか」

「いえ、自分が慢心していないかと怖いんです。『これでいい』と思っていいのかずっと不安です。本当は皆様のところで起きた化学変化をすべて動画か何かに残しておきたいぐらいなんです。それを常に疑っていないと、本番の研修で短い時間の中で『皆さん、これさえやっていただければ大丈夫です』と確信をもって言えない、と思っていまして」



 ほんとうはここで「実は若手に新たにこういう問題が起きていまして」という話にでもなれば、「じゃあ今度は若手向けに追加でこういう研修を」という次のお仕事の話になったのかもしれないですけど。

 商売下手の正田は新たなビジネスチャンスを創出できませんでした。残念残念。うそです。

 結論としては、「承認研修」のほうを「史上最強の研修」として、それでも最適条件というのはありますから、失敗のないように大事にやっていただければいい、そういうお話です。

 それを打ち合わせ段階でしっかりお伝えすることが業者の誠実さだと思いますね。


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 正田は、「承認」以外の原則をあまり立てません。一応、「承認中心コーチング」といって、「傾聴」や「質問」などのトレーニングメニューも持っているんですが。

 お客様の現役マネジャーたちは、実務の中で臨機応変に「承認」以外の補助線をいくらでも引いていると思います。本来は、仕事の本筋の何をどうするべき、という原則があり、もう1つの原則として「承認」を導入し、そしてその場面そのお客様その部下についての無数の補助線があります。

大原則と無数の補助線と。拙著『行動承認』が「承認研修」の再現のパートと大量の事例で出来ているのは、各事例の中にマネジャーたちが承認の実践にプラスアルファどういう補助線を引いたかが入っているからです。

 あまりいくつも原則を立てると、たとえば先日の「カウンセラーはクライエントに依存させない」という原則にもいくらでも「除外規定」を設けないといけないように、話がややこしくなってきます。除外規定のあまり多い原則は立てないほうがよろしい。

 ところが、「承認」はほとんど除外規定がないといってよい原則です。これも実際にやってみていただけるとわかります。

 たぶん、そういう構造のシンプルさも、受講生さん方の高業績につながっていると思うんですよね。

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 今年は、NPOをたたみ財団を設立しその財団もたたんで個人事務所、という展開になりました。展開というより衰退の歴史のような気もしますが―、

 商品力としては、どう転んでも「承認研修最強」。お役立ちを志向するなら、これをやり続けるしかない。しかし世間様は飽きっぽくお客様も(真理にもかかわらず、そしてメリット多大にもかかわらず)飽きっぽく。正田自身もモチベーションを保つことはなかなか難しい。

 
 そんななか今年も聡明なお客様方にめぐまれました。正田に依頼してくださるお客様というのは、「内省力」のすぐれた方々なのだろうと思います。問題が起きている、それはマネジメントの問題である、そしてこういうトレーニングが必要だと思えるというのは。
 それがないところには、正田はそもそも営業に行くことはできません。

 そして、秋以降は複数のご同業の研修講師の方から、「行動承認は本当だと思う」というご連絡をいただきました。
 残念ながら、全国展開でセミナーをやって、という晴れがましい家元ではないので申し訳なく。

 地味ですが、この世界のほかの何よりも、この社会を建て直す力のあるもの。そういうものと出会ったときに、地味を承知で盛り立てる覚悟のある方でしたら、大歓迎です。


 わたしの生きているあいだに大きな潮流になることがあり得るのかまったく見当もつきませんが、たぶん来年もまだやり続けます。


正田佐与