「発達障害」。
 2つ前の記事(『ほめると子どもはダメになる』の批判記事)にも出てきましたが、今でも「知る人ぞ知る」の話題です。
 本当は、とてもポピュラーな障害ですのでだれもが知っておいたほうがよいことなのです。残念ながら少し古い世代の心理学者さんなんかは、タブー視していて案外知らない。

 このブログでは2013年ごろから「発達障害」についての記事が増え、14年暮れ〜15年春には、「発達障害をもつ大人の会」代表の広野ゆいさんと2回にわたる対談を掲載させていただきました。


「月刊人事マネジメント」誌に連載させていただいている、「上司必携・承認マネジメント読本」の6回目の記事を編集部様のご厚意により「公開OK」でいただきましたので、転載させていただきます。

 今回は、「発達障害を含む障害をもった働き手の戦力化」について、「承認」を絡めてお伝えします。

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 以下、本文の転載です(正田肩書を修正しました):

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上司必携・『行動承認マネジメント読本』
〜人手不足チームのやる気と力の引き出し方〜

正田佐与承認マネジメント事務所
代表 正田佐与


第六章 部下の凸凹を包んで戦力化する

「インクルージョンの波」が来年度、職場に押し寄せてきます。4月1日から、障害者に対する〆絞姪取り扱いの禁止、合理的配慮の不提供の禁止―を柱とする障害者差別解消法と改正障害者雇用促進法が施行されます。すでに、すべての職場で障害を持った人々の法定雇用率2.0%は施行されており、ここに平成30年度には、精神障害者も対象に加わります。
 障害を持った人の受け入れについて、とりわけ中小企業などでは「負担が大きい」という声もあるようです。しかし、実際に受け入れた職場では、「人の多様性への理解が進んだ」「社員が従来より優しい気持ちになれた」という効用も大きいようです。わが国では従来遅れていた分野でしたが、法改正を機に前向きに受け止めていtだきたいものです。
 今回は、安倍政権の「1億総活躍社会」の一角を占めることになるであろう、「障害者の活用」について、また障害とまではいかない社員の能力の凸凹を包含(インクルージョン)して職場運営をしていくうえで、上司の方ができる関わりについて、解説したいと思います。

障害を持った人にどう働いてもらうといいですか?

 これについては、厚労省の改正障害者雇用促進法に関するサイトから、「合理的配慮」の事例をダウンロードして参考にすることができます。
 また詳しくは、現在数多くある特例子会社の事例が参考になるでしょう。筆者も過去に(株)リクルートオフィスサポート、東京海上ビジネスサポート(株)などの特例子会社を訪問させていただきました。そこでは、グループ会社全体で発生する事務仕事を細かく分けてタスク化し、障害のある人々に個々の特性を活かして割り振る、というやり方で戦力化していました。興味のある読者の方は、一度そうした特例子会社を見学してみることをお勧めします。障害を持った人に対するマネジメント法、採用法いずれも参考になることでしょう。

各職場レベルでは何ができますか?

 障害を持った人についても、実は健常な人に対すると同様「承認」の関わりが功を奏します。
 本連載第1章で、「行動承認」は業績向上の効果が極めて大きい「儲かる技術」だ、ということを確認させていただきました。一方で、「承認」は大きくいえば「ケアの倫理」にも「共生の倫理」にも相通じ、一律でない、多様な特性を持った人を理解し、共に働くための倫理という性格も持っています。
 またとりわけ、相手の行動を事実その通り認める「行動承認」は、障害を持った人々への支援技法である「行動療法」を起源としたものですから、そのまま障害を持った人にも使っていただけるのです。
 相手の良い行動を伸ばすこと。さらにそれを通じて相手の特性を理解するということ。本人にできていること、できていないことを、上司の方が虚心に見、正確に把握するということができます。
 とはいえ、障害を持った人の特性は本当に様々で、「対応できるのだろうか?」と不安にお感じになる方もいらっしゃるでしょう。慰めになるかどうか分かりませんが、障害者対応の「プロ」であっても、最終的には出会ったその人に合う対応法をその場に即して編み出していくしかないのです。

発達障害の人が増えているようですが?

 近年、発達障害の概念が普及したことに伴い、過去には想像できなかったほど、人口の中で大きな割合を占めることが分かってきました。今回の後半はこの人々にとって紙幅を取ってご説明します。
 発達障害は、最新の精神疾患に関する区分である米DSM-5では、大きく、注意欠陥・多動性障害(ADHD)と、自閉症スペクトラム障害(ASD)の2つに分けられます。
 ADHDは、全人口の5〜6%を占めるといわれ、大人の従業員では、「ミスが多い」「忘れ物が多い」「寝坊・遅刻が多い」「時間管理が下手、時間内に仕事を終わらない、予定忘れを起こす」などの”症状”となります。
 またASDは、全人口の1〜2%(最新の報告では4%)を占めるとされ、「こだわりが強い、固定観念が強い」「他人の気持ちに想像力が働かない」「変化、変更が苦手」「ごく狭い範囲の仕事にしか関心がない」などがあります。
 ADHD、ASDの両方の傾向を併せ持った人も多くいます。診断を受けていない人も含め、筆者の実感値としては就業人口の約1割は、発達障害かそれに近い、職場で特別な配慮を要する人がいます。
 上記の特性を持つ部下がいた場合、もし発達障害についての知識がないと、上司は戸惑い、また深刻に悩むことになるでしょう。こちらが適切に指示を出したつもりでも、こうした特性を有するために指示を取り違えたり、忘れたり、間違ったやり方で仕事をしてしまうことが往々にして起こります。
 実は、発達障害を持った人は職場でメンタルヘルス疾患になるリスクも高いですし、叱責しているうちに上司の方がパワハラに該当する言動をとってしまうということも大いに起こりえます。無用なトラブル回避のためにも、発達障害についての知識はこれから不可欠になっていくでしょう。
 発達障害は、軽度の症状の場合は職場での環境調整によって無理なく仕事をしてもらうことができます。環境調整とは、例えば、
●ミスが出やすい状況を見極め、予防する。周囲からの声かけやミスの影響が少ない職務への転換など。
●視覚優位の人が多いため、文書や図示などの方法で指示を出す。ある企業では「メールによる指示出し」を徹底し、ミスを減らした
●こだわりが強く変化に弱いASDの人に対しては、変更内容や変更の理由背景などの説明を徹底する
などです。
 こうした配慮をしても限界がある場合には、次の段階で本人にこの特性のために問題が起きていることを伝え(告知)、医療機関で診断を受けるよう勧めることが必要になります。ADHDの場合は治療薬があり、それによりある程度ミスを減らすことは可能です。
 ただし、この「告知」は非常に難題で、ここで上司による「起きている問題についての正確なフィードバック」が不可欠だ、と専門家は指摘します。
 上司の方にはここでまた、「行動承認」の効用が活きてきます。日頃から部下の行動を観察し、声かけし、良い行動を記憶し評価に活かすこと。これを励行していることで、部下のミスの内容回数、問題行動の種類頻度、といった情報も過度に感情的にならずに記憶・記録しておけることでしょう。
 告知はハードな壁ですが、実際には障害を受容したほうが、満足度の高い職業生活、そしてプライベートの生活を送れるようです。
 ある上司の方によれば、発達障害とみられた女性の部下に「行動承認」で関わり、プロジェクトを達成に導いた結果、部下は自信をつけて、自ら診断を受けて障害者手帳を取得し、そして結婚もして幸せに暮らしているというのです。
 仕事で達成感を味わうことが、いかに1人の人にとっての自信と幸福感の源になるか、また、とりわけ能力の凸凹を持った部下にとっては理解ある上司の適切な関わりがどれだけ助けになるか、考えさせられた事例でした。 (了)

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 いかがでしたか。
 実は、この記事を書くために正田は障害者さんについての知識を少しでも増やそうと、「同行援護(ガイドヘルパー視覚)」、「行動援護(障害者の外出をお手伝いするガイドヘルパー)」の資格を取りに行ったりしました。しかし、この記事にそれを盛り込めたかというと…、

 ダイバーシティもメンタルヘルスもインクルージョンも。「承認」は欲張りな技術です。

 次回は「伝え方」のお話。ブログ読者の皆様は「あれだな」って、もうお分かりですね。


「上司必携・行動承認マネジメント読本」シリーズ全体の構成は:

第一章 行動承認は”儲かる技術”である(2015年7月号)
 http://c-c-a.blog.jp/archives/51919833.html
 第二章  「承認」の学習ステップ(8月号掲載)
 http://c-c-a.blog.jp/archives/51921667.html
第三章 女性活用と登用は「上司の眼差し」次第(9月号掲載)
 http://c-c-a.blog.jp/archives/51923763.html
第四章 LINE世代に対するマネジメントとは(10月号掲載)
 http://c-c-a.blog.jp/archives/51925545.html
第五章 「踏み込みすぎない」メンタルヘルス対策(11月号掲載)
 http://c-c-a.blog.jp/archives/51927183.html
第六章 部下の凸凹を戦力化に転じる(12月号掲載・本記事)
 http://c-c-a.blog.jp/archives/51932814.html
第七章 伝えたいことが「伝わる」伝え方(2016年1月号掲載)

 正田佐与