ラグビー日本代表メンタルコーチ・荒木香織氏(兵庫県立大学環境人間学部健康・スポーツ心理学研究室准教授)。
 といっても「ぴん」とくる方はまだ少数かもしれません。恥ずかしながらわたしも講演を聴くまでは存じませんでした。

 あの「五郎丸ポーズ」を考案した人、というと、「へ〜」となられるでしょうか。
(ちなみに「五郎丸ポーズ」は荒木氏によると、マスコミの勝手な造語で、本来は「プレ・パフォーマンス・ルーティーン」というそうです。五郎丸選手だけでなく、他の選手も色々独自のものを作って活用しているそうです。本記事の末尾に「五郎丸ポーズ」の解説のお話も入れさせていただきました)

 で荒木香織氏は下のお名前が女性みたいですが本当は男性だった…というのがよくあるオチですが実際は子育て中の細身のれっきとした女性です。
 昨年日本中を沸かせた南ア戦のあと、惜しくも敗れたスコットランド戦には荒木氏はお子さんを連れてきた都合で帰国してしまっており随行できなかったことが残念、というようなエピソードも語られました。

 昨日行われた兵庫県経営者協会主催の荒木氏の講演会のお話を、ご紹介させていただきましょう。
 れっきとした最新スポーツコーチングの、ある”負け癖チーム”を「勝利」に導くまでのお話です。


 お話は2012年、エディー・ジョーンズ氏が日本代表ヘッドコーチに就任するところから始まります。

 それまでエディー氏はW杯代表チームのヘッドコーチとして13勝1敗。日本代表チームは1勝21敗。
 「勝ち」を知らないチームにどうやって勝利を経験させるか、がポイントになりました。

 「選手のパフォーマンスは、個人の特徴と環境の掛け合わせで決まる」と、荒木氏は言います。

 (=体格、集中力など)×環境(コーチ、チームメイトの言動)=行動(パフォーマンス)

―言わずもがなですがこのあたりビジネスでも一緒ですね。いい素材の社員を採っても環境が悪ければ伸びません。ダメかと思われる社員も環境が良ければ伸びる可能性があります。だから環境づくりは大事。そして環境の多くは管理職で決まります。

 このあともポイントかと思いますが、今はW杯優勝の常連であるあのニュージーランド代表の「オールブラックス」も一時期低迷期があった。そこから躍進した時に改革したのが、「リーダーシップグループ」をつくることだったそうです。
 すなわち、
・コーチングスタッフのリーダーシップ
・選手自身のリーダーシップ

―ポイントかなー、というのは、わたしは基本、管理職教育で企業様に関わるわけですが、管理職教育がある程度すすんだ段階で本当はサブリーダークラスに対しても教育を施すのが理想だからです。ほんとうは職場の「環境」ということを考えると、サブリーダーぐらいまでが「環境」の大きな要素といえるでしょう。昨今の研修費の削減や年単位で新しい業者、新しい考え方を取り入れてしまう研修採用の仕方を考えると、なかなか管理職〜サブリーダークラスまで一貫した教育というのはできません。はい、ぼやきです


 ここで「変革型リーダーシップ」という概念が出てきます。

 「リーダーの役割は、フォロワーが組織のため私利・私欲を超越することにより持ち合わせた能力を最大限に引き出すことができるよう、情緒的な訴求を通じフォロワーを鼓舞させること」

と、荒木氏は言います。

 これをもう少しかみくだいた「4つの要素」というのがあります。

1.理想的な影響力
 ロールモデルとなる行動をもって、信用、信頼ができ誠実であることをチームメイトに表明する。
 有言実行、道徳、規律、倫理的、基準が高い
2.鼓舞するモチベーション
 リーダーの行動がチームの自信や楽観性につながる。
 チームに対し到達点を明確に表明する。
 チームが高い基準に達するよう励ます
 情熱、モチベーション
3.思考力への刺激
 リーダーがチームに対して「あたりまえ」に疑問を持つよう促すことにより、自分自身について省みる。
 また意志決定に貢献するように仕向ける。
4.個々への配慮
 個々のチームメイトへの関心を示し、ニーズと能力を理解する
 共感や同情を表明し、個人の達成や発展のためのメンターとして振る舞う


 また、リーダーに不可欠な感情知性というのがあり、それは
  自分理解力
  自己制御力
  モチベーション 
  共感力
  社会的スキル
 だそうです。

 「リーダーシップはスキルとして習得できる。五郎丸選手などは当初、弟キャラで、到底リーダーという器ではなかった」と荒木氏。

 そこで、JAPANのリーダーシップは2012-2015の間にどう変遷していったか?というお話。
 この「経年変化」の部分がわたしには大変興味深かったです。

 「勝ちの文化をつくる」 2012&2013

 ここでの柱は、
 ・国歌斉唱(君が代を他国代表の国歌のようにきちんと歌う。意味をレクチャーする)
 ・前向きな言葉をかける、ほめる(それまでネガティブな言葉が多かったため)
 このほか、
 ・Buddy System 
  (2人組で練習前のミーティングからキーポイントを確認する、練習後のフィードバックをクラウドで行う)
 そのフィードバックの中でも、「私たちは反省しすぎだね」ということに気がつき、
 「今日うまくいったことは何か」
 「明日取り組むことは何か」
 に焦点を当てることにしました。
 達成できないことは、いつまでも達成しようと思わないで変える。できるものに変える。

 そうしている中、2013年にはウェールズに勝つという快挙となりました。

 次の段階。
 「憧れの存在になる。歴史を変える」 2014

 このころ、徐々にかつてなかったような勝利を積み重ねますがマスコミにはまったく取り上げられなかった。選手は「チヤホヤされたい」ということを言いました。しかし「チヤホヤ」は一過性のモチベーション。考えた末、
「憧れられるような存在になろう。満員のスタンドの中でプレーし、影響力のある存在になろう」という目標になりました。

 そして昨2015年。
 「主体性」 2015
 主体性とは、エディーさんのためじゃない、自分たちのために、ということ。
 具体的には、
 ・強度100%でやる。10本ダッシュなら最初のは少し手を抜いて最後の1本を全力でやる、というのではダメ。最初から全力でやる。
 ・選手間のサポート
 ・決められた範囲内での改善点をあげていく

―わたしの言葉で勝手にいいかえると、「ケアの段階」「自己顕示欲、誇りの段階」「主体性の段階」と、4年間にステップが存在したようにみえます。
 そうなんだよなー。「主体性」かっこいいけれど、そこへ行きつくまでにステップがある。かっこいいからと「主体性」に最初から飛びついてしまいたがる研修プログラム、多いですね。本当は、小さい頃からしみついた非主体性を卒業するには、これぐらいのステップを踏まないとダメですね、と正田はおもいます。
 だから、企業人でも入り口は「承認」そこは、絶対に避けて通れないとおもいます。

―しかしJAPANに関しては、「主体性」の年にエディーさん解任、なんだか皮肉だなあ、という感想もいだきます…。

 
 もうひとつおもしろかったのは、2015W杯において、南ア戦勝利をはじめ歴史的な勝利をいくつも挙げたのですが、そこに対する心の準備は全然していなかった、というお話です。

「『勝ったらどうしよう』というメンタルトレーニングは全くしていなかった。よく、まちのメンタルトレーニングで『勝ったら何をしよう』とイメージトレーニングする、と言われますが、ああいうのは全く効果ありません」
と荒木氏。


 講演の冒頭には、
「自己啓発本あまたありますが、科学的でないものがほとんどです。ちゃんと科学的根拠のあることをやってください」
とクギをさす場面もあり、
これも、当方は大学人ではありませんが、我が意を得たりでした。

 昨今の風潮でいうと、ある論者を信頼できるかどうかは、私見ですがこれは大学人か、そうでないかの区別とはあまり関係ないように思います。
 かつ、「エビデンスを使ってものを言う」というのも、最近はあやしい。恣意的に都合のいいエビデンスを使っている場合もあれば、統計そのものにウソが含まれていたり統計特有の限界があったりもするからです。

 最後は、エビデンスを使いながらもそれで「成功体験」をもっている人を信頼するしかないのでしょうか…。
 正田も大学人ではないけれどそこでギリギリセーフ、ということにしていただけますでしょうか。甘い?


 
おまけ:
 多くの方がご興味があるであろう「五郎丸ポーズ」の成り立ちについて。
 冒頭にも書いたように「五郎丸ポーズ」はマスコミの造語で、本当は「プレ・パフォーマンス・ルーティーン」といいます。
 荒木氏によると、五郎丸選手の課題はキックの成功率を上げることだった。
 五郎丸選手の性格は、メディア上ではまじめそうですが、本当はものすごくおしゃべりで、お茶目。ただまじめなのは本当で、サボり癖もない。
 ストレスがすごく高く、ストレスマネジメントが必要。完全主義的傾向がある。

 あの「プレ・パフォーマンス・ルーティーン」は、3年間かかって作ってきたもので、意図していることは:
1.外的・内的に妨げとなるものを取り除く。
 内的:入らなかったらどうしようという迷い
 外的:視覚・聴覚
2.キックへの身体の準備
3.ストレス軽減
4.修正(重心の移動)


 素晴らしいご講演内容を、荒木先生ありがとうございました!
 またこのブログへの掲載を快くお許しくださったこともありがとうございました。


受講生様方はご存じのように、正田は以前、関学アメフトの常勝監督にして心理学者・行動理論家の武田建氏の門弟でもありましたので、この手の単純明快なスポーツコーチングの世界は大好きであります。有効な手法はちゃんと結果が出ます。

 最後に正田の心の声:
 あたしも4年ぐらいのスパンで1つのチーム(企業様)に関わりたいなあ〜

正田佐与