「月刊人事マネジメント」(ビジネスパブリッシング社)に昨年7月から全7回で連載させていただいていた、「上司必携・行動承認マネジメント読本」。先月号でいよいよ最終回でした。

 7回目は、「リーダーの伝え方」を取り上げます。

 といっても、このブログのこと、一般的な「プレゼンスキル」ではありません。読者の皆様にはおなじみの「例の漢字2文字」でございます。これが、変な小細工よりも絶大な威力を発揮しますよ、というお話。まさか、と思われますか?


 「行動承認マネジメント読本」最終回の記事を編集部のご厚意により「公開OK」でいただきましたので、転載させていただきます。

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 以下、本文の転載です:

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上司必携・『行動承認マネジメント読本』
〜人手不足チームのやる気と力の引き出し方〜


正田佐与承認マネジメント事務所
代表 正田佐与

第7章 伝えたいことが「伝わる」伝え方



「自分の話が部下に伝わらない」こうした悩みを抱える上司の方は多いことでしょう。それはプレゼン力の問題でしょうか。ロジカルさが足りないのでしょうか。「笑い」や「つかみ」が足りないのでしょうか。いやいや、その前にできることがあるのです…。『行動承認マネジメント読本』最終章の今回は、「伝え方」を取り上げます。

なぜ「承認」を伴った話は「伝わる」のですか?

 「あなたの応対技術の向上は目覚ましいですね。スピード、お客様満足度とも前期から大幅に上がっています。インストラクターの〇〇さんも『A子さんは努力家です』と折紙付きですよ」
 あるコールセンターにて。1年前にパート入社したオペレーターのA子さん(38)に、所長(女性)はこう切り出しました。さらに所長は続けます。
 「私は皆さんが自発的に努力してお客様満足と技術向上に努めてくださることが一番大事だと考え、あえて無理な要求をせず、皆さんの自主性に任せてきました。皆さんもよくそれに応えてくださいました。うちのセンターは、関西12センターの中でサービス指標ランキングがずっと『2位』です。『1位』のセンターは、ご存知のようにトップからの要求がきつく、厳しい指導のためオペレーターの離職率も高いところです。私たちのやり方が正しいことを証明するためにも、今期は『1位』を目指してみませんか」
 A子さんは、所長の言葉に思わず知らずのうちに頷いていました―。
 結論から言いますと、このコールセンターは首尾よく「サービス指標1位」を獲得しました。
 所長はA子さんに対するのと同じように、1人ひとりへの「承認」を盛り込んだ個別面談を80人のインストラクター、オペレーターに行い、全員から「1位獲得」への協力をとりつけていきました。
 「行動承認マネジメント」を取り入れた企業やグループでは、さまざまな業績指標ランキングで「1位」が生まれていますが、それはおおむね、こうした現象の繰り返しだったと思われます。
 ここでは、何が起こっていたのでしょうか。
 人は、「承認」をしてくれる人の言うことを自分の規範として取り込みます。だから、相手を自分の思う方向に動かしたいと思えば、「承認」をすればいいということになります。
 逆説的なようですが、これは過去10数年のマネジメント指導のなかで繰り返し出会って来た現象です。また最近の脳科学研究によって、この現象が説明できるようになってきました。
 すなわち、人は生まれてから外部の規範を取り込んで学習し、自分の規範意識を形づくります。このとき外部の規範を取り込む作業を行うのは、脳の「内側前頭前皮質」という部位で、私たちの額の中央の奥に当たる位置にあります。その同じ内側前頭前皮質が、私たちの「自己意識」をも司っているというのです。
 従って、社員にある規範を「自分事」として感じ行動してもらいたければ、その社員が「確かに自分のことだ」と感じるような「承認」の言葉をかけながら、望ましい規範についても話すことが効果的だ、ということになります。
 さて、「確かに自分のことだ」と感じるような「承認」の言葉とは、具体的にはどういうものでしょうか?やはり、本連載に繰り返し出てくる「行動承認」あるいは「成長承認」これらに優るものはないようです。
 これを習得し日常行動にしたマネジャーの下では、部下の成長や業績の向上が起きるほか、規範意識の向上も同時に起こり、職場全体がコンプライアンス的にも非常に高い評価を受けてきました。それらは決して偶然ではないということです。
 「承認」と並んで、やはり「個別面談」も大きな武器です。自分を「個」として扱われたい、見てほしい。従来以上に、部下の側のこうしたニーズは高まっています。「その人だけのために時間をとって個別に話をする」、そのこと自体にも「承認」の意味合いがあるといってもよいでしょう。
 また、「承認」を学んだマネジャーは、「良い『承認』をするためには『傾聴』もしなければなりませんね」とよく言います。相手の行動を目の前で見ているわけではない場合には、「傾聴」によって行動の聞き取りをしなければならないのです。「『承認』をするために、傾聴のなかで『良い行動』を抽出しよう」、そういう意図をもって傾聴をしていると、実は情報共有も非常にうまくいきます。相手が自分のとった行動に加え、現場の問題点や気がかりなども安心して話してくれるようになるのです。

ビジョンを語ることも有効ですか?

 経営学の世界では、「ビジョンを語るリーダーが説得力を持つ」といわれ、実証研究も多数あります。ところが、これを日本の普通のリーダーが普通の働き手を相手に行うと、「空回り感」が生じてしまいます。なぜでしょうか?
 日本の普通の働き手というのは出発点で「ポジティブ感情」が非常に低い状態なのです。ポジティブ心理学によると、ポジティブ感情の有無はその人の頭の働き、視野の広がりやレジリエンス(精神的強さ)に決定的な影響力をもたらすものですが、遺伝子的特性によって、また幼い頃からの育てられ方によって、私たち平均的な日本人はこのポジティブ感情が低いのです。ポジティブ感情が低いと、目先のことしか考えられず、中長期的な視野を持ちにくいといわれます。
 そうしたポジティブ感情の低い日本の平均的な働き手に対しては、リーダーが「未来のビジョン」をいくら説いても、「絵に描いた餅」として映ってしまいます。では、働き手のポジティブ感情を高めてあげるにはどうしたらいいのか?本連載をここまで読まれたあなたなら、もうお分かりですね。
 「ビジョンを語る」ことが決していけないわけではなく、その前に手順を踏まないといけないことがあるだけです。

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 7回にわたる本連載は、マネジャー層による「承認」の実践が、いかに社員のモチベーション向上、スキルアップ、多様な人材の活用、メンタルヘルスの向上、そして規範意識の向上につながるかというお話を順に述べてきました。いわば「承認教育」とは、上司部下問わず職場全体の大きな変容につながり、マネジメントの多くの分野に同時に効いてしまう、「オールインワン」の技術です。
 あまりにも「承認」が効く、という話が繰り返されたために、ビジネス経験豊富な読者の皆様には「そんなにうまくいくものか?」という疑心暗鬼の念が湧いたかもしれません。しかし、10数年来マネジャーの皆様とともに非営利教育のなかで泣き、笑いを経験してきた私としては、実際に経験してきた知恵として、また現代の脳科学や神経経済学その他の知見からしてもおそらく間違いないことを、皆様に誠心誠意ご紹介することしかできないのです。
 きっとなかにはすでに実践を試みられ、「ここで言っていることは確かに本当だ」と感じてくださった方もいらっしゃることと信じて、筆を置かせていただきます。これまでのご愛読に感謝いたします。(了)


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 いかがでしょうか。

 上司の方々にとっては、「自分の言葉が伝わらない」大変な焦燥感だと思います。たぶんこれまでにも色々な本やセミナーで「伝え方」を学ばれたことでしょう。

 わたしは「リーダーの伝え方」についての本も読んでみるのですが、そこに書いてあることを実行しても「伝わる」ようになるとはとても思えません。やはり、人は「認めてくれる人の話を聴く」、そのことを現実に見すぎてきたからだと思います。それを抜きにして語ることはできません。


 いっぽう。
 この記事を入力していて思ったこと。

 それは、やはり「乱用しないでね」ということ。「承認」がいくら効果のあるものであっても、「承認」を連発しながら到底受け入れることのできないようなことを言っていないだろうか。ブラック企業も多い昨今、無茶苦茶な労働条件を押しつけて「承認」を入れて説得しよう、というのはやめて欲しいものです。

 上記の記事では、「承認」を使って語る女性所長さんを、「Y理論」的な、もともと人々の自発性を尊重するリーダーだ、という設定にしました。(実際にモデルにした方はいます)

 強欲資本主義のためではなく、本当に人々が尊重され輝いて働くことを望む優れたリーダーの方々に、「承認」を手渡したい、と思うしだいです。

 
 「上司必携・承認マネジメント読本」名残惜しいですがこれにて終了でございます。

 改めて、連載にお声がけくださった「月刊人事マネジメント」編集部様、そして読者の皆様、ありがとうございました!

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「上司必携・行動承認マネジメント読本」シリーズ全体の構成は:

第一章 行動承認は”儲かる技術”である(2015年7月号)
 http://c-c-a.blog.jp/archives/51919833.html
 第二章  「承認」の学習ステップ(8月号掲載)
 http://c-c-a.blog.jp/archives/51921667.html
第三章 女性活用と登用は「上司の眼差し」次第(9月号掲載)
 http://c-c-a.blog.jp/archives/51923763.html
第四章 LINE世代に対するマネジメントとは(10月号掲載)
 http://c-c-a.blog.jp/archives/51925545.html
第五章 「踏み込みすぎない」メンタルヘルス対策(11月号掲載)
 http://c-c-a.blog.jp/archives/51927183.html
第六章 部下の凸凹を戦力化に転じる(12月号掲載・本記事)
 http://c-c-a.blog.jp/archives/51932814.html
第七章 伝えたいことが「伝わる」伝え方(2016年1月号掲載)
 http://c-c-a.blog.jp/archives/51934650.html



正田佐与